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レティシア書房店長日誌

坂上香「根っからの悪人っているの?」
 
 2021年「対峙」というアメリカ映画が公開されました。銃乱射事件で息子を失った両親と、大勢の人命を奪って自殺した加害者の少年の両親が、事件後数年して話しあう作品です。なんとも凄いドラマだと思っていたのですが、実際に「修復的司法」という、犯罪行為への対処方法があるのだそうです。この修復的司法の中には、加害者と被害者が直接会って対話をするやり方があり、映画はその事実をもとに制作されていました。
 日本の刑務所を初めて撮影した「プリズン・サークル」等のドキュメンタリー映像作家の坂上香著「根っからの悪人っているの?」(新刊1760円)にも、修復的司法のことが登場します。本書は数名の10代の若者が、実際の受刑者、被害者と会い、対話する中で、「悪」「善」「正義」「倫理」をどう考えてゆくかを対話文を中心にして構成されたものです。


 私たちはなぜ罪を犯すのか、そして、その犯した罪はどうしたら購えるのだろうかといったところまで話は及んでいきます。これは哲学書でもなければ、法律の本でもありません。それなりに悩みや傷を抱えつつも、日々を楽しく、幸せに生きている若者たちが、「プリズン・サークル」を観て、さらに実際の加害者と膝を突き合わせて話をした結果、彼らが何を考えているか、あるいは悪人という世間一般的なイメージがどう変化していったかを記録した本です。
 対談のゲストの一人として、2000年5月に九州で起こった、17歳の少年による西鉄バスジャック事件で、同乗していた友人を殺され、自らも大怪我を負った女性が体験を語ります。自らの傷を治しながら、加害者のことをじっくり見つめた姿は、ある日突然、私が、あなたが、被害者になるかもしれないと想像すると、読んでおいたほうが絶対いいと思いました。どれにも正解はなく、自分の頭で、自分の言葉で考えるしかありませんが、ここに記録された対話から、多くのことを学ぶことができます。
 世間一般から外れた人、普通とは違う、あるいは自分とは違う人を排除する風潮は、多様性の尊重が叫ばれているにもかかわらず、増大しているように思えます。こんな会話がありました。
「『普通』を良しとする価値観を変えるためには、その人自身が、自分にも普通じゃないところがあるっていうことを自覚することが大事だと思う。人なんて、1つや2つズレてるところがあるものだし、逆にそういう、他の人と違うところがあるからこそ、人と話したりかかわったりして楽しいわけじゃないですか。普通を良しとして他を悪とする人は、自分だって別に普通じゃないってことを自覚すれば、自分とはまったく違う人に対しても、ある程度尊重できるようになるんじゃないかな。」
 本書の帯には「10代以上すべての人に」とあります。もちろん若者に読んでほしい一冊ですが、大人にもここに登場する若者たちの意見に耳を傾けてほしいと思いました。
 蛇足ですが、著者は一度店に来られたことがあります。宣伝や営業のためではなく、ぶらりと入ってこられて店内を見渡し、自分の本を見つけて、これ私が書いたんですよ、と、短い時間でしたが楽しくおしゃべりさせていただきました。ありがとうございました。


レティシア書房ギャラリー案内
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)

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