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レティシア書房店長日誌

アキ・カウリマスキ監督「枯れ葉」

 ベンダース監督に続いて、またもや小津安二郎を師と仰ぐフィンランドの名匠アキ・カウリマスキ監督の最新作「枯れ葉」を観に行きました。登場人物は無口で無愛想、セリフも動きも最小限に限られて、大きな事件もなく、大体90分で終わるというのがカウリマスキ作品の常です。もちろん、本作もそうでした。

「枯れ葉」

 主人公は、勤務先のスーパーを解雇されたアンサという女性と、工事現場で酒を飲んでばかりで、やはり解雇されたホラッパといううだつの上がらない中年の男です。そんな二人のめぐり逢いをメロドラマ調で描いていきます。大げさな表現はもちろんありません。浮かび上がるのは、世知辛い世間をなんとか生きようとする彼らの孤独です。そして、アンサの部屋のラジオから流れてくるウクライナの惨状を伝えるアナウンサーの声が、この時代の不安をさらに鮮明にします。ソ連が隣人のこの国でも戦争は起こるかもしれない。いや、その前に明日からどうやって食べていけばいいのか…….。
 でも、カウリマスキ監督は、そんな暗い時代を描いて、はい終わりという人ではありません。ラスト、人生の秋にさしかかってきた二人の前に愛おしい風景をそっと差し出すのです。交通事故で入院していたホラッパの退院の日。玄関には、犬を連れたアンサが立っています。(野良だった犬を自宅に連れ帰ったアンサのエピソードも良いのです)そして、ぎこちないウインクを送ります。枯れ葉の舞う公園を歩む二人の後ろ姿。ホラッパが尋ねます。
「なんて名前の犬だ?」「チャップリン!」
 あぁそうか、この映画はチャップリンの「モダンタイムス」へのオマージュだったのか!「モダンタイムス」は、小さな幸せを抱きしめて、彼方へと去ってゆく二人を捉えて幕を閉じました。ホラッパとアンサ、そしてチャップリンの二人と一匹は、ようやく見つけた小さな希望を胸に、画面から消えてゆきます。画面には名曲「枯れ葉」が静かに流れて幕です。観ている私たちもとても幸せな気分になって、劇場を後にしました。

 蛇足ですが、先日ブログでご紹介した万城目学の「八月のグラウンド」が直木賞を受賞しました。嬉しいですね。

●レティシア書房ギャラリー案内
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)

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