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【読書メモ】『荒野へ』(ジョン・クラカワー、佐宗鈴夫(訳)、集英社)

ずいぶん前に映画『イントゥー・ザ・ワイルド』でラストの主人公の恍惚とした顔が最高に好きだったので原作を読んでみたくなったのだった。映画を観てから5年以上経って読む原作。買ったのは荻窪の本屋Title。

本作はある裕福な家庭に育った青年クラス・マッカンドレスが家族や友人、社会との関係性を断ち切りアラスカへの無謀な冒険の果てに死を迎える一部始終を追ったノンフィクションだ。

内容としては資本主義、というか既存の社会に違和感を持ち、そこに参加するよりも自分にとっての理想(自然とか純粋とか冒険とか若い時期に憧れるもの)を実現することに邁進した男の顛末といったことになる。

それ自体は陳腐なもので、でもだからこそどこか共感でき、映画版では邁進した結果の死がクリスにとって満足できるものだったように描かれているので、社会的な正しさよりも個に重きを置く自分の価値観からしても一種の憧れを抱いたのだった。

原作はこれをストーリーではなく(映画版ではストーリー調だった)、クラスの足跡を追っていくスタイルなのだけれど、これが映画とは別の意味で良かった。

著者がクリス・マッカンドレスを追うことになった経緯や、そのきっかけとなった記事への読者の反応(自然を相手取るにはあまりに無知で無謀だった、といったもの。いわく「無資格者」)も面白かったし、クリスが旅の最中に交流した人々の証言や両親のことにまで触れられており、クリス・マッカンドレスの生き様が相対化されているところが素晴らしかった。

映画だけだったら感情的な憧れだけで終わっていたであろうことの考察を深められたのだった。

既存社会への反抗というとやはり共産主義のことに思いを馳せざるを得ないのだけれど、この本の前に『あの本は読まれているか』のサンプル版を読み、さらにその前には前橋のフリッツ・アートセンターでの取材などを経て、その上でこの本を読んだことで、これもまた陳腐な言葉だけれど「理想と現実」という言葉が思い浮かんだのだった。

プラグマティズムについての本、読みたいな。

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