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今週の全米アルバムチャート事情 #202- 2023/9/23付

9-11の22周年から明けた先週はまたも世界のあちこちで自然災害の大きな事故が。モロッコの地震と、リビアの水害では想像を絶する規模の犠牲者が出ている模様です。いずれも状況を聴く限り、防ぎようのなかった状況だったようで、ただただその悲惨さに心が痛みます。とにかく犠牲になった方々の心からのご冥福と、一刻も早い日常への復帰をお祈りするしかないですが、先日のラハイナの火事の時と同様、何らかの形で支援できないかと思っています。

"Guts" by Olivia Rodrigo

さて、今週9月23日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、先週の予想どおりオリヴィア・ロドリゴのセカンド・アルバム『Guts』が302,000ポイント(うち実売150,000枚)という、初週のポイントとしてはテイラーの『Speak Now (Taylor’s Version)』(716,000ポイント)、モーガン野郎の『One Thing At A Time』(501,000ポイント)、トラヴィス・スコットの『Utopia』(496,000ポイント)に次ぐ今年4番目のポイントを叩き出してぶっちぎりの1位を決めてます。今回は先行シングル「Vampire」が初登場1位、セカンドシングル「bad idea right?」が初登場10位と、地ならしも万全で満を持したリリースだったのでまあ当然の結果ですね。

今そのアルバムを一通り聴いてますが、デビュー・アルバムに比較すると「Good 4 U」のようにビートの効いたパワーポップ系の楽曲に代表されるようなアップビートなロック寄りの楽曲の割合がかなり増えて、しかも多様さを増してるな、というのが第一印象。ポップなエモ・パンクな「all american bitch」や、90年代のライオット・ガールズ・ムーヴメントを彷彿させるような、エッジとパワーの効いた「get him back!」(リズ・フェアとかを思い出してました)とか、80年代っぽいエレクトロの「love is embarrassing」なんかはミッシング・パーソンズを思わせる軽快さ。その一方ではドリーミー・ポップな「lacy」やスケールの大きい「making the bed」などもちゃんと配して、アルバム全体水も漏らさぬタイトで総合的な世界観をきっちり作り上げている感じで、今のポップ・アルバムとしてはかなり完成度高いな、と思いました。来年2月からはこのアルバムのサポートツアーも開始するとのこと、しばらくはこのアルバムも上位に留まりそうです。

"Layover" by V

そのオリヴィアに続いて今週100,000ポイント(うち実売88,000枚)で2位に初登場してきたのが、BTSVのソロアルバム『Layover』。アルバムとは言ってもわずか6曲収録なのでEPと言ってもいいこのアルバム、Kポップ商法の常で、13種類の封入物ランダムのバージョン違いCDで売上も伸ばしてきっちり10万ポイント稼いでこの位置にニューエントリーしてきました。これで全米トップ10アルバムを決めたBTSのメンバーはRM、Jimin、Suga、j-hopeに続く5人目となって、ビートルズやワン・ダイレクションを抜いてしまいました。残るはジンジョングクですが、彼らも既にそれぞれHot 100のソロヒットを持ってるし、出せばトップ10は間違いないでしょうから、全てのメンバーが全米アルバムトップ10達成も充分ありそうですね。恐るべしBTSパワー、というかアーミーパワー

で、このVのアルバムですが、先月一週だけHot 100の96位にチャートインしていた「Love Me Again」をはじめ、全曲素晴らしくクオリティの高いプロデュースの、正統派コンテンポラリーR&B作品に仕上がってます!Vのバリトン気味の声がまたいい。同じアジアということでは、Jojiの作品のスタイルによく似てますが、正直作品の出来ではこのVの方が上かも。惜しむらくは曲数が少ないことと、前編スロウかミディアム・スロウなので、アフターアワーのバックには最高ですが、アップも聴きたいな、という向きには物足りないかも、というところ。いやあでもこれはトロけるなあ。変にエッジ立ちすぎてなくて、80〜90年代のR&Bファンのオジサマオバサマ方にも絶対受けるでしょう!R&Bファン必聴ですぞ。

"Rustin' In The Rain" by Tyler Childers

そして今週のトップ10内初登場の最後は、38,000ポイント(うち実売25,000枚)で10位に滑り込んで来た、カントリー/ブルーグラス系シンガーソングライター、タイラー・チルダーズの6作目『Rustin’ In The Rain』。前作は伝統的な楽曲と自作のゴスペル曲8曲を3つの異なるスタイルとプロデュースで演奏するという、独特の意欲的企画盤『Can I Take My Hounds To Heaven?』(2022年8位)で初のトップ10を決めたタイラー君、今回はちょっとアウトローっぽい雰囲気の伝統的なカントリー・スタイルで迫った作品で、見事2枚目のトップ10を決めています。

ペダルスティールが全編にわたって鳴り響いているし、あのクリス・クリストファーソンの名曲「Help Me Make It Through The Night」の雰囲気たっぷりのカバーや、伝統的カントリーのアプローチらしく、聖書のルカ福音書の一節をタイトルにするという「Luke 2:8-10」(イントロのところでちょっと喋りを入れるマーゴ・プライスの声が個人的にはうれしいな)など、ちょっと聴くとベタベタのカントリー作品のように聞こえるのですが、タイラーのボーカル発声はとってもソウルフルだし、「Phone Calls And Emails」なんていう今どきの題材の曲もあったりして、タイラーがただのカントリー野郎じゃないことがヒシヒシと伝わってくる感じがいいですね。タイラーによるとこのアルバム、「エルヴィス・プレスリーにオーディション申し込んで演奏してるつもりで作った」とのこと。バンドのフード・スタンプスもいい感じでバッキングに徹してるし、彼らのライブってこんな感じなんだろうな、南部のバー・ジョイントあたりでの彼らのライブ、聴きに行きたいなと思ってしまいました。

"Bewitched" by Laufey

一方11位以下100位までの圏外に目を向けると、今週の初登場アルバムは3枚。その一番人気が23位に飛び込んできた、アイスランド出身のアイスランド・チャイニーズの女性シンガーソングライター、レイヴェイ(Laufey)のセカンドアルバムにして全米初チャートインとなった『Bewitched』。幼少の頃からアイスランドの首都レイキャビクで、クラシックのバイオリン奏者だった母と中国の中央音楽院でバイオリンを教えていた母方の祖父の影響でピアノやチェロを習得、地元の交響楽団で15歳でチェロのソロ奏者として活動。同じ頃に地元アイスランドのタレント・オーディション番組で最終まで残って最年少記録を樹立したという、いわゆる音楽の神童だったようです。現地の音楽学校を卒業後、ボストンのバークレー音楽院を卒業して現在はロス在住という彼女、2021年にリリースしたEP『Typical Of Me』がメディアやビリー・アイリッシュら一部のミュージシャンの注目を浴び始めてたらしいです。

そんな元々クラシックの出自を持つレイヴェイですが、ティーンエイジャーの頃から父親の女性ジャズシンガーのコレクションに親しみ、最も尊敬するアーティストはエラ・フィッツジェラルドテイラー・スウィフトとのこと。彼女自身のスタイルも、ジャズ・ポップ的なドリーミーな楽曲を中心に、独得の雰囲気と世界観を醸し出してます。実は今年6月には既に初来日を果たしていて、東京ブルー・ノートでアコースティック・ライブをやってたらしく、耳の早い音楽ファンの間でチケットはすぐ完売したみたいです。そんじょそこらのポップ・シンガーとは全く違う世界観を感じさせる楽曲や歌声ながら、ただのジャズ・シンガーとも違うその独得さはかなり気持ち良くて、ちょっとクセになりそうですね。

"Rumours: Live" by Fleetwood Mac

続いてぐーっと下がって81位初登場は、一部のシニア洋楽ファンの間ではしばらく前から話題になっていた、フリートウッド・マックがあの名盤『噂(Rumours)』(1977年31週全米1位) リリース直後のルーマーズ・ツアーのパフォーマンスの一つとして、1977年8月29日にLAのイングルウッドにあるザ・フォーラムで行ったステージから18曲を収録したライブ盤『Rumours: Live』。約2万人という、比較的中規模のキャパシティのこの会場を満員にした、70年代マックが一番勢いがあって脂の乗りきった頃のライブだけに、全編なかなか聴き応えのあるライブ盤になっています。また、この頃の彼らの作品のエンジニアをすべて務めていたケン・キャレイ(あの2000年代に「Bubbly」や「Fallin’ For You」のヒットを飛ばしたコルビー・キャレイのお父さんですね)が野外レコーディング・トラックを使った録音のクオリティもかなり高くて、いわゆるライブノイズがほとんどない、クリアな音質が楽しめます。

収録されているのは『』から「Don’t Stop」と「I Don’t Want To Know」以外の9曲、その前の『ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)』(1976年1位)からは「Rhiannon」「Say You Love Me」など8曲に加えて、1969年のまだこのラインアップになる前の、ギターのピーター・グリーンが率いるマックがシングルのみリリースした「Oh Well」(全米55位、全英2位、1979年にロケッツのカバーが全米30位)の全18曲。このライブ盤を聴きながら、『』大ヒット当時にあのアルバムの虜になって聴きまくっていた頃を思い出すと共に、今年の春にこの頃のマックをモデルにした(スティーヴィー・ニックスに相対するヒロインを演じたのは、先日亡くなったリサ・マリー・プレスリーの娘のライリー・キーオでした)アマゾン・プライム・ビデオ配信ミニシリーズの『Daisy Jones & The Six』をまた思い出して、そっちのレコードもまた引っ張り出して聴いたりしてます。やはりこの頃のマックの輝きは今も褪せることなしですね。

"Welcome To Bubba Land" by Real Boston Richey

そして今週最後の初登場は、94位に入って来たフロリダ出身のラッパー、リアル・ボストン・リッチーの初フル・アルバム『Welcome To Bubba Land』。彼はこれまで『Public Housing』(2022年60位)、『Public Housing, Pt. 2』(2023年38位)と2本のミックステープをインディー・リリースしてチャートインさせてますが、今回の初フルアルバムはそのミックステープで共演したフューチャーに気に入られたのか、フューチャーのレーベル、フリーバンズからのリリースになってます。

内容はそれらのミックステープ同様、ごくごく普通のトラップ・アルバムで、熱心なトラップヘッズならいざ知らず、正直どうということもない内容ですし、せっかく前作では生音トラックなんかも駆使するなど工夫の跡もあって、順位も上げてきてたんですが今回はこういう順位に。まあトラップ自体が全体的に飽きられてきた感もある今日この頃なんでしょうがないでしょうね。

ということで今週はトップ10に3枚、100位までの圏外に3枚の都合6枚初登場のアルバムチャートでした。一方Hot 100の方を見ると、やはりアルバムチャートでも圧倒的だったオリヴィアトップ40内に今回のアルバム収録全13曲をチャートイン(うち11曲が初登場)というドカ盛り状態で、1位も先週9位まで落ちていた「Vampire」がバウンスバックして返り咲き、通算2週目の1位を決めてます。もう1曲の先行シングル「Bad Idea Right?」も先週26位→7位にトップ10復帰。正しくオリヴィア祭の様相を呈していました。ではここで今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Guts - Olivia Rodrigo <302,000 pt/150,000枚>
*2 (-) (1) Layover - V <100,000 pt/88,000枚>

3 (1) (3) Zach Bryan - Zach Bryan <95,000 pt/2,559枚*>
4 (2) (28) One Thing At A Time - Morgan Wallen <78,000 pt/2,140枚*>
5 (3) (7) Utopia - Travis Scott <56,000 pt/2,098枚*>
6 (6) (40) SOS ▲3 - SZA <45,000 pt/3,835枚*>
*7 (8) (12) Génesis - Peso Pluma <43,000 pt/76枚*>
8 (5) (47) Midnights ▲2 - Taylor Swift <42,000 pt/7,640枚*>
9 (10) (140) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <39,000 pt/406枚*>
*10 (-) (1) Rustin’ In The Rain - Tyler Childers <38,000 pt/25,000枚>

久々にオリヴィア旋風と、Kポップパワーが炸裂した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:9/15-21)ですが、来週は実売が大幅減になってもストリーミングもしっかり稼いでいるオリヴィアがおそらく10万ポイントは割らないでしょうから、10万ポイントを叩き出せる新譜があるかがポイント。で、今週のリリースを見ると、久しぶりにヒップホップ系の強力な新譜が2枚、ロッド・ウェイヴの新譜と、P.ディディ改めディディの17年ぶりながら超豪華ゲスト満載の新譜が10万ポイントいきそうで、来週は三つ巴の首位争いになりそう。予想としては僅差でオリヴィアが2週目の首位キープとみますがさてどうか。それ以外でも話題のミツキの新譜を筆頭に、カントリーのダン+シェイ、デミ・ロヴァート、リル・パンプ、サーティ・セカンズ・トゥ・マーズあたりがトップ10に飛び込んで来そうで、来週は久々ににぎやかなトップ10になりそうです。ではまた来週。

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