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今週の全米No.1アルバム事情 #53 - 2020/11/14付

今週でこのコラムも53回目ということで早くも開始から1年が経ったことになります。この1年全米アルバムチャートのトップ10をナンバーワンとデビューアルバムを中心にカバーしてきて思うことは、昨年と比べていっそうヒップホップの消費(その多くはストリーミングですが)が増えてきていること。
例えば2019年に1位を飾ったアルバムは全部で40枚ありましたが、その内訳はヒップホップ-17、ポップ-14、ロック-5、R&B-2、カントリー-2とその42.5%がヒップホップでしたが、ポップやロック系のアルバムもそれと同じくらい1位を取ってました。一方、2020年のこれまでの1位アルバム27枚(1位の作品数も、テイラーウィークンド、リル・ベイビーらの長期政権のおかげで減ってますね)のうち実に15枚、55%がヒップホップに集中していて、残りはポップ-7、ロック-1(しかもこれは元々ヒップホップから今回パンクに一時転向したマシンガン・ケリーをロックカウントしての1枚)、R&Bとカントリーは各2という状況。このコロナ禍でストリーミングポイントの圧倒的な強さを誇るヒップホップが大勢を占めたということになります。一方ライブ活動を大きく制限されたロック勢は割を食ったということかもしれません。2年目に突入したこのコラム、こういった社会科学的っぽい観点も交えながらチャート解説していきたいと思いますので引き続きよろしく!

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ということで今週末のBillboard 200の1位、今週はさすがに予想通りで、先週タイトルナンバーのシングル「Positions」が自己5曲目(単独クレジットでは3曲目)の初登場1位となったアリアナ・グランデのアルバム『Positions』が174,000ポイント(実売42,000枚)という力強いポイント数で無事1位初登場を決めてます。この1位でアリアナのナンバーワンアルバム(すべて初登場1位)は2013年の『Yours Truly』から通算5枚目となって、特に直近3枚の『Sweetener』(2018年9月)、『Thank U, Next』(2019年2月)とこの『Positions』は僅か2年ほどの間に3連続1位というかなりのスピードでナンバーワンアルバムを積み上げてきていて、これでアリアナはオリジナル・アルバムのみに限ると、女性アーティストの3枚のナンバーワン達成の最速記録を樹立したことになります(ベスト盤やサントラ盤も含めると、1978〜1980年のドナ・サマーと2007〜2009年のマイリー・サイラスの記録あり)。

アリアナがホワイトハウスのウェスト・ウィングで女性ばかりのスタッフに囲まれて大統領執務をする、という抜群にタイムリーなコンセプトのPVも今回の大統領選に対する、暗示的なメッセージになっているようでなかなかニヤリとさせますね。今週全英でも1位となったこのアルバム、マーダ・ビーツロンドン・オン・ダ・トラックなど、今旬のヒップホップ系のサウンドメイカー達がサウンドを固め、ザ・ウィークンド、ドジャ・キャット、タイ・ダラ・サインらとの共演曲をちりばめてて、来年にかけてまだまだヒットが出そうです。

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2位に初登場してきたのは、先週予想で「ひょっとしてアリアナに対抗するならこいつ」と言っていたトリッピー・レッドの『Pegasus』(60,000ポイント、実売4,000枚)。初登場1位だった前作『A Love Letter To You 4』(104,000ポイント、実売14,000枚)ほどのパワーはさすがになかったけど、2位に付けてくるあたりはまだまだ勢いを感じますね。やはりヒップホップ勢、恐るべし。しかしこのアルバムタイトルといい、このジャケといい凄いね、ペガサスだよ、ペガサス(笑)トリッピー君、以前のピンクのドレッドから普通のブロンドのドレッドに変えて少し大人しい風貌だけど、やっぱ暗闇では鉢合わせしたくない類の風貌だよなあ。で、このジャケ。すごい。

トリッピー自身は「今度の『ペガサス』は凄いぜ。前作よりも遙かにいい。ジャンルの枠を超えて次のレベルにいってるんだ」と言ってたらしいけど、8月頃にアルバムの楽曲がネット上にリークしたらしく、そういうのもあって1位アリアナと張るまでのパワーはなかったのかも。個人的には懐かしのバスタ・ライムスまだやってたのか!って感じ。しかしこの後のチャートを見てもっとビックリ)をフィーチャーした奴なんかが哀愁でいい感じだけど、それ以外にもヒップホップアルバムのパターンでパーティネクストドア、クリス・ブラウン、フューチャー、リル・ウェイン、スウェイ・リー、ショーン・キングストン(これも結構懐かしい)といった豪華なゲスト陣でかなり盛りあがってるアルバムですね。

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そして何ととっても久しぶり感満載な、あのサム・スミスの新作『Love Goes』が41,000ポイント(実売18,000枚)で堂々5位に初登場してきました!前のアルバム『The Thrill Of It All』(2017)は英米でナンバーワンになったものの、その後ポツリ、ポツリとリリースされるシングルはいずれもあまりパッとせず(元フィフス・ハーモニーノーマニとのデュエット「Dancing With A Stranger」が7位というのが目立ったくらい)、最新シングルの「Diamonds」も50位台をうろうろしてる、って感じなので、まさかアルバムがトップ10入りしてくるとは思わんかった。サム、ごめん(笑)

本国UKでもこのアルバム、今週アリアナに次いで2位に初登場してるので、これをきっかけに彼のキャリアも回復してくるかなあ。

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で、今週一番ビックリしたのが、何と2009年の『Back On My B.S.』(最高位5位)以来、11年ぶりにトップ10の7位に初登場してきた、(さっき名前の出てた)バスタ・ライムスの『ELE2: The Wrath Of God』(38,000ポイント、実売17,000枚)!「ELE」っていうとバスタの1998年のサードアルバム『ELE: The Final World Front』(最高位12位)で、ちょうど自分が洋楽ファンサークル、meantimeのスタッフで仲間達と今みたいなことやってた頃、ジャネット・ジャクソンをフィーチャーした「What’s It Gonna Be?!」が大ヒット(全米3位、全英6位)してたバスタ真っ盛りの頃の作品だから、そのパート2って今更感満載ですけどね。

でも、久しぶりにバスタが元気にダミ声でラップしてるのを聴くのはいいね。今回のアルバムは豪華ゲスト満載なんだけど、そのメンツも昔ながらのメアリーJとか「I Know What You Want」(2003年全米3位)以来のコラボ復活のマライアとかエミネムとか、あれ?亡くなってるはずのオール・ダーティ・バスタードといった連中から、今時のアンダーソン・パークケンドリック・ラマーらとのコラボを駆使して、バスタ・ワールドを作り上げてるようですね。いやしかしサムもそうだったけど、バスタが入って来たのはビックリしたやら嬉しいやら。

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そして今週のトップ10最後の初登場は、ちょっと見(エイミー・ワインハウス+カーディB)÷2,てな風貌の女性R&Bシンガー、クイーン・ナイジャのデビュー・フル・アルバム『Misunderstood』が9位に初登場(34,000ポイント、実売9,000枚)。やーこれはいいわ!2年前エラ・メイちゃんとかにハマった人や、最近ジェネ・アイコにハマっている人達(それってオレやん笑)は絶対気に入ること間違いなし。風貌のインパクトとセクシーさの度合いが上記の二人に比べるとかなり強いけど、涼しげな歌声といい、全曲自ら共作して作ってる雰囲気とグルーヴたっぷりの楽曲といい、ラッパーと絡む曲なんかでは時々アリアナを思わせたりする雰囲気、これはR&B女性ボーカル好きには超オススメです。ちょっとイメージ的にはアクの強くないK.ミッシェルって感じもあるかな。

これまでEP1枚とシングルを数枚出してヒットにはつながってなかったので、このアルバムの冒頭のスキット「Intro」ではいろんな人が彼女のことを「どうせ一発屋よねえ」「歌も大したことないし」とかディスりまくる、というのも後に続く作品への彼女の自信を物語ってるな。これ、来年グラミーの新人賞部門ノミネートは決まったかも(気が早いって)

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ということで今週のおさらい。今週は久々に賑やかなトップ10でやっぱこういうのが楽しいですよね。一方今週圏外ではリル・ダークの親友でラッパーのキング・ヴォンのデビュー作『Welcome To O’Block』が13位初登場してますが、彼実は11/6にアトランタのクラブで起きたラッパー同士のいざこざで銃弾を受けて亡くなったばかりなんですよねえ。何てこった、自分のアルバムがチャートインしたのも知らずに逝っちゃうなんて。R.I.P….(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)

*1 (-) (1) Positions - Ariana Grande
*2 (-) (1) Pegasus - Trippie Redd

3 (3) (18) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
4 (1) (52) What You See Is What You Get ▲ - Luke Combs
*5 (-) (1) Love Goes - Sam Smith
6 (5) (17) Legends Never Die - Juice WRLD
*7 (-) (1) ELE 2: The Wrath Of God - Busta Rhymes
8 (7) (36) My Turn ▲2 - Lil Baby
*9 (-) (1) Misunderstood - Queen Naija
*10 (8) (267) Hamilton: An American Musical ▲7 - Original Broadway Cast

さて来週の1位予想です。対象リリース期間は11/6-11/12、そろそろカントリー系のクリスマス・アルバムがポツポツ出始めてますが全体に小粒ですねえ。ヒップホップ系もキッドLAROIとかNAVのリリースがあるけどいずれもEPやミックステープなんで1位取るには力不足か。今週アリアナのストリーミング人気もかなり高かったので、来週もアリアナが首位キープ、というのが結局いかにもなシナリオのような気がします。ではまた来週。

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