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今週の全米アルバムチャート事情 #230- 2024/4/6付

いよいよMLBが本格開幕してドジャーズは怒涛の打撃陣で圧巻の試合展開なんだけど、肝心の大谷選手だけがHR出ずに何となく開幕前のモヤモヤ感が払拭し切れてないと思ってしまうのは自分だけか。ちゃんとヒットは打ってるんだけど、やっぱり大谷はHR一本打つたびにこのモヤモヤがどんどん浄化されていくような気がするので、今週のジャイアンツとのシリーズでは是非HRを。現地で彼に対して一部から吹き出ているバッシングも黙らせるためにも必要ですよね。

"We Don't Trust You" by Future & Metro Boomin

日本的にいうと新年度に入って最初の今週の全米アルバムチャート、4月6日付のBillboard 200の首位は、先週の予想どおりやはりフューチャーメトロ・ブーミンのコラボ・アルバム『We Don’t Trust You』が251,000ポイント(うち実売4,500枚)という今年一番のポイント出力(これまでの今年の最高はアリアナ『Eternal Sunshine』初週の227,000ポイント)でぶっちぎりの首位初登場を決めてます。この二人、もともと高校生時代からメトロのビートをフューチャーがラップする、という関係があったくらい付き合いは長いし、フューチャーの過去のヒット作『DS2』(2015年1位)ではメトロが全面的にプロデュースしてたくらいの仲なので、今回のコラボに対するシーンの期待も大きかったのは容易に想像できるところ。そしてこの初動のポイント数はそれを如実に反映してますね。

どちらかというとここ数年のアーティスト・パワーの盛り上がり度でいうとフューチャーよりもメトロ・ブーミンの方が上な感じなのですが、音楽メディアの評価もフューチャーのパフォーマンスよりもメトロのトラックやビートを称賛しているのが多いようです。確かにアンディスピューテッド・トゥルースの「Smiling Faces Sometimes」をバックトラックに使ったタイトル・ナンバーからスタートするこのアルバム、アルバム全体テンションの高い、ややダークなトラックが次々に登場して迫力を感じます。ただ今回のアルバムがドロップされて最初に(そして今でも)シーンで持ちきりになってるのは、「Like That」にフィーチャーされてるケンドリック・ラマーが、ドレイクとJ.コールに対して真っ向からケンカを売ってるヴァース。ドレイクのアルバム『For All The Dogs』でJ.コールとやってた「First Person Shooter」でJ.コールが「今のビッグ3はケンドリックか俺かドレイクか」とラップしてたのに対して「ざけんな、俺がビッグ1だ!」と威勢良く噛みついてるというもの。この応酬の行方はそれはそれで興味あるところですが、肝心のフューチャーメトロのアルバムと関係ない方向に発展していきそうで、この2人はどう思ってるのかな、というのが気になります。いずれにしても今年これまでの最大の話題盤であることは間違いないですが、早くもこの続編『We Still Don’t Trust You』が4/12にリリース予定だそうで、こっちも話題を呼びそうです。

"Guts [Spilled]" by Olivia Rodrigo

一方こちらは初登場ではないですが、今週73,000ポイントを叩き出して18位から一気に2位にオリヴィア・ロドリゴの『Guts』が再上昇。これは、従来の『Guts』に新たに5曲のボートラ(そのうち一曲は今週Hot 100に14位初登場してきた「Obsessed」)を追加したデジタル・オンリーのデラックス・エディション、その名も『Guts [Spilled] Edition』がリリースされたから。テイラー同様、新曲に対するファンのニーズの高さではオリヴィア全然負けてませんね。しかしこの「Obsessed」のオリヴィア、曲のエッジの立ち方といい、ルックスといいよりロック寄りに振り切ってる感じがなかなかです。

この「Obsessed」を含むデラックスバージョン、今はフィジカル出てませんが、7/19にヴァイナルが出るらしいです。もう元の『Guts』のヴァイナル持ってるしなあ、ボートラだけのヴァイナル出してくれないかしら。

"Unheard (EP)" by Hozier

そして5曲のボートラではなく、そもそも4曲しか入ってないEPで34,000ポイント(うち実売3,000枚)を叩き出してKポップのガールグループも真っ青なチャート・パフォーマンスを見せてるのが、今週10位に滑り込んで来たホージャーの『Unheard』。いやあEPが出るのは知ってたけど、こんなところに飛び込んで来るとは思いませんでした。

去年8月に初登場3位を記録したサード・アルバム『Unreal Unearth』のレコーディングと同じセッションでレコーディングされたけどそのアルバムには収録されなかった4曲を改めてEPでリリースしたということだけど、何で今さら?そして何でこんなにストリーミングを集めてるの?と思ってたら、そのうちの一曲「Too Sweet」の一部分をあるポッドキャストに出演したホージャーが流したらSNSでバズったので、今回のリリースに踏み切った、というのが背景みたい。ただどうでもいいけどこの曲のベースライン、ジャクソンズの「State Of Shock」だと思うんだけど、ソングライティング・クレジットにはないんだよなあ。これだと「Blurred Line」がマーヴィン・ゲイの「Got To Give It Up」の盗作だ、と、マーヴィンの遺族に難癖つけられて訴訟されて負けたロビン・シックが怒るよねえ。どうでもいいんですが(ちなみに今週4月1日はマーヴィンの命日でした。改めてR.I.P.)。

"Las Mujeres Ya No Lloran" by Shakira

さて圏外11位以下100位までに目を移すと、先週トップ10入りを予想していた作品が3つも圏外、トップ30止まりになってました。最近こういう傾向、ジャンルを問わず多いのですが強力アーティストや、強力な売上・ストリーミング稼げないと最近は1位はおろかトップ10デビューも覚束ない、ということですかねえ。で、これはここのところ旬のラテンだし、トップ10間違いないだろうと思ってたのが13位初登場のシャキーラ通算12作目の『Las Mujeres Ya No Lloran』(スペイン語で「もう女は泣いたりしない」)。前作『El Dorado』(2017年15位)に続いてほぼ全面スペイン語のアルバムになってますが、前作との間にビザラップとのコラボヒット「Bzrp Music Sessions, Vol. 53」(2023年9位)やカロルGとの「TQG」(同年7位)といったHot 100クロスオーバーヒットを含めて既発の9枚のシングルが収録されてるという、新作というよりは最近のベスト盤、といった構成になってますね。

1998年にエミリオ・エステファンの肝いりで鮮烈に『Dónde Están Los Ladrones?』(131位)でブレイクして以来、実に四半世紀のキャリアをクロスオーバーな人気を誇るラテンアーティストとしてピンで築いて来たという意味では、シャキーラは後に続くバッド・バニーカロルG他今のラテン勢のTrailblazer(道を切り開いてきた先駆者)として今後は歴史的評価の対象になっていくアーティストでしょう。でもビザラップと組んだりとかまだまだ現役感満点だし、このアルバムの楽曲もラテン系ポップやレガトンだけじゃなくてカーディBをフィーチャーした「Punteria」みたいな若々しいダンス・ポップとか、アフロビートも瑞々しい「Nassau」、しっとりとしたバラードの「Última」など、まだまだ全然一線で行けそうな力を感じるアルバムですね。ちょうど長年のパートナーだった、FCバルセロナで元WCスペイン代表のジェラール・ピケとも2022年に別れて心機一転、というのもあるのかもしれません(ピケは同時に現役引退しちゃいました)。ますますの活躍期待、という感じですね。

"Born" by Kenny Chesney

こちらもトップ10は間違いないと思ってたカントリーのケニー・チェズ二ーの通算20作目になる『Born』、20位初登場ということで、2003年のクリスマス・アルバム『All I Want For Christmas Is A Real Good Tan』(42位)以来のトップ10外しということになりました。そのクリスマス・アルバム以降は12作連続で必ずトップ3には入れてきていただけに(うち7作は前作の2020年『Here And Now』も含めて1位)この落ち込み方はちょっと意外でした。

まあ、その前作からの「Here And Now」(2020年38位、カントリー7位)以降クロスオーバーのHot 100ヒットだけでなく、カントリー・チャートでもかなり勢いを失っていた感のあるケニー・チェズニー、こちらは何となく一時代が終わったような雰囲気が漂っています。プロデューサーは長年の盟友、バディ・キャノンで、いろんなソングライターの楽曲を集めて自作曲を2〜3曲加えてアルバム作る、というアプローチは今回も何にも変わってないんですが、やはりモーガン野郎クリス・ステイプルトンザック・ブライアン、タイラー・チルダーズといった伝統派、アメリカーナ派、個性派とさまざまな若手の台頭もあって相対的な地位としてはやや下降気味、といったところなのでしょう。若手のホープ、と思ってた彼ももうアラ還ですからねえ。

"Tyla" by Tyla

一方こちらは初チャートインで24位と上々のキャリアスタートになった、南アフリカ出身のアフロビート台頭の騎手として人気を集めてるタイラ(本名:タイラ・ローラ・シザール)のデビュー・アルバム『Tyla』。それでもデビューヒットの「Water」がHot 100で7位に昇る大ヒットだったし(UKでも4位)、今年新設されたグラミー賞の最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス部門の初代受賞曲にもなったんで、このアルバムトップ10デビューでも全然おかしくなかったと思いますけどね。

その「Water」を始め、このアルバム全体的にかなりいい感じです。アフロビート、と言いながらエスニックさを強烈に表現するのではなく、あくまで洗練されたグルーヴとしなやかなタイラのボーカルが終始印象的な楽曲が並んでいて、あまりアフロとか何とか意識せずに質の高いR&B作品として気持ちよーく聴けてしまうあたりがこの人の、そしてこの作品の魅力ではないかと。この空気感というか、しなやかさは、去年アイスランドから登場して一気にブレイク、アルバムがジャズ・アルバムチャートの首位になってしまったレイヴェイに通じるようなところもありますね。そして特筆すべきは、こういう質の高い作品が、特に有名でエスタブリッシュされた名前の見当たらない、ソングライター・プロデューサー・スタッフで作り上げられていること。著名どころだと「Water」の共作者に2000年代のR&Bポップ・ヒットメイカーだったトリッキー・スチュアートの名前が見えるくらいで、曲はほぼ全曲タイラ自身が共作、特に有名ゲストもなく、しっかりチームで作っているこの作品、メディアの評価もなかなか高いようです(メタクリティックで84点!)。

"In Search Of Antidote" by FLETCHER

ちょっと下がって36位にチャートインしてきたのは、一昨年デビュー・アルバム『Girl Of My Dreams』が15位初登場と華々しいブレイクを見せたニュージャージー州出身の女性シンガーソングライター、フレッチャーのセカンド・アルバム『In Search Of The Antidote』。ファーストの時はなかなか魅力的なフックとメロディを書く才能と、NYU(ニューヨーク大)のクライヴ・デイヴィス・レコード音楽院出という血筋の良さから、グラミー賞新人賞部門にノミネートされるのでは?と書いたんですが、その後曲がさっぱりヒットしなかったというのも響いたと見えてグラミーノミネートもなく、その後音無しだったのですが、今週久しぶりにチャートに登場してきました。今回はUKの方がややチャート順位は上で、26位に初登場してます。

今回もファースト同様、2015年のアンドラ・デイの『Rise Up』の共作・プロデュースでグラミー賞の最優秀R&Bパフォーマンスにノミネートされたことで知られるジェニファー・デシルヴィオをメイン・プロデューサーに迎えてますが、聴いてて耳を「おっ」と引くのは90年代オルタナ・ポップ・テイスト満載のテンション高いポップ・ナンバー「Maybe I Am」や「Lead Me On」など、ヒット・プロデューサー・チームのザ・モンスターズ&ストレンジャーズ(最近ではジャスティン・ビーバーの2021年『Justice』やジョナス・ブラザーズの2023年の『The Album』などを手掛けた)といっしょにやってるナンバーだったりします。ジェニファーとやってるナンバーも一番ストリーミングを集めてる「Eras Of Us」とか、スケールの大きいいかにもNYUのレコード音楽院出らしい、マギー・ロジャースあたりを思わせる作品で決して悪くはないんですがねえ。とにかく彼女の場合、どこかで楽曲がブレイクすると一気に人気が集まるような気がします。まだリスナーに発見されてないだけのような。

"Not Now I'm Busy" by Joyner Lucas

今週100位までの最後の初登場は、こりゃまた懐かしい名前が、というジョイナー・ルーカスのセカンド・アルバム『Not Now I’m Busy』が42位に初登場。もともと彼の名前が広く知れたのは、2018年のエミネムのヒット曲「Lucky You」(6位)にフィーチャーされたのが最初でしたがその後は2020年にアルバム『ADHD』(10位)を出したっきりで、その後はピンのアーティストというよりも、ケンドリック・ラマーの「DNA」やフューチャーの「Mask Off」ダベイビーの「Suge」やジャック・ハーロウの「What’s Poppin」といった有名ヒップホップ曲のリミックスを中心にやってたようです。

4年ぶりの今回のセカンド・アルバムでは、ファーストでもコラボっていたロジックに懐かしやトウィスタをフィーチャーした「Still Alright」の他、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインとの「Cut U Off」、更には故DMXをフィーチャーした「I Didn’t Go」や意外な取り合わせ、ジェリー・ロールとの「Best For Me」と微妙に興味をそそるトラックが並んでます。全体トラックの出来も芸のないトラップ野郎ではなく、結構タイトで悪くないビートも多く、ジョイナー自身のフロウもエミネムとやってた頃に比べると随分達者になってて(笑)「ふーんなかなか聴けるじゃん」というのが全体聴いた感想でした。

以上、今週の100位までの初登場はトータル7枚でした。一方Hot 100に目を移すと、今週アルバム首位初登場を決めたフューチャーメトロ・ブーミンのアルバムから、さっき話題に出たケンドリック・ラマーのディス・トラック「Like That」(バリー・ホワイトをサンプルしてますね)が初登場1位を決めているのを筆頭にトップ10内に5曲が初登場。アルバムチャート10位に入ったホージャーのEPからの「Too Sweet」も5位に初登場するという、完璧アルバム・チャートの動向とシンクロした状況になってます。これ、来週もビッグ・アルバムが首位初登場するので、同じようにHot 100のトップ10に5〜6曲初登場してくるんじゃないかな。詳しくは最後に。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <251,000 pt/4,500枚>
*2 (18) (29) Guts - Olivia Rodrigo <73,000 pt/6,426枚*>
3 (1) (3) Eternal Sunshine - Ariana Grande <72,000 pt/8,000枚>
4 (3) (56) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <68,000 pt/1,524枚*>
5 (5) (70) Stick Season ▲ - Noah Kahan <44,000 pt/3,277枚*>
6 (6) (68) SOS ▲3 - SZA <41,000 pt/1,367枚*>
7 (7) (240) Lover ▲3 - Taylor Swift <40,000 pt/9,500-枚>
8 (8) (31) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <39,000 pt/3,362枚*>
9 (9) (22) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <38,000 pt/9,500枚>
*10 (-) (1) Unheard (EP) - Hozier <38,000- pt/3,000枚>

ということでフューチャーメトロ・ブーミンがガツーンと首位をゲットした今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:3/29~4/4)ですが、これも来週はビヨンセの話題の新作で決まりでしょうねえ。ちょうどリリース当日の3/29にはジェイZと渋谷にいてゲリラサイン会もしてたというビヨンセ、既にかなりのストリーミング状態らしいので間違いなくぶっちぎりの1位でしょう。それ以外ではBTSj-hopeの2枚目のソロがトップ10に入って来そう。ではまた来週。


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