見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #157- 2022/11/12付

さていよいよ暦も11月に入ってMLBも終わり、紅葉やら皆既月食やら秋深まる今日この頃。洋楽関係もそろそろ今年の総決算に入る中、来週火曜日11/15(日本時間11/16未明)には来年2/5(日本時間2/6)発表予定の第64回グラミー賞のノミネーションが発表になります。去年もやったノミネーション予想、今年も何とかこの週末までにはこのnote.comにアップしようと思ってますのでお楽しみに。いやでも今週やたら忙しいからできるかな〜(笑)

"Midnights" by Taylor Swift

今週11月12日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は先週からの既定路線どおりでテイラーの『Midnights』が依然ぶっちぎりの342,000ポイント(うち実売114,000枚で今週もぶっちぎりでアルバム・セールス・チャート1位です)で2週目の1位をマークしてます。先週7割減っても30万ポイントだからぶっちぎりで2週目の1位だろう、ってのがまんまそのとおりになった感じです。

この『Midnights』の圧倒的さを理解するのにわかりやすいのは、この342,000ポイントってのが今週のBillboard 200の2位から7位までのアルバムのポイントの合計よりも大きいってこと。もっというと、先週の『Midnights』のポイント、157万8千ポイントは先週の2位から何と88位までのアルバムの総ポイント数よりも大きかったっていうからその圧倒さ、凄いですよね。そしてその圧倒さは、Hot 100の方でも如実に現れてて、先週トップ10独占していたテイラーが、今週も1位の「Anti-Hero」を筆頭に、6位「Lavender Haze」、7位「Midnight Rain」、9位「Bejeweled」と今週も4曲残ってるんですよね。やっぱテイラー好きな音楽ファンが圧倒的に多いってことなんだね。

"Revolver (Deluxe Reissue Version)" by the Beatles

そして初登場ではないですが、こちらも先週トップ10に登場するのを予想していた、ビートルズの1966年のアルバム『Revolver』のジャイルズ・マーティンによるリミックス・リイシュー盤が54,000ポイント(実売46,000枚)で4位に再登場しています。最初のリリースでは1966年には6週間1位を記録したこのアルバム、そこから10年後の1976年にシングルでリリースされて全米7位を記録した「Got To Get You Into My Life」をはじめ、「Eleanor Rigby」「Taxman」「Tomorrow Never Knows」「Yellow Submarine」「Here, There And Everywhere」など有名曲や他のアーティストにカバーされた曲満載のこのアルバム、やはり人気は高いですね。

個人的には一番最初に買ったビートルズのアルバムで、『サージェント・ペッパーズ』のコンセプト性はないものの、様々なタイプの楽曲がてんこ盛りになっているというアルバム構成は、今でも高い評価を得ていて、最近ではかなりオールタイム・アルバム・ランキングの上位に位置することも多いアルバムです。この機会に若い洋楽ファンがこのアルバムを楽しんでもらえたらいいなあ、と思いますね。

"The Melodic Blue" by Baby Keem

そしてこちらも初登場ではないんですが、去年の9月に5位に初登場していたベイビー・キームのデビューアルバム『The Melodic Blue』がデラックス・バージョンとヴァイナル・リリースのおかげで先週の105位から一気に7位に再上昇してきてます。ポイントは37,000ポイントで実売11,000枚(ほとんど全てヴァイナルの売上のようです)。

ケンドリック・ラマーの従兄弟っていうこともあって、前回のグラミー賞の新人賞部門にもノミネートされてそれなりにシーンでは注目されて来ているベイビー・キームですが、ヴァイナル出ただけでこれだけ実売が伸びてジャンプアップするってのはちょっと驚き。やっぱヴァイナル人気、ホンモノですね。

"Kutthroat Bill: Vol. 1" by Kodak Black

今週トップ10内唯一、そして今週最高位の初登場は、2月リリースの『Back For Everything』(2位)に続く今年2作目のアルバム・リリースになった、コダック・ブラックの『Kutthroat Bill: Vol. 1』。37,000ポイント(うち実売2,500枚)で8位に初登場しています。前作からのシングル「Super Gremlin」(最高位3位)が今年前半に久しぶりの大ヒットとなって、相変わらず根強い人気を見せつけてたコダック、今回のアルバムでもいつものようにトラップ王道路線をぶちかましてます。

タイトルから察するに今回はゴスやホラーコア路線なのかな、というとそうでもないみたいで、「Kodak The Boss」とか「I’m So Awesome」なんていう自己顕示的トラックだったり、ストリート系のリリックだったりというまあ良くも悪くもいつものコダック。トラップにしては比較的ポップな感じもするトラックも多く、そういうあたりが根強い支持を取ってるということなんでしょうかね。自分なんかは3曲聴いたら飽きちゃいますが(笑)。

"Dave's Picks Volume 44" by Grateful Dead

さて今週トップ10内は初登場という意味では地味だったんですが、圏外11位から100位まではいつになく超賑やかで何と8枚が初登場。なので長くなりすぎないように飛ばし気味にどんどん行きます。まず最初は13位初登場、毎度お馴染みグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによるライヴ音源集第44弾『Dave’s Picks Volume 44: Autzen Stadium, U. Of Oregon, Eugene, OR - 6/23/90』。前作の第43弾で11位と惜しくもトップ10を逃して今回はトップ10か?と思われたんですが、それでもトップ20はしっかり確保。今回はタイトルの通り、1990年のオレゴン州ユージーンでのライブですが、第43弾で収録しきれなかった、1969年の「Cold Rain And Snow」のライブが一曲だけ収録されてます。今回も25,000ユニット限定リリースの3枚組CDで22,000枚既に売れてるようです。

"From Seed To Sale" by Berner

続いて20位初登場は、昨年12月に16枚目の前作でキャリアハイの23位を記録した、サンフランシスコベースの白人ラッパー、バーナーが自己最高を更新した17作目『From Seed To Sale』。前作同様、トラップなんだけどGファンクとかあの辺の90年代西海岸ヒップホップの雰囲気を持った、レイドバックな感じのトラックに乗ってラップしてます。ウィズ・カリファの事務所に所属してるんで、一曲ウィズ・カリファをフィーチャーした「Spin The Block」がちょっとゴージャスな出来になってるし、全体的に前作のオールド・スクール風味を広げた結構聴きやすいサウンドになってますね。

"Remember That You Will Die" by Polyphia

どんどん行きます。33位初登場は2014年からトヨタ自動車のノースアメリカ本社がある、ダラス郊外のテキサス州プレイノ出身のプログレ・バンド(!)4人組、ポリフィア(Polyphia)の4作目にして初チャートインとなった『Remember That You Will Die』。もともとはメタル寄りのサウンドのバンドだったようですが、ここ数作はよりファンクとヒップホップとポップをベースにしたギター中心のスタイルに移行しているようです。

このアルバムも冒頭「Genesis」はホーンセクションなんかも聞こえてくる(シンセかも知れないけど)ファンキーなロックだったり、続く「Playing God」は超絶技巧のアコギによる優美なメロディが縦横無尽に演奏されるファンク・フュージョン風のナンバーだったり、女性ボーカルのソフィア・ブラックをフィーチャーした「ABC」なんてキッチュなエレクトロ・ファンク・ポップだったり(この曲の途中で日本語の五十音が飛び出したり、日本人の女の子のおしゃべりが出てきてかなり面白い)、ラッパーをフィーチャーしたりと、なかなか面白いバンドのようです。80年代のレベル42をちょっとロック寄りにしてハイテクにしたような感じもあり、結構気に入る人多いんじゃないかな

"The Essential Foo Fighters" by Foo Fighters

そして42位に初登場は、レガシー・レーベルでお馴染み「エッセンシャル」シリーズのフー・ファイターズ版、『The Essential Foo Fighers』。8作目の『Sonic Highways』を除く全てのこれまでのアルバムから満遍なく選曲された、エッセンシャルのタイトルにふさわしいコレクションになってます(ファースト、セカンドから各2曲、サードから1曲、4〜7枚目から各2曲、9枚目から1曲、10枚目から2曲)。

でも何と言ってもオープニングとクロージング(アコースティック・バージョン)が、今年3月に急逝したバンドのドラマー、テイラー・ホーキンズのシグネチャー曲の「Everlong」で括られてるってのがなかなか泣かすんだよなあ。これ、フーファンだったらオリジナルアルバム持ってても思わず買いたくなるじゃないすか。うーんどうしよう、ヴァイナル買おうかなあ。

"Luv 4 Rent" by Smino

ちょっと下がって50位初登場してるのは、モータウン・レーベルが送り出す、セントルイス出身のR&Bシンガー兼ラッパーのスミノSmino、本名クリストファー・ビョルン・スミスJr.)のサード・アルバムで初のトップ50アルバムになった『Luv 4 Rent』。

一聴してこいつ、ただモンじゃないな!と判るのは、冒頭の「4rm Da Source」ではフランク・オーシャンを彷彿させるようなフューチャリスティックな音像でおっ、と思わせたかと思うと、J.コールをフィーチャーして、R&Bやゴスペルやブルースをごった煮にしてそれをアトランタ・ヒップホップ的ファンク・チューンに仕上げてる「90 Proof」とか、その引き出しの多さに一曲聴くごとに引き込まれていく魅力。これ、ファンク好き、ブラック・ミュージック好きは絶対聴くべきだと思う。ラッキー・デイとの先進性を感じるチルR&B「Modennaminute」やコリー・ヘンリーとのジャズとヒップホップが取っ組み合いしてるような(笑)「Settle Down」なんかも楽しい。

"Bin Reaper 3: Old Testament" by BabyTron

さああと3枚、急ぎましょう。69位に初登場は、デトロイトの西にあるミシガン州イプシランティ出身の白黒混血の今年22歳のラッパー、ベイビートロン(BabyTron)のセカンド・アルバムで初のチャートイン作品『Bin Reaper 3: Old Testament』。唇をプルプル震わせて出す音がトレードマークのようなんですが、ラップ自体はなかなかの実力の持ち主と見ました。アルバムタイトルに聖書を言及したり、アルバム冒頭の曲のタイトルが「Genesis 1:1(創世記)」だったりと、クリスチャン・ラッパーなのかな、と思ったら別にそんなこともないようで(笑)結構アタックの強いフロウを聴かせる、普通のトラップでもない、なかなか面白そうなやつではあります。ただアタック強めでずっとくるので自分的には聴いてて疲れますが。

"Marvelous" by Yung Gravy

ラッパーが続きます。ついこの間Hot 100の方で大胆に、いやベタに(笑)あのリック・アストリーの「Never Gonna Give You Up」をモロサンプルした「Betty (Get Money)」がじわじわと上昇してヒットしてた(最高位30位)、ミネアポリス南西部のミネソタ州ロチェスター出身の白人ラッパー、ヤング・グレイヴィー(本名:マシュー・レイモンド・ハウリ)の4枚め『Marvelous』が99位初登場。

いやとにかくこの「Betty (Get Money)」の曲もそうだけどPVがチャラい(笑)。ちょっとパトリック・スウェイジーをダサくしたような風貌のヤング・グレイヴィーがファーコートをまとったピンプ風の出で立ちであの曲に合わせてクネクネ踊りながらラップ(というか鼻歌)してるってやつなんですね。案の定というかこの曲TikTokでバズったのがヒットのきっかけらしいですが、シングルの方は何か一発屋の匂いがプンプンする感じ。こういうのもたまには面白いですけど。

"Bell Bottom Country" by Lainey Wilson

そして今週初登場最後はちょうど100位に入ってきた、大型実力派の若手カントリー・シンガーの呼声高い、レイニー・ウィルソン(ルイジアナ州バスキン出身)の4作目でBB200では初チャートインとなった『Bell Bottom Country』。彼女はHot 100では2020年に「Things A Man Oughta Know」が32位の小ヒット(カントリー3位)でクロスオーバーブレイクしてるんですが、このアルバム収録の先行シングル「Heart Like A Truck」のカントリー・チャートでのヒットもあり(Hot 100チャートインせず)、今年に入ってカントリー・シーンでの評価がぐっと上がってきてました。
そしてちょうど11/9に発表された第56回カントリー音楽協会賞(CMAアウォード)には初ノミネートされたアーティストとしては4人目となる記録の6部門にノミネート、うち最優秀女性ボーカリスト部門と最優秀新人賞を見事受賞

CMAのノミネート発表時から下馬評が高かっただけに、彼女のこのアルバム、もっと上位に入ってくるかと思ってたんですが、この順位。でも今週のCMA2部門受賞で来週ぐーんとジャンプアップしてくるかもしれません。スタイルとしては、ドリー・パートンリー・アン・ウーマックを尊敬しているというだけあって、南部訛りも全面に出した、ドリーによく似た発声の力強いカントリーシンガーでもちろん曲も自分で書く。彼女、次のクロスオーバーな大カントリースターに結構早いうちに成長するかもしれませんね。

ということでいつになく圏外に初登場アルバムが多かった今週、100位までにトータル9枚のアルバムが初登場してました。一方テイラーのアルバム・ポイントが高止まりの傾向を維持すると結構長期政権になりそう。来週のチャート予想は後に述べますが、結構大物の新譜リリースがあったので、これがテイラーを1位から引きずり下ろすかどうかが興味の焦点になりますね。ここで今週のトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Midnights - Taylor Swift <342,000 pt/114,000枚>
2 (2) (3) It’s Only Me - Lil Baby <81,000 pt/557枚*>
3 (3) (26) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <62,000 pt/1,500枚*>
*4 (RE) (86) Revolver ▲5 - The Beatles <54,000 pt/46,000枚>
5 (4) (95) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <41,000 pt/1,230枚*>
6 (5) (90) The Highlights - The Weeknd <41,000- pt/595枚*>
*7 (105) (60) The Melodic Blue ● - Baby Keem <37,000 pt/11,000枚>
*8 (-) (1) Kutthroat Bill: Vol. 1 - Kodak Black <37,000 pt/2,500枚>
9 (8) (24) Harry’s House ▲ - Harry Styles <31,000 pt/6,000+枚>
10 (10) (14) Renaissance - Beyonce <26,000 pt/4,282枚*>

テイラーが余裕の2週目1位で、圏外大賑わいの今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想ですが、さっきも書いたように、テイラーが3週目どこまでポイントを落とすか、それを上回るような強力新譜が入ってくるかの2つがポイントになりますが、まず3週目のテイラーのポイント、彼女のアルバムでデビューから3週以上1位を記録したアルバムはこれまで『Red』(2012)、『1989』(2014)、『Reputation』(2017)、『Folklore』(2020)と4枚ありますが、これらの3週目のポイント歩留まり率(3週目のポイント÷初週ポイント)を見ると、最高は『1989』の24.2%、最低は『Reputation』の11.9%となっていて、この中間値である18%の歩留まりと仮定すると、来週のテイラーのポイントは28万ポイント台ということになります。一方来週チャートインする強力新譜(対象期間11/4〜10)は、というと既に話題に上っているドレイク21サヴェージのコラボ・アルバムくらいでしょうか。それでももしホントにテイラーが28万ポイント維持したら前回20万ポイント叩き出してるドレイクでもキツいかもね。ということで来週は僅差でテイラーがドレイクをかわして3週目の1位と予想しておきます。
それ以外でトップ10に入って来そうなのは、映画『Black Panther: Wakanda Forever』のサントラ、そして我らが期待のジョージあたりでしょうか(入ってくれば日本人ソロアーティストとしては3枚連続トップ10で記録更新です)。ではまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?