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今週の全米アルバムチャート事情 #148- 2022/9/10付

今週イギリスで女性首相のトラス首相が就任。ここ数年デンマーク、ニュージーランドなどで相次いで女性元首が誕生した流れが大国イギリスでも再現されて、メイ首相以来、サッチャー首相から通算3人目の女性首相の誕生につながった感じです。アメリカや既に首相は女性のフランスなど他の民主主義国家でも、今後適任の候補が登場すれば女性元首の誕生の可能性あると思うので、生物学的に優位な種であるはずの女性による国家元首の増加は、グローバル・レベルでのポジティブな変革への下地を作ってる気がします。え?日本?いやあ、日本は今それ以前の問題で、無能で自浄努力すらできない、言動不一致の激しい現政権と与党をいかに政権から退場願うかが先決ですね。

"God Did" by DJ Khaled

さて今週9月10日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、先週予想したDJキャレードニッキー・ミナージュのヒップホップ対決は、残念ながら「他人のフンドシ野郎」のDJキャレードの『God Did』(タイトルからして神を振り回してるってのが気に食わないねえ)が107,500ポイント(うち実売9,500枚)でわずかに2位のバッド・バニーと1,500ポイント差で1位に初登場してます。

今回もズラズラとドレイクからジェイZからカニエ(歌ってますけど)からエミネムからフューチャー(こいつも「Beautiful」でSZAと1曲歌ってますw)からともうありとあらゆる新旧のラッパー達の豪華ゲストを揃えて、自分ではトラックなんて作ってないはずなのに全曲のソングライティング・クレジットに自分の名前を入れているといういつもの「他人のフンドシ」商法。これだけメジャーなメンツが揃ってるから、ヒップホップ・ファンだったらとりあえずストリーミングでは聴きますよねえ。しかもいつものようにほぼ全曲冒頭に「We The Best Music!We The BestDJキャレードのレーベル)」「DJ Khaled!」とオッサンの叫び声が入ってるという鬱陶しさ。おまけに今回はアルバムジャケがオッサンの顔ドアップときたもんだ(笑)。こういう全く同じ商法で4枚目の全米ナンバーワンだっていうからホント腹立つわ。誰かあの冒頭の叫び声をフィルターするアプリとか開発してくれたらアルバム聴いてあげるんだけどね(爆)。

"Between 1&2: 11th Mini Album (EP)" by TWICE

そしてその鬱陶しいオッサンに迫ったのはニッキーではなくてKポップのガールグループ、TWICE。彼女たちの11枚目のEPになる『Between 1&2: 11th Mini Album』が何とキャリアハイの100,000ポイント(うち実売94,000枚)で今週3位に初登場!これ、実に彼女達にとっての3作目の全米トップ10でしかも去年の『Formula Of Love: O+T=<3』(3位)に並ぶ最高ランキングです。Kポップの常套手段であるバージョン違いのCDパッケージをリリース(今回は17種類)というマーケティングで売上稼いでいるわけですが、それでもこの実売枚数の叩き出し方はなかなか凄いですな

そしてもう一つ。ご存知の通り、TWICEにはモモ、ミナ、サナの日本人メンバーがいるので、このアルバムは今年2月に5位にランクインしたミツキの『Laurel Hell』に続いてBB200史上9枚目の日本人アーティスト(TWICEの場合日本人がメンバーにいるアーティストですが)の全米トップ10アルバム、ということになります。アルバムの内容は、シングルの「Talk That Talk」をはじめ、いつもの彼女たちのダンサブルなメインストリーム・ポップ路線ですね。

"Queen Radio: Volume 1" by Nicki Minaj

一方オッサンと1位を競るのでは、と予想したニッキー・ミナージュの現在のヒット曲であのリック・ジェームスのファンクの名曲を大ネタ使いでサンプルした「Super Freaky Girl」(1位)を含むベスト盤『Queen Radio: Volume 1』は32,000ポイント(うち実売3,000枚)というかなり寂しい成績でギリギリ10位初登場でした。これ、対象期間初日に27曲入という大量曲数バージョンでドロップされ、更に期間中にボートラ入バージョンが重ねてドロップされたのにこの順位というのは正直意外でした

ストリーミング・ポイントも3,843万回オンデマンド・ストリーミング回数相当、とかなりショボい内容だったのは、やっぱりベスト盤だとみんな既にCDで買ってたり、Apple Musicでデジタル持ってたりということでストリーミングは「Super Freaky Girl」のみに集中したってことなんでしょうね。これが先週のマドンナみたいにリミックス・ベスト・アルバムとかだったらかなり結果は違ったかもしれません。これまで出すアルバム、全て1位か2位しかなかったニッキーの今回の成績は、次のアルバムのマーケティングに少なからず影響を与えるに違いありません。

Kendrick Lamar and Silk Sonic bounced back into the top 10 with the vinyl releases.

今週のトップ10では、これ以外に初登場ではないですが、旧譜のヴァイナル・リリースで大きくトップ10に返り咲いたアルバムが2枚ありました。一つはケンドリック・ラマーの『Mr. Morale &The Big Steppers』の先週24位→4位のジャンプアップ。今年の年間ベスト・アルバム候補の呼び声高いこのアルバムは今年5月に1位初登場、1ヶ月後にCDはリリースされましたが、ヴァイナルが出たのは今回の集計期間初日の8/26でした。自分もさっそく買いましたよ

そしてもう1枚はこれもヴァイナルリリースで先週の何と200位→7位と大ジャンプアップしてきた、こちらも来年1月のグラミー賞ではアルバム部門にノミネートされそうな、シルク・ソニックの『An Evening With Silk Sonic』。これも去年11月に2位に初登場した時はデジタルとストリーミングとCDのみリリースでしたが、ようやくヴァイナルがケンドリック同様8/26にリリース。これはヴァイナルで聴きたいよなあ、というファンの声に応えるこのリリースで久々のトップ10カムバックとなりました。あ、このヴァイナルも当然買いましたよ、しかもブルーノの公式サイト限定の「Love's Train」が入ったバージョンです。そういう人、結構いるだろな(笑)。 

"The Forever Story" by JID

一方トップ10圏外、100位までに目を向けると今週の初登場は賑やかだった先週よりやや静かで3枚。そのうちの一番人気は12位初登場と、惜しくも初のトップ10を逃した、アトランタのラッパー、JID(本名:デスティン・チョイス・ルート、これホントに本名か?)3作目のアルバム『The Forever Story』。

JIDといえば、イマジン・ドラゴンズが昨年放映されたネットフリックスのアニメ・シリーズ『Arcane』のために書いた「Enemy」にフィーチャーされて(曲の中間部のブレイクでかなりカッコよく入るラップが彼)、これが今年5位まで昇る大ヒットになったことで一気にメインストリームに名前がブレイクしたところ。

元々は2010年頃地元アトランタのラップ・デュオ、アースギャングが結成したスピレージ・ヴィレッジなるラッパーやシンガーの集団の一員としてキャリアをスタートした後、2017年にJ.コールドリームヴィル・レーベルと契約、2019年にはアルバムチャート1位を記録した、ドリームヴィルのレーベルコンピ『Revenge Of The Dreamers III』にフィーチャーされたことで、ヘッズの間では評判になっていたみたい。「Enemy」では仲の良かった故マック・ミラーと作って温めてたというヴァースをカッコよく決めていたJIDだけど、このアルバムでもかなりクリスプで独得の前のめりのビートとレトロなソウル・ファンク風のトラックに乗ったフローがなかなか小気味いい感じ。次作くらいではトップ10確実に狙えそうな注目株ですね。

"Will Of The People" by Muse

15位に初登場してきたのは、本国UKでは今週1位に初登場、これでUKではプロディジー、ザ・キラーズと並んで7枚目の1位という最多記録を決めた、ミューズの『Will Of The People』。重厚なロック・サウンドが売りの彼ら、今回はオープニングのアルバムタイトル曲がいきなりめっちゃグラムだったり、続く「Compliance」はエレクトロ・ロックだけどいつもの重厚路線よりはややポップだったり、「Silence」は『オペラ座』の頃のクイーン風と、いろんなスタイルの楽曲で攻めてきてますね。相変わらず痛快なミューズ、来年のフジロックとかに通算5回目の登場とかしないかな。

そしてアルバムの内容もさることながら、今回のこのアルバムのもう一つの話題は、今回リリースされるうちの1,000枚に限って、NFT(非代替性トークン)として購入可能ということで、NFT技術を使った初の全英ナンバーワン・アルバムになったということ。NFTが何なんだか今一つ判ってませんが(笑)何だかとにかくスゴいことのようです。いい加減なコメントですいません。

"Public Housing" by Real Boston Richey

そして今週最後の初登場はぐーっと下がって60位に入って来た、フロリダ州タラハッシー出身のまだ二十歳代前半のラッパー、リアル・ボストン・リッチー(本名:ジェイレン・フォスター)の初のチャート・アルバム『Public Housing』。まだWikiのページもない彼のことはよく判ってないことも多いのですが、主にインスタやYouTubeで自分のパフォーマンスをアップしてるようで、そこから今年に入って「Keep Dissing」「Keep Dissing 2」といった曲がちょいと評判になっていて(後者はYouTubeで1300万回視聴)今回のアルバムのチャートへの躍進の下地になってたようです。

スタイルはまあ典型的な普通のトラップですね、YBNBA(ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン)あたりに通じる感じの。地元がヒップホップ的には結構メジャーなマイアミなのに、マイアミのフッドにはあんまり拘ってないみたいで、フューチャー(アトランタ)との「Bullseye 2」とかリル・ダーク(シカゴ)との「Keep Dissing 2」とかマニーバッグ・ヨ(メンフィス)との「Certified Dripper 2」とか、いろんなところの連中と幅広くつるんだアルバム作り。まあ最近のヒップホップはすべからくそういう感じなのかもしれません。

"My Fair Lady" Original Cast Album (1956)

ということで以上、今週の初登場6枚と、ヴァイナル・リリースによるトップ10返り咲きのアルバム2枚でした。トップ10と言えば先週お伝えしたように、今週トップ10に残っていれば通算85週トップ10にランクインということで、単独アーティストとしてはピーター・ポール&マリーが持っていたデビュー・アルバム『Peter, Paul & Mary』(1962)に並ぶと言っていたモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』、まあ当然のごとく記録に並びました。今週もまだ5位にいますから記録更新はほぼ間違いないでしょう。まあ記録的にはサントラ盤やオリジナル・キャストもののアルバムが7枚その上にいて、筆頭は『マイ・フェア・レディ』(1956)の173週というのがありますけど。しかしモーガンのこのアルバム、そんなに歴史的に重要な位置を占めるべき作品とも思えないんですがね。そろそろ身を引いてもらいたいものです。ということでいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) God Did - DJ Khaled <107,500 pt/9,500枚>
*2 (1) (17) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <106,000 pt/2,413枚*>
*3 (-) (1) Between 1&2: 11th Mini Album (EP) - TWICE <100,000 pt/94,000枚>
*4 (24) (16) Mr. Morale & The Big Steppers - Kendrick Lamar <55,000 pt/38,000枚>
*5 (4) (86) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <50,000 pt/4,561枚*>
6 (3) (5) Renaissance - Beyonce <46,000 pt/3,583枚*>
*7 (200) (41) An Evening With Silk Sonic ▲ - Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak) <44,000 pt/38,000枚>
8 (2) (3) Beautiful Mind - Rod Wave <43,000 pt/142枚*>
9 (5) (15) Harry’s House ▲ - Harry Styles <43,000- pt/8,000-枚>
*10 (-) (1) Queen Radio: Volume 1 - Nicki Minaj <32,000 pt/3,000枚>

ということで今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか?では最後にいつもの来週の1位予想を。来週チャートの集計対象期間は9/2~8。この期間のリリースで、10万ポイント以上を叩き出してバッド・バニーを抑えられる作品があるか、というと…やー微妙だなあ。まずポップ・ロック系では大型ニューリリースはなくて、ストリーミング中心にポイント稼げるヒップホップ系だと、ヘッズの間では人気と評価の高いプロデューサー兼ラッパーのピエール・ボーンがひょっとして化けるかも、というくらいなのと、イギリスの新世代アーティスト、ヤングブラッドとかくらいしか可能性ありそうなリリースはないですねえ。ただいずれもトップ10入りが関の山のような気がするので、来週はバッド・バニーの5回目の首位返り咲きが濃厚な気がします。ではまた来週。

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