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Boonzzyの「新旧お宝アルバム!バックナンバー」#2:「Bad Self Portrait」 Lake Street Dive (2014)

バックナンバー版の前書き

過去のブログ原稿の蔵出しで、このnote.comで投稿を始める前の「新旧お宝アルバム!」の記事を多くの方に見て頂こうというこのバックナンバー版、前回の#1からかなり日にちが経ってしまい、反省してます(汗)。今日はその第2回目の記事、レイク・ストリート・ダイヴのブレイク作『Bad Self Portrait』(2014)をお届けします。

このアルバムとの出会いは本文中にもあるように、6年前、ちょうど当時LAに留学していた娘がSpotifyで耳にした彼らのアルバムを紹介してくれたのがきっかけ、という自分的にはなかなか運命的なものだったので、一発でノックアウトされた内容の素晴らしさはもちろんのこと、以降彼らに対する思い入れも生まれたという次第です。当時は日本発売もなく(現在もまだ出てないかも)、日本では全く知られていなかったため、文中でもそのことがしきりに書かれています。その後、次の『Side Pony』(2016)をメジャーのワーナー系のナンサッチ・レーベルからリリースして、晴れて日本でも彼らのアルバムが出ることになり、更には来日も果たしたのですが、その後出た彼らの作品を聴いても、この第2回でご紹介した『Bad Self Portrait』が未だに彼らの最高作だと思うのは、ブレイク前から応援していたファンの贔屓目だけではないと思うのですがどうでしょうか。

今回もいつもの通り、最後までお読みになって気に入って頂けて、よろしければクレジットカードまたは携帯料金支払で、投げ銭感覚で購入頂けますのでよろしくお願いします。では、「新旧お宝アルバム!」バックナンバー#2をどうぞ。

新旧お宝アルバム!バックナンバー #2『Bad Self Portrait』Lake Street Dive (2014)

先週からスタートしたこの「新旧お宝アルバム!」第2回の今回、「新」のアルバムの最初に選んだのは2004年にボストンで結成、現在はニューヨークのブルックリンをベースに活動する男女2x2の4人組、レイク・ストリート・ダイヴの2014年のアルバム「Bad Self Portraits」です。

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レイク・ストリート・ダイヴって誰?」そうですよね、日本ではアルバムが発売されてませんし、全米でもこのアルバムでブレイクしたばっかりなので、まずはバンドの紹介から始めなければいけません。
彼らのサウンドを一言で言うと、ジャズ的なフィーリングをベースに、モータウン、R&B、メインストリーム・ポップ、1970年的なクラシック・ロック、カントリー/ルーツ・ロックといった様々な要素を見事にミックスしたキャッチーな楽曲を聴かせる、とても歌唱と演奏能力の優れたバンド、ということになります。
何と言ってもボーカルのレイチェル・プライスの歌唱力は素晴らしいのですが、マライアセリーン・ディオンといったいわゆるメインストリームのポップ・ボーカリストとはちょっと違って、ハスキーな声質で随所にジャズ的なスタイルを見せながら、結構高度なボーカルテクニックを駆使して歌う、とても「カッコいい」女性ボーカリストです。彼女は過去ジャズ・ボーカリストとしてもアルバムを出しており、2003年にはモントルー・ジャズ・フェスティバルの国際ジャズ・ボーカル・コンテストで選外ですが特別賞を受賞した、実力派のシンガーなのです。
他のメンバーは、トランペットも吹くギタリストのマイク・”マクダック”・オルソン、アップライトベースがカッコいいベースのブリジット・カーニー嬢、ドラムのマイク・カラブリーズ。みんなボストンのニュー・イングランド音楽院で知り合った学友で、それぞれがクラシックの素養もあるミュージシャンの師弟で、曲も書き、ジャズにものめり込んだ時期もあったようですが、バンドとしては彼ら自身が慣れ親しんだポップ・ロック・R&B路線で行くことに決めたとのこと。

何しろ1曲めの「Bad Self Portrait」(出来の悪い自画像、とでもいいますか)からノリのいいサウンドとレイチェルのパワフルながら巧みなボーカルが炸裂するキャッチーなナンバーで、いきなり冒頭から引き込まれること請け合い。
続く「Stop Your Crying」はフォービートの中に一瞬ツービートが混ざるリズムの面白さとバンドのコーラスがレイチェルのボーカルをうまく引き立てるこれもとてもキャッチーな曲。
3曲めの「Better Than」はぐっとしっとりとした曲調ながら、ナッシュヴィルかメンフィスの小さなクラブで演奏しているかのような音響と雰囲気の、これも思わず聴き入ってしまう佳曲(マイクのトランペットもそういう雰囲気を盛り上げてます)。

といった感じでこのアルバム、順番に紹介していくと全曲解説したくなるような、ほぼ全ての楽曲のクオリティが高いのできりがないのです。
そんな中で一つ、レイチェルのボーカル以外に特筆すべきは、リズムの使い方と楽曲のアレンジの組み合わせの面白さ
Stop Your Crying」のフォービートとツービートの組み合わせ以外にも「Better Than」ではフォービートの途中に一瞬3/4が入るのが曲の魅力になってます。
5曲めの「You Go Down Smooth」などは普通に聴くとモータウン・リズム(フィル・コリンズの「恋はあせらず」とかのあの感じです)なのですが、ブリッジ(サビ)が一小節ごとにボーカルは半音ずつ上がっていくのに対して、ベースは半音ずつ下がっていくというにくいアレンジ(ビートルズの「Got To Get You Into My Life」でのポールのベースラインをヒントにしているようです)だったりとか、とにかく彼らの楽曲には1960年代後半〜1970年代の懐かしい楽曲を思わせる心地よさが満載で、体が自然に動き、気持ちよさのドーパミンがガンガンに放出されるのを感じるのです。

彼らはこのアルバム以前にも2007年からインディーでEPをリリースしたり、いろんなフェスに参加したりして、草の根人気を全米では築きつつあるようで、それが今回のこのアルバムのビルボード誌アルバムチャートでの初めての上位ランキング(18位)といったブレイクに繋がっているようです。
私がこのバンドを知ったのは、現在アメリカ留学中の娘が現地でSpotifyで聴いて気に入っている、というので教えてもらったのがきっかけ。
日本では全く聴いたことがなく、先日ピーター・バラカンさんのイベントにお邪魔した際にリクエストしてかけて頂いた時も、ピーターさんも「知らないバンド」と言われてましたので、娘から教えられなければこのバンドを知ることもなかったかも。
そう考えるとこれだけ良質のバンドが全く日本で知られないのは本当にもったいない。彼らのサウンドは前述のように、70年代に洋楽に親しんだリスナーの皆さんの琴線に触れる魅力満載ですから、「最近のバンドにはいいのがいない」などと仰っているベテラン洋楽ファンの皆さんにはこの機会に彼らの作品に触れてみてはいかがでしょうか?

彼らのパフォーマンスはYouTubeに多くの映像がアップされていますが、このアルバムの楽曲の他に、彼らが2012年にボストンの街角でニューオーリンズ・ジャズ風にアレンジして演奏したジャクソン5の「I Want You Back」やアパートの一室でこれもジャズっぽくアレンジしたホール&オーツの「Rich Girl」など、いろんなカバー曲をとてもクールにやっている映像も多く上がっています。オリジナルの楽曲もさることながらこういうカバーの出来の素晴らしさも、彼らのミュージシャンとしての質の高さを物語っていると思います。

今の私の願いは、アメリカのライブハウスか小ぶりのシアターで、彼らのライブを観ること、そして可能であれば彼らをミュージック・フェスなどで日本に呼んで、一人でも多くの人に彼らの素晴らしい演奏を聴いてもらうようなお手伝いをすること(注:幸い私の手を借りずとも(笑)、彼らはこのブログの1年半後の2017年1月に初来日、BLUE NOTE東京で素晴らしいライブを見せてくれました)。そんなことを思わせてくれるアーティストに巡りあわせてくれた娘にはホントに感謝してます。

<チャートデータ>
ビルボード誌
全米アルバムチャート最高位18位(2014.3.8)

レイク・ストリート・ダイヴ、その後のアップデート

冒頭でも触れましたが、このブログの翌年、彼らはメジャー、ワーナー系のアメリカーナやルーツロック系に強いナンサッチ・レーベルに移籍してリリースした『Side Pony』で日本でも一気にその名が知られるようになりました。でも彼らをプッシュする音楽評論家の先生達でも、何故かこの『Bad Self Portrait』に触れることが少ないのはなぜだろう、とずっと思ってます。

アメリカーナ系では近年いい仕事で定評のあるデイヴ・コッブをプロデューサーに迎えたナッシュヴィル録音の『Side Pony』やその後リリースの『Free Yourself Up』(2018)も決して悪くはないのですが、もっとこのアルバムの良さが広く知られてもいいんじゃないの?今度萩原健太さんに聞いてみようかな、と思っちゃいます(笑)。で、ネットで『Side Pony』リリース直後のNPRタイニー・デスク・コンサートのスタジオライブ映像があるのでご紹介。彼らの実力ぶりがいかんなく発揮されたパフォーマンスです。

この映像などを見ると如実に判るのですが、レイチェルのボーカルもさることながら、アップライト・ベースのブリジットのパフォーマンスが実は半端ない。ネット上でも彼らのYouTube映像に多くのミュージシャン達がコメントしてますが、彼女のベースプレイが実はかなり彼らの楽曲を引っ張っていること、そのプレイが簡単そうに見えて実はかなり高度なテクを駆使していることが、やはりLSDを一味違うバンドにしてる大きな要因なんだな、と改めて今回聴き直して思った次第。

彼らの作品は2018年秋にリリースされた5曲入り10インチEP(昔のジャズ・レコードのスタイルですよねえ)『Freak Yourself Out』以来ご無沙汰なので、そろそろ新譜を出してくれるのではないかと期待は膨らむ一方。実は彼らもこのコロナ時代に合わせて、YouTubeで『Lounge Around Sounds Variety Hour』というタイトルでネット・ライブ・ショーを4月後半から2回に亘って敢行してるようで、新作発表まではこちらを見ながら楽しみに待つことにしましょう。

では、次回の「新旧お宝アルバム!」バックナンバーをお楽しみに。

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