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DJ Boonzzyの選ぶ2022年ベスト・アルバム:40位~31位

今年もこの季節になってきました、年間ベスト・アルバム・ランキングの時間です。今年も年末洋楽企画第2弾として、私DJ Boonzzyが独断と偏見に基づいて選ぶ「マイ・ベスト・アルバム・オブ2022」のランキングをお届けします。昨年は上位20枚のご紹介をしたのですが、今年は自分の洋楽の世界に入るきっかけとなった、今年で日本での放送開始50周年を迎えた『全米トップ40』のひそみにならって、上位40枚を発表することにしました。従って全体的には去年よりも簡単めのご紹介になるかもしれませんが、中身は熱ーく選んでますので乞うご期待。今回はその第一弾で31〜40位までをご紹介します。

2022年の洋楽シーンを振り返ってみると、年初からバッド・バニーディズニー・アニメの『ミラベルと魔法だらけの家(Encanto)』の大ヒット、更には強烈な個性で各方面から高い評価を受けたロサリアの大ブレイクなど、ラテン勢が席巻。一方ケンドリック・ラマーが他のヒップホップ・アーティスト達と次元の違うところで孤高の名盤をリリースしたり、BTSは活動休止してもKポップ勢が次々に全米チャートに登場したり、年の後半にはやはりこの人ならでは、という感じでテイラーが大ヒットアルバムをドロップしたりと、なかなか多様性満点の一年だったのでは。ただここでご紹介するランキングは、あくまで自分の独断と偏見によるものなので、そうした大ヒットアルバムのすべてが登場するわけではありません。例えばラテン系で大ヒットしたバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』は音的には今どきのエレクトロ・サウンドで悪くないな、と思うし、ロサリアの『Motomami』なんて「Chicken Teriyaki」とかなかなか面白いとは思うものの、やはりスペイン語楽曲を自分の年間ベストに選ぶ、というほどのリアリティはないのでこのランキングには登場しません。ただ毎年言ってますが、このランキングを選ぶのに当たっては、今の洋楽ファンもリアルにいいなと思えるものであると同時に、90年代以降洋楽から離れてしまっているシニアな洋楽ファンにも「今年のアルバムでも結構いいのあるんだね」と思ってもらえるようなランキングにしたつもりですので、洋楽ファンの若手もベテランも(笑)是非楽しんで下さい。ということで40位から順番に行きます。

40.The Car - Arctic Monkeys (Domino)

ウィークリー記事の「全米アルバムチャート事情!」でもこのアルバムが圏外に登場した時に書いたけど、アークティックスは前作の『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年8位)あたりからぐっとサウンドの志向をマチュアなサウンドの方向にシフトしてて、それがいい感じで決まってるのだけど、今回のこのアルバムはそれが更に完成度を上げていて、オーケストレーションの使い方とか、楽器の一つ一つの鳴らせ方とか、アレックスのボーカルスタイルとか、正に「おとなのロック」というに相応しい出来になってるのがいい。その時も書いたけどこの路線は後期キンクスのスタイルをかなり意識してるのではないか、というのが僕の感触です。ただUKから鮮烈に登場した時のファーストのように聴いててアドレナリンが上がってくるとか、そういう要素はないので、まあこれくらいの位置になるかな。

39.We've Been Going About This All Wrong - Sharon Van Etten (Jagjaguwar)

古くはフランキー・ヴァリ、ボブ・ゴーディオ、ボブ・クルーという全盛期のフォー・シーズンズを支えた人々を輩出した、マンハッタンからほど近いニュージャージー州ベルヴィルという街出身のシンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテン。この辺の地域は自分がNY駐在だった2000年代初期によく通勤で車で通ってたけど、工業商業地帯のすぐ近くの、何もないよくある大都市郊外の中流住宅地。シャロンの作品にはそうした都会の荒涼さとアメリカン・ハートランドの中間的な位置にある環境を色濃く感じさせる肌合いの楽曲に、自分の率直な心情を吐露するような歌詞をのせたものが多い。ある時はハードなギターロック、ある時はエレクトロな音像に淡々としたボーカルが乗ったスケール大きい楽曲、そしてある時は夢見るようなアコースティックな弾き語りからドラマチックに盛り上がるアンセム。2014年に彼女のブレイク作になった『Are We There』(25位)で彼女と出会って以来そんな彼女の魅力に惹かれ聴き続けている。今回のアルバムでもその彼女のスタイルは変わっていない。アコギで静かに始まって後半スケール大きく盛り上がるオープニングの「Darkness Fades」を聴いただけで「ああ、シャロンとまた会えた」と思わせてくれる。

2022年はテイラーマギー・ロジャース、ミツキ、マディソン・カニンガムなど自分の確かな世界観を持った女性シンガーソングライターが例年にもまして躍進した年だったと思うけど、シャロンのこの作品もそうした2022年の傾向を代表する作品だと思うし、特にニューヨークの都会的孤独感のような雰囲気がとても魅力的なアルバムで気に入ってました。

38.Gemini Rights - Steve Lacy (L-M / RCA)

2022年の一番の自分に取ってのサプライズは、LAのオルタナティブR&Bユニット、ジ・インターネットのメンバーで、知る人ぞ知るだったスティーヴ・レイシーの「Bad Habit」の大ヒットだった。ファースト・アルバム『Apollo XXI』(2019年160位)のクセのあるポップセンスと言うか、オルタナR&Bっぽさ、プリンスあたりに通じるライト・ファンクネスが気にいって当時よく聴いてた。このアルバムはグラミー賞の最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされてたので、なるほどミュージシャンやシーンの人たちには評価高いんだな、とは思ったけどマスで売れるアーティストという印象は全然なかったので、今回のヒットには正直驚いた。

確かに「Bad Habit」はバウンシーなわかりやすいメロディのR&Bナンバーだから、SMSあたりでちょっとバズれば気に入る人は多いのはわかるけど、もう一つ驚いたのは「Bad Habit」がR&Bチャート(9週1位)だけでなく、ロック・ソング・チャート、オルタナ・チャートでも延々と1位(この記事執筆時点で16週連続1位継続中)を記録したこと。この曲にロックやオルタナ感を持ったリスナーがそんなに多いのか!と今更ながらストリーミング世代のジャンルにこだわらない音楽消費のスタイルがヒットを作り出す要因になるという今どきのヒット・モデルを実証する現象だったのかもと思った次第。アルバム全体は、彼独特のクセのあるグルーヴはそのままに、前作よりファンクな要素やロック寄りの楽曲、更には「Mercury」のような60年代ラテン・ポップっぽい曲もあったりと多様性を増してるのが気持ちよかった。自分の好みとしては前作の方がよりR&Bやファンクを感じられて好きだったけどね。

37.Meet The Moonlight - Jack Johnson (Brushfire / Republic)

この人の最大の魅力はそのサウンドと楽曲スタイルのナチュラルさ。オープニングの「Open Mind」のイントロのギターの音色が聴こえてきただけで心がホッコリする人は多いと思う。ただ今回のアルバム、まずジャケがセピア色で、JJと言えばハワイ、ハワイといえば太陽、というイメージからは「あれ?」という感じ。そしてアルバム楽曲もよく聴き進んで行くといつになくやや哀愁に満ちていたり、音の感じがやや沈みがちだったりといつもとちょっと違うことに気がつく。クレジットを確かめると何と今回はあのアラバマ・シェイクスフィオナ・アップルとの仕事で有名なブレイク・ミルズのプロデュースであることがわかり、やや納得。

ブレイクといえば、アラバマ・シェイクスのアルバムなんかでは特にそうだったけど、独得の音色というか音像に拘る人、というイメージがあって、このアルバムではそのブレイクの特徴と、JJの独得のグルーヴと楽器の音がいい感じで共鳴しながら全体のサウンドを作り上げてる感じがしてて(「One Step Ahead」なんかはそのいい例)、単純なサーフ・ミュージックというステレオタイプではないJJの新しい一面が楽しめる気持ちのいい一枚。夏の終わりの静かな夜に、海の見えるバーとかで鳴ってると最高だろうな、って感じです。

36.Chloe And The Next 20th Century - Father John Misty (Sub Pop)

ファーザー・ジョン・ミスティことジョッシュ・ティルマンは、シアトルのインディ・フォーク・バンド、フリート・フォクシーズの元メンバーで、2015年のソロ・セカンド・アルバム『I Love You, Honeybear』(17位)がシーンの高い評価を得てソロ・ブレークしたシンガー・ソングライター。しかしそんなことよりも何よりも、最初このアルバムを聴いて感じたのは、彼がティンパン・アレー系のアメリカ伝統的なソングライティングと楽曲アレンジのスタイルを採り入れた、まるで70年代初期のハリー・ニルソンのアルバムみたいだな、というもの。事実2曲目の「Goodbye Mr. Blue」なんて、楽曲のスタイル、アレンジ、そしてメロディまであのハリー・ニルソンの名曲「噂の男(Everybody's Talkin')」にそっくりだし。

でもこれはこのアルバムに対する批判ではなくて、むしろこのアルバム全体を包む独得のレトロな懐かしさを感じさせるような魅力を言い表したものだと考えて欲しい。スタイル自体が既に確立されているものの意匠を借りてるだけに、時に彼はハリー・ニルソンに、ある時はルーファス・ウェインライトに、そしてある時は70年代初期のランディ・ニューマンに聞こえたりしてしまうのだけど、そういうスタイルのシンガーソングライターのアルバムがお好きな向きにはかなりお勧めできる作品。

35.Candydrip - Lucky Daye (Keep Cool / RCA)

2022年のブラック・ミュージックの世界では、ケンドリック・ラマーを筆頭にトラップではない(ここ大事)素晴らしいヒップ・ホップ・アルバムが多くリリースされていた一方、いわゆる正統派R&B系のアルバムでは、突き抜けたレベルの作品が例年に比べると少なめだった気がする。ビヨンセがあったじゃないの、という方は多いと思うが、確かにあのアルバムはよく出来たアルバムだったと思うけど、批判を怖れずに言うと客観的にR&B作品としてはまあ普通よりちょっといいくらいのもんだと思うし、『Lemonade』あたりで圧倒的なビヨンセを知ってる者に取ってみると年間1位とか2位とかになるアルバム?と思ってしまうのだがどうだろうか。

おっとラッキー・デイのアルバムの話だった。ここ数年で出てきた正統派R&B男性シンガーとしては、ギャラント、カリード、ダニエル・シーザーらと並んでこのジャンルを代表するシンガーだと常々思っているラッキー・デイ。デビュー曲の「Roll Some Mo」(2018)を聴いた時の感動は今でも忘れられないが、デビューが衝撃的だっただけにそれに続く作品に対する評価が辛めになってしまうのは致し方のないところ。さっきのビヨンセの『Lemonade』と同じだ。今年のグラミーで最優秀プログレッシヴR&Bアルバムを取ったEP『Table For Two』(2021年96位)も悪くなかったが、今回のこのエロいジャケ(笑)のアルバム、デビュー・アルバム『Painted』の頃のオールド・スクールR&B回帰の感じがまた色濃く感じられていい。セントルイスのファンク・キッド、スミノとコラボした「God Body」やプリンス・マナーのファンク曲「Feels Like」もいいが、この人本領のエモーショナルな歌唱が聴ける、ミュージック・ソウルチャイルドの「Halfcrazy」をサンプルというか本歌取りしてる「Over」とか最高。でもこの人からはまだまだ感動的な歌を期待したいな。

34.Things Are Great - Band Of Horses (Huger Lewis And The Dudes / BMG)

自分の音楽指向の2大軸はブラック・ミュージックとルーツ・ミュージック(いずれも根っこはつながってるわけだけど)。ブラック・ミュージックの、特にヒップホップの良作が多かった2022年は、アメリカーナ系の良作も結構多かった。この後上位に行くに従ってそのあたりが順番に登場するわけだが、このあたりジャンルのバンドとしてはジェイホークス、サン・ヴォルト、ザ・ローン・ビロウ、ホイットニーらと並んで自分が気にしてるシアトル出身の5人組、バンド・オブ・ホーセズの6年ぶりの6作目のアルバムは、自分が初めて彼らに巡り会ってたちまち夢中になってしまったブレイク作『Infinite Arms』(2010年7位)の頃の雰囲気を取り戻しながら、力強いサウンドの楽曲も届けてくれて、BOHファンとしては久しぶりに嬉しいリリースだった。

BOHといえば、『Infinite Arms』に収録の、ベン・ブリッドウェルニール・ヤングばりのハイトーン(でも音程はニールより確かw)のボーカルが胸を締め付けるように美しい「For Anabelle」が未だに自分に取ってのベスト・ナンバーだけど、このアルバムはオープニングの「Warning Signs」から「おお、あのボーカルが戻ってきた」と嬉しくなってしまう、そんな作品。前作『Why Are You OK?』(2016年19位)では御大リック・ルービンをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えて新しい実験的な音にチャレンジしようとしたものの、正直彼らの良さがどこかに行って迷走してた感じだったので、この原点回帰は嬉しい限り。チャート的には今回138位と残念な結果だけど、いいのだ、BOHらしいサウンドのアルバムがこうやって聴けるのなら。

33.Who Cares? - Rex Orange County (Rex Orange County / Sony)

宅録ベッドルーム・ポップと明るいヒップホップ・テイストのマリアージュ。UKのシンガーソングライター、レックス・オレンジ・カウンティことアレクサンダー・ジェイムス・オコナーの作品の魅力を強引に簡単にまとめてしまうとそんな感じ。もともとあのタイラー・ザ・クリエイターが彼のネットに発表された作品を聴いて気に入って自分のアルバム『Flower Boy』に呼んで2曲に作曲者・ボーカリストとして参加したのが彼のブレイクのきっかけ。そのタイラーも今回一曲ラップで「Open A Window」に参加してる他、前作のブレイク作『Pony』(2019年3位、全英5位)では全曲自作だったのに対し、今回はよく似たスタイルの脱力系オランダ人宅録ポップ・シンガー、ベニー・シングスと共作してるというのが今回特筆すべきポイントで、それが全体のアルバム完成度に貢献しているように思えます。

その甲斐あってか、全米では今回5位だったけど母国UKでは見事アルバムチャート1位を獲得ベニーとの共作の楽曲もいずれも粒揃いで、ストリングスなんかも前作より随所に多用したりしてチャンバー・ポップ風の曲もちらほら。ローファイ・ポップや、宅録ポップ系、渋谷系ポップなどお好きな方であればきっと気に入るそんなアルバムです。

32.Cure The Jones - Mamas Gun (Monty Music / Candelion)

チャートに登場しない作品でもまだまだ素敵な作品やアーティストがいっぱいあることを(知ってはいたけど)改めて実感したのが、確かDJの先輩のToyo-pさんに教えてもらったこのママズ・ガン。R&Bファンならニヤリとすると思うけど、グループ名はあのエリカ・バドゥの2000年リリースのセカンド・アルバムのタイトルから取ったもの。このグループのリーダーのアンディ・プラッツは、実はToyo-pさんに教えてもらったもう一つの素敵なブルー・アイド・ソウル・バンド、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの片割れでもあるというから、このバンドが気に入るのはまあ当たり前だというわけですね。

昔からブルー・アイド・ソウル・バンドというとシンプリー・レッドに代表されるようにUKのバンドが多いのだけど、このママズ・ガンもUKのバンド。でもサウンド聴くと70年代後半から80年代前半のAORロックバンドのサウンドそのままで、横で聴いてたカミさんが「これホントに今のバンド?」というくらい。彼らを知った前作『Golden Days』(2018)に入ってた「You Make My Life A Better Place」なんてホントにDJでもよくかけた初期ホール&オーツを思わせる大好きなナンバーだけど、今回のこのアルバムにはそこまでの飛び抜けた曲はないけど、全体が相変わらず気持ちのいいグルーヴで包まれた素敵なアルバムです。ちょっと疲れた時にゆっくりしながら聴くとたまらんですわ。

31.Heart On My Sleeve - Ella Mai (Interscope / 10 Summers)

いきなり「Boo'd Up」(全米最高位5位)で登場したシーンの注目を集めたエラ・メイちゃんのデビューからもう5年。2019年11月には初来日した彼女のステージを観てからというものしばらく名前を聞かなかったエラ・メイちゃんのセカンド・アルバムがこれ。前作同様全曲共作者に名を連ねて自らの世界観を作り出そうとしているのがわかる一方、今回のプロデューサー陣は彼女を見出したヒップホップ・プロデューサー、DJマスタードを筆頭に、ボイ・1ダらヒップホップ系のサウンドメイカーや、シルク・ソニックH.E.R.の楽曲で最近とみにシーンでの存在感を増してるDマイルら、手堅いサウンドメイカー陣で固めていて、このアルバムに対する彼女の気合いが感じられますね。

そのDマイルがプロデュースする「Break My Heart」や「Sink Or Swim」、そして先ほど35位に登場したラッキー・デイとのデュエット「A Mess」あたりは彼女に対する我々の期待に違わない、正統派R&Bバラードを見事に歌うエラ・メイちゃんの魅力炸裂のナンバーですね。ソフォモア・ジンクス(2年目のスランプ)も何のその、今のR&Bシーンを代表するシンガーの一人に既になっているエラ・メイちゃんの、R&Bファンならたまらない、そんな作品です。

ということで31位までの発表でした。まだまだ続くDJ Boonzzyの「マイ・ベスト・アルバム・オブ2022」、次は21位〜30位までをご紹介します。何とか今週前半にアップできればいいな。


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