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今週の全米アルバムチャート事情 #177- 2023/4/1付

多くの桜名所では満開だった今年の桜も東京近辺ではこの週末の雨でかなり散ってしまいましたが、雨に持ちこたえた桜や、まだつぼみだった桜も結構あるようで、今週もまだまだ今年の桜が楽しめことを期待したいですね。ちょっと入学式のタイミングまでは残りそうにないのが残念ですが。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

はい、今週4月1日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位もやはり予想通りというか、モーガン・ウォレンの『One Thing At A Time』がわずか19%ポイントダウンの209,500ポイント(うち実売12,500枚)をキープして、余裕の3週目1位をキープしてしまっています。初登場1位から3週間のこのアルバムのポイント推移が、501,000→259,000→209,500となっていますが、2週目に半減したのはフィジカルの売上ポイントがほぼほぼ消えたことによるもので、ストリーミング・ポイントの減衰は今週で対先週比17%程度なので、おそらく来週はまだ15〜16万ポイントくらいはキープしてしまうんでしょうねえ。

傾向としてやや安心するのは、3週間前、アルバムデビューの週は収録36曲がすべてHot 100にチャートインするという、「ドカ盛り」状態でしたが、今週のHot 100にチャートインしているこの人の曲は18曲と(それでも多いけど)一時期の「アメリカ人どんだけMW好きなんだよ」状態はやや沈静化している状態です。それでも発売3週連続20万ポイント超というのはここ最近1年では昨年11月のテイラーMidnights』のみ。2021年に10週1位を続けたMWの『Dangerous: The Double Album』も2週目には159,000ポイントだったので、今回の人気度合いはやはり前作以上ということのようです。

"Songs Of Surrender" by U2

今週のトップ10内初登場はもう1枚、46,500ポイント(うち実売42,000枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で5位に入ってきたU2の『Songs Of Surrender』。彼ら自身の過去の楽曲カタログから40曲を選んでぐっと音数を削って抑えた、多くはアコースティックなアレンジで再演・再録した企画アルバムです。基本ボノエッジ(プロデューサーも務めてます)の二人を中心に録音・制作されたこのアルバム、4人のメンバーそれぞれの名前の付いた10曲入りのディスク4枚組の40曲入りバージョン(デジタル、CD、ヴァイナル)がどうも標準の扱いのようですが、これ以外に16曲バージョンと20曲バージョンもリリースされてるみたいです。また16曲入りのヴァイナルは、リテール・チェーンのターゲット限定盤やアマゾン限定盤、更には色違いのカラーレコードもいろいろ出ていて、何だかマーケティングえらく力入ってるなあという感じ。何でもこのアルバム、ボノが去年出版した回顧録『Surrender: 40 Songs, One Story』の内容とも連動してるようで、本の売り上げとアルバムの売り上げを連動させようとしているのかな。

これまでよく耳にしていたU2の楽曲、特にアリーナ規模のライブで映えるようなスケールの大きい楽曲を、地味で抑えたアレンジで聴くというのは、ある意味新鮮ではあるし悪いアイデアではないけど、40曲もやる必要があったのかは正直疑問ですかね。ただオリジナルの楽曲の本来の姿が浮かび上がってくるようなバージョンもいくつかあって興味深いリリースではあります。中でも発表当時、アウン・サン・スー・チー氏のことを歌ってグラミー賞レコード・オブ・ジ・イヤーを受賞した「Walk On」(2001)をウクライナ状況のコンテクストで歌詞を書き換えて歌っている「Walk On (Ukraine)」などは20年経ち場所や状況は変わってもボノの抑圧される人々への思いが伝わってくる気がします。ただメディアの評判は賛否両論みたいですねえ

"3MEN3KBRN" by Eladio Carrión 

さて11位以下100位までの圏外に目を向けると今週の初登場は4枚。やや新しめのラッパーのアルバムが多めですが、取り敢えずご紹介します。まず16位というかなり高いところに初登場してきたのは、カンザス州生まれプエルトリコ育ちのラッパー兼シンガー、エラディオ・キャリオン3作目のチャートインにして過去最高位を決めたアルバム『3MEN2KBRN』。過去2作のチャートイン作品はいずれも90位以下だったので、今回大飛躍ということになります。

やはり昨年からのバッド・バニーカロルGのアルバムのヒット、さらにはシャキーラBzrpのデュオによるヒットなど、相変わらずラテン系には追い風の状況が続いてる中で、Kポップ同様こうしていろんなラテン・アーティストが少しずつ躍進している状態はまだ続くんだろうなあ、と思わせます。今回は前作の『Sauce Boyz 2』(2021年92位)に比べると何となくバッド・バニーのスタイルにかなり寄せてる感じなのと、ゲスト・ミュージシャンもラテン系だけでなくフューチャーリル・ウェイン、何と50セントまで引っ張り出してるあたりが今回大きくブレイクした要因の一つかもしれませんね。

"Mad" by EST Gee

続いて25位初登場は2021年にミックステープ『Bigger Than Life Or Death』が全米7位とブレイクして以来、根強いファン層を確保しているように見える、ケンタッキー州ルイヴィル出身のラッパー、ESTジーの8作目のミックステープ『Mad』。何に怒ってるのかは不明です(笑)。

相変わらずのやや暗めのトラップ・トラックが次から次に出てくるアルバムで、特にメジャーなゲストも入れてないのにこの順位にきっちり入ってくるということは、しっかりしたファンが付いてるだけでなくて、ラッパーとしての力量をしっかり持っているということでしょうね。まあ確かにラッパーとしてのスキルはそれなりにあるとは思いますが、例によってトラップ関係は基本あまり自分的には食指が動かないので悪しからず。

"10,000 Gecs" by 100 Gecs

ぐっと下がって59位に入って来たのは、セントルイス出身の男女ハイパー・エレクトロ・ポップ・デュオ、100ゲックス初のトップ100アルバムになった『10,000 Gecs』。彼ら、デビューEPがグループ名の『100 Gecs』(2016)で、ファーストアルバムが『1000 Gecs』、そして今回のセカンドが『10,000 Gecs』ってことでだんだん位が上がってるんで、次回は『100,000 Gecs』なんでしょうなあ。なかなかふざけてるというか面白いというか。

ハイパー・エレクトロ・ポップということですが、ちょっとエモなハードロックとか寄りのローファイなパニック・アット・ザ・ディスコ、てな感じの楽曲がてんこ盛りのアルバムですね。いかにも今時の先進的ポップって感じです。男女の個性的ポップ・デュオっていうと自分的には2000年代に一瞬ブレイクしたちょっとキッチュでイッてる感じで好きだったティン・ティンズあたりが浮かぶんですが、この2人はそれより更にイッちゃってる感じですね(笑)

"Red Eye" by Money Man

そして今週100位までの最後の初登場は、93位とギリギリにチャートインしてきた、アトランタのラッパー、マネー・マン24作目のミックステープ『Red Eye』。去年95位にチャートインしていた前々作『Big Money』以来のチャートインになります。

今年37歳というラッパーとしては大ベテランなんだけど、未だにミックステープしか出してないという、ちょっとアングラの香りのするヤツなんですが、これまでの最大のヒットが2021年の『Blockchain』の13位で、2019年以来出せばまあコンスタントにチャートインしてるけど大ヒットはしない、というまあそういうポジショニングのヤツです(笑)。まあご多分にもれずトラップ野郎なんですが、ちょっとエモな感じのトラックを使った冒頭の「Drums」なんかはまあまあ聴けるかな、という感じ。でもその後は延々トラップが続きます。まあ2回目聴こうという感じじゃないですね。

Taylor Swift's The Eras Tour opening show at Glendale AZ on March 23. 2023.

ということで今週の100位までの初登場は全部で5枚でした。今週のチャートでもう一つの話題は、先々週、3/17のアリゾナ州グレンデールでのショーを振り出しにいよいよスタートした、テイラーThe Erasツアーの開始の影響で、今週『Red (Taylor’s Version)』が54位→22位、『Reputation』が66位→26位、『Evermore』が101位→31位とトップ40に返り咲いて、既に40位内にいた『Midnights』(6位→3位)『Lover』(35位→13位)『Folklore』(33位→14位)『1989』(39位→19位)と共に彼女キャリア初のトップ40内に7枚チャートインという記録を達成したこと。これは過去ホイットニーが亡くなった直後の2012年3月17日付チャートで達成して以来史上2人目(生存アーティストとしては初)の快挙だそうです。トップ40圏外には『Fearless (Taylor’s Version)』(52位)と『Speak Now』(69位)もいますから、ことによると来週以降のチャートでは新記録達成もあるかも。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (3) One Thing At A Time - Morgan Wallen <209,500 pt/12,500枚>
2 (4) (15) SOS ▲ - SZA <72,000 pt/277枚*>
*3 (6) (22) Midnights ▲2 - Taylor Swift <61,000 pt/12,500枚>
4 (3) (2) Endless Summer Vacation - Miley Cyrus <49,000 pt/11,000-枚>
*5 (-) (1) Songs Of Surrender - U2 <46,500 pt/42,000枚>
6 (5) (4) Mañana Será Bonito - Karol G <45,000 pt/656枚*>
7 (7) (115) Dangerous: The Double Album ▲4 <42,000 pt/1,692枚*>
8 (8) (16) Heroes & Villains - Metro Boomin <40,000 pt/250枚*>
9 (10) (20) Her Loss - Drake & 21 Savage <38,000 pt/2,654枚*>
10 (9) (46) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <37,000 pt/526枚*>

何だか今週は圏外が今一つ地味だった「全米アルバムチャート事情!」、いかがでしたか。さて最後にいつもの来週の一位予想ですが、来週のチャートの集計対象期間は3/24~30。最初に書いたように、MWのアルバムが来週も15万ポイントは維持しそうなので、かなり強力な新譜でないと対抗できなさそうですが、唯一可能性あるのはBTSのジミンのソロ・アルバム。いつも言ってるように今USではKポップのCDが出れば確実に15万枚くらいは売れる、という地合があるのでかなりジミンがMWを蹴落とす可能性あると思ってます。来週はそれ以外にも、デペッシュ・モード、フォール・アウト・ボーイ、ラナ・デル・レイ、そしてカントリーのルーク・コムズあたりがこぞってトップ10に初登場、久しぶりに賑やかなチャートになりそうです。ではまた来週。

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