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今週の全米アルバムチャート事情 #101- 2021/10/16付

先週は仕事の納期が積み上がって超多忙だったのに加え、身内の不幸も重なったりして、何とかこの「全米アルバムチャート事情!」のここnoteでの記事発信は何とかしたものの、連動ポッドキャストの方は28回目にして不本意にもお休みせざるを得ないという事態になってしまいました。楽しみにしてた方、ごめんなさい

今週も引き続き仕事の納期が重なってますが、何とか日常に復帰して連動ポッドキャストも無事配信してますので、上記のリンクから2週間ぶりのポッドキャストをお楽しみ下さい。

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さて今週のBillboard 200全米アルバムチャート、10/16付の1位ですが、先週予想してたミーク・ミルは思いの外ポイントが伸びなかっただけでなく、大きな影響を予測してなかったプロモーションの結果、何と今年の4/24付チャート以来6ヶ月ぶりに、テイラーの『Fearless (Taylor’s Version)』が通算2週目の1位に返り咲くという全くの意表をつく結果になりました。いやー参った

先週の157位から38倍以上ポイント増の152,000ポイント(実売146,000枚)で一気に1位にバウンスバックした理由は、10/1にヴァイナルLPがリリースされたのと、テイラーのサイン入りCDがテイラーのサイト限定で発売されたから。おいおい、ディレイド・ヴァイナル・リリース(アルバム発売後一定期間後にヴァイナルLPがリリースされるという、最近よくあるマーケティング手法)って、今年の(それもテイラーの)『Evermore』とかオリヴィア・ロドリゴとか、最近の1位返り咲きの定番なのに、何見逃してんねん!(と自分を叱ってます)

今回このプロモーションが効率的だったことは、この実売の146,000枚(ちなみに今週のアルバムセールスぶっちぎりの1位です)のうち、77,000枚がCD、67,000枚がヴァイナル(これも今週ヴァイナルセールス1位)とバランスよく売れたことで明白。しかもこのヴァイナルの売上は1991年にMRCデータ社(旧サウンドスキャン・ニールセン)がデータを取り始めてから歴代4位(歴代1位はテイラー自身の『Evermore』が今年の6/12付チャートで記録した102,000枚)という記録的な売上なんで、まあ1位返り咲き当然というか、テイラーの底力が遺憾なく発揮された結果ですわなぁ。この分だと来月発売予定の『RED (Taylor’s Version)』もぶっちぎりの1位間違いなしですね。
最後にもう一つ。今回の『Fearless (Taylor’s Version)』の157位→1位というジャンプアップは、BB200内のジャンプアップ記録という意味では歴代3位の記録になりました。こちらの歴代トップ5をおさらいしておきます。

1. (#176→#1) Life After Death - The Notorious B.I.G. (1997/4/12付)
2. (#173→#1) Vitalogy - Pearl Jam (1994/12/24付)
3. (#157→#1) Fearless (Taylor’s Version) - Taylor Swift (2021/10/16付)
4. (#156→#1) In Rainbows - Radiohead (2008/1/19)
5. (#137→#1) Ghetto D - Master P (1997/9/20)

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そして先週の予想で1位かも、と言ってたフィラデルフィア出身の今や中堅ラッパー、ミーク・ミルの5作目『Expensive Pain』は95,000ポイント(実売10,000枚)という残念な成績で3位初登場に留まってました。この人もフィリー出身ながらリック・ロスのレーベルが長くて、活動の拠点はマイアミみたい。でもラップのスタイルは、トラップのビートは上手に味付け程度に使っていて、フローは結構クリスプで存在感ある独特な感じでかつスキルも高いというまあ実力者ですね。それもあって過去リリースしているアルバム、コラボ・アルバム、ミックステープなどリリースするとことごとくBB200のトップ5には送り込んでくるという、ある意味2010年代以降のラッパーとしてはもっと評価されてもしかるべきだと思うんですが、なぜかメディア受けはイマイチ(笑)。特に今回はメタクリティックでも62点とさえない評価です。

ドレイクをフィーチャーして彼最大のヒットになった「Going Bad」(2019年6位)収録でBB200ナンバーワンの前作『Championships』には及ばないとしても、現在シングルヒット中でリル・ベイビーリル・ダークをフィーチャーした「Sharing Locations」(最高位22位)なんて、なかなかタイトでいいと思うのですが(少なくともフューチャーみたいなマンブル・ラップよりは遙かに好みです)どうでしょうか。

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今週もう1枚のトップ10内初登場は、先週予想で結構いいところに来るのでは、と言ってた、御大トニー・ベネットレディ・ガガのジャズ・コラボ・アルバム第2弾『Love For Sale』が41,000ポイント(実売38,000枚)で8位に初登場。前回コラボした2014年の『Cheek To Cheek』では様々なジャズやスタンダードをデュエット、アルバムチャート1位を記録して、NYリンカーン・センターでの二人のライブは評判を呼び、アルバムは第57回グラミー賞で最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバムを受賞するという成功ぶりだったので、そのフォーミュラを再現するというのは商業的にはごく自然な発想だったかもしれない。

でも、今回のコラボと前回とで決定的に違うのは、今回が全曲コール・ポーターの曲で統一されているということ以外に、2017年にアルツハイマー病と診断され、近年記憶がなくなることが多くなっていた当年95歳(!)のトニーがレコーディングできるのか、はたまたアルバムリリースに先立って8月に行われたNYラジオ・シティ・ミュージック・ホールのライヴができるのか、という不安がガガをはじめスタッフ全体にプレッシャーを与えていたこと。このラジオ・シティでのライブの前後の様子を伝えたアメリカCBSTVの番組『60 Minutes』でカバーされた映像をYouTubeで観た人も多いだろうけど、覚束ない様子だったトニーが、ラジオシティのカーテンが上がって観客の前に出た瞬間のあのスイッチが入ったような変貌ぶり、リハーサル中一緒にいながら一度もガガの名前が出てこなかったのにステージにガガが登場した瞬間「レディ・ガガ!」と声を発したトニー、そして20回以上のスタンディング・オヴェーションを受けて素晴らしいパフォーマンスを見せたトニーが、数日後にはそのライヴをしたことすら忘れてしまっていることーーほんとに感動と涙なしには見れないドキュメンタリーだったので、まだ見てない人はこの動画で是非見てもらいたいですね。字幕は出ないけど英語の勉強も兼ねて。

このアルバムは間違いなく来年1月のグラミー賞でまた最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル部門を受賞するでしょう。その日までトニーが健在で、その瞬間、あのラジオ・シティのライブを思い出してくれたらなあ、と思わずにはいられませんね

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さてトップ10内初登場はこの2枚。続いていつものようにトップ10圏外100位までの初登場アルバムのご紹介、今週は3枚です。まず惜しくもトップ10を逃して11位に初登場してるのは、実力派のアメリカーナ系シンガーソングライターで、一昨年第61回グラミー賞ではアルバム、ROY、SOYの主要三部門でノミネートされて一躍その名を知らしめたブランディ・カーライルの7作目になる『In These Silent Days』。

そのグラミーノミネートされた前作同様、アメリカーナの仕事では定評あるデイヴ・コッブシューター・ジェニングスウェイロンの息子)によるプロデュースで作成した今回の作品も、ストレートでシンプルな楽曲はそのままに、前作を覆っていたやや陰鬱な雰囲気は少し晴れて、コロナロックダウン下で書かれたにしては希望や明るさを感じさせる曲調が多いように思います。もう少し聴き込みますが。そうそう、ブランディと言うと今年のレコード・ストア・デイで、あのサウンドガーデンのメンバーと共演して「Black Hole Sun」をカバーした12インチシングルを出してましたが、今後もサウンドガーデンのメンバーとのコラボは続けたい、と言ってるそうで、こういうロック的なアプローチが彼女の作品に与える影響も楽しみ。

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次に26位に初登場したのは、現在Hot 100で「Pepas」(今週25位上昇中)がヒット中、ラテンチャート(8週目)はもちろん、ダンス・チャート(9週目)でも1位を独走している、プエルトリコ出身のファルーコ(本名:カルロス・エフレン・レイエス・ロサード)の9作目になる『La 167』。「Pepas」のブレイクヒットがこのアルバムの高い所での初登場(彼のアルバムは過去4作チャートインしているが、今回が最高位)をドライブしてるのは間違いないところですね。

近年のラテン勢台頭の流れに乗って、ダディ・ヤンキーJバルヴィンらメジャー・アーティスト達とのコラボを経て今回ブレイクしたファルーコですが、軽さ満点のダンスビートがいかにもレガトン・ポップ、という感じのその「Pepas」のヒットに続く作品を打ち出して行けるかが当面の課題でしょう。

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そして35位に初登場してきたのは、先週ミーク・ミルと競るのではないか、と言っていたリル・ウェインがアトランタ・ベースのラッパー、リッチ・ザ・キッドをフィーチャーしたミックステープ『Trust Fund Babies』。ミックステープと言ってもこの作品は、CDとLPでもリリースされてるし、MVもガッツリ作ってるので、金のかけ方と言いプロモーション手法と言い、実質リル・ウェインのアルバムと言っていいと思いますね。作品の内容もいつものリル・ウェインのフロウが炸裂してます。

リル・ウェインはこの秋から冬にかけて『Tha Carter VI』と『I Am Not A Human Being III』と、過去のアルバム作品のシリーズ続編とも言うべきフル・アルバムのリリースを予定してそれらに取り組んでるらしいので、このミックステープは仲良しのリッチ・ザ・キッドと組んだつなぎのリリース、といった感じでしょうか。

ということで今週のトップ10から圏外100位までの初登場アルバムのご紹介でした。ここでいつものようにトップ10おさらいです。今週からカニエにゴールド・ディスク・マークが点灯してます(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (157) (25) Fearless (Taylor’s Version) - Taylor Swift
2 (2) (5) Certified Lover Boy - Drake
*3 (-) (1) Expensive Pain - Meek Mill
4 (1) (2) Sincerely, Kentrell - YoungBoy Never Broke Again
5 (3) (3) Montero - Lil Nas X
6 (5) (20) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
7 (6) (15) Planet Her - Doja Cat
*8 (-) (1) Love For Sale - Tony Bennett & Lady Gaga
*9 (7) (39) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
10 (4) (6) Donda ● - Kanye West

今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。さて最後にいつものように来週の1位予想。来週の集計対象期間は10/8-14ですが、来週はテイラーもぐっと減らしてくるでしょうから12万ポイントくらい叩き出しそうな新譜があれば1位交代のはず。で、リリーススケジュール見たんですが、うーん微妙ですなあ。トップ10入ってきそうなのはジェームス・ブレイクとヒップホップのドン・トリヴァー、それとアルバム『Justice』に3曲追加した「コンプリート・エディション」をリリースしたジャスティン・ビーバーがトップ10返り咲きしそうですが、どれも12万ポイント叩き出す程ではない感じが。ということは来週はテイラーが2週連続、通算3週目の1位をキープしそうですね。ではまた来週。

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