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今週の全米アルバムチャート事情 #186- 2023/6/3付

早いもので2023年も6月に入り、もうすぐ折り返し。アメリカは学校の夏休みが始まるところもあるメモリアル・デイ・ホリデーの週末で家族でバーベキューで盛り上がってたことでしょう。MLBもシーズンの3分の1が終わってペナント争いも佳境に入ってきました。エンジェルスはここから去年のような連敗をせず、五分以上の星を拾っていけば何とかギリギリポストシーズン行けるかなあ、という正念場に入って来てます。我がメッツは一方シャーザーヴァーランダーという二人のサイ・ヤング投手を擁してアロンゾも20HRメジャー一番乗りしてるのになかなか5割を超えられない状況で、こちらもここから一ヶ月が正念場でしょうね。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週6月3日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位、チャート集計期間の初日にリリースから半年かかってようやくヴァイナルがリリースされたSZAの『SOS』がモーガン野郎を撃墜してくれるのでは、と大いに期待されたんですが、SZAは予想外にポイント(実売)伸ばせず。今週も対先週4%減で129,000ポイント(うち実売6,000枚)と相変わらず減らないストリーミング(何せ36曲ありますので)に支えられてポイント減をわずかにおさえたモーガン野郎の『One Thing At A Time』がとうとうデビューから12週連続1位をマークしてしまいました。一応記録的なことを改めて言うと、12週以上の1位は昨年のバッド・バニーUn Verano Sin Ti』の非連続の13週以来、連続12週以上1位は1988年の映画『タイタニック』サントラ盤の16週以来、そしてデビューから12週以上連続1位ということになると、1976〜77年のスティーヴィー・ワンダーSongs In The Key Of Life』の13週以来ということになります。つまり来週モーガン野郎が1位をキープすると、チャート歴史的にはスティーヴィーのあの歴史的名盤に並んでしまう、ということなんですね。何とまあ。

こうやって毎週モーガン野郎をディスってるわけですが(笑)このアルバム、そしてモーガン野郎がなぜこれほどアメリカで売れているのかについて分析した、音楽評論家の池城美菜子さんが書かれた、ユニヴァーサルサイトの記事がありましたので、楽曲的、デモグラ的その他の観点からの分析としてはかなり判りやすいのでご紹介しておきます(自分はこの人についてここまで真面目に分析するモティベーションないのでw)。

ただこの記事読んでて気になるのは、例の人種差別的発言事件(黒人に向かってNワードを発した動画が情報サイトにポストされた件)がBLMで全米でテンションが高まってる時期にも関わらず、モーガン野郎があまりにも無防備に、そして言葉の歴史的背景と暗黙の使用ルール(Nワードは黒人が使うのはよいが、白人は決して使ってはいけない)をなーんも考えずにNワードを使ったこと、そしてそれがネットラジオ放送禁止や各アウォードからの締め出しやレコード会社との契約の中断などの相応なペナルティを受けていたことについて、あまりにサラッとしか触れられていないこと。多くのアラフォー世代のアメリカ中西部出身者がそうだったように、90年代にニッケルバックなどのカントリー系ロックとリル・ウェインT.I.などヒップホップを同様に浴びるように聴きながら育った世代の一人であるモーガン野郎は、黒人への憎しみとしてではなく、単にこういう出自の白人のにーちゃんにありがちなカッコつけてNワード言っただけだと思うけど、その言葉が社会的に、歴史的にどういう影響があるかについてボケすぎるにも程がある行動だったと思うし、そういうことはもう少しちゃんと論評してよかったのではないかと思いました。文中出てきたアフリカアメリカン系カントリー・アーティストのミッキー・ガイトンや、ケリー・クラークソンなど、カントリー・アーティスト達からも彼の行動に対して厳しい批判があったこともきっちり触れるべき。
そして自分がこの記事でもよく言ってますが、そういうボケなヤツのボケな、でもただのボケでは済まされないような行動について、モーガンファンが無批判に支持し続けている状況がトランプ支持者達の行動に通じるものがあって、さらなる社会の分断に発展する可能性もある、憂慮すべきことだと思うのだけど、そういうことには一つも触れられてないのも違和感のあるところでした。

"SOS (Vinyl)" by SZA

さあ、もうモーガン野郎のことは終わりにして(笑)、そのモーガン野郎撃墜にはほど遠い77,000ポイント(うち実売29,000枚)に終わって先週5位から2位止まりだったSZAの『SOS』。アルバムセールスチャートでも次にご紹介するデイヴ・マシューズ・バンドに及ばず2位という状況で、この売上枚数を見てそもそもヴァイナルやCDのプレス枚数が5万、10万単位ではなかったのではないか、という気がします。自分もすぐ購入した話題盤だっただけに、充分なプレス枚数が確保されてたら充分1位狙えたのに、と思うと残念。
一方でシングル「Kill Bill」はR&B/ヒップホップ・ソング・チャートで先週1位初登場のリル・ダークJ.コールの「All My Life」を蹴落として今週1位に復活、これで通算同チャートの1位21週目を記録してこれまでの記録だったリル・ナズX &ビリー・レイ・サイラスの「Old Town Road」(2019)の20週を超えて新記録を樹立してます。

"Walk Around The Moon" by Dave Matthews Band

一方嬉しかったのは、44,000ポイント(うち実売40,000枚でこちらが今週のアルバム・セールス・チャート1位でした)で5位に初登場してきたデイヴ・マシューズ・バンドの5年ぶりの新作、ちょうど10作目になる『Walk Around The Moon』。日米でこれだけ人気と知名度差の大きいロック・バンドも珍しいですよね。自分がNYに駐在していた2000年代前半は、もともとヴァージニア州出身のバンドということもあって、東海岸の知識層のロックファンの間では絶大な人気を誇っていたのだけど、2008年に創設メンバーのリロイ・ムーア(サックス)が事故が原因で急逝、2018年には性的暴行で訴えられた同じく創設メンバーのボイド・ティンズレー(バイオリン・マンドリン)の解雇、そしてコロナの関係で2020年のツアーが全て2021年以降に延期されるなどもあって新作の発表の間隔も長目になっていた。そんなところで久しぶりに発表された新作、前作『Come Tomorrow』(2018)まで続いた7作連続ナンバーワンは逃したけど、ファンに取ってはうれしいリリースであることは間違いないところ

内容はいつものジャズやファンクやR&Bの要素とグルーヴをふんだんに湛えた彼ら一流のジャム・ロックが展開されている、安心して聴けるナンバーが満載だが、ここ数作やや小難しくなっていた印象があったのが、今回は2000年前後当時のよりシンプルなスタイルに回帰している気がして、その点もうれしいところ。中でも既に故人となっているリロイ・ムーアも作者に名を連ねていて、2006年くらいからバンドのライブでは演奏されていたという「Break Free」あたりは、今改めてデイヴが自分達の音楽はこれだ!と再宣言してるような感じもして、いい感じです。プロデューサーは2000年初頭からの長いつきあいで、ここ最近作のプロデュースも担当している地元ヴァージニア出身のプロデューサー、ジョン・アラジアと、エミネムからリアン・ライムスまで幅広いジャンルで90年代以来活躍してるマーク・バトソン。全体グルーヴ満点ながらタイトに締めたサウンド作りに貢献していますね。

"Phantomime" by Ghost

今週のもう1枚のトップ10内初登場は、これで何と4作目のトップ10になる、スウェーデンのコスプレ・スタイル(笑)のメタル・バンド、ゴーストの5曲入りカバー集EP『Phantomime』が36,000ポイント(うち実売34,000枚)の7位。相変わらずボーカルのパパ・エメリタス4世のガイコツメイクでのローマ法王コスプレとはうらはらに、ボン・ジョヴィジャーニー、デフレパあたりに通じる80年代スカッと系ハードロックやってます。

で、今回のカバー集、カバーセンスがなかなか秀逸で、テレヴィジョンの「See No Evil」、ジェネシスの「Jesus He Knows Me」、ストラングラーズの「Hanging Around」、アイアン・メイデンの「Phantom Of The Opera」そして極めつけは、偶然なのか狙ってるのか、先週急逝したばかりのティナ・ターナーの「We Don’t Need Another Hero (Thunderdome)」(これが結構カッコいいカバーw)をこのスタイルでハードロック・カバーしてるという、ファンはもちろん原曲知ってるオールド・ロック・ファンもめっちゃ楽しめる内容。いやあやってくれるなあ、ゴースト。これ、世界中のロック・ファンの琴線に触れたの間違いなさそうで、UKでも今週初登場8位、昨年の前作『Impera』(英米とも最高位2位)に続く3枚目のトップ10を決めてます。

"Broken By Desire To Be Heavenly Sent" by Lewis Capaldi

ということでトップ10内初登場は2枚ですが、今週圏外11位から100位までには8枚初登場と、最近になく賑やかな状況なんでここからは早足で行きます。まず14位初登場と、惜しくもトップ10を逃したのはUKのシンガーソングライター、ルイス・キャパルディのセカンド・アルバム『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』。英米でのブレイクアウトヒット、「Someone You Loved」(2018年英米で1位)を含む前作の『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』(2019年、US20位、UK1位)に続いて今回も長いタイトル(笑)。前作よりは順位を上げて、UKでは今週前作に続く1位初登場を決めてます。

基本的に前作同様、ドラマチックな展開のバラード中心に、喪失感や深い感情をルイスのほとばしるようなボーカルで訴えるという路線を今回も継続していて、それが評論家筋にはあまり受けが良くない向きもあるようですが、シングル「Forget Me」「Wish You The Best」はいずれも既にUKで1位を記録。USサイドではイマイチシングルヒットにはまだつながってないようですが、このタイプの音楽が必要なリスナーはUSにも多いと思うので、今後ジワジワと支持を広げていくような気がします。

"Take Me Back To Eden" by Sleep Token

そのすぐ下の16位に初登場してきたのは、ロンドン出身のメンバー4人が全てお面のような被りものしてて名前も公表されてない、ゴーストスリップノットか、というスタイルのメタル・バンド、スリープ・トークンの3枚目『Take Me Back To Eden』。USでは初チャートインで、UKでもアルバムチャート今週3位初登場と大ブレイクしています。

何でも彼らは「スリープ」と呼ばれる古代神の現世における代理人だそうで(笑)音楽スタイルはそれを反映するような、幻想的でかつゴシックなタイプのメタル・サウンドで統一されてて、ゴーストスリップノットとはやや音楽性は違う感じ。まあでもこういう色物、みんな好きですなあ

"I Feel (EP)" by (G) I-DLE

ぐっと下がって41位に入って来たのは、今週も来ましたKポップ!ということで5人組ガールグループのジー・アイドゥル((G)I-DLE)のUSチャートイン2枚目、6曲入りEPの『I Feel (EP)』。前回のチャートインが去年11月に71位に入った『I Love: The 5th Mini Album (EP)』なので今回更にチャート上はアップグレードされたことになります。

今回も基本全曲メンバーが書いてプロデュースもしてますが、書いてる曲もダンスポップ風の「Queencard」、パワーポップ風の「Allergy」、ビリー・アイリッシュっぽいエレクトロポップの「Lucid」など、メンバー自作にしてはなかなか作品のクオリティはしっかりしてますね。こうやってEPで少しずつファン層を固めていって、フル・アルバムで一気にトップ10ブレイクを狙う、という戦略のような気がします。そしてそれ、結構可能性ありますね、この内容がキープできればFifty Fiftyに今後対抗してくるかもしれません。

"All The Best: The Hits" by Tina Turner

45位には先週残念な訃報が伝えられたティナ・ターナーのベスト盤『All The Best: The Hits』が今回初登場。このベスト盤、2枚組33曲収録のベスト盤『All The Best』(2004年US2位、UK6位)のうち、18曲を抜き出したダイジェスト盤で今回初チャートイン。
What’s Love Got To Do With It」「Proud Mary」「Let’s Stay Together」「Better Be Good To Me」「We Don’t Need Another Hero (Thunderdome)」など主要ヒットがもれなく収録されてますので、このベスト盤が売れたというよりは、彼女の訃報でこれらの曲が先週一週間全米でかなりストリーミングされたことによるチャートインなんでしょうね。改めてティナの冥福を祈ります

"Drastic Symphonies" by Def Leppard with The Royal Philharmonic Orchestra

さて次に54位に入って来たのはシニアなロックファンの間では密かな話題になっている、あのデフ・レパードがイギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共演して、自分達の楽曲をオーケストラをバックにしたクラシック風にアレンジしてるという『Drastic Symphonies』。ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたこの企画盤、既に聴いた知りあいのデフレパ・ファンによると意外とイケてる、という評判です。

いくつか聴いてみましたが、なぜか女性ボーカルのハーモニー・デュエットをフィーチャーしてる「Pour Some Sugar On Me」など純クラシック風で原曲がなかなか判らないものもある一方、ストリングスをバックにしたソフト・ロック・バージョン的というだけで比較的原曲に忠実な「Hysteria」や「Love Bites」など、まあ確かになかなか面白い内容かも。本国UKでも今週4位に初登場しています。

"Fast X" Original Soundtrack

79位に初登場しているのは、日本でも先月公開された、映画『ワイルド・スピード』シリーズの10作目『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト(Fast X)』のサントラ盤。自分は初期に主演張ってたポール・ウォーカーが実際に事故死した後の、あのウィズ・カリファチャーリー・プスの「See You Again」がエンドロールに流れる『ワイルド・スピードSKY MISSION(Furious 7)』(2015)くらいまでは観てましたけど、その後のシリーズは追っかけてなかったんでもうシリーズ10作目だったの知りませんでした(笑)。

このシリーズのサントラ盤としては、その『ワイルド・スピードSKY MISSION』のサントラ盤が1位を記録したのを筆頭にこれが5枚目のチャートイン。内容はヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインリル・ダークらトラップ野郎達の曲が大半ですが、一曲、コダック・ブラックNLEチョッパの2人のラッパーと一緒に何とBTSジミン、エレクトロポップのJVKE(ジェイク)そしてR&Bのマニー・ロングがバラードのマイク・リレーをするという「Angel Pt. 1」があの「See You Again」を彷彿させるというのがチャートインのミソのようですね。BTSファンがガンガンストリーミングしてんだろうなあ

"Kaytraminé" by Kaytraminé (Kaytranada & Aminé)

そして今週100位まで最後の初登場は92位にチャートインした、ケイトラミネ(Kaytraminé)の『Kaytraminé』。これ、実はハイチ系アメリカ人のR&B系サウンドメイカー、ケイトラナダと、エチオピア系アメリカ人ラッパーのアミネによるワンタイム・ユニットなんですね。この二人、実は5年前の2018年にリリースされた、ナイジェリア系アイルランド人のオルタナR&Bシンガー兼ラッパー、レジー・スノウのアルバム『Dear Annie』(当時個人的に凄く気に入ってた盤です!)に収録の「Egyptian Luvr」という曲でラッパーとプロデューサーという立場で既にコラボしてたんですよね。この曲も好きでDJで一時よくかけてました。

2人でカリフォルニアのマリブに一軒家を貸し切って、2週間ぶっ続けでレコーディングされたというこのアルバム、浮遊感あるエレクトロなR&Bサウンドを紡ぎ出すケイトラナダと、オールド・スタイルでグルーヴ満点のフロウを繰り出すアミネの組合せは正にゴールデン。プロデューサーにはファレル・ウィリアムスも参加していて、トロピカルでエレクトロでソウルフルな、なかなか気持ちいいサウンドを展開してます。ベテラン・ラッパーのフレディ・ギブスビッグ・ショーン、御大スヌープ・ドッグなんかもフィーチャーされてるこのアルバム、これから夏にかけてパワーローテになりそう

ということで合計10枚の初登場で賑やかだった今週のチャート、ここでトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (12) One Thing At A Time - Morgan Wallen <129,000 pt/6,000枚>
*2 (5) (24) SOS ▲2 - SZA <77,000 pt/29,000枚>
3 (2) (31) Midnights ▲2 - Taylor Swift <58,000 pt/10,772枚*>
4 (6) (124) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <47,000 pt/1,063枚*>
*5 (-) (1) Walk Around The Moon - Dave Matthews Band <44,000 pt/40,000枚>
6 (10) (196) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,000 pt/6,793枚*>
*7 (-) (1) Phantomime - Ghost <36,000 pt/34,000枚>
8 (12) (9) Gettin’ Old - Luke Combs <34,000 pt/2,148枚*>
9 (11) (55) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <34,000- pt/590枚*>
*10 (15) (53) American Heartbreak - Zach Bryan <32,000 pt/1,655枚*>

ということでSZAのフィジカル売上が伸びずモーガン野郎が12週目の1位をマークした今週の「全米アルバムチャート事情!」、いかがだったでしょうか。最後はいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:5/26~6/1)ですが、来週のチャート、最近になくどうやら混戦模様。まず先週シングルがHot 100で初登場2位だったリル・ダークの新譜がモーガン撃墜最右翼ですかね。ただこのアルバム、一曲モーガン野郎と共作共演してる曲が入ってるのがやな感じだけど(笑)。もう一つの可能性は、5/26にリリースされたテイラーの『Midnights』の2つのスペシャル・エディション。アイス・スパイスとの「Karma」の共演リミックスなんかも入ってて、今ツアー中だし、これは今週の3位からモーガン野郎を撃墜できる可能性充分にありです。それ以外ではトップ10にコダック・ブラック、そして12年ぶりの新作のマッチボックス・トウェンティあたりが来そうな気がします。ではまた来週。

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