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今週の全米アルバムチャート事情 #180- 2023/4/22付

先週末は南カリフォルニアで開催のコーチェラ・フェスティヴァルが今年もYouTubeでストリーミングされてましたね。ただ今年のコーチェラのブッキングの内容が、かなり今時のヒップホップとEDM系の新しいアーティストに厚くなっていた関係もあって、ハリー・スタイルズビリー・アイリッシュ、ザ・ウィークンドや自分お気に入りのマギー・ロジャースらのライブで盛り上がった去年に比べると個人的にはあんまり楽しめなかったのが残念。大トリのフランク・オーシャンも何だかよく判らなかったし。そんな中でもニューアルバム出したばっかりで、初の正式ライブをやってくれたボーイジニアスのパフォーマンスはなかなかいい感じでした。来年のブッキングに期待ですね。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて、今週4月22日付のBillboard 200、全米アルバムチャートのトップ10と初登場アルバムのご紹介ですが、ホントにどんだけモーガン好きなんだよアメリカ人!と今週も言わずにいられないほど、モーガン・ウォレンの『One Thing At A Time』は今週もわずかポイント3%ダウンの167,000ポイント(うち実売6,000枚)と6週目にして未だに16万ポイントを死守しちゃってるため、今週も6週目の首位をキープしちゃいました。前も書いたように、何しろ36曲も入ってるアルバムなんでポイントのほとんどはストリーミングで、そのストリーミング自体がほとんど毎週減ってないのでこういう状態になっちゃってます。

こんな感じで毎週モーガンをディスってますが(笑)、そもそもこの人気ぶりに関する自分の一番の違和感は、例の2021年2月の黒人への差別的発言事件の直後、彼のレーベルが一旦契約をサスペンドしたり、ネットラジオ他全国ラジオネットやCMT(カントリー・ミュージックTV)が彼の曲のプレイを中止したり、更にはACM(カントリーミュージック協会)グラミー・アカデミーが彼をアウォードのノミネート対象から外したりと一斉に彼をボイコットする、という強い対応に出たのにもかかわらず、その後彼が謝罪をしたり黒人音楽振興団体に寄付したりして改心した「ように見える」こと、そしてそれを受け入れるかのように、今回のように圧倒的な人気をあっという間に回復してまうこと、こういう手のひらを返したようなファンの対応がすごくトランプ支持者の行動のようで、無茶苦茶気持ち悪いんですよね。未だに前作のアルバムも長々とトップ10に居座ってるのも気持ち悪い。必ずしも彼の音楽性の問題ではないんですわ。

"Hope" by NF

さて、そんな話はこれくらいにして、今週のトップ10内初登場は1枚のみ。ミシガン州出身の白人ラッパー、NFことネイサン・ジョン・ファウアーシュタインの6作目『Hope』が123,000ポイント(うち実売80,500枚で今週のアルバム・セールスNo.1)で2位に初登場です。先々週のジミンや先週のメラニー・マルティネス同様10万ポイントを優に超えてるので、普通の週だったら余裕で1位だったんですが残念。今回1位だったらNFの場合、前々作『Perception』(2017)、前作『The Search』(2019)に続く三作連続全米ナンバーワンを達成できるはずだったのにね。

白人ラッパーといえば当然エミネムがレジェンドなわけですが、そのエミネムに少年時代没頭してたというNFは、エムの系譜をしっかり継いだ切れ味鋭いフロウが小気味よいのと、リリックの内容がスピリチュアルでインスピレーションを与える、クリスチャン・ヒップホップ的な内容で、単なるヒップホップファンだけじゃなくて広い支持層を確保してるのがこの安定した人気につながってるんだと思います。ただ本人はクリスチャン・ラッパー、というステレオタイプは否定していて「自分はクリスチャンだけど、(キリスト教の教えという)単一の視点だけでは多くの人にリーチできないよね。僕は自分の経験・葛藤についてリリックを書いてるけど、それはクリスチャンでなくてもできることだと思う」となかなかカッコいいコメントをしてます。ビッチやブリンブリンやドラッグやガンのことことしかラップできない半端なラッパーに聴かせてやりたいね。

"Meteora: 20th Anniversary Edition" by Linkin Park

そして今週のトップ10の話題はもう一つ。初登場ではないけど、先週ちょっと予想した、リンキン・パークの『Meteora』がリリース20周年記念リイシューされたおかげで今週38,500ポイント(うち実売19,500枚)を集めて8位に再登場してきましたリンキンは計6枚のアルバムを全米1位にしていますが、2003年に初登場1位となったこの『Meteora』は彼らの記念すべき初のナンバーワンでしたから、今回のリイシューに当時のファンが反応したのも頷けるところ。今回のリイシューはCD3枚組またはLP4枚組の基本セットの他、89曲のデジタル・ダウンロード・バージョンや、LP5枚・CD4枚・DVD3枚と本などをパッケージしたスーパー・デラックス・ボックス(199.98ドル)もリリースされてるようです。

既にしばらく前からこのアルバムに収録された未発表曲「Lost」がシングルリリースされて、2月にHot 100の38位に初登場、リンキンにとって11年ぶりの新曲によるトップ40入りを果たし、今回のリイシューを盛り上げてますね。2017年に惜しくも他界したボーカルのチェスター・ベニントンのボーカルによるこの「Lost」、アニメ風のMVもなかなかクールですが、これ以外にもロック・エアプレイチャートで8週、メインストリーム・ロック・チャートで5週、オルタナティブ・エアプレイ・チャートで3週1位を記録するなど、リンキン祭状態です。2000年代のポスト・グランジ・ロック・シーンを代表したバンドだけにこうした人気も当然ですよね。

"Never Enough" by Daniel Caesar

さて先週先々週と続々と初登場がチャートインしていた全米アルバムチャートですが、今週はトップ10内初登場1枚(リンキンも入れて2枚)、11位以下100位までも初登場2枚とぐっと少なくなってます。しかしいずれも話題盤。14位初登場で惜しくもトップ10を逃したのは、先週トップ10来るかも、と言っていた21世紀を代表するR&Bシンガーの一人、ダニエル・シーザーの4年ぶり、3作目の『Never Enough』。ダニエルの場合、R&Bといってもエレクトロだったり、オルタナなポップ・ロック系に寄ったりしている曲もやったりしててちょっと一味違ってるのが魅力。前作『Case Study 01』(2019年17位)でもジョン・メイヤーや、まだグラミーで脚光を浴びる前だったジェイコブ・コリエーなんかとやったりしてました。でもよく考えたらこの二人、結構R&Bアーティストとコラボってるから不思議はないかも。

今回はそういう目立ったゲストはいませんが、全体独得のポップセンスが光るコンテンポラリーな楽曲が並んでいて、「Always」なんてシティ・ポップの香り満点のポップなやつもやってます。もちろん、ラファエル・サディークを迎えた「Do You Like Me?」のような王道R&Bソングもやってますよ。彼は4年前のフジロック、レッド・マーキーで観た時の印象がイマイチだったんですが、今回のアルバム、結構いいのでこの夏のフジロックにまた来るダニエル観るのがちょっと楽しみになってます

"Sremm 4 Life" by Rae Sremmurd

そしてもう一枚、28位と思いの外上位に入ってこれなかった、レイ・シュレマードの5年ぶりになる4作目『Sremm 4 Life』。これも先週トップ10入り予想してたんですが、この5年の間にデュオの一人、スウェイ・リーポスティとの「Sunflower」の大ヒットやいろんな客演で一気にピンの存在感を積み上げたこともあってか、コロナ期には解散の噂も出たりしたのと、やはりかなり久しぶりだったんでこういう(デビュー以来3作連続トップ10にぶち込んで来た彼らにしてみたら)やや地味目のスタートになりました

彼らのデビュー以来ずっと殆どの曲をプロデュースしてる、今やヒップホップ界の大物、マイク・ウィル・メイド・イットは今回もプロデュースしてますが、彼がやってるのは冒頭の「Origami (Hotties)」他全14曲中3曲で、今回はゼイトーヴェン30ロック、マーダ・ビーツキュービーツなど売れっ子のヒップホップ・サウンドメイカー達を配してソツのない音作りをしてます。基本トラップ・ポップですが、ダイドの「Thank You」(エミネムの「Stan」にも使われてたアレです)なんていう大ネタを丸使いしてる「Not So Bad (Leans Gone Cold)」や、ファレルのプロデュースでR&Bテイスト全開の「Tanisha (Pump That)」など、単なるヒップホップ・アルバムに終わってないところがさすがと言えますね。メタクリティックでも78点と評判もいいです。順位はイマイチでしたが、今年の今のところのヒップホップ・アルバムではかなりいい方だと思いますね。

というところで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (6) One Thing At A Time - Morgan Wallen <167,000 pt/6,000枚>
*2 (-) (1) Hope - NF <123,000 pt/80,500枚>
3 (6) (25) Midnights ▲2 - Taylor Swift <60,000 pt/13,555枚*>
4 (5) (18) SOS ▲2 - SZA <60,000- pt/200枚*>
5 (2) (2) Portals - Melanie Martinez <48,000 pt/16,878枚*>
*6 (8) (118) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <47,000 pt/1,455枚*>
7 (7) (3) Gettin’ Old - Luke Combs <46,000 pt/5,026枚*>
*8 (RE) (120) Meteora ▲7 - Linkin Park <38,500 pt/19,500枚>
9 (9) (19) Heroes & Villains - Metro Boomin <36,000 pt/2,031枚*>
10 (11) (49) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <35,000 pt/385枚*>

久々にリンキンがトップ10に登場した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつものように来週の1位予想です。何だかこの調子だと来週もモーガン野郎はせいぜい5%ダウンで15万ポイント確保しちゃいそうなんで、来週チャート対象期間の4/14~19リリース作品でこのレベルを叩き出せるやつがいるか、といういつものポイントになるわけですが、メタリカ7年ぶりの新譜がその可能性大です!これまで必ず20万ポイントは初週叩き出しているメタリカのこと、モーガン野郎を引きずり下ろすのは彼らしかないでしょう。その他トップ10に来そうなのは、5セカンズ・オブ・サマーのライブ盤、そしてヒップホップのNLEチョッパあたりでしょうか。ではまた来週。

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