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毎年恒例グラミー賞企画第1弾!第64回グラミー賞主要4部門ノミネート予想(その2:ソング・オブ・ジ・イヤー、アルバム)

さて、来週日本時間24日に発表予定の第64回グラミー賞ノミネーションのうち主要4部門のノミネートを予想するこの恒例企画、引き続き残り2部門のノミネート予想を行ってみます。3つめの部門は最優秀歌曲賞、ソング・オブ・ジ・イヤー(SOY)です

4.最優秀歌曲賞(Song Of The Year)部門ノミネート予想

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Happier Than Ever - Billie Eilish
Fight For You - H.E.R.
Stay - The Kid LAROI & Justin Bieber
Drivers License - Olivia Rodrigo
Bad Habits - Ed Sheeran
Leave The Door Open - Silk Sonic
I'll See You In My Dreams - Bruce Springsteen
Willow - Taylor Swift

このグラミー企画のブログでは毎年言ってるけど、ROYがその年を代表するアーティストとしての高い水準のパフォーマンスと技術的に高い水準でレコーディングされた楽曲を選ぶ賞(受賞者はアーティスト、プロデューサー、フィーチャーされたアーティスト、エンジニアおよびミキサー)なのに対して、SOYは楽曲として高いクオリティを達成している楽曲を選ぶ賞(受賞者は楽曲の作者のみで、アーティストが作者に含まれていない場合はアーティストは対象外)である、ということを改めて認識しましょう。この定義により、過去同一年度に主要4賞すべてを受賞したのは、第23回(1981年)のクリストファー・クロスと一昨年第62回のビリー・アイリッシュだけで、第45回(2003年)のノラ・ジョーンズはSOY受賞曲の作者じゃないので3部門受賞どまりだった、という違いが明確になるわけです。
ま、それはいいとして、この部門も昨年度までのノミネーション・コミティーが最後に恣意的な調整をしていたのでは、という疑いが大きい部門だったので(去年のビヨンセデュア・リパ、一昨年のタニヤ・タッカーあたりは結構無理矢理感ありましたよね)、今年は純粋にアカデミーの投票ベースでどう変わるかが注目されるところです。で、いろいろ考えて挙げたのがこの8曲。

新人部門やROY部門同様、明らかにノミネート来るでしょ、というのがやはり何だかんだ言っても今年本当にあちこちで耳にした、シルク・ソニックLeave The Door Open」(今年3月のグラミーでもライブ・パフォーマンスしてるしね)、ビリー・アイリッシュHappier Than Ever」(ノミネートされるとこの部門3年連続ノミネート、うち62回では「Bad Guy」で受賞)、オリヴィア・ロドリゴDrivers License」といった当たりでしょうね。テイラーの「Willow」はこれに準じるポジションで、充分ノミネート候補として有力だと思うけど、この3組に比べると楽曲単位というよりも、やはりテイラーはアルバム評価に重点が置かれてると思うので、実際の受賞はどうかな、という感じでしょうか。

従来のグラミー・ダーリン達(アカデミーのメンバー達がご贔屓のアーティスト)が、ノミネーション・コミティーがなくなった今年、これまで同様に強みを発揮するかどうかは不明です。ただ、近年のグラミー・ダーリンとして顕著な形でノミネーション、受賞が多く、前回63回もシングルヒットもしていないけどBLMを如実に表現した「I Can't Breathe」でこの部門を受賞しているH.E.R.は、今年3月に第93回アカデミー賞の最優秀オリジナルソング部門を受賞して、公的な認知を受けている映画『Judas And The Black Messiah』の主題歌「Fight For You」(前回も「I Can't Breathe」で受賞したH.E.R.ティアラ・トーマスの共作)とでノミネーションはされてくるでしょうね。折からウィスコンシン州のBLMデモで2人を射殺した白人少年カイル・リッテンハウスの無罪評決が出たこのタイミングというのも何か象徴的な気がします。

個人的な観点からは、この後に予想をお伝えするアルバム部門共々「ノミネーション・コミティーがなくなった今年こそは絶対ノミネートされて然るべき」と思っているのが、ブルース・スプリングスティーンのアルバム『Letter To You』からの「I'll See You In My Dreams」。いや、正直この曲でなくとも、あのアルバムの曲はどれも素晴らしいので、他の曲、例えばタイトルナンバーでもいいんです(ちなみに全曲ボスの自作)が、前回のグラミーで間違いなくアルバム部門にノミネートされるべきだったのに、去年のザ・ウィークンド同様全く無視されてしまったボスの前作の『Western Stars』(ネット・アルバム・レビュー集計サイト、メタクリティックで83点)の無念を、作品の出来でもメディアの評価でもそれに勝るとも劣らない『Letter To You』(同88点)で果たしてもらいたいのです。そしてその曲は、自分が人生で出会った人達が次々に去ってしまい、今年9-11から20周年という節目で改めて失われた多くの友達に「そっちに行くまでは夢の中で会おう」と歌うこの歌がふさわしいんじゃないかな、とそう思うのです。

そして対象期間の終盤にヒットして、楽曲的にも素晴らしいザ・キッドLAROI&ジャスティン・ビーバーの「Stay」(共作者に本人たちに加えてチャーリー・プースが入ってます)と、エド・シーランの「Bad Habits」(エドは共作者の一人)も順当にノミネートされてきそうな気がします。

5.最優秀アルバム部門ノミネート予想

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The Off-Season - J. Cole
Happier Than Ever - Billie Eilish
If I Can't Have Love, I Want Power - Halsey
Chemtrails Over The Country Club - Lana Del Rey
Sour - Olivia Rodrigo
Letter To You - Bruce Springsteen
Starting Over - Chris Stapleton
Evermore - Taylor Swift

最近はROYがグラミー賞の中で最も重要な賞、というような扱いになってきていますが、以前はアルバム部門が最高の栄誉、的に言われていた時期もあったと思います。「作品」というとらえ方でいうと間違いなく最重要という扱いでも全くおかしくない部門ですよね。またこの部門は他の主要部門よりもジャンルの多様性が実現されてる部門だと思うので、ジャンルにかかわらずよい作品は評価される可能性が高い部門と言っていいでしょう。ノミネーション・コミティーがなくなった今年は一層その可能性が高いと思いますね。

ただ、ここでもビリー・アイリッシュ、テイラー、オリヴィア・ロドリゴの三大勢力は強いと思います。ビリーテイラーはそもそもグラミー・ダーリンでずっと来てますし、オリヴィアは新たなグラミー・ダーリンの地位を確保しそうな予感がしますので。
またここでも個人的に『Western Stars』のガン無視の無念を是非とも『Letter To You』が晴らすためにもアルバム部門でのノミネートはマストでお願いしたいところ。ガン無視といえば、ナンバーワンヒット「Without Me」(2019年1月に1位記録)があったにもかかわらず前々回62回で全くの無視をくらったホールジーが今年リリースした『If I Can't Have Love, I Want Power』は、プロデューサーにナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーアティカス・ロスを迎えてインダストリアル・ロックっぽいオルタナ・ロック・アルバムになっていて、業界の評判がかなり高い模様なので、穴馬的に来るのでは、と思ってます。ロック系ではその62回でノミネートされていたラナ・デル・レイの今年のアルバムも、それに匹敵する出来の作品なので、ノミネーション、来そうです。

一方この部門では過去ジェイZドレイク、ケンドリック・ラマー、カニエら蒼々たる面々の蒼々たる作品がノミネートされながら受賞していないヒップホップ系(過去受賞しているのは46回2004年のアウトキャストのみ)を見てみると、そのドレイクカニエが今年大ヒットアルバムをドロップしてますが、いずれもシーンの評価はイマイチ。ただのトラップ・アルバムがノミネートされるとも思えない中で、唯一可能性があるかも、と思ったのはJ.コールの『The Off-Season』。アルバム全体の複雑なサウンド・スタイル構成やリリックのリアルさなんかが評価されないかな、と思っているところです。

最後にカントリー系。10週連続1位というヒット規模の大きさでいえば、楽曲的にもクオリティは悪くないモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』が来ても通常なら全くおかしくないところですが、ご存知のようにモーガンは今年2月に人種差別発言騒動で今年ほとんどラジオからボイコットされたり、自分のレーベル、ビッグ・ラウドから契約を無期限停止されたり、ACM(カントリーミュージック・アカデミー)からはACMアウォードのアルバム部門の対象から外されたりと、かなり徹底的な処分と物議を醸したので、やはりデボラ・デューガンの騒動以来、国籍・人種・性別・性的性向のダイバーシティを前面に出しているアカデミーとしてはこの作品をノミネートするわけにはいかんでしょうねえ。ただ一方、グラミー・アカデミーがこのアルバムをノミネート対象から外したという話も聞いていません。これだけ物議を醸して社会的制裁も一定受けている作品ながら、一方で彼とこのレコードを支持する音楽ファンも多いことは事実で、彼のアルバムはあの騒ぎ以降も1位を独走して3月一杯まで10週間1位を記録、その後も今までの8ヶ月間ほとんどポイントも減らさず(4/3付チャートのポイントが66,000で、今週のチャートのポイントが43,000ポイント)ずっとトップ10に居座り続けてることでもそれがよく判ります。なので、ひょっとしたらノミネートされてしまうかも?というのが個人的な大きな懸念だったわけです。

それに一つの解答を示してくれたのが、今月発表されたCMA(カントリーミュージック協会)アウォードの結果。この最優秀アルバム部門にこのモーガン・ウォレンのアルバムがノミネートされており、「もしこれが受賞したらカントリー音楽は人種差別を是認するのか」という議論が開催前にかなりネット上で行われていたんです。結果はクリス・ステイプルトンの『Starting Over』が受賞。クリスは2016年第58回グラミーでブレイク作『Traveller』が最優秀アルバム部門にノミネートされ、CMAでもその『Traveller』をはじめ最優秀アルバムを2回受賞、2015〜2018年まで4年連続最優秀男性ボーカリストを受賞している今やカントリー界の重鎮ながら、ジャスティン・ティンバーレイクピンク、テイラー・スウィフトなどとも共演しているコンテンポラリーさも持ったアーティストなので文句はないところ。しかも今回のCMAでは、今アレサ・フランクリンの伝記映画『リスペクト』でアレサ役を演じているジェニファー・ハドソンとの素晴らしいパフォーマンスも見せてくれていて、こういう話題にベストな形で終止符を打ったようです。これでCMAの人種差別を認めないというスタンスは維持されたように見えたので、グラミーのアカデミー・メンバーもその投票で同様のスタンスを示してくれることを期待してます。ということで前置きが長くなりましたが、カントリー系のノミネート作には、そのCMAを受賞した、クリス・ステイプルトンが2度目のノミネートになるのではないか、そうあって欲しいなあ、と思うわけです。

ということで来週日本時間の水曜日未明に発表の第64回グラミー賞ノミネーション、主要4部門の予想でした。ノミネーションが発表されたら、予想の答合わせをしながら、今年も例年同様、全86部門中51部門の受賞予想をお届けする「DJ Boonzzyの大グラミー予想」のブログをここnote.comで連載形式でお届けしますのでお楽しみに。昨年は1/11〜2/21までの40日間、11回にわたって掲載しました。今年もそれくらいになると思いますが、どうかお付き合いのほどを。

そして最後にアナウンスです。その1でちょっと触れた、音楽評論家の吉岡正晴さんとのトーク&ミュージック・イベント「ソウル・サーチン・ラウンジ〜グラミー賞スペシャル〜」ですが、一応1月20日(木)に新宿カブキラウンジでの今のところはフィジカル開催の予定が決まりました吉岡さんのアナウンスも間もなく出ると思いますのでまた詳細はこちらや自分のFacebookページなどで告知していきますので、こちらもご興味ある方は是非覗きに来て下さい。

では次はノミネーション発表後に!

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