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今週の全米アルバムチャート事情 #207- 2023/10/28付

千葉習志野CCで開催された先週末のZOZOチャンピオンシップではコリン・モリカワが見事な逆転優勝、両リーグとも第7戦までもつれて大方の予想とは反対のレンジャースダイアモンドバックスがワールドシリーズ進出することになったMLBリーグ優勝決定戦シリーズなどで盛り上がった今週、いろいろ話題の洋楽新譜もドロップされる中、皆さんいい音楽・スポーツ・読書の秋を過ごされてますか?自分は先週金曜日から結婚33周年を祝ってカミさんと二人で10年ぶりのバンコク(カミさんは初めて)を訪れて素敵なタイ情緒と最高のタイ料理を頂いて充電してきました。皆さんの秋も素晴らしいアクティビティでいっぱいでありますように!

"Nadie Sabe Lo Que Va A Pasar Mañana" by Bad Bunny

さて今週10月28日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、やはり予想通り先週比で59%ポイントを大きく落としたドレイクを抑えて、バッド・バニーのニュー・アルバム『Nadie Sabe Lo Que Va A Pasar Mañana(「明日のことは誰にもわからない」の意)』が184,000ポイント(うち実売デジタルダウンロードのみで7,500枚)で見事3枚目の1位を記録してます。今回もほぼ全面スペイン語のアルバムなので、全面スペイン語アルバムとしては、自身の『El Ultimo Tour Del Mundo』(2020、1週)、『Un Verano Sin Ti』(2022、13週)に続く3枚連続の全米ナンバーワン、スペイン語アルバムとしてはこの3枚とカロルGの『Mañana Será Bonito』(2023、1週)を含めて史上4枚目ということで、またまたバッド・バニー、アルバム・チャートの歴史に名を深く刻んだことになります。

今回のアルバムでは前作までのように全編レガトンを基調にしたものからちょっとスタイルを変えていて、先行シングルの「Where She Goes」で聴かれるようなレガトンとは違うけど、スタカートなリズムが際立ったダンスビートの曲が多いようです。これ「ジャージー・クラブ」と言って、ニュージャージーのニューアーク近辺(古い煉瓦造りの工場とか倉庫の多いエリアのため、ブリック・シティ・クラブとも言うらしい)のDJ達が2000年代後半にやり出したビートとのこと。前作で圧倒的な成功を果たしたバッド・バニー、こうやって新しいことにチャレンジし続ける姿勢があるうちは彼の天下は続くでしょうね。今回のアルバム、音楽メディア筋の評価も高く、メタクリティックで81点を叩き出してます

"The Name Chapter: Freefall" by Tomorrow X Together

そして今週惜しくもバッド・バニードレイクの後塵を拝して114,500ポイント(うち実売106,000枚で堂々今週のアルバムセールス1位)で3位に初登場してきたのがKポップの5人組ボーイズグルーブ、トゥモローXトゥゲザー(TXT)5作目のフルアルバム『The Name Chapter: Freefall』。今年2月に前作の5曲入りEP『The Name Chapter: Temptation』でとうとう全米アルバムチャートを制覇したTXT、今回は10曲入のフルアルバムでしっかり10万ポイント叩き出してきました。前作の16万ポイントには及ばないものの、今週も上の2人がいなければ充分1位を狙えたレベルの10万ポイントをコンスタントに出してるということは、今後も1位を狙えるレベルに来てるということになりますね

日本でも人気絶大のTXT、既にこのアルバムはオリコンチャートビルボード・ジャパン・チャートで1位を記録してるようです。内容的には従来のハードエッジなヒップホップ+エレクトロ路線からメインストリームなエレクトロ・ダンス・ポップ路線に寄せてきた前作の路線を踏襲しているようで、オープニングの「Growing Pain」はちょっとハードエッジなダンストラックですが、それ以降はメインストリーム寄りの良質ポップ・ナンバーで固められてて、特にここ20年一線のソングライター・プロデューサーとして活躍を続けているワンリパブリックライアン・テダーを作・プロデュースに迎えた「Back For More」と「Do It Like That」(フィーチャリング・ジョナス・ブラザーズ)なんかはもうBTSの後継グループとしてのイメージを確立するような万人向けの王道ポップナンバー。次回は2枚目の1位なるか、要注目です。

"Set It Off" by Offset

そして今週トップ10に初登場してるもう1枚は、先週予想でふれたラッパー、オフセットの『Set It Off』。70,000ポイント(うち実売25,000枚)で5位に初登場してます。ご存知昨年11月に従兄弟のテイクオフが凶弾に倒れて亡くなって以来叔父のクエイヴォと共に残されたミーゴスの片割れ、オフセットのセカンドソロで、前作『Father Of 4』(2019年4位)に続くソロとしては2枚目のトップ5アルバムになりました。そして彼に取ってはテイクオフ逝去後初の作品になります。既に去年11月頃にはできあがっていたのですが、テイクオフのこともあり今までリリースを延期していたようです。

といってもテイクオフの他界を悲しむばかりの作品というよりは、むしろ過去のミーゴスでの成功から脱却して、ピンのラッパーとしてのステイタスを確立したい、という意気込みのインタビューもあり、またカミさんであるカーディBと一連のコンテクストで語られることからも卒業したい、という思いもあるようで、アルバム全体かなりアグレッシヴなトーンによる、力強いフローのトラックが多いですね。一方、そのカーディBとのコラボ・チューン2曲「Freaky」と「Jealousy」を始め、トラヴィス・スコットドン・トリヴァー、フューチャー、ラットらの豪華ゲストや、メトロ・ブーミン、ボイ・1ダ、ウィージーといった売れっ子のプロデューサーを散りばめてしっかり売れ線も狙ってるというアルバム。メディアの評価は賛否両論のようですが、ミーゴスとしての活動は多分もうない中、今後いかにオフセットがピンとしてやっていくか、という方向性セットオフにはまずまずの内容なのではないでしょうか。

"A Great Chaos" by Ken Carson

さて久々に複数トップ10内に初登場でにぎやかな今週の全米アルバムチャートですが、今週は圏外11位から100位までにも6枚初登場してます。その中で惜しくも僅かな差でトップ10を逃したのが、11位に初登場してきた、アトランタ出身の23歳の若手ラッパー、ケン・カーソンのサード・アルバム『A Great Chaos』。前作の『X』(2022)が115位で初チャートインですから、今回大躍進で初の全米トップ20アルバムになってます。

2010年代後半にサウンドクラウドとかに自作のトラックをアップしていて、同郷の先輩、プレイボーイ・カーティに見出されて彼のレーベルと2019年に契約したのが、キャリアの始まりみたいですが、そのプレイボーイ・カーティや今回のアルバムにもフィーチャーされてるリル・ウジ・ヴァートといったあたりのトラップ・トラックに乗せてマンブル・ラップ(オートチューン使ったりしてモゴモゴいうラップ)やるスタイルのまあフォロワーなんで、個人的にはあまり興味を覚えないタイプのラッパーですね、正直言って。

"Something To Give Each Other" by Troye Sivan

続いて20位に初登場してるのが、オーストラリア出身のエレクトロ・ポップ・シンガー、トロイ・シーヴァン3作目のアルバム『Something To Give Each Other』。2010年代後半にシングル「Youth」がスマッシュヒット(2016年23位)してブレイクして、ファースト『Blue Neighbourhood』(2015年7位)、セカンド『Bloom』(2018年4位)とアルバムも好調にトップ10を決めてましたが、その後はEP『In A Dream』(2020年70位)をリリースする一方、映画のサントラの収録曲を出したり、テイラー・スウィフトReputationツアーに参加してたりしてたらしいです。

エレクトロなサウンドとポップでキャッチーな楽曲を歌うトロイラウヴとかジェイクとかLANYとかいったアーティスト達とイメージダブりますが、ややサウンド的にはEDM寄りな感じもあるあたりが個性と言えば個性かな。ポップ作品としてはかなりクオリティは高そうで、メディアの評価も高いようです(メタクリティック82点)。Kポップリスナー(特にBTSアーミー)あたりにも受けそうですね。

"And Then You Pray For Me" by Westside Gunn

29位に登場してきたのは、今年41歳になるNY州バッファロー出身のベテラン・ラッパー、ウェストサイド・ガン(本名:アルヴィン・ラマー・ワージー)の5作目になるアルバム『And Then You Pray For Me』。2020年の3作目『Pray For Paris』(67位)に続くチャートイン作品で、今回彼に取って過去最大のヒット・アルバムになってますね。

2005年にミックステープをリリースし始めたらしいけど、いろいろと法的なトラブルがあって2006〜12年は全く音楽活動してなかったという彼、当時リリースした「Hitler Wears Hermes(エルメスを着たヒットラー、プラダを着た悪魔のパロディタイトル)」とかの曲タイトルから判るように、結構シニカルなセンスのラッパーみたい。2012年以降も結構な数のミックステープをリリースしていてそれなりの固定ファンを持ってるアンダーグラウンド・ラッパーで、トラックも結構ミニマルな音作りな、オールドスクールなビートに載せて淡々とラップするというスタイル。結構こういうスタイル好きなヒップホップ・ファン多いと思うので、ちょっと要注目かもしれません。今回の順位が高いのは、タイ・ダラー・サインDJドラマ、ESTジーデンゼル・カリーといったゲスト陣を配したトラックがストリーミングを集めてるんでしょうね。

"The Surface" by Beartooth

ちょっと下がって42位には、オハイオ州コロンバス出身、ボーカルのケイレブ・ショーモ君率いるメタルコア5人組バンド、ベアトゥースの5作目『The Surface』が入って来てます。メタルバンドにしては普通っぽい出で立ちで爽やかなルックスの彼らですが、曲はしっかりドッシリしたビートのメタルナンバーをデス・ボイスで叫び歌うかと思えば、サビは急にむっちゃポップになったりとなかなか面白そうなバンドですね。

過去のアルバムもだいたいこれくらいの順位に毎回チャートインしていて、一番ヒットしたのが2016年のセカンド『Aggressive』(25位)。今回のアルバム収録の「The Better Me」では去年カントリーのレイニー・ウィルソンとのデュエットシングル「Wait In The Truck」(23位)がスマッシュヒットしたカントリー系のシンガーソングライター、ハーディがフィーチャーされたりと(でも全面ポップなメタルコア・ナンバーで、どこでハーディが出てきてるのかが不明w)結構いろんなことやってるバンドみたいです。全体的にメタルコアとしてはポップ度が高いから、日本でも受けるんじゃないかしら。

"The Rest (EP)" by boygenius

一方50位に入って来たのは、今年3月にリリースしたデビューフルアルバム『The Record』(4位)が高い評価を集めた、フィービー・ブリッジャーズ、ジュリエン・ベイカー、ルーシー・ダカスの今を代表するオルタナ・フォーク・シンガーソングライター3人によるスーパーグループ、ボーイジニアスの2枚目になるEP『The Rest』。『The Record』の方は、今度のグラミー賞の最優秀アルバム部門ノミネートの可能性もあると個人的には思ってる名盤ですが、今回わずか4曲入りとはいえ、こちらも珠玉の楽曲が楽しめる作品です。

多分、冒頭のジワジワとカタルシスに昇り詰めていくタイプの「Black Hole」はジュリエン、バックにスティール・ギターの音色を配し、淡々としてフォーキーな「Afraid Of Heights」はルーシー、ドリーミーな世界観を展開する「Voyager」はフィービー、そして最後アコギをかき鳴らしながらジュリエンが歌うバックにフィービールーシーのコーラスが絡む「Powers」はジュリエンがそれぞれ中心になって書いたんだろうなあ、というのが判るのもファンとしては楽しいところ。何と言っても3人の自信というか、腰を据えて書いたと思われる楽曲の作り出す雰囲気が、中心になってる書き手は違えど、ボーイジニアスとしての世界観をしっかり表現してるのがいいですね。秋のこの時期にもピッタリです。

そして今週圏外100位まででの最後の初登場は、79位に入って来た、アラバマ州ジャクソンヴィル(フロリダではなく)出身のカントリー系シンガーソングライター、ライリー・グリーンのセカンド・アルバム『Ain’t My Last Rodeo』。彼にとっては2作目の全米トップ100で、これまでの最大のヒット作になっています。最近のカントリー・シンガーというと、ポップ・カントリー系の多くのアーティストや、ザック・ブライアンに代表されるアメリカーナ系のアーティストが多いのですが、彼は最近では珍しくいわゆるネオトラディショナル・カントリー・シンガー。といってもジェイソン・オルディーンのように右傾しているわけでもなく、タイトルに「ロデオ」なんて言葉を使うくらい、伝統的なカントリー・ミュージックの発声法やスタイルをフォローしてる、古風なヤツです。

ファースト・アルバムの『Different ‘Round Here』(2019年95位)からは「There Was This Girl」(70位、カントリー11位)と「I Wish Grandpas Never Died」(66位、カントリー12位)の2曲がクロスオーバーヒットしてましたが、このアルバムからは今のところHot 100にはクロスオーバーしてるヒットはないようです。その代わり、その前作のタイトルナンバーを、ルーク・コムスとコラボして再録してますし、今旬のジェリー・ロールをフィーチャーした「Copenhagen In A Cadillac」なんかはエレクトリック・ギターを前面に出してちょっとアメリカーナ風だったりして、なかなかこれはこれで楽しめる内容になってますね。ちょっと硬派なカントリーに興味のある方は是非チェック下さい。

今週は100位までに計9枚の初登場と、久しぶりに賑やかなアルバムチャートになりました。一方Hot 100の方では、2019年リリースのアルバム『Lover』に収録されてたテイラーの「Cruel Summer」が、Erasツアーの大成功とこのツアーの映画の好調な興業成績もあってとうとう今週ドレイクを蹴落として1位になってます。今回この曲のErasツアーからのライブ・バージョンがストリーミングやデジタル・ダウンロードでも提供されたのが1位到達に大いに貢献してるようですね。それに連動して、このアルバムチャートでも、『Lover』が先週、今週とランクアップして今週は8位にいます。最初のリリースから4年かけて1位になったわけで、古くはシェリフの「When I’m With You」(1983年リリース、1989年1週1位)、最近でもザ・ウィークンドの「Die For You」(2016年リリース、2023年アリアナ・グランデをフィーチャーしたバージョンが1週1位)と、リリースからかなり時間が経ってヒットするパターンの最新のケースということになりますね。昔はその要因が、シェリフの例のように忘れられた曲をラジオのDJがかけて火が付く(しかもヒット当時は既にバンドは解散済)、というものだったわけですが、最近はSNSTikTokで取り上げられたり、リミックス・バージョンがリリースされたりと、スリーパー・ヒットのパターンも時代の変遷でいろいろ変わってきてるのが興味深いところです。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Nadie Sabe Lo Que Va A Pasar Mañana - Bad Bunny <184,000 pt/7,500枚>
2 (1) (2) For All The Dogs - Drake <164,000 pt/949枚*>
*3 (-) (1) The Name Chapter: Freefall - Tomorrow X Together <114,500 pt/106,000枚>
*4 (5) (8) Zach Bryan - Zach Bryan <73,000 pt/24,000枚>
*5 (-) (1) Set It Off - Offset <70,000 pt/25,000枚>
6 (2) (33) One Thing At A Time - Morgan Wallen <69,000 pt/1,779枚*>
7 (3) (5) Nostalgia - Rod Wave <53,000 pt/161枚*>
*8 (10) (217) Lover - Taylor Swift <52,000 pt/9,041枚*>
*9 (7) (52) Midnights ▲2 - Taylor Swift <51,000 pt/8,472枚*>
10 (4) (6) Guts - Olivia Rodrigo <49,000 pt/11,184枚*>

といういことで先週のドレイク祭りからバッド・バニー祭りとなった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:10/20~26)ですが、これがなかなか悩ましい。既にシニアファンの間で久々の傑作との評判高いストーンズの新譜が10万ポイント叩き出せるか?がキーですが、前作のブルースアルバム『Blue & Lonesome』(2016年4位)のときは実売12万枚売ってますから、同じくらい叩き出せれば、ひょっとするとちょっとストリーミングが目減りしたバッド・バニードレイクの上に来るかも?ということで来週はストーンズの『Tattoo You』以来41年ぶりの1位を予想しておきます。それ以外でトップ10にはブリンク182が入ってきそう。ではまた来週。

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