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今週の全米アルバムチャート事情 #198- 2023/8/26付

先週末のサマソニも大盛況のうちに終わって夏のフェスシーズンも一区切り。一方スポーツの方は甲子園はいよいよ決勝を迎える中、MLBは最後の40試合に突入。残念ながら大谷翔平エンジェルスのポストシーズン進出はほぼアウトになりましたが、ここからは大谷選手の個人記録達成と各賞(HR王、サイ・ヤング、MVP)獲得を楽しみにしながら、ポストシーズンでの他の日本人メジャーリーガー達の活躍を応援することにします。まだまだ暑さが続く中、皆さんも体調には気をつけて音楽楽しんでください。

"Utopia" by Travis Scott

さて今週8月26日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、ほぼ先週の予想どおり、トラヴィス・スコットの『Utopia』が3週目の首位をキープしてるんですが、意外だったのは今週ポイントが先週の147,000ポイントから185,000ポイントに何と26%もアップしていること。発売3週目でのポイントアップは何か特別な事情がない限り普通あり得ないので、何だ何だ?と調べたところ、どうもトラヴィスのサイトで、期間限定のヴァイナル・ディスカウント(通常50ドルのヴァイナルが5ドル!自分も買いたいw)してたのが原因のよう。これによって実売が99,000枚(対先週比169%アップ)でそのうち93,000枚がヴァイナルらしいから、チーム・トラヴィスのマーケティングは大成功なんですが、これ、リリース直後にヴァイナル買ったファンは怒ってるんじゃないかなあ。まあ、2位で今週ジワッとポイントを増やしているモーガン野郎の首位復活よりはましではありますが。

シングルの方は既にHot 100でも、そしてSpotifyのデイリー・チャートの方でも来週対象分(8/18付)のチャートではほぼほぼトップ10からは消えてしまっているし、そもそもストリーミングのポイントも対先週比22%減という、ヒップホップ系には珍しいポイント推移パターンを辿ってるので(トラヴィスのファンはストリーミングよりも自分で音源確保して聴くファンが多い、ということなんだろうと思う)来週あたりは今週の反動で10万ポイントを割って来そう。ただ作品としての内容は再三ここにも書いているように素晴らしいと思うので、やっぱりヴァイナル買おうかなあ

"Mañana Será Bonito (Bichota Season)" by Karol G

そして今週3位に初登場してきたのは、何と今年3月にアルバム『Mañana Será Bonito』が女性アーティストによるオールスパニッシュ・アルバムの史上初の1位を記録したカロルGの『Mañana Será Bonito (Bichota Season)』でした(67,000ポイント、うち実売17,000枚)。え?これってこの間の1位のアルバムのデラックス・バージョンか何かじゃないの?であれば初登場って変じゃない?と思ったんですが、実はこの2枚、タイトルは紛らわしいですが、収録曲は全く異なる別アルバム(唯一、1位のアルバム収録の「Provenza」のティエストによるレイヴ・リミックス・バージョンが収録されてるだけ)なんですよね。「明日はきっと素敵な日になる」という意味のこのアルバム・タイトル、カロルGがかなり気に入ってるみたいです。

本来レガトン・シンガーのカロルGですが、この間1位になった前作は、フィニアスがプロデュースに入ってるビリー・アイリッシュ的インディ・ポップとか、キャッチーなポップ・アレンジの曲とかがふんだんに盛り込まれたとっても聴きやすいポップ・アルバムになっていたところ、今回はより本来のレガトン・スタイルに寄せた楽曲が多くなっています。とはいいながら、Kポップの影響大と思われるハイパー・ポップ風味のレガトン・ナンバー「Oki Doki」(最後のところでいきなり「あなたが悪い。私の人生は私のもの。思ったよりもいい感じ。前よりも楽しんでる」と入る日本語の女性は誰だろう?)や、コロンビアの歌姫カリ・ウチスをフィーチャーしたトロピカルなレゲエ・ナンバー「Me Tengo Que Ir」など、レガトン一辺倒でないあたり、相変わらずカロルGの魅力炸裂!という内容ですね。大体野郎がやるレガトンっていうと聴き始めて30秒で大体「もういいわ」ってなるんだけどカロルGがやると何となく楽しく聴けてしまうのは何故だろう?単に自分が女好きなオヤジってことかしら(笑)。

"A Love Letter To You 5" by Trippie Redd

ということでトップ10初登場はカロルGの1枚だけでしたが、圏外11位から100位までの初登場も今週はわずか1枚と、強力新譜が少なめの週です。その1枚は、先週予想で1位を争うのでは、と言ってた、トリッピー・レッドのミックステープシリーズ第5弾の『A Love Letter To You 5』の13位初登場。最近4万ポイント台のテイラーのアルバムがどんどんトップ10に再登場してる関係もあって、45,000ポイントくらいないとトップ10に入れなくなってきてますが、今回のこの順位だとおそらく3万ポイント台だったと思うので、いずれにしても1位を争うにはかなり地味だったということになりますね。このシリーズの前作『A Love Letter To You 4』が10万ポイント(うち実売14,000枚)を叩き出して見事彼にとって初の1位を決めていたのに比べるとちょっとトーンダウンした感じです。今年の1月にリリースしたドリル風味バリバリの『Mansion Musik』の3位初登場、56,000ポイントからもかなりポイントを下げてやや下降気味。

個人的にこの人についてちょっと評価しているのは、赤毛のドレッド(今回のジャケでは青毛ですがw)というかなり危ないルックスの割に、トラップやドリルバリバリではなく、エモっぽい正統派のフロウも聴かせるあたりで、トラックもトラップ一辺倒のどこかのラッパーとかに比べるとそれなりにいろいろ工夫しているところ。今回は24kゴールデンの「Mood」やキッドLAROIの「Stay」なんかの共作・プロデュースで知られるオメール・フェディをアコギでエモに迫る「Praying 4 Love」で起用している他は結構若手のサウンドメイカー達を起用してますが、全体はこれまで以上にエモっぽく迫ってて、これなかなか聴けます。何よりもトリッピー、今回はほとんどラップしてない!歌ってます。いよいよトリッピーポスティ化してきたのか、という感じですが、「A Love Letter To You」という、トリッピーなりのラブソングを届けるというこのミックステープ・シリーズも今回がこれで最後、ということなので、この後の作品はまたトラップっぽい方向性に戻るのか、それともこのエモ路線を継続するのか、ちょっと興味のあるところです。

以上今週の100位までの初登場は2枚。トップ10では相変わらずテイラーが4枚チャートインさせていますが、今週は先週9位にいた『Folklore』がトップ10圏外に下がって、代わりに次の再録プロジェクトの対象となることがアナウンスされた『1989』が9位に再登場しています。チャートイン453週目ということはもう9年くらいチャートインし続けていることになりますね。
一方、Hot 100の方では今週オリヴァー・アンソニー・ミュージックなる赤毛の赤髭のカントリーシンガーの「Rich Men North Of Richmond」なる曲がいきなり初登場1位を決めてます。この曲、集計期間の初日にいきなりSpotifyのデイリーチャートで1位に入って「何者?」と一部で話題になっていたのですが、シンプルなアコギで聴かせる曲の歌詞が「俺は日がなクソみたいな給料で朝から晩まで残業続き/俺みたいな人たちにはひどい世の中になってる/リッチモンドの北の金持ち連中は俺たちの考えや行動を監視して世界をコントロールしてやがる/こんな奴等のせいでドルもボロボロだし税金は取られっぱなし/政治家もいい加減俺らみたいな人達のことを考えてくれや」(ちなみに「リッチモンドの北の金持ち」というのはワシントンDCにいる政治家や事業家達のことを言ってますね)と、経済が下降気味のアメリカ大衆の嘆き節を代表するような内容で、これがかなり広く共感を呼んでるようです。内容的にはこの間のジェイソン・オルディーンの曲ほど右翼な感じはしませんが、共和党支持者や極右の連中が飛びついてるという情報もあり、こういう曲がいきなり初登場1位というのもなかなか気持ち悪いものだありますね。なお、この曲のヒットでオリヴァー君、35万ドルほどのロイヤリティ収入があったというビルボード誌の報道もあり、嘆いてる本人が金持ちの仲間入りしてるじゃねーか、ってな突っ込みも入ってる模様です(笑)。ということで今週のトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (1) (3) Utopia - Travis Scott <185,000 pt/99,000枚>
2 (2) (24) One Thing At A Time - Morgan Wallen <94,000 pt/3,406枚*>
*3 (-) (1) Mañana Será Bonito (Bichota Season) - Karol G <67,000 pt/17,000枚>
4 (3) (4) Barbie: The Album - Soundtrack <65,000 pt/13,096枚*>
5 (4) (6) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <61,000 pt/22,501枚*>
6 (5) (43) Midnights ▲2 - Taylor Swift <58,000 pt/13,579枚*>
*7 (6) (208) Lover ▲3 - Taylor Swift <54,000 pt/11,537枚*>
8 (8) (8) Génesis - Peso Pluma <46,000 pt/92枚*>
*9 (13) (453) 1989 ▲9 - Taylor Swift <45,000 pt/5,298枚*>
10 (10) (136) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <44,000- pt/730枚*>

ということで今週もトラヴィスが好調だった「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:8/18~24)。来週は多分トラヴィスが10万割るので、10万ポイント叩き出せる新譜であれば問題なく1位取れると思うんですが、今週リリースの新譜、結構強力なやつが目白押しです。その中でもヒップホップ系ということでクエイヴォが1位を狙える最右翼ですが、一つ気になるのが昨年デジタルリリースのみで17位と今一つだったBTSj-ホープの『Jack In The Box』の5曲ボートラ入のCDがリリースされること。これ、アーミーが結集すると1位十分ありますね。それ以外にトップ10に入って来そうなのがESTジー、白人ラッパーのラス、アイルランド人シンガーソングライターのホージャー(前作は1位)、そして去年のグラミーを席巻して来年早々来日が決まったジョン・バティーストあたりでしょうか。ではまた来週。

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