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今週の全米アルバムチャート事情 #155- 2022/10/29付

MLBポストシーズンもいよいよ大詰め。残念ながらダルヴィッシュパドレスも、ジャッジヤンキースもワールド・シリーズに進むことはできず、昨日土曜日から始まったWSはアストロズ対フィリーズという、正直個人的にはあまり思い入れが感じられないマッチアップになってしまいました。こうなったら元エンジェルスの二人、シンダーガード(彼は元メッツでもある)とマーシュがいるフィリーズを応援しますかね。いきなり昨日の初戦勝ってしまったフィリーズの方が今の勢いではややエッジがあるように思いますがどうでしょうか。アストロズの投手陣とハーパー・ホスキンス・シュワーバーの勝負という気がします。予想:4勝3敗でフィリーズ優勝

"It's Only Me" by Lil Baby

さて今週は公私ともに忙しかったので、このシリーズ初のチャートの日付よりも遅い記事のポストになってしまいました。その10月29日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は先週予想した三つ巴のうち、リル・ベイビーの新譜『It’s Only Me』が216,000ポイント(うち実売6,500枚)という、久々に力強いポイント数を積み上げて他の2組を抑えて今週トップを獲得(UKチャートではその三つ巴の組合せで3位に甘んじてますが)。8月にビヨンセRenaissance』が30万ポイント超でトップを決めて以来、ずっと10万ポイント前後の攻防が続いていたので、今回のリル・ベイビーのこのポイントはダントツ感があります(2位のバッド・バニーは72,000ポイント)。

そのダントツ感はHot 100の方にも反映されていて、「California Breeze」(4位初登場)、「Forever」(同8位)と「Real Spill」(同10位)の3曲のトップ10初登場を筆頭に、このアルバム収録の23曲全曲が今週Hot 100内にランキングされているという、リル・ベイビー祭状態。前作『My Turn』(2020年1位)ではBlackLivesMatterを強烈にアピールした「The Bigger Picture」でシーンからもファンからも大きな支持を得て一気にメジャーブレイクして、2020年のアップル・ミュージック・アウォードでは年間最優秀アーティスト(全ジャンル)を受賞するなど話題満載でしたが、今回はそういう社会的背景を反映した内容というより、彼のMCとしての実力がしっかり発揮された、そんな感じの作品になっているようです。ウィージーマーダ・ビーツ、テイ・キースなど今一番旬のヒップホップ・ヒット・プロデューサー達を配してサウンドも万全。エリー・ゴールディングの「Don’t Say A Word」をサンプリングした先行シングル「In A Minute」(最高位14位)とかもなかなかタイトですね。

"Return Of The Dream Canteen" by Red Hot Chili Peppers

そのリル・ベイビーに思いの外離されて、63,000ポイント(うち実売56,000枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で3位初登場となったのは、半年前に初登場1位を取った前作『Unlimited Love』から間をおかずにリリースされた、レッチリの『Return Of The Dream Canteen』。10年ぶりのフルシャンテの復帰で一気に創作意欲が刺激されたのか、今回の音源は前作の録音時に収まりきらなかったものを集めたリリースのようです。メンバーもインタビューで「この2枚のアルバムは併せて聴いてもらいたい。どっちもヤバいから」と言ってますねえ。今回もプロデュースは名匠リック・ルービン。UKではこの後出てくるザ・1975に抑えられて2位初登場です。

前作と同じセッションで録音された内容というだけあって、前作同様ソリッドなミクスチャーなグルーヴ感満点なレッチリ節のロック・ナンバーが並んでいる今回のアルバム、前作が良かっただけに勢いでこのアルバムもゲットしたファンも多いのは大いに納得できる、そんな内容ですね。アルバムの雰囲気は前作が『Californication』を思わせたのに対して今回はファンクっぽい曲が多くて『Blood Sugar Sex Magik』をちょっと思わせる感じ。先週までロック・エアプレイ・チャートの首位を3週走っていた先行シングルの「Tippa My Tongue」も、ブチブチのカッコいいファンク・ナンバーです。

"Being Funny In A Foreign Language" by The 1975

続いて32,500ポイント(うち実売19,500枚)と前作『Notes On A Conditional Form』(2020年4位)の初週54,000ポイントから大きくポイントを下げて今週7位に初登場したのが、ザ・1975の『Being Funny In A Foreign Language』。しかし相変わらず本国UKでの人気は絶大で、今回UKでは5作連続ナンバーワンを決めています。今年のサマソニにも3年ぶりに来日、来年4月には単独公演が予定されて日本でも人気の高い彼らなので、このアルバムからの曲が来年の日本のライブでは存分に聴けることと思います。

今回も冒頭はグループ名を冠した「The 1975」(前作ではグレタ・トゥーンベリさんのスピーチのサウンドビットが入ってたやつ。今回はこれまでで一番アップビートな曲調かも)で始まるこのアルバム、今回もこれまでの作品に劣らず彼ららしいエレクトロでタイトでポップなトラックがぎっしり詰まってますね。今回は最近のテイラーラナ・デル・レイ、St.ヴィンセントらの傑作アルバムを手がけて、今年のグラミー賞の最優秀プロデューサー部門を受賞していたジャック・アントノフを迎えてますが、それによって彼らの作風が変わった感じもあまりなく(強いて言えばちょっとポップ度が増したかも)、変わらずソリッドな作品に仕上がってます。各音楽誌の年間ランキングにもまた上位に入ってきそうです。

"Leave The Light On" by Bailey Zimmerman

今週トップ10最後の初登場は、今年既に「Fall In Love」(Hot 100 29位、カントリー6位)、「Rock And A Hard Place」(同24位、2位)そして「Where It Ends」(同32位、7位)とデビュー早々クロスオーバーなスマッシュ・ヒットを放っているイリノイ州ルイヴィル出身のカントリー・シンガーソングライター、ベイリー・ジマーマンのデビューEP『Leave The Light On』が何と今週32,000ポイント(うち実売4,000枚)で9位に初登場。デビューしたてのカントリーシンガーとしては破格のヒットになってます。

実売よりもストリーミングポイントで稼いでいるのは、彼のブレイクのきっかけが、TikTokで自作の曲をアップしたのがスポティファイのヴァイラル・チャートに入ったという経緯からでしょうね。ブレイクへのアプローチはいかにも今時風ですが、彼は10代の頃から地元の精肉工場やガスのパイプラインの仕事で苦労したという、叩き上げのブルーカラー・ワーカー出身のカントリー・シンガーで、こういう経歴の人って最近では珍しいと思います。だからという訳でもないのかもしれないけど、一緒に生涯を誓った彼女とある過ちから別れ別れになってしまった、という内容のヒット中「Rock And A Hard Place」なんか聴いてると、その実直で誠実な感じの人柄が偲ばれるような曲調で好感度高いです。歌声にも説得力ありますね。ザック・ブライアンに続いて今年注目のカントリー系シンガーです。

"Stick Season" by Noah Kahan

さて、今週11位以下100位までの初登場アルバムは4枚。トップは14位に初登場してきたのは、こちらも3枚目のアルバムで初めてチャートブレイクした、東海岸北部のヴァーモント州出身のフォーク系シンガーソングライター、ノア・カーンNoah Kahan、日本のメディアでは「ノア・カハン」と言ってるみたいですが、彼が紹介されてる動画などでは「カーン」と言ってるのでそちらを採用します)の『Stick Season』。先程のベイリー・ジマーマンは70年代イーグルスの系譜を感じさせる、ロック寄りながら典型的ナッシュヴィル・サウンドのカントリー・シンガーですが、こちらのノアはちょっと聴くと明らかにボン・イヴェール以降の21世紀的オルタナ・音像ロックや、マムフォード&ザ・サンズ、ルミニアーズあたりの伝統の香り持つアメリカーナ・フォーク・ロックあたりの影響を強く感じさせます。

そのマムフォードルミニアーズを彷彿とさせるスケールの大きいフォーク・ロック「Northern Attitude」で始まり、70年代初頭シンガーソングライターっぽい彼の魅力が全開の、アコギ一本のタイトル・ナンバーや「All My Love」など、冒頭の数曲でぐっと引き込まれる素晴らしいアルバムで、うちのカミさんなんかもこれを流してると「いいねえ」と気に入った様子。ザック・ブライアン同様、基本SNSにポストしてスポティファイのヴァイラル・チャートでブレイクするというパターンもあり、フィジカルよりもストリーミング主体というのがいかにも2020年代ですが、届けてくれる音楽は伝統と新鮮さを見事にバランスしているまさにアメリカーナ、という感じ。上記のアーティストのファンには強くおすすめします

"A Very Backstreet Christmas" by Backstreet Boys

続いて17位に入ってきたのは、この時期になるとぼつぼつ出始めるクリスマス・アルバムの先頭を切ってチャートインしてきた、何とバックストリート・ボーイズのその名もベタな『A Very Backstreet Christmas』(笑)。1位を取って彼らの20年ぶりの復活を印象づけた前作『DNA』(2019年)以来3年ぶりのアルバムですが、このクリスマス・アルバムは2020年に予定されていたその『DNA』の2回めのサポート・ツアーがコロナでキャンセルされたために、2021年3月から制作を始めてたというもの。実は昨年のこの時期リリース予定で、それに合わせてラス・ヴェガスのクリスマスにフォーカスしたレジデンシー(アーティストが特定のコンサート会場と契約し、一定期間継続的に出演すること)も予定されていたようなのですが、こちらもコロナでキャンセル。結果、このアルバムが今年リリースの運びになったという経緯のようです。

内容は誰もが知ってる定番クリスマス・ソング7曲に、ワムの「Last Christmas」、ダニー・ハサウェイの「This Christmas」、ダン・フォーゲルバーグの「Same Old Lang Syne」といったポピュラーな定番曲のカバー、そして「Christmas In New York」などオリジナルのクリスマス・ソング3曲という構成。まあ、この時期コストコウォルマートでホリデー・ショッピング客がレジに並んでる横にこういう季節モノのCDや有名アーティストのベスト盤のCDが山積みにされていて、思わずカートにひょいと入れる、というのがパターンですが、その感じでこのアルバムもきっとよく売れてるんでしょう(今週約2万枚売れてるそうです)。こういうのが一枚あるとホーム・パーティとか便利ですもんね

"Pawns & Kings" by Alter Bridge

ちょっと下がって35位に入ってきたのは、今週UKアルバム・チャートでも6位に初登場と英米で話題が集まっているフロリダ州オーランドのアリーナ・ロックなハードロック・バンド4人組、オルター・ブリッジの7作目『Pawns & Kings』(実売14,000枚)。ご存知の方も多いと思いますが、このオルター・ブリッジ、2000年前後に全米で絶大な人気を誇ったバンド、クリードがボーカルのスコット・スタップと他メンバーの問題もあって2003年に活動休止した後、スコット以外の3人がボーカル・ギターのマイルス・ケネディスラッシュのバンドなどに参加)を加えてスタートしたバンドです。クリードの路線とほぼ同じですが、叙情性はクリードほどの芝居っ気は薄く、ソリッドなロックを聞かせるバンド。

この手のバンドが全米で人気あるのはとても理解ができますし、デビュー作『One Day Remains』(2004年5位)と『The Last Hero』(2016年8位)の2枚のトップ10を含み、これまでの6作はすべてトップ20入りしてますが、このバンドUKでも結構人気あって、今回が5枚目のトップ10。いかにもイギリス人に受けなさそうな重厚なアリーナ・ロックなんですが、マイルスのボーカルとかが微妙にスパイスになって受けてるんでしょうか。

"Young Forever" by Nessa Barrett

そして今週100位までの初登場の最後は、80位に初登場、ニュージャージー州出身、今年二十歳の女性シンガーソングライター、ネッサ・バレットのデビュー・アルバム『Young Forever』。2021年にリリースしたEP『Pretty Poison』からの曲「I Hope Ur Miserable Until Ur Dead」と明らかにビリー・アイリッシュを意識したようなテーマで、ハードな方のオリヴィア・ロドリゴっぽいポップ・パンクな曲が小ヒット(Hot 100 88位)したのを受けて、まあ満を持して出したのが今回のアルバム。

どんよりしたエレクトロな音像をバックにウィスパー・ボイスで、内省的、自閉症的な歌詞を歌うスタイルといい、時々ポップ・パンクに振れるキャッチーさといい、正直聴いててビリーオリヴィアなど、ここ数年ブレイクした今どきの女性シンガーソングライターの言葉は悪いですが二番煎じという感じがして、個人的には「別に彼女でなくてもいいんじゃね?」と思ってしまうのですがどうでしょうかね。

以上、今週の100位までの初登場アルバムは8枚でした。今週のトップ10、ここでおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) It’s Only Me - Lil Baby <216,000 pt/6,500枚>
2 (2) (24) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <72,000 pt/3,151枚*>
*3 (-) (1) Return Of The Dream Canteen - Red Hot Chili Peppers <63,000 pt/56,000枚>
4 (4) (93) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <45,000 pt/1,166枚*>
5 (5) (88) The Highlights - The Weeknd <40,000 pt/581枚*>
6 (3) (12) Renaissance - Beyonce <33,000 pt/7,000-枚>
*7 (-) (1) Being Funny In A Foreign Language - The 1975 <32,500 pt/19,500枚>
8 (6) (22) Harry’s House ▲ - Harry Styles <32,000 pt/6,500枚>
*9 (-) (1) Leave The Light On - Bailey Zimmerman <32,000 pt/4,000枚>
10 (8) (22) American Heartbreak - Zach Bryan <28,000 pt/733枚*>

Hot 100の方ではリルベイビー祭状態の『It’s Only Me』が力強く1位に初登場の今週の「全米アルバムチャート事情!」、いかがだったでしょうか。さて既に巷で話題になってますが、来週は今週のリルベイビーを遥かに上回る勢いでのテイラー祭りになりそうです!来週のチャートの集計期間の初日、先週金曜日10/21にリリースして数日で既に100万枚売り上げたという彼女の新作が来週は1位間違いなし。その他トップ10に来そうなのは、ついこの間新作ミックステープを出したばかりのヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインや、ジージーDJドラマのコラボ作などのヒップホップ勢の他、アークティック・モンキーズ4年ぶりの新作あたりか。ではまた来週。

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