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DJ Boonzzyの選ぶ2022年ベスト・アルバム トップ10(完結編)

やっとトップ10まで辿り着きました「DJ Boonzzyの2022年ベストアルバム」。ここまでのランキングはいかがでしたか?あなたのベストアルバムリストにも入るよ、というものもあったと思いますが、あなたがたまたま巡り会っていなくて、この記事で初めて知ったアーティストやアルバムであなたの気に入ったものが一つでもあれば、書き手としてはうれしい限りです。自分の洋楽の軸はブラック・ミュージックとアメリカーナ・ルーツ・ロックですが、これまではその2つがいい感じで渾然一体になってるような気がします。ちなみにこれまでのランキングを紅白歌合戦的視点から見ると、紅組(女性または女性リードボーカルのグループ)10組、白組(男性または男性リードボーカルのグループ)19組、不明1組(23位のDOMi & JD BECK)とやや白組優勢ですがこのトップ10でどうなりますか。ではトップ10のカウントダウンに参ります。

10.Age Of Apathy - Aoife O'Donovan (Yep Roc)

イーファ・オドノヴァンの名前を知ったのは、ピーター・バラカン氏の番組で2017年頃に紹介されたアメリカーナ3人娘のグループ、アイム・ウィズ・ハー(I'm With Her)のメンバーとして。IWHの彼女以外の2人は、元ニッケル・クリーククリス・シーリー(今パンチ・ブラザーズのリーダー)と組んでいたフィドル担当のサラ・ワトキンスと、当時アルバム『Undercurrent』(2016年117位)で注目を集めていたマンドリンのサラ・ジャローズで、他の2人は知ってたのでこのイーファ(アイリッシュ系の名前のようですね)って女性、誰?という感じだった。IWHでは主としてギター担当のイーファが実はアメリカーナの分野では既にシンガーソングライターとして広く知られた存在で、あのアリソン・クラウスが彼女の曲「Lay My Burden Down」を自分のアルバム『Paper Airplane』(2011、名盤!)でカバーしてたというのを知ったのはそのちょっと後のことだった。しかしそうでなくとも彼女の澄みきった歌声はとても当時印象に残っていたものだ。

そして今年の初めに届いた彼女のソロアルバム。クレジットを見ると、アメリカーナの分野ではデイヴ・コッブ、シューター・ジェニングスと並んで自分が信頼するジョー・ヘンリーがプロデュースしてるではないの!これは聴かなくちゃ、というのでたちまち気に入ったというわけ。ジョー・ヘンリー自身のアルバムにも通じる、独得の音響感を持った楽器の鳴らし方で作り上げられた浮遊感ある音像をバックに聞こえてくるイーファの澄み渡ったようなボーカルがまず美しい。またこのアルバムには自分の今年の年間アルバム21位に入れてたマディソン・カニンガムとの共演が2曲(そのうちアルバムラストの「Passengers」ではマディソンがギターでも参加)、今年の第64回グラミー賞の最優秀アメリカーナ・アルバムに『Outside Child』がノミネートされていた白黒混血のシンガーソングライター、アリソン・ラッセルとの共演が3曲(うち「Prodigal Daughters」は今回第65回グラミー賞最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門にノミネート)と、いずれも自分の好みの女性シンガーソングライター達との共演がうれしい。しっとりとした情感たっぷりのバラードあり、アップテンポの軽快なナンバーありといろんなイーファが聴けるこのアルバムは今年の夏、よく聴いていたな。ちなみにヴァイナル買うと、収録曲全曲のアコースティック・バージョンも楽しめる。

9.Brightside - The Lumineers (Decca)

14位で紹介したザ・ドーズ同様、このルミニアーズも確か前回参戦の2019年フジロック・フェスティバルフィールド・オブ・ヘヴンでのステージを観てシビれたのがのめり込むきっかけ。当時はこのアルバムの前作『III』(2019年2位)リリース直前で、先行シングルの「Gloria」の骨太でR&Bっぽくてカッコいいアメリカーナなパフォーマンスに、ルミニアーズってあの「へい、ほー!」っていう歌のバンド、っていう先入観が吹き飛んで一発でファンになってしまったのを覚えてる。帰ってきていそいそと彼らのアルバムを買い集めたっけ。

だから今年に入ってこの新作が出た時もすぐにストリーミングで音を聴いて、あの力強いながらも哀愁感たっぷりなアメリカーナ・サウンドが健在で、しかも耳に残るメロディやフックの楽曲が前作より粒揃いだったので即購入。「Where We Are」や「Birthday」なんて、次ライブで日本に来たら絶対オーディエンスが一体になって一緒に歌えるうただし、ピアノが印象的でしんみりと聴ける「Rollercoaster」や、ファジーなギターのイントロから後半ドラマチックに盛り上がるアルバムタイトル曲など、ライブ映えしそうな曲が満載のこのアルバムも、夏頃はウォーキングの時によく聴いていた愛聴盤です。

8.Lavender Days - Caamp (Mom + Pop)

このオハイオ州出身のフォーク・ロック・バンド4人組、キャーンプ(Caamp)も、ここnote.comで毎週投稿している「全米アルバムチャート事情!」の記事を書くのでアンテナに引っかかって来たバンドだ。このアルバムがBillboard 200の83位に入って来たとき、先行シングルの「Believe」がトリプルA(アダルト・オルタナティブ・ロック)チャートの1位になってたのは知ってたけど、そのバンド名できっと普通のオルタナ系のロックバンドだろうと思ってたから、記事書くので「Believe」を聴いたらコーラスワークの美しい、ザ・バンドをちょっとポップにしたようなガッツリ自分のツボのアメリカーナ・ナンバーだったんでこれも一発で気に入ってしまった

後でしらべたら、この5作目のアルバムがBillboard 200初チャートインなんだけど、これ以前のアルバムからの曲も2曲ほどトリプルAで1位を取ってたりしてて、実はファンのマグマがじわじわ蓄積していたことが判った。しかしこのバンドのこのアルバムはいい。リード・ボーカルのテイラー・マイヤーのちょっとハスキーな歌声にたまらない哀愁と暖かさを感じるし、楽曲もいずれもこの前のルミニアーズと同様、ギターやバンジョーなど、アコースティックな楽器中心の演奏で、メロディもぐっとくる曲が多い。個人的には今年一番のめっけもんでした。アメリカーナ・ファンの方、必聴ですぞ!

7.The Tipping Point - Tears For Fears (TFF UK / Concord)

え?ティアーズ・フォー・フィアーズ?今年のアルバム?なーんて、最近の音を追っかけてない僕らと同年代の洋楽好きの人、思っちゃうんでしょうね。そうです、今年TFFの2人は何と18年ぶりに新譜をリリースしたんですわ。そして何と驚くべきことにこのアルバムがまた素晴らしいんですわ。いやいやこれはノスタルジアでもなく、80年代の彼らの大ヒットの残像が頭に残っての贔屓の引き倒しでもないんです。今2022年のサウンドとしても充分通じる音作りながら、あのTFFの素晴らしさがギッシリ詰まっている、そんなアルバムなんです。

瑞々しいアコギのイントロからローランドの深みのあるボーカルがこれから始まる素晴らしいショーの予感を掻き立てるオープニング・ナンバーの「No Small Thing」、このアルバムを作るきっかけになったここ数年のコロナや世界における分断状況を憂える内容でサウンドは正に80年代のあのTTFを感じさせるアルバムタイトルナンバー、メロディからフックにかけてのコードの流れとギターサウンドがひたすら気持ちいい「Break The Man」、ローランド自身が「ちょっとデペッシュ・モード入ってるかも」と言ってる、ちょっとダークながらファンキーなサウンドがクールな「My Demons」などなど、18年のブランクにしてこのカッコ良さ、楽曲の素晴らしさは驚きで、個人的には今回のグラミー賞にノミネートされなかったの「マジか?」と思ったほど。何でも今回の新作作りは2013年頃から始めたらしい。最初はレコード会社から今時のアーティストとコラボして今風のアルバムを作れと言われたけど結局うまくいかなくて、結局全曲TTFだけでコラボ一切なしの作品になったとのこと。いやあこの出来だったらコラボなくて全然オーケーでしょ。あの頃のTTFのカッコ良さを知ってる自分と同世代の皆さんには特に是非聴いて欲しいアルバムです。ホントいいから

6.Love Songs For Losers - The Lone Bellow (Dualtone)

NYブルックリンからとてつもなく哀愁感たっぷりでソウルフルなアメリカーナ・ロックを毎回届けてくれる男女3人組のザ・ローン・ビロウ。彼らを知ったのは2015年のセカンド・アルバム『Then Came The Morning』(最高位44位)。絶頂期のザ・バンドを彷彿とさせるような哀愁とダウン・トゥ・アースなソウルフルネスを強烈に感じさせるタイトル曲にノックアウトされた自分は、この作品を2015年の自分の年間ナンバーワン・アルバムに選んだほど。この年はケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』やディアンジェロの『Black Messiah』、パンチ・ブラザーズの『Phosphorescent Blues』など名盤がひしめいていた年で、これらを抑えて1位にしたのだから、当時どれだけこのザ・ローン・ビロウに惚れ込んだかが判ってもらえると思う。

その後アルバム2枚をリリースしながら、あの感動と興奮がなかなか再現できていなかったのだけど、今年11月になってひっそりと届いたこの5作目は、久しぶりに『Then Came The Morning』の時の感動を再び感じさせてくれる、そんな出来に仕上がってる。このアルバムのレコーディングが行われた、テネシー州にあるあのロイ・オービソンの家でおそらく撮影されたと思われるジャケも渋カッコいいし。リーダーのザックのリードで、オープニングからじわじわと盛り上げて来てカタルシスに持って行ってくれる「Honey」そして一気にテンション上げてくれる「Gold」、ノスタルジック感たっぷりのコーラスワークとリードを取る女性ボーカルのカニーンの歌声が素晴らしい「Cost Of Living」、ブライアンのピアノの弾き語りでしっとりと聴かせる「Dreaming」などなど、どの曲を取っても静かな感動を与えてくれるものばかり。残念ながらこれだけの出来なのに、このアルバムは彼らに取って初めてチャートインを逃した作品になってしまったが、アメリカーナ・ロック好きの方には是非とも聴いて欲しい一枚だ

5.Mr. Morale & The Big Steppers - Kendrick Lamar (ppLang / Top Dawg / Interscope)

何度も言ってるが、2022年はヒップホップの優れた作品が多く輩出した年。そしてその頂点を極めたのがケンドリック・ラマー待望の新作、『Mr. Morale & The Big Steppers』だったのは間違いないところ。今回このアルバムを自分のランキングのどこに置くか、というところからランキングを考え始めたといっても過言ではない。このアルバムがリリースされてまだフィジカルリリースがない時からストリーミングで繰り返し聴いては、リリックを読んだり、各楽曲の論評を読んだりして、このアルバムでケンドリックが何を伝えようとしているのかを一生懸命理解しようとしたものだ。それくらい今回のアルバムは期待していたし、その期待に見事に応えてくれた作品。傑作『To Pimp A Butterfly』の大きなテーマは黒人社会の問題を黒人として表現することにフォーカスがあったが、今回は更にその対象をLGBTQ差別問題やトランプ後の社会分断など様々な状況に対する、いろんな視点からのリリックによるケンドリックのコメンタリー集、と理解すべきなのだろうと思う。ただ、彼のリリックは様々な状況や問題に対する強い批判や糾弾ではなくそれについての彼の考えを述べていることに注意が必要だ。つまりこうした問題の評価は聴く我々にも委ねられているということなのだろう

前作発表後から今回までの間にケンドリックが経験したトラウマ的な経験とそれを物質的なもので埋めようとしてもうまくいかない、という焦燥感めいたものを早口のラップで表現するオープニングの「United In Grief」、コロナ禍でN95マスクを付けた人々にそれを取り去れとトラップで迫る「N95」、父親としての思いを覗かせる、サンファをフィーチャーしたドウプなR&Bヒップホップ曲「Father Time」、6分近くに亘ってケンドリックと女優のテイラー・ペイジが延々と口論を繰り返して相手をなじりながら、最後はラブラブになるという衝撃のスキット「We Cry Together」、サマー・ウォーカーゴーストフェイス・キラーを配してこれもグルーヴ満点のR&Bヒップホップを展開する「Purple Hearts」、そしてトランスジェンダーになった「叔母さん」とそうした人々への差別について淡々とラップする今回最大の話題曲「Aunt Diaries」、何とあのポーティスヘッドベス・ギボンズのコーラスとピアノだけをバックに淡々とラップする「Mother I Sober」などなど、様々なスタイルのトラックが一編の映画の場面が移り変わるように次々に現れる。圧倒的の一言。そしてアルバム最後は、あのSZAとの映画『ブラック・パンサー』の主題歌「All The Stars」を思わせるような、映画のエンドロールのようなR&Bソング「Mirrors」で幕を閉じる。聴くたびにそれぞれの楽曲の持つ新しい意味に気が付く作品であり、各曲のリリックや論評を読みながら聴き返してケンドリックのメッセージを理解したい、そんな作品だと思う。

4.Anäis Mitchell - Anäis Mitchell (BMG)

アネイス・ミッチェルという人は2000年代後半から活動を続けているフォーク系の女性シンガーソングライターで、初期はあのアニ・ディフランコに認められて彼女のライチャス・ベイブ・レーベルから2枚ほどアルバムをリリースしている。彼女の名前が広く注目を浴びたのは、自ら脚本を書いたギリシャ神話のオルフェウスエウリディケの伝説を題材にしたミュージカル『Hadestown』とアニボン・イヴェールをフィーチャーした同タイトルのコンセプト・アルバムをリリース、2016年にはそのミュージカルがオフ・ブロードウェイ、そして2019年にはブロードウェイで上演されてその年のトニー賞で最優秀ミュージカルと最優秀オリジナル・スコア(作者はもちろんアネイス)を受賞したことによるもの。自分がアネイスのことを知ったのは、その頃彼女がザ・シンズエリック・ジョンソンと、元ザ・ナショナルジョッシュ・カウフマンとのグループ、ボニー・ライト・ホースマンの2020年の素晴らしいアルバムで、彼女の独得なコケティッシュさを秘めた歌声を聴いたのがきっかけ。彼女は『Hadestown』でその年グラミー賞の最優秀ミュージカル・シアター・アルバムも受賞してたから「何だこの人、すごいな」と思い、大いに興味を惹かれたのだった。

そして今年に入ってすぐ、ちょうどルミニアーズビッグ・シーフらのフォーキーなグループの新譜が相次いでリリースされた頃、このアルバムが出たことを知って即聴いてみて、あの魅力的な歌声で紡がれる楽曲の数々に改めて惚れ込んだというわけ。トニー賞グラミー賞などこれだけいろいろ高い評価を受けながら、チャート的にはメインストリームな人気を確保しているとは言い難いのだけど、シンプルなアコースティック楽器中心の演奏をバックに歌われる彼女の楽曲はどれも魅力的なものばかり。仕事や人間関係とかに疲れた時にゆっくり彼女の歌に身を任せるといい、自分にとってはそんな作品だ。ちなみに今調べたらボニー・ライト・ホースマンのセカンド・アルバムも今年の10月に出ているらしい。これも聴かなきゃ

3.Harry's House - Harry Styles (Erskine / Columbia)

いよいよDJ Boonzzyの今年のアルバムランキング、今年のトップ3です。そして3位に入れたのは、テイラーの作品と並んで今年を代表するポップ・アルバムと言っていい、ハリー・スタイルズの『Harry's House』です。元ワン・ダイレクションのメンバーとしての人気だけではなく、ポップ・シンガーソングライターとしての実力を発揮して高く評価された前作の『Fine Line』に続いてリリースされたこのアルバムは、ハリーのポップ・シンガーソングライターとしてのパフォーマンス・レベルのバーを更に一段大きく上げた作品だと思いますね。前のアルバムは「なるほどよく出来た楽曲が多いアルバムだな」という自分的評価に辿りつくまでには「Watermelon Sugar」の大ヒットを待たねばいけなかったのだけど(自分の認識が不充分だった面もあるけど)今回のアルバムは、リリースされてその楽曲を数回聴いただけでこのアルバムのポップ作品としてのクオリティが半端ないことがすぐに実感できたというのが大きな違いだったわけで。そしてその楽曲の中で一番大ヒットした「As It Was」が必ずしもベストの曲ではない、というあたりにこのアルバムの凄さがあると思うのです。

自分が思うに、この傑作ポップ・アルバムの楽曲のハイライトで、このアルバム全体を象徴しているのは2曲めの「Late Night Talking」。周到にプログラミングされたシンセフレーズ、タイトなビートを刻むドラムプログラム、魅力的なフックとメロディ、そしてそれを自由自在にさりげない技巧を凝らして歌うハリーのボーカルとオーバーダビングされたコーラス。ここにはこのアルバムの珠玉のポップ・アルバムとしての完成度を引き上げている要素がすべて端的に詰まってますよね。もちろん、ビートルズっぽい「Grapejuice」やア・ハ風80年代シンセ・ポップの「As It Was」、アンセミックな「Daylight」とかいろいろなタイプの曲があるじゃないか、という意見もわかるけど、結局このアルバムの美しさは、楽曲を構成する要素は大きく変わっていないのに多様なスタイルに「聞こえる」ポップ・ソング集を作り上げていることにあると思うのです。そしてそういう作品作りに大きく貢献しているのが、ハリーと全曲共同プロデュースしている、前作『Fine Line』以来のパートナー、キッド・ハープーンことウィリアム・ハル(27位のフロレンス+ザ・マシーンの作品も彼の仕事でした)の手腕ですね。その手腕の成果である、2022年を代表するただひたすら上質のポップ・ソングたちとそのパワーに身を任せましょう。それがこのアルバムの正しい楽しみ方だと思うから。

2.Just Like That… - Bonnie Raitt (Redwing / Sub Pop)

昨年がアルバムデビュー50周年だったボニー・レイットは今年キャリア51年目。そのボニーが来年2月発表の第65回グラミー賞に10年ぶりにノミネートされている。それも最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門、最優秀アメリカーナ・アルバム部門、最優秀アメリカーナ・パフォーマンス部門といったいわゆるジャンル部門だけでなく、主要4部門の一つ、ソング・オブ・ジ・イヤーにこの6年ぶりのアルバムのタイトル・ナンバーがノミネートされてるのだ。これは事件だと思うけど、このアルバムの滋味深い楽曲満載の、ボニーがお気に入りのバンド(彼女はここ10作ほどはほとんど同じメンバーで録音している)とリラックスしてジャムっているのを横で聴いてるようなそんな多幸感と安楽感に、素直にアカデミーのメンバー達が評価と敬意を示した結果なんだろう。ある意味当然のことだと思う

今回が通算18作目になるこのアルバム、冒頭からいきなりカッコいいギターリフで始まってブルージーに迫る「Made Up Mind」だけで昔からボニーをずっと聴いているファンはノックアウトされるに違いない。自分もその一人。それ以外もクラプトンがやりそうな叙情感たっぷりのミディアム・ブルース・ロック「Something's Got A Hold On My Heart」、コロナで失った友人を思いながら力強く生きる決意を歌う自作の「Livin' For The One」、そのコロナで昨年他界したトゥーツ&ザ・メイタルズトゥーツ・ヒバートのレゲエ曲のカバー「Love So Strong」など、全体ゆったりとしたグルーヴに包まれた至福の音楽体験ができるそんなアルバム。この前2作はアメリカーナの巨匠、ジョー・ヘンリーのプロデュースで、それ以前の2000年前後の3作はミッチェル・フルームチャド・ブレイク、そして90年代グラミーを席巻した時期の3作はドン・ウォズとこれまで実力派プロデューサーの手腕に頼ってきたボニーだが、今回はキャリア初の完全セルフ・プロデュース。このアルバムの素晴らしさはそういう要因が大きいのかも知れないな。ボニーの新たな半世紀のキャリアに乾杯。

1.Surrender - Maggie Rogers (Debay Sounds / Capitol)

さあいよいよ大トリ、DJ Boonzzyの選ぶ2022年ベスト・アルバムの1位はマギー・ロジャースの『Surrender』です。マギー・ロジャース?という方も多いかと思いますが、彼女は東海岸のメリーランド州出身のシンガーソングライターで、2016年ニューヨーク大クライヴ・デイヴィス・レコーディング音楽院在学中に書いた「Alaska」という曲を、講師をやっていたファレル・ウィリアムズに絶賛された動画がYouTubeでバズったのがきっかけでレコード・デビューしたという逸話の持ち主。自分は2018年にトリプルAソング・チャートで1位になった彼女のシングル「Light On」を聴いて、そのスケールの大きなポップ・センスにぶっ飛んで、すぐにアルバム『Heard It In A Past Life』(2019年2位)買って聴きまくってますます彼女の世界観にはまり、その年の自分の年間アルバムランキングの1位にしたんです。なので、3年ぶりのセカンドになるこのアルバムは、自分のランキングで2作連続年間1位、ということになります。

アコースティックな楽器だけでのEPなども過去には出しているのですが、彼女の楽曲には上記の「Light On」など前作の楽曲の多くで、独創的なシンセプログラミングによるサウンドスケープが効果的に使われていて、それが彼女の書く楽曲のストラクチャーを引き立てることによる魅力が大きいのですが、今回のアルバムにはそれに更に効果的なビートを追加したドラムプログラミングが多用されていて、そこが今回のアルバムの特徴になってます。冒頭浮遊感のあるシンセとコーラスで始まっていきなり強烈なビートが加わる「Overdrive」を始め、今回のアルバムが前作のドリーミーな浮遊感から大きな躍動感に溢れている作風に進化しているのはこの効果が大きいかと。一方「Horses」や「I've Got A Friend」といったアコギ一本でスケール大きいポップな世界観を歌えてしまうマギーの歌の力も大きいのですが、そうした魅力を最大限に引き出しているのが、前作では前述の「Light On」でだけプロデュースに加わっていたキッド・ハープーンはい、また出てきましたね、この名前。どうもこの人が今年仕事した作品は自分のツボに嵌ることが多いようです。

マギー、実は前作のヒットの後、コロナでツアーとかができなくなったこともあって、その期間を使って何とハーバード大の神学大学院に入学して、しばらく音楽活動を休止していたようです。無事卒業してこのアルバムの制作にかかっていたマギーが、ちょうどこのアルバムリリースのちょっと前のコーチェラ・フェスティバルに出演するというのでYouTubeのストリーミングでそのパフォーマンスを観てました。ステージのギミックなど特にないのに、このアルバム収録のナンバーも交えてまた一弾と楽曲とパフォーマンスのスケールがアップしているのを目撃して、新作の到着を心待ちにしていたところに届いたのがこのアルバムということで、まあ自分的には必然的に年間1位は冒頭の「Overdrive」を聴いた瞬間に決まったようなものでしたね。まだまだ日本では知られていないアーティストですが、そのポップ・センスと楽曲創作の才能、そして独特のボーカルテクニックは半端ないと思うので、是非前作と併せてこのスケール大きい新作を聴いてみて下さいね。

ということで長らくお付き合い頂いた「DJ Boonzzyの選ぶ2022年ベスト・アルバム・トップ40」いかがでしたか?今回ご紹介した40枚のうち、皆さんが新しく発見したアーティストやアルバムがあって、それらが少しでも皆さんのアンテナに引っかかってもらえれば大変うれしいです。またコメントやスキ等、お待ちしてます。この記事の最後には今回選んだ40枚から1曲ずつ選んだSpotifyのプレイリストも付けておきますので、年末年始に2022年洋楽シーンを振り返るお供として楽しんで貰えればいいですね。

年明けには毎年恒例のDJ Boonzzyのグラミー賞大予想のシリーズ記事も開始します。では皆さん、よいお年を!


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