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天皇賞・春の距離短縮議論

フェブラリーSに続いて、この時期にはこういう議論が起きますね。それに有名馬主などが口を挟めば、それが正しいかのような流れになりやすいですが、ぶっちゃけお前らの利益のために日本競馬があるわけではないと言いたいところです。

同じような問題にフェブラリーS問題がありますが、こちらの記事にまとめてありますので、お時間ご都合よろしい方はご覧ください。


■競馬とはなんぞや

さて、天皇賞・春の距離短縮がネット上で議論されて久しいです。海外でマイルや2000mを中心とした馬作りが主流となり、日本もそれに呼応するかのようにスピード競馬にシフトしていったのが20年ほど前でしょうか。ディープの現役時代にもそういう話がありましたからねぇ。

ただ、やはりこういう議論は競馬の本質から考えなければいけません。競馬とはなんぞや?そういう部分を蔑ろにして議論しても、結局、場当たり的な対応にしかなりません。F1のように毎年レギュレーションが変わるスポーツではないですからね。

競馬は、同条件で繰り返し行われてきたレースに自然と歴史・文化・伝統が備わり、それが格に繋がります。そうして格が備わったレースを重賞競走と呼び、その重賞の中でも最高峰のGⅠに勝つ事が競馬関係者の最大の目標になるわけです。これが大前提です。


■天皇賞・春のレーティングと売上

パートⅠ国の中にある3000m級(Extended・超長距離)のGⅠは、全部で10Rあり、天皇賞・春は英国ゴールドカップ、仏国カドラン賞に続く、3番目の長さのレースです。世界から見ても希少なGⅠですね。

レーティングは昨年が116.50ポンドですが、レーティングが発表されている2016年以降の8年間の平均では117.71ポンドであり、昨年の世界のGⅠトップ100に当てはめると50位前後になります。ちなみに毎年発表される世界のGⅠトップ100では、

2017年 121.25ポンド  12位(超長距離部門1位)
2018年 118.00ポンド  52位(超長距離部門2位)
2019年 117.25ポンド  72位(超長距離部門4位)
2020年 117.25ポンド  55位(超長距離部門1位)
2021年 118.00ポンド  54位(超長距離部門2位)
2022年 116.00ポンド 100位(超長距離部門3位)
2023年 116.50ポンド  78位(超長距離部門3位)

こんな感じですね。発表されている2017年以降のものだけですが、毎年トップ100に入っているのは素晴らしい結果だと思いますし、この間、菊花賞が上回ったのは2023年のみです。


続いて、レースの盛り上がりの指標となる売上を見ていきましょう。

2014年 192億5828万円 勝ち馬フェノーメノ
2015年 197億7021万円 勝ち馬ゴールドシップ
2016年 208億2815万円 勝ち馬キタサンブラック
2017年 222億0935万円 勝ち馬キタサンブラック
2018年 197億8692万円 勝ち馬レインボーライン
2019年 191億7728万円 勝ち馬フィエールマン
2020年 168億7096万円 勝ち馬フィエールマン
2021年 188億9902万円 勝ち馬ワールドプレミア
2022年 215億1116万円 勝ち馬タイトルホルダー
2023年 226億0353万円 勝ち馬ジャスティンパレス

近10年の内、前年比プラスの年は6回で、2014年を基準点にした場合、そこから昨年の売上比は117.4%でした。コロナ直撃だった2020年はともかく、まぁこんなもんでしょうね。キタサンやタイホなど堅いだろうなという馬が居る時は売上が上がっていますね。


■中東・香港への遠征

この問題の背景には、言わずもがなですが、ドバイと香港という遠征先が関係しています。前述のフェブラリーSの記事でも書きましたが、JRAの春競馬はクラシックが基本です。古馬の大レースと言えば長らく天皇賞・春でしたが、2000年以降になると有力馬が回避する傾向が徐々に強くなり、有馬記念の後に適鞍が無いからと宝塚まで出走を見合わせる馬も居ました。

そしてドバイミーティングの隆盛から一流馬は春にドバイ遠征をするようになり、近年では日本馬と相性が良い香港にも遠征先を広げています。残った国内組は昇格した大阪杯、長距離の天皇賞・春に向かうようなり、春競馬の最終的な目標は昔と変わらず宝塚記念となっています。

遠征組はドバイから香港に連戦するか、宝塚記念まで間を空けるケースが多く、国内組は大阪杯や天皇賞・春から間を挟むことなく宝塚記念へ直行するため、区分された路線が交わるケースが少なく、また宝塚記念が梅雨の時期ということもあって秋競馬比べて一流馬が揃う一戦がほぼない状況です。

こうしたことから秋の古馬三冠と比べると中途半端な春競馬の番組表は、もともと空洞化しやすく、一流馬の使いどころが難しい番組表であることが分かりますし、JRAとしては古馬よりもニュースターが誕生するクラシックを重視していると考えることもできます。


■距離短縮はするべきなのか

例の岡田牧雄氏は
長距離レースが衰退してるのは世界的傾向とはいえ、長距離ならではのいろんな面白みがあるから、個人的には廃れてほしくないんだよね。もっとも、日本の事情をいえば、大阪杯がGⅠに昇格したことがダメ押しになった印象。ドバイもあるし、2400までの距離での強豪は、天皇賞・春以外のレースを選択するのは必然といえば必然だよね

と話しているようですが、まぁそうですよね。ファンの皆さんも考えているように長距離は馬の能力頼りで勝つことが他の距離より少ないですし、騎手の駆け引きも長距離戦の醍醐味の一つです。なぜノリさんがスルスルと大逃げしたら観客が沸くのかを考えたら、それは理解できるでしょう。

そして大阪杯をGⅠにしたのは完全に悪手でした。JRAからすればドバイに対抗して少しでも国内に目を向けてもらおうという意図があったと思いますが、時期が悪すぎますよね。せっかく春に中距離のGⅠを作るってのに、そこを主戦場とする馬の多くは高みを目指してドバイに行くんですよ?どう考えても無理ですって。香港の時期も考えたら4月頭に中距離GⅠは無謀以外の何ものでもありません。


また、例の吉田勝己氏は
天皇賞・春の3200mという距離が、明らかに使い勝手が悪いという一言につきます。 特殊な距離ゆえに前後のレースとの関連づけが難しく、故障の可能性も高いのです。打開策として導き出したのは、『天皇賞・春の距離を2400m程度に短縮させる以外にない』という結論でした。 そうなれば私も含めて各陣営が春のローテーションに頭を悩ますことは少なくなるでしょう。 ちなみに天皇賞・春が2400mになれば、なお余力を残した馬がキングジョージに挑戦するプランも描きやすくなります

と語っていたそうですが、これは完全に自分たちの都合ではないでしょうか。ただの経済活動であれば、そういう主張も分かりますよ。自分たちが大きな利益を得るために規制緩和を求めるのと同じですからね。

しかし、競馬は文化です。日本はもちろん、全世界での競馬文化の発展という意味を考えた時、最も重視しなければならないのは、『同条件で繰り返し行われた歴史・文化・伝統が備わった格の高いレースを勝つ』という競馬の大前提ではないでしょうか。

また、日本競馬は畜産の振興が根底にあり、法律によってガチガチに固められた上に施行が認められている競技です。そもそもが世界の競馬と少し違うんですよね。賞金は世界でもトップクラスですが、それは誰のおかげでしょうか。誰が金を出しているのでしょうか。海外のようにスポンサーが賞金を出しているわけではありません。ファンが死ぬ気で働いて稼いだ金を出しているのです。生産者や関係者は、日本競馬の賞金の高さを維持できているのはそれためだと三つ子の魂百までレベルで理解するべきです。

ウマ娘で競馬に入った若輩者を除けば、天皇賞・春の距離短縮を望むファンはそんなに多くないでしょう。仮にそうなった場合、菊花賞はもちろん、ステイヤーズSやダイヤモンドS、阪神大賞典も3000m以上である必要がないので距離は短縮されるでしょうし、それに対してファンから反対運動が起こると思いますよ。一般の世界でも時代に合わなければ変えていくことも大切ですが、変えないこともまた重要であり、競馬の世界では特にそれが重要視されるのですから。

そう考えると、彼の発言は「単に繫殖成績に反映しづらいGⅠはいらない」と言ってるような聞こえませんか。距離短縮以外に打開策はないという主張もホントに考えているのかな、と思ってしまいますよ。距離短縮をしなくても、ドバイに一流馬を盗られる前提で番組を組めば十分対応はできると思いますが、そうした話は全く聞きません。

例えば、天皇賞・春と大阪杯の時期を入れ替えると、4月末~5月頭にかけて中距離GⅠが行われることになり、彼の主張する通りローテが組みやすくなるし、欧州遠征プランも描けるのではないでしょうか。距離は2000mでもいいですが、京都なので2400mの方が良いでしょう。そしたら宝塚記念と距離が近いものの競馬場が違うので、ジャパンCと有馬記念のような近似関係になり、競走成績の価値も、ファンが飽きることもありません。

天皇賞・春はカテゴリーが特殊でありますが、菊花賞からステイヤーズS、ダイヤモンドS、阪神大賞典、天皇賞・春と間隔の良い施行時期となり、ローテも組みやすく、分かりやすくなりますよね。中距離組とバッティングしない点や状況によって大阪杯、宝塚記念と3連戦ができる点もポイントが高いです。さらにカテゴリーが違う強みを生かして6月のロイヤルアスコットで行われる長距離GⅠゴールドカップを狙うことだってできます。

京都の天皇賞・春が無くなるのは残念ですが、阪神で行われた天皇賞・春は意外と評判が良かったですし、これは打開策としては変化が最も少ない、現実的な方策ではないでしょうか。

もちろん、トライアルの時期や目黒記念の位置、レース名の変更などの問題はありますが、その辺はJRAからすれば些細なことでしょうし、そのままでも何とかなると思いますよ。報知杯弥生賞ディープインパクト記念を通すくらいの傲慢さがあるJRAですからね。


■まとめ

結論としては天皇賞・春の距離短縮ってそこまで喫緊の課題という感じじゃないんですよね。世界的に見ても希少価値がありますし、世界のGⅠトップ100に入っているという点もそうですが、なんだかんだでゴルシやキタサン、フィエールマン、タイホ、ジャスティンパレスなど中距離でも好成績を残せる馬が勝っているので、天皇賞・春は決してオワコンではありません。

ダメだダメだと言っても番組表にちょっと手を加えればグンと良くなる可能性が高いですし、簡単に距離短縮ガーと言うのではなく、その価値を維持しつつ上手く回るような方策を考えるのが先ですね。

大事なことなのでしっかり書いときますが、これ全部私の主観ですので、異論反論は大いに認めますし、様々な議論を経て日本競馬が良い方向に向かってくれる事を願って書いている競馬バカですからね私は。皆さんもたくさん議論してJRAや関係者に疑問や意見をぶつけてくれれば、こうした願いが少しだけでも叶うのかなぁと思います。


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