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仕事

年末から繁忙期でずっと忙しかった日々が、少し落ち着いてきた。在宅で文字起こしの仕事を始めて、今年で12年目になる。会議や講演会やインタビュー、番組、裁判用資料など、さまざまな音声を打ち込んで文字にする仕事だ。
打ち込みながら、分からない単語が出てくるたび検索し、打ち終わったら最初から聞き直して聞き間違えや聞き落としを確認し、最後は全部読み直して、誤字脱字、表記の揺れなどの確認をする。地味な作業の繰り返しで、長時間作業していると、目も肩も腰もガチガチになる。特に音質のひどいときは、耳も頭も痛くなる。

それでも、コミュニケーション能力の低い私にとって、職場への出勤がないというのは、何ものにも代えがたいプラス要素だし、納期さえ守ればあとは自分一人で作業プランを立てて黙々と進めていけるこの環境が、とても心地よい。

この仕事のメリットとしてよく挙げられるのは、さまざまなジャンルの話題に触れることができること。確かに、自分の日常とは全く関わりのない世界で、決して会うことのない誰かが話しているのを、家にいながらにして聞くことができるのは楽しい。新しいことを知り、勉強になったり、考えさせられたりして、視野が広がる。自分が相づちを打つ必要のない会話を文字にするのは、本を読むのと同じ感覚だから、ある意味とても気楽だ。

ただ、仕事なので、やはり聞いていて愉快な会話ばかりではない。むしろ、気の滅入る内容のほうが多い。なるべく感情移入しないよう、淡々と打ち込むよう心がけているけれど、しんどい内容だと、どうしても精神が引っ張られる。ムカムカしたり、涙ぐむこともある。
だからこの仕事をするようになってから、ドラマなどの創作物は、重くてシリアスなものを避け、夢と希望のある作品を選ぶようになった。人間の醜さ弱さ儚さは、仕事の中で生々しく味わっているから、創作物では現実を忘れたい。この世は美しく、生きることに意味があると、思わせてくれる作品で心を満たしたい。

AIが発達してきて、これからこの仕事は、だんだんと形を変えていくのかもしれない。ここ数年、ずっとぼんやりその恐怖を感じつつ、日々の仕事をこなしている。どうかもうしばらくは、この仕事を続けていられますように。

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