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2022.7 え、まさか

 休日の朝、川沿いの遊歩道をウォーキングしていると「ヴォ―、ヴォ―」とウシのような鳴き声がして腰を抜かしそうになる。
 「いったいなに」
 周囲を見回してもその姿はない。「よしてくれよな」の独り言も語尾がふるえている。
 遊歩道は堤防上にあり、片側は一級河川、反対側は丘陵の急斜面が迫っている。辺りに人家はない。遊歩道の前後にも人はいない。
 鳴き声は川側ではなく、反対側の急斜面と築堤の間の窪地から聞こえる。木が茂りよく見えないが、湿地になっているようだ。
 太く大きい声は明らかに四つ足動物、たとえばウシやイノシシを想像させる。もし目の前の木立からぬーっと現れたら腰を抜かすだろう。とにかくいまはこの場を離れようと、後方を振り返りつつ足早に走り去る。
 その後も通るたびに鳴き声を聞いた。のちに正体はウシガエルと知り、まさにそのネーミングだと得心した。
 分布はアメリカやカナダ。大きさは手のひらサイズ。池や沼に生息して、雄はなわばりを持ち、水面に顔を出して例の声で鳴く。
 肉食で、魚、鳥、両生類や昆虫など口に入る大きさであればほとんどの動物を食べる。侵略的外来種のワースト100に指定され、在来カエルの減少が懸念されているという。
 日本には一九一八年に食用目的で輸入されたが、定着しなかった。その後は養殖場から逃げ出したり放逐されたりして繁殖した。


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 ウォーキング中にはキジの鳴き声も耳にする。「キィー、キィ」。空気を切り裂くような鋭い声。目の回りが赤く、首回りが鮮やかな青紫色なので遠くからでも見分けがつく。

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 先日は仕事帰りに道路を横切るタヌキに出会った。ネコのような俊敏さはなく、ヘッドライトに照らされて林の中に消えていった。
 地方に移り住んで十数年。東京にいたころは知らなかったまさかが、こちらにはたくさんある。

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