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赤らんたんに灯を入れて第三夜 前編  

今、貴方には逢いたい人がいますか?

ある時間にある事をすると、今はもう
逢いたくても逢えない貴方の大切だった
人と話す事が出来る不思議なキャンプ場

" 赤らんたんキャンプ場 " 

今宵の物語は……

「結衣、今日のお客様は女性の方なんだよ。
なにぶんキャンプは初めてやるらしいので、
結衣、セッティングと焚き火を熾してやって
くれるかい?」
「もう終わってるよ。何歳ぐらいの人?」
「あんまりお客様の事を掘り下げるものじゃ
ないんだよ。まぁ年齢くらいはいいかね。
電話の感じだと40代半ばのようだね」
「ふ〜ん、お相手は誰だろうな?」
「また、そんな事を言って、この子は…
ほら、お見えだよ」

「あの〜、" 赤らんたんキャンプ場 " は
こちらでしょうか?」
「はい、そうですが?」
「予約をしている小山、小山由美子です」
「お待ちしておりました。早速あの者に
ご案内といくつかのご説明をさせますので。
結衣、お願いね」
結衣と小山由美子は " 赤らんたんサイト " に
向かい、歩き始めた。

「あの〜、あの噂って本当ですか?」
由美子は結衣に尋ねた。
「私共では何とも言えません。そこの空間で
起きた出来事は全てお客様の体験ですので」

" 赤らんたん " サイトについた2人は荷物を
降ろし、結衣は焚き火を熾しながら軽く
説明を始めた。
「焚き火が小さくなってきたら薪を入れて
下さい。それと夜8時25分になったら、
あの赤いランタンに灯をいれて下さい。
必ず時間は厳守して下さいね。では」
そう言って結衣は帰っていった。

小山由美子の逢いたい人は2年前、癌を患い
亡くなった母親であった。
病は癌だけでなく痴呆症にもなっていた。
兄がいたのだが、4年前に他界している。
以前は母親と仲が良かったのだが、兄が
亡くなってから今度は少しずつ母親の
痴呆の症状が出始めた。
自由な時間なんてものはなかった。
満足な睡眠など取れるはずもなかった。
仕事でのイライラをつい母親にぶつける
事も少なくなかった。

症状は日に日に悪化し、言う事を聞いては
くれない毎日が続いた為、ついに由美子は
爆発した。
「もういい加減にして!何で私ばっかり!
これくらい自分でやってよ!何で…何で」
何の事だかもう理解できぬであろう母親に
きつく当たり、泣いてしまった由美子。

そして一昨年の10月7日
母親は天に召された。

そんな折、母親の世話の為に退職した
長年勤めていた以前の職場の上司から
電話があった。
「小山ちゃん、大丈夫?あんたの事だから
落ち込んでるだろうと思って」
「あっ、ようこっち。ありがとう!」
上司とはいえ姉妹のような関係だった。
特に母親と同じ名前な為に親近感が湧く。
「うん、なんかね、好きだったお母さんに
最後、辛く当たったりしてたでしょ?
怒ってないかなとか考えたりしてさ……」
由美子の中ではずっと引っ掛かっていた

" 棘 "

「チャンスがあれば謝りたいって事?」
「いくら何でも、それは無理でしょ!」
「そうとも言い切れないわよ。SNSで
興味深いものを見つけたんだけど…。
若くして亡くなった母親に逢えた父娘の
話や、事故で死んだ親友に逢った話が
載ってるのよ。
その場所っていうのがキャンプ場らしいの。
小山ちゃん、貴方行ってきなさい」
「もちろん、ようこっちも一緒だよね?」
「うん、いややっぱりダメ!小山一人で!」
一人では心細かった由美子であった。

               つづく

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