”飲食店の店員”に進路相談をした件
今日,私は一人”特殊な業態の飲食店”に赴いた.そのような業態の飲食店は人生初だったので,体験記を記したいと思う.
もしかすると,こちらの意図しない読み方で気分を害される方がいらっしゃるかもしれません.あらかじめ断っておきます.ここからの話は,あくまでも,飲食店に行った話です.以下の文(地の文)で誤解を招きそうな部分は太字にしてありますので,お気をつけてお読みください.
神に導かれよう
朝,本当にふと,いきたいなと思い,友達から勧められた飲食店をネット検索しただけなのだが,運のいいことに,今日は月に二回しかないその店の割引日であり,しかもそんな好状況でありながら友達に勧められたコースをすんなりと予約できた.もし神がいるのなら,神は今日私に”デビュー”をさせたかったのだろう.神よ,お前のシナリオに乗っかってやろうじゃないか.そんな柄にもないことを思いながら,はやる身体の反応を抑え,予約時間まで真面目にテスト勉強をしていた.
家を出よう
テスト勉強を中断し,歯を磨いて髭を剃り,髪をセットして,軽くシャワーを浴びた.当然のことだが,飲食店なので,先にある程度自分で身を清潔にしておかねばならない.もちろんだが飲食店の中で身を清潔にする(洗ったりする)ことなどできない.強いて言えばおしぼりが出される程度である.
膨らんでキツくならないように緩めの服を着て,あまり緊張しすぎないように念じながら原付で店へと向かった.
店に入ろう
店の付近に原付を停める.予約時間にはまだ早かったので,まずは入り口の前をさりげなく通り過ぎてみた.外観や建物の雰囲気,慣れない雰囲気に身を慣らす.ネットで「初めての〇〇のイロハ」系のサイトを巡回しつつ,物理的にも店の付近を何周かした後,さすがに予約時間が近づいてきたので,勇気を出して店へと一歩を踏み入れた.ちなみに店につながるエレベーターにはメニューや店員さんの写真などが貼られていた.
順番を待とう
店内に入ると,すぐさま店員の方にお金を要求された.少し面食らったが,なるほど,予約をしていたのだから前払いでも後払いでも関係ないわけだ.少し焦りながらお金を渡すと,待合室へと通された.予約をしていたのだから待つことなどないのでは?と思う方もいるかもしれないが,ここがまさしく,後述する”特殊な業態”の特徴である.待合室には,同じように待っている方たちが5,6人いた.これからのサービスを期待しながらの待合室は実に殺伐としていて,妙な雰囲気であった.なお,全員男性だった.
緊張して縮こまってしまい,フルにサービスを享受できないというのは避けたかったので,インスタで欲求を高める画像を眺め,一人寡黙に準備していた.
着席しよう
順番を呼ばれると,一人の女性が一杯の麦茶とともに私を席へと案内してくれた.店内は薄暗く(意味もなく具体的に言うと10ルクス以下),雰囲気が独特で良い.先に友達からこの女性については話を聞いており,年齢は私の一個下ということだった.気さくで,とても愛嬌があり,思いの外話が弾んでしまった.遅くなったが,”特殊な業態”というのは,このように一人の客につき一人の店員がついて,同じ席で楽しむことを指している.
楽しもう
このような業態の店に来るのは初めてだと伝えると,少し店員さん(Yさんとしよう)の方がリードする形で展開は進んでいった.Yさんのことを友達におすすめしてもらったと言うと,少し照れながら,Yさんはその私の友達について特徴を聞いてきた.頑張って私の友達のことを思い出そうとするも,あまりピンと来ない様子のYさん.この店が繁盛していることが窺える.
話がそこそこ盛り上がったところで,会話はなくなり,いよいよサービスを享受することとなった.飲食店でのマナーとしてサービスの前におしぼりで拭くのは当然だが,この店ではYさんが拭いてくれた.普段は自分で行う作業のため,やはり他人に力強く大胆に触られるのは新鮮だった.
続いて,それぞれ手と口を動かす.これを待ち望んでいた.互いの舌が幸せを感じる.そこからはあれよあれよと体のあらゆる部分が柔らかな幸福に包まれ,実際記憶が飛ぶほどの衝撃だったため詳細を記すことはかなわないのだが,晴れて三大欲求のうちの一つを満たすことができた.今かろうじて思い返せる範囲で言うと,Yさんの口からタネを吐き出す仕草は素敵だった.
進路を相談しよう
そこからはまた話が盛り上がった.私はテスト期間の合間に来ていることを話し,「テスト難しいよぉ〜」と泣きついた.私は普段学歴をアピールするタイプでは全くないのだが,Yさんの記憶には残ってほしい(先の友達の例を見て)と思い,大学の話になったこのタイミングで思い切って大学名を伝えることにした.すると,「えぇ!」と驚きのリアクションを返してくれた.ここまでは計算通りだったのだ.ここまでは.ここからが,想定外だった.急に真顔になったYさんはこう言ったのだ.
テストのことを軽く慰めてほしいと思っていた私は,芯を食った正論を前に,ただヘラヘラしてうなずくことしかできなかった.Yさん,めちゃくちゃしっかりしている人だったのである.正直,舐めていた.
ここまで来たら,ガンガン相談をぶつけようと思い,「進路もね〜大学院に進むか就職するかで迷ってるんだよね〜」と軽いトーンでぶつけてみた.すると..
具体的な例まで織り交ぜつつ,完璧な鼓舞をしてくれた.私はそのときとても冷静だったため,本当にYさんに感心していた.
「本当にYさんはしっかりしてるね」
そう伝えると,
ということらしい.Yさんは接客業のプロなのだということをまざまざと見せつけられ,先ほどとはまた違った満足感に包まれながら,終了時間となった.Yさんとの絡みで飲むことを忘れていた麦茶は,申し訳程度に半分だけ飲んだ.
店を出よう
店を後にするとき,明るい場所で改めてYさんを目にした.暗い場所のときと変わらない愛嬌で,安心した.ドアを開け,「またね」とお互い言う.
ドアを閉め切る寸前に,もう一度中を見て手を振った.その閉まるか閉まらないかの一瞬,Yさんが真顔に戻って僕から冷たく目を逸らしたような,そんな光景が見えた気がした.
現実なのか幻なのかわからない.また会ったとき覚えていてくれるかもわからない.が,彼女がどのような文脈でも”プロ”であったこと.それだけは肯定したいし,伝えたい.
心からの感謝と敬意を彼女に.
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