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空耳のみの知識で劇場版『うたプリ』を観た感想。『RED』・『THE FIRST SLAM DUNK』を添えて。

空耳しか知らぬ愚か者

突然だが、『うたの☆プリンスさまっ♪』(以下、『うたプリ』)シリーズをご存知だろうか。ニコニコ動画で空耳字幕にハマったことがある人間なら、一度はOP曲を聴いたことがあるだろう。何を隠そう、私もそのクチである。

『うたプリ』は簡単に言えば男性アイドルもののコンテンツで、ゲームに始まりアニメや映画にいたるまで、さまざまなメディア展開を見せてきた作品だ。『うたプリ』がこの世の中に誕生してからなんと10年もの月日が経っている。私がニコニコ動画で知ったのも中学生のときであった(今の私は大学三年生だ)。

なぜ私が急に『うたプリ』の話をしているのかと言えば、先日、その映画を観たからである。

劇場版うたの☆プリンスさまっ♪
マジLOVEスターリッシュツアーズ

映画ポスター(問題があれば削除します)

私が観に行ったのは12月1日。公開から約3ヶ月が経っていた。その劇場では私の観た回が正真正銘ラスト上映であり、12月2日以降は観ることができない。滑り込みセーフといったところだ(分かる方向けに補足すると、今回観たのは『大好きver.』である)。

10月あたりの時点で「『うたプリ』の映画がすごいらしい」とは小耳に挟んでいた。気になってはいたものの、観に行くまでには至らなかった。

なぜここまでして滑り込んでまで観たかったのか。

理由は『無限まやかし』という名のラジオ番組にある。

中央ピンクが大島育宙(おおしまやすおき)氏。
上下水色が高野水登(たかのみなと)氏。
(問題あれば削除します)

"コンテンツ全部見東大生"の大島氏と、『真犯人フラグ』などの脚本家である高野氏が、エンタメについて語るラジオ番組である。

2022年10月24日に公開された回(↑)にて高野氏はこの映画について熱弁する。詳しい内容は聴いていただきたい。話し手はプロだ。聴いて得することはあっても損はない。

『うたプリ』の前提知識はほぼ皆無の高野氏が、ここまで語るほどに感情を動かされた事実。その高野氏から語られたエンタメとしての今作の価値。それら全てが私に最後の一歩を踏み出させた。ここで行かなければ一生後悔する。私はチケットを予約していた。

鑑賞

最後の一曲以外知らなかった(新曲だから当然?)し、キャラの知識も0。なのに最後私は涙ぐんでいた。

同じような経験を中学生の頃にしたのをふと思い出す。塾の同級生から嵐のLIVE映像を貸してもらったとき、私はそんなにファンでもないのに終盤には知らず知らずのうちに号泣していた。自分でも驚くほどに。

「ストーリーに感動して泣いたアニメ」の経験よりも、「嵐のLIVEでなぜか泣いた」経験の方が今回の涙は似ている。その理由は考えると単純で、

この映画はもはや物語というよりもLIVEだったから

そう言うほかない。

これも詳しくは『無限まやかし』にて語られているが、我々は本当に、LIVEを、丸々、観たのだ。いくらでも回想のアニメを挟み込めそうな部分でも、それは挟まずに徹底的にLIVE会場の画のみで突っ走る。その無骨さがたまらなく刺さった。

LIVEとしてこの映画を観たとき、そのリアリティが半端ではないことに気づく。
目立たない画角でもしっかりファンサをするメンバー(決して静止しない)。
言うまでもないが、滑らかな動き。
ギリギリ3次元でもできるか、、?と錯覚できるレベルの演出(飛び回る描写)。

中でも震えたのは、メンバーの来栖翔がファンの声援に応えるシーン。ここまで女性ファンの黄色い声援しか聞こえなかった中、ここで唯一の男性ファンの声援が来栖に飛ぶ。それに来栖がピンポイントで応えるシーンなのだが、、、

このファン、俺だろ!!!!!!

いや、俺すぎない?????正直始まってから来栖くんしか目に入らないくらい魅了されていたし、映画館にもほぼ女性しかいないアウェイな空気の中、来栖くんが、男性の声に、応えたのだ!!!!

男性ファンも置いて行きませんよ、という強い意志を感じる。たまたま来栖翔に一目惚れしたからなのかもしれないが、なんにせよこの描写のリアリティはすごかった。客席側を描かない分、本当に自分と目が合って話してくれているような気分になったし、来栖くん可愛すぎたし、あざとすぎた。しんどい。

歌とウタ LIVEと試合

この『うたプリ』の映画を観た日の近くに、三度目の『ONE PIECE FILM RED』、二度目の『THE FIRST SLAM DUNK』を観た。どれももちろん泣いたのだが、これらには公開時期以外に共通点があるように思える。

『うたプリ』『RED』はLIVEを、『TFSD』は試合を、それぞれ体験させてくれた。もちろん『RED』『TFSD』ではそれ以外の描写も多く差し込まれるのだが、それにしてもLIVEや試合に集中させようという時間はかなり多かったし、それがそのまま作品の価値(とマネタイズ)に直結していた。

なんというか、アニメ映画という媒体の力をフルに使って、映画とは異なる、リアルに存在する表現(LIVEや試合)を再現しようという試みを感じた。

それで画がもつのも、今のアニメ・CG技術がなせる技だと率直に感じたし、観ながら、それが物語であって完璧にデザインされたものだという意識を失う場面がいくつもあった。

また、このような作風は、リピーターの増加に拍車をかけているようにも思う。

当たり前だが、映画やドラマは何度観ようが同じものである。こちらの受け取り方が変わることはあれど、モノとして変容することはない。

しかし、LIVEや試合は一回限りのものである。同じ人が同じ場所でそれをやっても、絶対に違ったモノになる。

だから、推しのLIVE・公演に何度も通う人が現れる。微妙に毎回違うその差を見つけたい気持ちがそれを後押しする。

今回の『うたプリ』『RED』『TFSD』のヒットには、リピーターの存在が欠かせなかった。冷静に考えれば何度観ても同じなのはわかっているが、それがあまりにもLIVEであり試合なので、ついつい何回も観にいってしまう。そんな錯覚が大規模に起きているんじゃなかろうかと思う。
『TFSD』に関しては、「バスケ名場面集」を繰り返し観てしまう心理に近いかも。山王戦は、精巧に作られた「ドラマチックすぎるリアルな試合」というドラマなので、あの奇跡を何度も味わいたいという気持ちにさせられる。

また表現者側の視点に立つなら、一人あたりの身体的・精神的負担が減るのは一つのメリットだと思う。
アイドルとは偶像であるが、当然生身の人間がその偶像の役割を担っているわけで、その齟齬がアイドル当人を苦しめるケースがしばしばある。
ならば振り切ってアニメという完璧な偶像にしてしまえば、推されるキャラの負担はその裏側にいる膨大な数の制作者たちに分散して、アイドル特有の健康被害は生じ得ない。


とにかく、我々も「偶像だと分かりながらその世界に入り込んで推す」みたいな仕草にだんだん慣れてきたように感じるため、こういった「擬LIVE」のようなものはどんどん増えていくのだろうと、この3作のヒットを見て確信した。

追記

3ヶ月も間を空けてこの文章を書いてしまったため、無限まやかし側でも新たな動きがあった。

聞き手だった大島さんがついに観にいったのだ!
こういった鑑賞の連鎖は見ていてとても楽しい。

「布教」をされるのがつい最近まで本当に嫌いだったのだけど、無限まやかしで二人がキャッキャ言いながら布教しあっているのを見ると、布教されるのも悪くないなと思い始めた。

とりあえずこの記事は、無限まやかしの布教記事になってしまった。みんなも寝る前や作業中に無限まやかしを聴こう!


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