大学数学を始める方へのトリセツ。

普段、支離滅裂で何のためにもならないような記事を書いて読者を困らせているので偶にはためになる記事を書こうと思います。たまたま、私の一番弟子が2人とも無事に合格を果たしたので彼らへ向けた記事でもあります。

さて、私は数学科出身でして、専門科目だけの優秀賞(理学部賞)をいただいたご身分です。成績がよいことが全てとは思いませんが、多くのことを大学で学べたことはそれなりに自覚があります。したがって、私のささやかなるアドバイスは全然意味がないというわけでもないでしょう。この記事を読んで成績が上がるかどうかは保証できませんが、大学で勉強する数学が身になるとは思います。そして、いつものようにダラダラと老人がダベっているように書いてもいいのですが、noteの皆さんに倣って章立てでお話しすることにいたしましょう。

第1章 大学で勉強すること
(現在執筆中)
第2章 高校数学と大学数学の違い
(1)大学に入ると数学が不得意になる?
(2)「論理記号論」の初歩を学べ
(3)大学の数学は全て「集合」から始まる 
(4)実数と実直線の違いは?
第3章 おススメの本・数学本の読み方
(1)おススメの本
(2)本の読み方
※数学についてのみ興味がある方は第2章以降をお読みください

第1章 大学で勉強すること


第2章 高校数学と大学数学の違い

(1)大学に入ると数学が不得意なる?
よく巷ではこんな話を聞きます。

「大学になると、化学が物理になり、物理が数学になり、数学は哲学になる。」

未だに私には化学については「何のこっちゃ?」ですが、大学になると「物理が微積の計算が多くなる」「数学は証明ばかりになって理論を学ぶことになる」ことを言いたいのではないでしょうか。

はて、ここで問題になるのが高校数学と大学数学の違いです。

聞くところでは数学科出身の先生が「大学で数学を学ぶのだけはやめておけ、高校数学とは違うから」と仰ることもあるようで。逆に数学大好き先生が期待している生徒に「数学科は楽しいよ!」なんていうものだからどっちがどっちかわかりません。(ちなみに、私は後者の数学先生でよく生徒に数学を勧めていたし、私の彼女は学校の先生から数学科を強く勧められたとのこと。)

結論から言うと「数学における考え方は同じで、前提とされていることが違う。」が正しいと思います。 高校数学も問題を解くだけが目的でないのは、国立の大学入試を見ればわかると思います。大学は答えを求めることだけを求めているのではなく、その過程を記載することを求めています。言い換えれば、自分の答えをどのように導いたかを自分で説明する能力が求められています。こうした意味で大学の数学との相違点は特にありません。

ところが、大きな相違点として「前提としていることが違う」ことが挙げられます。高校数学では当たり前に成り立つと思っていたことが大学では証明する対象になります。数学の用語でいうと、定義の仕方が異なる、ということです。

例えば、極限の定義が異なります。
例えば、三角関数の定義が異なります。
例えば、実数を「~が成り立つ集合」としてしっかり定義します。

厳密に議論ができるように根本まで掘り下げて定義する、というのが大学数学の特徴かもしれません。

(2)「記号論理論」の初歩を学べ

突然ですが、問題です。
次は数学的に正しいことを言っていますでしょうか。

「僕がイルカなら君はタヌキだ」

僕はイルカじゃないから、これは正しいですね。は?と思われ方もいらっしゃると思いますが、これが数学の正しい・間違いの基準です。この根本原理がわかっていないと数学をやっていく中で苦しいです。(だってそれは何が正しくて何が間違っているかわからないということでしょ!)だから記号論理学の勉強は大学に入る前に習得することをおススメします。

どれぐらい勉強しとけばよいかですが下記3点がわかればもうOKです。
・命題を論理記号(「任意に」、「存在する」、「かつ」、「または」)で表現することができる
・命題の逆命題を書くことができる
・いくつかの命題の真偽が決まっているときにそれらの命題と論理記号で構成された命題の真偽を述べることができる

これらを習得すると高校数学で前提とされていた下記2つの内容がわかります。

・命題を証明するときになぜ対偶命題を証明すればよいのか?
・命題を証明するときになぜ背理法を使うことができるのか?

記号論理学の学習を進めていくと、自然数の定義やゲーデルの不完全性定理にも行きつきますね。基礎は勉強して欲しいですけれど、あんまり勉強しすぎてゲーデルみたいに発狂しないでね(笑)

(3)全て「集合」から始まる 

現代の大学数学は公理・定義を定めて話を始めます。この定義をするときに重要な道具が集合です。大学数学で集合がイッキに重要になるのは数学の興味が具体的な例より抽象的な性質にあるからです。点を集めてきた集合で性質を調べれば、一個一個の点の性質をそれぞれ説明する必要はない。だから数学では集合という概念が重要になります。加えて、大学数学では「集合」の「集合」を考えることになります。集合をある種の点と捉えることで集合を集めてきた集合を考えることで性質を調べる。どの場面でこれが必要になってくるかと次で述べる位相の概念ですね。例えば、「フチ」がついている集合(いわゆる閉集合)の性質を調べるとき、ひとつひとつにその性質を記述するのは非効率です。だから「フチ」がついている集合を全部集めてきた集合で性質を記述する。そしたら、あれまびっくり頭の中が整理されるわけですね。

(4)実数集合と実直線の違いは?

突然ですがあなたはこの質問に何と答えますか。

「実数集合と実直線の違いは何ですか?」

集合と直線だから違う、なんて面白くない回答はやめてくださいね(笑) 答えを述べると、単に実数を集めてきたのが実数集合で、その実数の2点に自然な距離が定まるのが数直線です。
イメージでいうと、単に集合という「ハコ」に点が入っているのが実数集合、それを規則に基づいて並べたのが数直線です。

そして、このようなことを勉強するのが集合・位相という科目です。 とはいえ、実数集合が「ハコ」とは申しましたけれど、単に{A,B,C}という集合とは明らかに違います。 じゃあ次の質問です。

「普通の集合と違う実数集合の性質は何だと思いますか?」

答えを述べると、2点をとってくると計算ができるということです。単なる「ハコ」であるのではなく、「ハコ」の中の2点で計算することができる。たとえば、2と3という実数を持ってくると足し算・引き算・掛け算・割り算をすることができる。

そして、こうしたことを勉強するのが代数学です。
特にその中でよく使うのでクローズアップされて取り上げられるのが線形代数学です。

最後の質問です。

「実数の定義を述べてください。」

これって、実は高校数学を学んでいるだけではわからないことなんですね。有理数なら分子が整数、分母が自然数の分数と定義できますよね。整数は自然数にマイナスをつけたもの、定義できますよね。じゃあ自然数は、となりますがこれは1から1ずつ足していったものを集めたものと定義できますよね。(細かいことは記号論理学で勉強します。)

では、実数は??

実数を定義すると、有理数列の収束先を定義してそれを集めた集合となります。(厳密にはもう少し述べる必要のあることがありますが、ツッコまないで(笑))

は?となりますよね。

重要なポイントはこうして定義した実数には以下の性質があることです。

「実数の部分集合が空でないとき、上限と下限が存在する」

そして、このように実数の性質を厳密に確認しながら微積分の細かい計算方法を考えるのが解析学になります。

以上で述べた位相・集合・代数学・解析学が大学で習う数学の基礎となります。

私は特に集合・位相や解析学が楽しく、専門もそれに近い分野を選びました。

第3章 おススメの本・数学本の読み方

(1)おススメの本

解析学
「無限級数入門」(楠幸男)
・大学数学に必要な実数の話がコンパクトに書かれている
・無限級数の性質(収束するかどうか、無限級数同士の計算)に関する知識が得られる
・後半は無限級数というテーマゆえに複素数にも触れており話題が豊富

「解析入門Ⅰ」(杉浦光夫)
・付録に記号論理学の初歩に関して記載があるので是非読むべき
・所々単元理解には必要のない部分が出てくるので読み飛ばしてもう一回帰ってくる読み方を推奨
・特に、実数の章や平均値の定理の辺り、積分の序章は丁寧でわかりやすい

集合・位相
「集合・位相入門」(松坂和夫)
・松坂先生の本は全ておススメ、私は本書を7回読みました
・松坂先生の特徴はまるで松坂先生が授業してくれているかのように丁寧に書かれている
・上記の通り、行間が埋まっていますので行間を埋めながら勉強する人にはあまりお勧めできないかも

「距離空間と位相構造」
・位相を様々な具体例を通して知ることができる
・松坂位相とは違う証明方法を用いている場面があり、記述もコンパクト
・本書に出てくる具体例がオタクな感じで自分の専門分野を選ぶ時の参考になるかも

線形代数学
「線形代数学講義」(高橋礼司)
・教科書の体裁で書かれているわけではなく興味が持てそうな部分を掻い摘んで教えてくれる教材です
・とはいえ、しっかりと証明されていて教材としても使えます
・線形代数と図形、群とくじびきなど色々な数学対象と現実問題の結びつきを学べます

「線形代数入門」(斎藤正彦)
・教科書の体裁で書かれています
・コンパクトに証明がかかれていて物理系で数学が要る人におススメ


(2)本の読み方

好きな本を好きなだけ読め、というのが王道かと思います(笑)
詳しいことは後日公開します。


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