楽器と向き合う。

ライブをしてきた。観客は店長含めて三人。ギターの弾き語り2曲、ハーモニカを入れたアカペラの曲2曲。すべてアカペラの曲一曲。僕の前にライブをしたK君がビールを飲みながらまっすぐ僕の方を見ている。僕はそれを見返すことができない。

店長が用意してくれたギターを肩に吊るす。店長が用意してくれたチューニングメーターで音を整える。歌う前にできるだけこのギターと仲良くなろうと思う。自然にドの音が鳴るように。綺麗なドミソが鳴るように。綺麗なソファレが鳴るように。君が輝くように。このライブハウスで君が面目躍如を保てるように。

間違えないようにしなければというプレッシャーはない。ただ、せっかく借りたこのギターが最大限にポテンシャルを発揮できるように。そのために間違えないように。歌詞の意味なんていつだって、歌っている時は他の意識に持っていかれる。いかに音程を保てるか。以下にリズムを保てるか。以下に感情を抑えた歌い方ができるか。いかにすべての弦を「生き」させるか。それだけ。感動は勝手にしてくれたらいい。あとで「泣いた」とか「かっこよかった」と言われるのは嬉しいけど、今はただきちんと歌って弾く、それだけだ。邪心が入ると歌詞が飛ぶ。コードを間違える。

どうしようもない自分の歌を真剣に聞いてくれる人がいる。この幸せ。一万円。

前の土日に、何を歌おうか迷う、この幸せ。単調な仕事と今日のライブをセットで考えられる幸せ。誰にも言わずにに会社を抜ける、ゾクゾクするような背徳感。終わったあとに飲みながら店長と常連の人と音楽について話せる幸せ。

これで一万。一瞬高いと思うけど、見合うから払っている。僕に生きる喜びを与えてくれるライブハウスよ、永遠に。

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