腐れ縁について

1月、私は成人式に出席する。
黄色い振袖を着て、散々虐めてきたクラスメイトに再会した。当時眼鏡だった私はコンタクトになり、髪も染めて化粧もして、最初はクラスメイトに認識されなかった。
当時、私のことなど見向きもしなかったカースト上位のクラスメイトが向こうから声をかけてきた。何故か緊張してしまって、ろくに返事もできなかった。

その中に、当たり前だが、Aがいた。
Aは未だに隣の家に住んでいたが、あれ以来、生活リズムが異なるのか全く姿をみなかった。2年振りに会うAは別段変わりなく、大学でやっとお洒落を覚えた私だけが変わったようだった。
市の公民館で同窓会のようなものがあり、私は周囲に誘われるがまま参加した。チューハイを片手に宴会場から抜け、冷んやりとした廊下で壁に背を預ける。
やはりというか、Aが現れた。
当時、まだうぶだった私は身体の関係が怖くて、Aと距離を置いた。しかし今、ネットで知り合ったCと一線超えてしまって、二股をかけられた訳ではないがDに二番目扱いされた私は酷く傷付いたような、なんとも言えない感傷に浸っていた。
手を伸ばせば届く距離に住む幼馴染が、1人宴会を抜け出した私を追いかけてきたという事実だけで気付いてしまったのだ。——ああ、Aはまだ私を、と。

久しぶり、というAにああうん、と曖昧な返事をした。チューハイなんて持っているが、私はそんなにお酒が強くない。手持ち無沙汰に缶を回したりして、ぼんやりと飲み口を眺めていた。
酷く緊張して、喉が乾く。何を話したのか定かではないが、会が終わる頃にはAと普通に話せるようになっていたと思う。
帰る方向が同じだから、という理由でAは私を連れ立って帰宅する。おかしな話だ。学生の頃は一緒に帰ったりなんかしなかったのに。
私たちが離れていた時間は大したことないせいか、昔話に花が咲いた。Aのランドセルを私が後ろから蹴り上げて通学してたこととか、初めて会った時の話や、傘を振り回して逆側に広げてみたり、民家の間に入り込んだり、土手から落ちて川にまで転がり落ちた話もした。
気心の知れた仲はとても居心地がよく、私は少女のようにはしゃいで、田舎の夜道を上機嫌で歩いていた。ガラケーだった頃のアドレスしか知らないから、とお互いに言い訳がましく建前を並べてスマートフォンに買い換えてからのアドレスを交換した。

それからは、Aの高校時代の友人とカラオケに行ったり、スカイプでだらだらゲームをしたりした。その頃から、私は漁るようにオフ会へ身を投じるのをやめるようになる。
私の激しいメールにも、突然のスカイプにもAは柔軟に対応してくれた。3歳頃からの付き合い(ブランクはあるけど)だから、距離感も、私の扱いも完璧だった。ただ、何も考えずに甘えて気がすむまで話をして、たまに数人で遊びに行って、私はとても満たされていた。

けれど、私は自分がAを好きなのか、わかりかねていた。確かに好きだけれど、私はまた、身体を求められた時、応えられるのだろうか。Aと手を繋ぎ、抱き合って、キスをして、その先も?
そんなことをぼんやりと考えながら過ごす日々が続いた。

駅へ向かう途中に桜並木があり、花見気分を味わった。夏が過ぎ、秋も過ぎ、ついに年を越す。再会から1年が経っていた。そして、私は彼氏という存在に飢えていた。季節が進むたびにAといることが自然になり、ついに、2人きりでカラオケへと赴いた。
広いカラオケボックスの中でとなりに座り、自然と指先を合わせていた。それをどちらからともなく握り込んで、私は、そっと肩に頭を寄せた。
私わがままだよ、と。自分勝手だよ、と呟いたけれど、Aはそれにうん、としか答えなかった。

Aと初めてキスをした。
その帰り、手を繋いで帰る。ああ、ついに腐れ縁みたいに拗れ遠回りしたけれど、落ち着くところに落ち着けたのだな、と、安心感があった。
クリスマスが過ぎた、21歳の冬だった。

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