嘘か誠かの見極めについて

noteの作り方的なものに1,500字程度が望ましいというようなことがあった。HPに小説をあげていた時は5,000字以上を目標にしていたから、流れに乗っていると切りどころがわからない。

Cと別れたのは、まだ夏の終わりか秋の始まりだった。同じ学科でよく席が隣り合う男がいた。Dだった。Dは大学のサークルではなく部活動という、わりと真面目にスポーツをする団体に所属する優男だった。
Cにはなかった優しさが気になり、Cと別れてもあまりショックがなかった私はDとよく遊ぶようになる。3回ほどお昼を食べたり遊んだりして、ああやはり現実の異性と段階を追って付き合いに至らないと変な人に捕まるのだな、と納得したりした。

この時もそうだし、旦那と付き合った時もそうだが、私は生まれてこのかた自分から告白というものをしたことがない。あやふやなものはあるにはあるけど、なんとなくノーカンとしたいという気持ちが強い。
長く隣にいて、それが当たり前になり、なんとなく間の悪い雰囲気にはにかんだり、お互いの心を探るようなメールをしたり、電話をしたりする。その末に、私たちってなんなんだろうね、とポツリと呟いていた。すると、自然とその日が記念日になるのだった。私はそういう、ずるい女だった。

場所は大学近くの500円でドリアが食べられるファミレスだった気がする。2人でまたランチをしてぼんやりしていた時に、私はそれを口にしていた。
季節は、まだ冬ではなかった。Dとは入学した時から面識があったのでこの時には既に半年近く経っていて、時間は充分だったと思う。けれど、Dの返事は私の想像を超えていた。
「今は同じ部活の子が好きだから、その子に告白してフラれたら付き合おう」

この時ばかりは苦笑いというか、半笑いというか、どんな表情を浮かべていたのか分からない。記憶にないとかではなく、本当にどんな表情をするのが正解だったのか、そして私はどの表情を選び抜いたのか今でも分からない。
その場を濁して、逃げるように電車に飛び乗った私は流れる景色を眺めながら、ようやくというか、やっと気づく。
私は異性を見る目がないのだろう。

Dとはそれきり疎遠になった。なったと言うか、私から連絡を取らなくなったらそれきりだった。ひとりぼっちのクリスマスを迎えながら、そういえば好きな人が途絶えたことはないしなんだかんだで彼氏もいたのに、1度もクリスマスを恋人と過ごしたことがないことに気付く。
その遣る瀬無さや、自分の異性を見る目のなさを恥じながら年を越した。

春生まれの私は、一足先に二十歳になった。お酒が飲めるようになる。この頃、私は恋愛を億劫に感じながらも特定の異性に依存することの心地よさに飢えてもいた。Dのことが想像以上に堪えていて、誰でもいいから可愛がってくれる人を求めていたのだった。

そんな私にとって、ツイッターはとてもいいツールだった。思えば携帯電話のメールから始まり、小説を書くのが趣味だった私にとってスカイプなどの「文字」でやり取りするツールを扱うのは容易かった。
他愛のない話をし、思わせぶりな態度をとり、健気に振る舞った。お互いに顔が見えないというのはとても都合が良かった。

この頃の私は複数の異性と気ままにDMで話し、何人かとはスカイプまで発展した。そのうちの1人とオフ会をすることになる。何かのついでに地方から出てくるから会わないか、と聞かれ二つ返事で了承する。
当時の私はINGNIやSecret Honey、suzutan、あとdazzlinらへんを好んで着る喪女だった。激しく童貞ウケがいいというか、ネットに出会いを求めるような男の好む服を着ていた。
この時会った人とは、カラオケをしてご飯を食べて、最後に手を握られて、思わせぶりにばいばいした。何か言いたそうにしていたがはぐらかして、それきりだった。もう1人ともオフ会をした。やはりカラオケをしたが夜ご飯に牛丼チェーン店に連れていかれ、それには愛想を尽かしてこちらから連絡をとらなくなった。Cと出会った掲示板にいた異性とも、二人きりで会ったりした。二十歳になった私は、漁るようにして男と密会を重ねていく。

Cとの出会いと、付き合った半年未満の時間は、二十歳になったばかりの女を狂わせるのには十分すぎるほど刺激的だった。ネットで運命的に、天文学的な確率で知り合った二人であることに酔いしれたし、そんな二人なのに元カノの自殺で破綻した悲劇のヒロイン気取りでいられた。自分自身の境遇に心底陶酔した。

初めてできた彼氏とは思い出もなく、身体を求められ続けた嫌な気持ちしか残っていなかった私にとって、例えクソみたいな理由で別れを告げてきた相手だとしても、Cは初めて出来たまともな彼氏だった。駅で待ち合わせして、手を繋いで遊びに行って、映画を見たり買い物をしたり、まあなんか彼氏彼女っぽいことを初めてした。それは、思春期を過ぎるまで彼氏ができなかった私には、まさに麻薬だった。Cを失った私は、それこそ中毒者のように「彼氏」という存在を求めて一人オフ会に身を投じ続けた。見境なく、駆け出しの歌い手に近づいて応援して、彼女の座を射止めたけれど嫉妬が原因で別れたりした。直接会えなくても、メールでやり取りするだけで、ひと時心は満たされた。

現実で顔を合わせていたって人をキープにするような男しかいないのなら、別にネットで恋愛慕っていいじゃない、と開き直った私は同時に複数人とツイッターやメールのやり取りをする毎日を過ごしていた。
そうして、一度知ってしまった恋人という存在を失った穴を埋めたくてあがき続けていた私は、成人式を迎えることになる。

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