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赤白緑そして赤(青色を含む) #パルプアドベントカレンダー2020

 ◆過激な表現を含む◆
β

夜がやってきた。

今できることといえば、ただ生きることだった。

クリスマスカラーのイルミネーションと鋭い青に桃色の煽情的なネオンサインが、大粒の雨玉と混じって滲む。
土砂降りだ。氷にほど近く冷たい、刺すような雨だ。

そんな日は、多くの路上生活者がそうであるように。

ここにもひとり。青ジャケットの女。無論宿なし、年は十代前後。
彼女もまた、雨宿りには苦労していた。
右目の泣きほくろは、もう自らの涙を吸わずに久しい。

ただ、しくじっただけだ。全部捨てて、逃げたくなるほどに。

道を急ぎたかった。数日まともに休んでいない。
傘があれば、公園で一睡できるのに、今はそれすら敵わない。
肩にリュックが突き刺さる。中は軽くて、しかも小さいアネロのモノなのに。

この街は無慈悲で残酷だ。じきに、彼女はココに殺されるだろう。
エイトブロックスなんて洒落た渾名もただの金メッキにすぎない。

街中の喧騒に紛れ込み、ずぶ濡れのまま、覚えてる通りに街を辿る。

「――この時期になっとさー、住民税ってホントクソだよね」「わかるわーわかるわかる」
「兄ちゃん、ちょっとこっちに美味しいイタリアンの飲み屋が――」「いいです帰ります」
「年末年始ありがとうフェア——」

左右はまさに師走と言うべき混沌だった。雨がどんどん強くなる。赤緑の電飾がビニール傘に反射して躍り、灰色の雲を突き抜ける摩天楼は繁華街に集う人々を見下す。

どれも彼女には縁がない。

一つ入った狭苦しい路地、落書き塗れのシャッター下に腰を置く。
ココなら、寒くとも一晩は過ごせる。

地面は冷たい。雨よりはマシだ。
肌にぴったりとくっついたTシャツと、獣のような自分の臭いが不快だった。いつの間にか白袖からボロのグレーになっていたスタジアムジャケットはタップリ水を吸っていて、すごぶる、重たい。

通りの表は騒がしい。明るい。
だけど、自分のいるべき所ではないと分かる。心も体もそう言っている。

この汚れた暗闇こそ、私の場所。そこは、常に外側だ。

【RED,WHITE,GREEN,AND RED:NEON-GOTHIC ADVENTURE /FROM"GENKAI GIRLS”】

1.MEMENT MORI

突然、背中の頼りにしていたシャッターが開いた。
感傷に浸っていたことを恥じた。背中がほんのりと眩しい。

「……おねーちゃん? なにしてるの?」

出てきたのは幼い少女だった。冬だというのに肌着一枚で、髪の毛もぼさぼさだ。雪の精のように肌は白く、儚かった。不法住居者であることは予想が付く。あるいは、まともに『保護』されていないか、だ。

「……迷惑だよね」
愛想笑い。癖みたいなものだ。

「ううん」少女は首を振る。「おねーちゃん、寒そう」
「ああ。とっても寒い。もしかしたら死んじゃうかも」
「オウチは無いの?」
「帰れなくなった」

幼女は正しく『あらまあ』と言いたげな顔をして、少し間をおき、ゆっくり言う。

「かわいそう」

青ジャケは微笑を崩さない。
「ありがと」
おもむろに水蒸気式電子タバコ(notニコチン)を取りだして、吸う。白い息に混じり、もくもくと、ミントの香りの煙が広がる。

「……ここで寝ていい? 私、とても、疲れてる。もちろん、ドロボーはしないから」

「どうして部屋の中に入らないの?」

◆◆◆

丁度六畳ほどの広さ、さらには個人経営の裁縫工場を想像して頂きたい。そこへゴミ袋を10個、食い散らかしたファストフードのゴミ32個、百円ショップの雑貨をダンプトラック一杯くらいぶちまければ、この部屋は完成する。

「……ありがと」
適当なところに腰を落ち着かせた青ジャケットは、幼女から渡された缶のコンソメスープを啜った。近くの自販機で買ったものだ。とても身に染みる。全身に行きわたる気すらした。実のところ、この1週間はカロリーメイトしか食べていない。ひと箱を丁寧にだ。

「おねえちゃんって、名前なあに? お尻にあるそれ、トンカチ?」
「そうだけど」
「じゃあ、ダイクさんなの?」
「……どう呼んでもいい。それとも、名乗った方がいい?」
「しりたいの。わたし以外のひとの、呼ばれかた」
青ジャケットは穏やかに笑う。
「懐かしいね。昔の私みたい……私は緒舟。伊東緒舟。いまはただ、それだけ」
「イトー……オフナ?」
「そう。あなたは?」
「ワタシは、リン。もえて、チリになるって、教えて、もらったの」

違和感があった。目の前の彼女はそんなことを口にするには早すぎると思ったし、少し話しただけで分かったが、常日頃から、己の様に、下らない厭世に囚われて生きているとも想像しづらい。

「……なにか事情でもあるの? 私はあなたが燃料にも科学者の孫にも見えないけど。私なんかよりも、ずっともっと人間らしい……もっと簡単に言うなら、何か困った事、起きてない?」
「…………」
「聞かせて。一宿一飯……ここで寝かせてもらって、このスープのお礼だよ。なんなら、この部屋の片づけでもしようか?」
リンはばつが悪そうに顔を屈めたが、再び、向き直った。
「おねーちゃん……ひとを、さがすの、手伝って」

◆◆◆

12/2X 日付も曜日も忘れた
昨日のこと。820円もらった。お金の話はいい。とにかく私はまだ生きてる。生きてるからお腹が、へる。眠くもなる。まるい飴でも泥水でも。土くれ被って寝ていても。私は人だし動物だから、それでいい。そのためには、払い続けなければいけないものがあるって、なんだか不思議。お金でも、血でも。何でも。

ここに帰ってくるなんて思わなかった。贖罪の戦いは終わっちゃいない。

リンがクレヨンで書いてくれた地図(役に立たなかったので、結局半日使って場所を聞き込んだ)に従い、「セントラルブロック」から数十キロ歩いて見つけた場所——「ポートタウン・ブロック」内の絵画アトリエ「ディアンドディ」。

牛丼チェーンとファミマと工場とガソリンスタンドに占領されているこの界隈の大通りを、一本中に入った場所にある。

ここにいる、と聞いた。もしも留守でないなら、呼んで帰るだけである。

「だれか、居る?」

返事なし。
画廊のドア一枚隣にある、書きかけの絵と、モデル人形、大理石彫刻の並ぶ、昔ながらの絵画工房に進む。

埃と、油性絵の具の臭いが充満していた。描きかけの絵はあるがハケで塗りつぶされて分らない。

しかし、この状況で目を向けざるを得なかったのは、あちこちにペンキがこぼされていたことである。それも派手にだ。

赤、白、緑、そして、赤。華麗なマーブルを描いている。壁にもかかっており、その有様は、緒舟がもう少しだけ財布に余裕があったころ、ニュース雑誌で見たジャクソン・ポロックの絵画によく似ていた。

しかし、見とれている暇はなかった。予想外の不意打ちを受けた。

「うわ——」

曰く、ポロックの絵は無意識の意識をなぞるからこそ、乱雑に見えても価値があるという。

そこには絵の具とアーティスト以外は立ち入らない、カンバスとの対話という、不可侵の領域は確かに存在する。それがあるからこそ、鑑賞者は軌跡を追う事を担保されているという。

だがもし、不純な何かが間に挟まっていたら?

「——酷い……!」

この現場の場合、その不純な何かと言うのは死体であった。

四肢が斬り落とされてバラバラの位置にあり、頭すらも床に落ちている。

殺されたまま数日は放置されているらしい。ざっと見て、2日。おそらく女性。年は20代付近。
その恰好は、どういう訳か妖精風。エルフのような。

もちろん、この死体にもインクが大量にぶちまけられていて、塗料に含まれるアルコールなり何なりが、死体の腐敗を防いでいた。

「……探す対象が死んでる」

◆◆◆

時間は昨晩に遡る。

「ええ、人探し? まあいいけど……私は名探偵でもなんでもないって事は、知っといて」
「でも、ほんとうに、助けてくれるんでしょう? ……あの、わたしの、おねーさまが、帰ってこないの」
「待って待って。あなたには姉妹がいる、それでいい? だったら保護者とか、いない訳?」
「よく、わかんない。パーパはいつもあたしを、守ってくれるけど」

この際、話が噛み合わないのは気にしなかった。一つでも多く情報を引き出したい。つたない口から語られる事を、頭の中で咀嚼すればいい話だ。

「彼には相談した?」

緒舟はゴミの山からまだ腐敗臭のしないマクドナルドのアイスティーをみつけて、それを啜った。

「……つまんないこと、やらないと思う」
「相談出来ない事情、あるのね。ま、気にしないけど。……あなたがお姉さんを探したいのは、どういう理由?」
「わたしの番が来る前に、ちゃんと、顔を見たいな」
「と、言うと」
「おねーさまは、帰らなかったらもう死んでる、って言ってたの。わたしには、それがわからない。タマシイはきえないんでしょ?」

思わず緒舟は目を丸くした。もしも死体を探すなら、墓あらしの仕事じゃないの。

◆◆◆

死体を見るのは慣れている。
「……わからない。きっと、死んだ後にバラバラになったんだろうけど……いや、この力のかけ方じゃ、バラバラになりながら死んだの?」

独り言が頭の回転を助けてくれる。つらつら脳味噌を走らせるより、言葉の力でなにが起こったかを自分に理解させた方が、ずっと楽だからだ。

何はともあれ、まず検死が必要だった。だが、緒舟は専門家で無い。

警察に頼んでも鼻で笑われるか、自分が拘留されて終りだろう。何故なら、猟奇死体は彼らの庭ではなくなった。そもそも、この街で捜査されない殺しはかなり多いのだ。

理由はいくつかある。
立地の関係上、ヤクザにマフィアにギャングに、他にも多数の企業が都合の悪い人間を消しているから。次に、悪い噂は悪い噂を呼び、いつしか日本全国から集う非道連中の仕事場になっているため。
極め付けは、警察が殺しまくっているためだ。自分のケツを拭くほどみっともない事はない。

彼女だって人の死体に構う道理は、なかった。
しかしながら。

◆◆◆

リンは不思議そうに、緒舟を見ていた。
豆電気がいつ止まるかも分からぬ暗い部屋、豆電球の灯だけを頼りに、濡れたジャケットを雨戸の傍に吊している。
黒いメタルバンドのTシャツは、生臭いが脱がなかった。

「おねーちゃん、あうとろー、なの?」
「見方によってはね」
「お金は? あれでいいの?」
「むしろドブ臭い他人に何かやらせる時にお金を渡すってこと、なんで知ってるかって聞きたいくらい」
「パーパが、ときどき、そうしてたのを見たから」

よくあることだ。その手の仕事、例えば殺しや叩きを頼むのは、今となっては出前を取る感覚である。

「おねーちゃん、本当に、本当にいいの?」
「問題ないよ。友達と、人探しってか……似たようなこと、やってたし」

緒舟は、腕の内側に、ふと視線を落とした。白い肌には無数の横線。さらには、いくつかの裂創痕。全部が消えない傷たち。由来を数えたらキリがない。他人によっても自分によっても。

「あれ、ケガがいっぱい……」
「もう痛くないよ。輪郭みたいなものだから。後で見て、思い出す、私の定義みたいなものだから」

ゴミ袋にもたれかかる。

「……パーパが言ってた。タマシイは傷つかないって。だけど、どんどん、汚くなるんだって。わたしは、もしかすると、おねーさまが、もう、わたしの知ってるタマシイじゃなくなったら、助けてあげないと、いけないって、おもったの」

端的ながらも意図したことは伝わった。表情からも、純粋な言葉からも。不安なのだ。

大丈夫、大丈夫とささやいた。

「偶然かな。あなたは私が小さい頃みたい。ずっと不安で、疑問が多くてさ。大丈夫だよ。それに……パパって人、私の家族とも似てる。もう当分会ってないけどね。魂がどうのこうの、とか」
「おねーちゃんにも、パーパはいるんだ」

緒舟はごろんと横になる。ゴミ袋は路上よりも眠りやすくて暖かい。
天井は奇麗だった。一度部屋の中で寝ると屋外を寝床にできなくなって困る。

「……家族は……もういないと思うよ。大っ嫌いだし」
「家族がいなくて、へいきなの?」

緒舟は壊れたクマのぬいぐるみを引き寄せて、ほっぺをつねった。

「平気だよ。でも、それはとっても不幸な事なんだ。あなたには家族がいるでしょう。大切に、しなよ。これから先ね。そのために、私は頑張るから」

クマは手のひらで、もちもちされ続けている。

「じゃあ、ともだちはいるの?」

クマに微笑みかけて、胸元に抱いた。

「……いたよ。多分元気、なんじゃないかな。酒の飲み過ぎで死んだり、鉄砲で撃ち殺されたり、刀で真っ二つにされたり、クルマに爆弾仕掛けられていない限り」

「あたしは?」

「あ、あたし? ……ああ、あなた」

「うん。わたしとは、おともだちに、ならないの? わたしも、一人なの」

あの子が払ったのは、私を一晩寝かせて、少しの小銭と、一本の缶スープ。十分だ。
だから……同情とは、ちょっとちがう。私の場合、ただの利害の一致ともいうべきかもしれないし、それとも人の心が私にもまだ残っていたのかもしれない。だけれど、けして、かわいそうだとは思わなかった。
ただ、私みたいな腐ったバケモノになって欲しくないだけだ。

そのためには、もう一度、私は影に体を走らせる。

◆◆◆

手掛かりは以上だった。ずいぶん用心されている。髪の毛も、指紋も、注意深く隠されていた。インクをぶちまけたのは何かの理由があるとして、だ。

地道に足で調べるべきだろうか。

それとも、その辺りに居る警察官と口喧嘩して、いいように協力関係を築こうか。

コンビニでSIMを買って、友だちに電話——これはお金がないんだった。

電子タバコをまたふかす。

ジウッ、と音を立ててリキッドが燃える。

途方に暮れていた。出来る事はひたすらの推理だった。
悶々と考える事のみ。話し相手が居ないことを悔やんだ。

まずは『どうして妖精の格好をしたこの女性が、バラバラ死体であるのか』という事。
次は『リンは彼女が本当に死んでしまったことを知っているのか、あるいは本当に”姉”であるのか』。
最後に『この事件を起こしたのはどこの誰だ、目的は何だ』である。

そして、変化が蛇の毒の様に現れていることは、まだこの時、緒舟は知る由もなかった。

また独り言をこぼす。

その辺りに落ちていた、まだインクを吸っていない新聞を読んでみる。

愛知梅王大学の学生、2人不明
 特別行政都市八区の学生 嶺岸 ちなみさん(21)が11月から行方不明になり、警察、家族が捜索を続けている事件において、同じく学生の小長谷 マリナさん(22)が、夜出かけたのを最後に、連絡が付いていないことが、捜査関係者への取材でわかった。警視庁は組織的な犯行とみて…

「これは……?」

一応頭の隅に置いたが、それ以上は気にしなかった。毎日100人は行方不明になるのだ。緒舟は知ったことではなかった。

さらにぐるりと見渡す。

「芸術家気取り、なんて予想を立ててみ……よ……——」

長い時間をかけて観察していた。異変は音を立てて現れる。

「あ、あれ……?」

明らかに床にブチまけられたインクのうち、『赤色』が増えていたのだ。

どこかでこぼしたか、と思ったが、インク缶は何処にも見当たらない。

流石に驚いた。
ワッと声を上げそうになったがかき消された。

喉からゆっくりと、どろりと、声にならぬ息と一緒に、そいつは吐き出されたのだ。

今バラまかれた赤いインクの正体は、血であった。彼女自身の血である。

思わず、口を拭けば、手の甲はベッタリと赤くなる。

「……な……なにこれ……」

びちゃびちゃびちゃと床に落ちる。止める事も出来ず床の血だまりは広がるばかりだ。しかし不思議と痛みはない。

ぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ。

今度は後ろから音がした。振り返ったがドアは閉まっていた。

しかし、安心するにはまだ早かった。

「何してるのォ~~~~~~?」

「しまっ——」

上からそいつは現れた。ロリータ人形のような格好の、いや殆ど生きた人形と言っても差し支えない小柄な女だ。
テーブルの上で、つまり緒舟を見下ろしてバレエポーズの様に奇麗に立っている。
目元はドミノマスクで隠されていて見えない。

「ちょっとォ、ファミリーの領域に、土足で来てさ、あれこれ詮索してさ、いったい何のつもりかしら?」

「ひとを……探しに、来た……」
発声がしにくい。

人形娘はケタケタ笑う。
「ここには人なんていないわよー。もしかして君は泥棒なのかしら? 家から大切なものを盗んでく、意地の悪い泥棒かしら? だったら泥棒さん、さっさと死んでしまえばいいんじゃない?」

人形娘は腕を上げると、どこからかまたグチャグチャと音が鳴る。緒舟は直ぐに出どころが分かった。

自分の喉だ。

「あ、ああああッ!」もがけばもがく程口の中で唾液と血が混じる。

混乱と焦燥。

鉄の味。

厄を掴んだ。

疑問の一つに、『誰が狙っているヤマなのか』が加わる。

とにかく、今は、生き延びなければ。
突然の襲撃から、命だけは持ち帰らなければ。

リンに合わせる顔がない。

久しぶりに彼女は、死を意識した。

魔法も忍術も全てを見通すPSIも、光り輝く義手すらない。
自分は脆い。相手を逆にやらなきゃ、やられる。

「(最初に食らった時、痛くなかった)」

考えろ。考えろ。遠のく意識と流れ出る戦意に逆らい続けろ。

「でもなんでヨソモノがこんなところにいるのかしら~? まあいいわ~。パーパが見て来い調べて来いって言った訳だしぃ」

「(腕を振り上げる……喉が破れる……)」

床を見る。吐いた血飛沫が線対称図形の様になっていた。ちょうど何かで切ったような。間に線が入ったような。

「しぶといね……!」
人形娘は腕をぶんぶん振り回している。首の痛みが広がり始めた。

「(……これしかッ)」

もはや一刻の猶予なし。わずかでも勝率があるなら、懸けるほかない。無意味に終わる事すら考える余地もない。緒舟は唐突に喉元から拳一個分の何もない場所を掴みかかる!

「……え?」

手ごたえは確かにあった。それは糸か髪の毛を掴んだ感触に似ていた。攻撃の正体は単純だった。

「……糸……だ……人間には痛点がない場所がある……ある一点を突けば痛くないってね……」

たった僅かの感触を手掛かりに、自分の方へ手繰り寄せる。

「魔女狩りを知ってる……? その時の尋問方法には人間をね……ニードルで刺しまくって痛くなかったらそりゃ契約の紋章だ、って判別する方法があった」

息を吐くたび溢れる血液。負けるわけにはいかない。ここで倒れる訳には。使える武器は何でも使え。一言一言を刃物のように刺していく。

「だけどその方法には欠点がある。まずは人間の体には穴が多すぎる……そして……痛みはマヒするんだ。あなたのコレは……応用だ。糸を極限まで細くしたら、その圧力は針の数倍にも及ぶ」

つかんだ。細い糸を手繰り寄せ、力点が発生する場所。てこの原理で細い腕でも、敵の力を殺せる場所。

「ちょっと!」

人形娘は歯ぎしりをした。タネが割れたのだ。最大の長所は最大の弱点になる。

「あなたが何なのかは私は知らない……だけど……私はここでは死にたくないから……喉元をちっこい針でブッ刺して、楽に死なせてくれるつもりでも——」

緒舟は力点を軸にぐりぐりと力を込めて捻じ曲げながら引っ張る、引っ張る、引っ張る!

「——あなたの事を、ここで倒す。……RAAAAAAAAH!」「きゃあああっ!?

捻じ曲がる人形娘の腕。彼女はよく見れば四肢全てが球体関節の義手に置換されていた。おそらく機械仕掛けだろう。

「RAAAAAAAAAAAAAH!」「きゃあああーーーッ!!」
次の一撃で腕が破損!あらぬ方向にめきめきと音を立てて砕け散る!

「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!」「きゃあああああああああああああーーーーッ!!!」

もはや容赦なし。 
緒舟の喉に突き刺さっていたミクロンサイズの糸は、飛び散る鮮血と共に抜き取られた。
そして……この勢いで、人形娘のバランスを崩し、彼女を大きく一回転させてテイクダウンからのマウントポジションに持ち込む。

「……終わりだ。質問をさせて。見てくれも人形なのに体も人形なの」
「怖くないよ。……とっととやめてどいてくれない?」

現場に視線をやる。

「ここで死んでる人は、あなたが殺した?」
「違うよォ、パーパのモノだけど……えっ」

緒舟は腰から下げていたトンカチを人形娘の目の前にやる。

「続けよ? パーパね……私にこの問題を預けた人も、そのこと言ってた。ギャング? ヤクザ? 黒社会? それとも他の組織?」
「パーパは……パーパでしょ? お父さんともいうよね」

「じゃあ二つ目……あなたは、今まで何人殺した。今の技、慣れてなきゃできないはずだ」
「教えない。絶対に教えないから」

首を絞める。

「結構やってるの……そうじゃない?」
「じゅ、十五人くらいだよ!そのくらいなら、いいでしょう……?」

問答の末、暴力に行きつくのは慣れている。もはや結末は決まったようなものだ。

「ま、待って! 知ってる事をおしえるよ、だからさ、ココをどいてくれないかしら? 腕も壊れたしこんな姿を見たらパーパは怒るからま——」

ぐちゃり。

言い終わるより先だった。トンカチが、人形娘の頭を粉砕したのは。

「私も、いずれ……」

死体を見るのは、慣れている。

理解を超える連中との対決も。
人の死に構う道理はない。しかしながら。

「……動かなきゃ、動かなきゃ……」

荷物をまとめて、アトリエの外に這うように進む。

「やっぱり、どうかしてる……あれをやったのは、化け物だ……腐った悪者かもしれないけど……止めなきゃ……」


くらり、くらりと眩暈がする。ダメだ、ここは匍匐して行かねば。傷が開く。久しぶりに大きく食らってしまった。

耳鳴りもする。

「なにが関わっているの……それでも……罪深いのは……私一人で充分……終わらせる……奴らを……」


きりきり、きりきりと進む。壁に寄りかかって呼吸を整える。あともう少しで外へ通じるドアだ。はやく、はやく。コンソメスープが飲みたい。

(((でも、限界なんだろう? はやく休むんだ……このモノクロームの世界で君は光ってる。素敵だ。君には、もっとすべきことはあるだろ)))

顔を上げる。神父みたいな恰好をした長髪でサングラスの男が、目の前で笑っていた。耳から声が聞こえているはずなのに、頭の中で反響している。

「誰……?」

(((僕の事はどうでもいい……君の話をしているからね。いやあ、よくがんばった……眠る時ですよ)))

「駄目……かならず、あの子の元へ……」
(((強がりですね。嘘ついても仕方ないです……だんだん、体は動かない)))

「…………」

遠のく意識への抵抗むなしく、目の前が真っ暗になった。

◀◀ 巻き戻し 
関西でも同様の手口か? 撲殺死体発見される
八区警察は近年悪化する暴力団員、企業役員の連続殺人事件において、関西で発生した台湾に本拠地を置く石材会社社長殺害事件との関連を発表した。被害者はその場にあった凶器ないしはトンカチのようなもので頭部を粉砕されており——識洲新聞、9月の社会面

2.かならんげ

▶ 再生

あたしがおきたとき、ガラスは白かったです。

夜更かしをして、とても眠かった。ずうっと、おしゃべりをしていました。
だから、いつもより色がこい、まよなかのくろくろしたマックラヤミを通って、朝がやってきました。

あたしは、今日もいい日になると思いました。

でも、あたしのほかに、このすっきりとした気持ちを分け合えるひとはいなくて、悲しくなりました。

おねえちゃんは、あたしが起きたときにはもうどこにもいませんでした。

ただ、オレンジジュースと、スースーするアメの匂いが残っていました。

寂しくなったあたしは、ちょっとだけ、「オフナ」、「オフナ」、と呼んでみた、でも、あたしはどこか、はずかしいな、と思って、
毎朝のお手伝い(おさいほうをして、洗たくをたたんで、干して、穴をほって、うめるお仕事です)に、力が入りませんでした。

さいしょ、あたしは、オフナおねえちゃんは、本当にドロボウさんだと思いました。わるい人と、思ったのです。よる遅くまで、お外であそんで、いたからです。

でも、まちがっていると思いました。

ああ、あたしよりも、ずっと、

心がきれいな人でした。

ウソを言わなかったからです。自分のことだけ、考えなかったからです。

でも、とっても、寂しそうでした。悲しそうでした。

あたしは、とっても、かわいそうでした。助けたかった。

あのおねえちゃんが、どうして、あたしのおねえさんではないのだろう、と、思いました。

ああ、友だちになって、じゃなくて、おねえちゃんになって、と言っておけばいいなと、あとから後悔しました。

チャイムが鳴りました。フットマンさんが、来ました。髪の毛が長くて、いつもサングラスを着けています。足もとても長いので、やっぱり怖いです。どうして毎日黒くてのぺりとした服を着ているのか、不思議です。

だから、ちょっとだけ、イヤな人で、ちょっとだけ、嫌いです。

かれがやってきて、あたしの日々に、ひっぱられたふうに思いました。

「おい。リン。いますか。いませんか」

——はーい。

「飯だ。飯を食うぞ」

——わかりました。

シャッターの方ではない、入り口からフットマンさんが、毎日のご飯をあたしに渡します。いつもと変わりませんが、でも、あたしはさわやかな気持ちでした。話したいことがたくさんありました。

フットマンさんの顔には、斜めの傷が入っていました。昨日も、その前もそうだったのですが、前は無かったので、こわいな、と思いました。

パーパが言っていたのは、「いくら傷ついても、心までは大丈夫」なので、たぶん、フットマンさんは大丈夫でしょう。

「いい子にしてたか?」

——もちろん、です。ちゃんと戸締り、したよ。

「本当かよ。ま、ええんだ。いい子にしてたならな」

——はい。

フットマンさんは、リビングのとなりにある、作業部屋を見ました。作りモノのうでを一本、とりだして、あそんでいます。

「で……おお、珍しいじゃーねか。仕事、終わってるな。裁縫もいい。流石だよ。お前の裁縫技術は僕だけじゃなくて、ファーザも認めてる。ホントなんだぜ? 特に腕の接続がいいんだ。この球体関節と……受け側の関節のな。ドレスも……おお、見事、見事」

——ありがとう、ございます。

「で、今日のメシだ。これでいいだろ」

あたしは、ハンバーガの袋を開けました。いつもの臭いがしました。

「ハッピーセットなのは、僕からのクリスマスプレゼントだよ。えーと、スーパーマリオのオモチャだ。いや知らないか。このアバズレがピーチ姫、背の高い髭がルイージ、低い方がマリオだよ」

——ありがとうございます。いただきます。

「いやちょっと待て……おい」

——な、なんですか

「飯はお預けだ。おい。アレを見ろ。みーろ。二つの目ん玉で」

あたしは、フットマンさんが指さした方を見ました。

「なんで、この部屋は湿ってる」

——あ、ごめんなさい、ごめんなさい。

「ホントにバカだな……お前は……お前は! 前も言っただろ! ツインシフター・ドールハウスの家族なんだよ、わかるよな? そしてここには大事な大事な素材が眠っている。外の世界の汚れを一つも入れちゃあ行けないんだよ。僕はいっつも言っているだろう!」

フットマンはあたしを手の甲で、ぶちました。

「君はココに居て、ココがすべてで、いい子にすれば、きっとだ、きっといいんだ。僕が君をお出かけに連れていく先もかなり考えているんだからな! とりあえず、外の事は考えなくていい」

フットマンはあたしを足のつま先で、蹴りました。

「僕はお前のことを大切に考えているし、もっと、もーっと、いい子になって、シスターの邪魔にならないでほしいと考えているんだぜ? 出来損ないだなあ、やっぱりよ」

——ごめんなさい。

「お前なんぞこれでええわ」

フットマンさんは、ハンバーガが入った袋を足で踏みつぶしました。 
力いっぱい踏んでいました。

——……あ。

「なんだい」

——フットマンさん、あたしと、ちょっと、話しませんか?

「……ああ、いいよ。じゃあ……やっぱり、今から、ごはんにしようか」

やった。

フットマンさんはイヤな人ですが、ちゃんと、あたしとおしゃべりをしてくれるので、とても悪い人ではないと思います。

すごーくやさしいパーパと、会えないのは、悲しいけれど、それでも、ふつうは、親切な人です。
それに、やらないといけないことを、教えてくれます。

あたしは、チーズバーガを食べながら、フットマンさんはサラダを食べながら、おしゃべりをしました。

「——思うにこの白黒二つの世界において大事なのは信じる事なんだよ、リン。自分の運命を信じる事なんだ。信じられるものが一つでもあるのなら、そいつは幸せ者なのさ」

——テイギ、ってものですか?

「難しい言葉を覚えたな。僕は前にそういう話をしたっけ?」

——テイギは、”ただそれだけ”って意味らしいですよ。

「いつの間に賢くなって。アレか? やっぱり君も考えてるのか?」

——何を、ですか?

「生き方だよ。幸せになる方法だとか、人生の哲学だとか。僕は……家族のことを考える時が、一番幸せだな。特にリン、お前といる時が。他のドール連中とは違うんだ。君が居ないと、ダメだ」

——いつも、そういう。あたし、よく、わかんないよ。

「君はシスターたちの為に生きる、だから僕とファザーの手で大事にしてあげようなんて教えているんだ。くれぐれも、次の筆頭になろうなんて考えちゃだめだぞ。魂を救えるのは穢れた奴だけだからな。奇麗な人間は救われなくていい。そうだろ?」

——……?

フットマンさんは葉っぱを指でつまんで、ぱりぱり食べています。

「だから、君は大丈夫。白いんだ。君はとてもね。白黒二分しなきゃあいけない。救うってのは、グレー極まりないみんなの為にある言葉なんだよ。……僕は、こんな世界は悲しい。だから、ドールハウスの皆は幸せになるべきだって思ってる」

——でも前に、次は、お前の番だからね、と、パーパは言ってたの。

めずらしく、フットマンさんは、びっくりして、言いました。

「ああッ!? アイツが? いや、そんなことはお前にさせない。させないからな。僕の方が絶対に……畜生、あの変態ヒゲデブ野郎……いい気になって」

——おこってるの?

「もちろん。……やめだやめ、こんな話は」

彼は、ため息をついたあと、あたしのほっぺに着いたケチャップと玉ねぎ、床におちたピクルスを紙でくるんで、捨てました。

「ああ、そうだ」

フットマンさんはカバンから、紙を見せました。

「この絵の通りに服を作ってくれ。サイズは……君に任せる」

こうして、あたしのお手伝いすべきことが、またうまれます。
絵を見ました。でも、前と、ぜんぜん違っていました。

——これ、色がちがうよ

「違わない。全てはここへ収束しているんだ。グレー、モノクローム。僕はそう思うし、それが正しいんだ」

あたしは、よくわかりませんでした。どぎつい赤色、白色、緑色のドレスは確かにお姉様から渡される図面とはまるで違っていて、特別なのか、それとも理由があるのかな、と、すごく、ドキドキしました。

どきどき、といえば、あのおねえちゃんの話をしないと。

あたしは、話しました。

あんな人は、お姉様や、ドールハウスの皆にも、いなかったからです。

おどろくくらい、自由に歩いていました。

そして、あたしの、はじめてできた、友だちでした。

「……シャッターを、開けたのか」

——うん。おと、してたし、寒そうだったから。

「もしやそいつと話したとは言うまいな」

——おしゃべり、したけど……だめ、だった?

あたしは頭をつかまれて、気が付いたらゴミの山へとふきとばされていました。

「……ごめんよ。その人の事をもっと聞かせて欲しいんだ」

——ええ、いいの?

「もちろんさ。いっぱい、いっぱい、聞かせてくれよ」

あたしは、話せるだけをおはなし、しました。

あのおねえちゃんがボロボロのジャケットを着ていたこと。
あたしとは全然違う呼び方だったこと。
沢山のケガをしていたこと。
それでも、きっときれいな人だということ。

そのほかにも、ぜんぶ、話しました。覚えていることは、ぜんぶです。しってることは、ぜんぶ、話しました。

一つ一つ、話すたびに、うんうんとうなづいてくれたし、とてもホメてくれました。きれいに仕事を終えた時よりも、うーんとホメてくれました。

話してよかったな、と、思いました。

「そろそろ潮時だね……」

フットマンさんはそういうと、あたしの手を引きました。

「行こうか。今日が”飾り立て”の日だ」

飾り立ての日ですって。

こうも突然、来るとは思いませんでした。

正しく、シスターの一員になれる日。グレーターシスターになって、パーパの元へと帰る日。きれいなドレス。ああ、フリルのついた、ミモレドレス。腰元は、しろいふかふかに、リボン付き。

「あのデブ野郎のことはいけ好かないが……僕が何とかすればいいからね。全部この忠実なる執事たるフットマンに任せてくださいませ。パーパより、父親らしいですから」

あたしはシャッターの方から、彼が乗ってきたクルマに乗りました。

くろくて、席はやわらかいです。いつものお出かけの様に、耳栓を付けて、

『おとぎばなしのような すてきなこのせかいは にじのはしを わたってゆく こどもの せかい』……

奇麗な音楽を聴いて、工房まで向かうのです。

色々なことを考えます。

たとえばあたしがシスターの一員になるとして、みんなみたいに言葉も何も同じになるのかしら、とか、オフナおねえちゃんがあたしのかっこうを、見たら、なんて感想をくれるのかな、とか。

いわば、あたしへの、プレゼント、ごほうびだと、おもいます。

たぶん、かわいいものはだいすきだとおもいます。

ああ、今から、たのしみです。

ゆきがちらちら、ふり始めました。

◆◆◆

俺は腹が立った。これだからガキは嫌いだ。何喋っても平仮名かカタカナだけの言語に聞こえる。それでも、俺の愛しのリン。
あのデブ野郎だけには、そしてよそ者には絶対に邪魔させない。なんとしても、なんとしてもだ。

「僕だ、僕だ」

「ふぉっふぉ、どうしたんだね」

「裏の連中にウチの事が漏れてるぞ」

「ウチ、というとだね、ハウスのことかね」

「ああ。青いジャケットで、伊東緒舟って名前のアウトローを知らないか。そいつが……その、ウチの邪魔をしようとしてる」

「今調べてるわい。何々、『良い子ノート』にはいないのお」

「無名なのか?」

俺はサングラスを指で押し上げる。リンの話が正しければ、ぜんぶ、おじゃんになってもおかしくはない。あそこだけには行かせてなるか。

「うーむ、まるで誰かが、ごっそり消したみたいなのじゃ」

俺はハンドルをブッ叩く。クソが!

環状線を下り、みなと区競馬場の近くで降りる。早くしないと間に合わない。

「なあ、『アーティスト』のアトリエに、一体派遣できるか」

「そんなことして何になるんじゃ?」

「あいつを止めなきゃいけないんだ」

「たかだかアウトロー1匹じゃろ、何も起こらんて」

「いいから」

「ほい、ほい。暗殺向きで良いのかえ」

「任せる」

電話を切って、ラジオに耳を傾ける。

エイトブロックスで起きている連続婦女失踪事件の被害者が、今日で21件を超えました。
これによって今期全体の行方不明者数は412件を超え、過去最悪になる見通しです。家族の声です——
「帰してください! ウチの子を!——

うるせえ。

まずどこにも行きゃしないし、いなくなってから初めてそんなこと言ったって遅いと思う。家族はもっと、大事にしないと。こういう連中は絶対愛がない。
俺は大丈夫だ。一人一人に名前もあげたし、役割もあげてる。俺の役目も知っている。

それでいいんだ。

車を走らせる。やはり世界はグレーだ。

▶▶早送り

「リン、着いたよ」

寝ている。これでいい。とても、いい。

港区、今ではポートタウン呼びのこの場所は、昔っから工業地帯だった。スモッグが空を覆い、世界は灰色に沈み続けている。

そこに俺たちのハウスはある。トタンで、大きくて、2つの要塞が合体したみたいに大きく素敵な工場だ。それに家なんだ。応接間から寝室まで、何から何まで美しいんだ。白くて、光ってて。

入り口の2つのモミの木には、雪が被っていた。ああ、いい。
もっと白くしてくれ。この雪で。

ツインシフター・ドールハウス。俺の人形小屋。俺は彼女たちに使える執事だ。そこから眺めるだけでいい。
必要なものは、焚火の燃料、数多のドール、ずっと暮らしていけるだけの明かりの灯る大きな家、そして彼女たちのファーザー。

子供たちの時間をはじめよう。僕の力で。

ここに、ぜんぶある。

3.BACK TO SATURN X

振り出しから進んじゃいない。何も無い。あるのは、東の窓から差し込む光だけだ。

「……ここは」

目が覚めたら、そこは何かの工房のような場所だった。向こうには木のドアが見え、全体的な家具なんかは中学校の工作室と理科室をミキサーにかけたようだった。
もしくは頭上のクレーンや剥き出しの鉄骨から、サンダーバードの秘密基地のようとも言える。清潔感はあまりなく、かびた埃と獣の臭い。

すぐにでも抜け出したかったが叶わない。大きな試験管チューブか、水族館の円柱水槽のようなものに入れられていると気が付いたからだ。頭上にはメッシュ状の蓋がされている。

右手側は暗幕のようなものがかけられていて、様子をうかがえない。

「下着だけ、か……うう」
そうは口で言いつつも、タンクトップを着られているだけでも、今はありがたかった。心なしか、部屋の寒さが和らいでいる。装備は一切奪われてしまい、どこにあるかは分からない。

さて。
数時間、悪ければ数日意識を失っていた気がする。首を触る。包帯が巻かれていた。誰かが手当てしてここまで運んだのだろうか? あの謎めいた男だろうか?

解かねばならない謎は多い。

少しでも情報を集めなくては。耳を澄ます。

問題の右にカーテンがある理由が分かった。彼女の他にも、2人ほど囚われているようだった。すすり泣く声や、「許してください、許してください」とブツブツ聞こえてくる。

「人間コレクション……? 悪趣味……」

運が無いと思った。生きているだけマシだろうか。それでも、訳も分からず、土星に帰ってきた気分になった。

彼女がアクリル円柱の中でどうやって時間を潰そうか、或いは用を足すことは可能なのか、そもそも脱出できるか考えているうち、部屋の扉は開く。

男女2人がやってきた。

「……今のグレーターシスターはお前なんだよ……判るかな?」
「はい……」
男の方は白髭を蓄えた老人。気持ちがいいくらいに小太りだ。シスターと呼ばれた女の方は、緒舟と殺し合いをした人形娘によく似ている。

「それで、お前の姉妹は何人になるんだ、サルファよ」
「8体になります……あ、これで11体でしょう」
「3体増えたんだな、そりゃいい」
「これからですよ。ほら、そこに……パーパ、ほら……」
「ふうむ。見るとしよう……」

白髭は顎をしゃくる。サルファはお辞儀をして、ごちゃごちゃしたコントロールパネルが並ぶ一角へと立ち、慣れた手つきで操作した。

ゴウンゴウンと音を立て、クレーンが動く。そいつは大きく左右に触れたあと、緒舟から見て右側へと行き、確実にガシリと物体を掴んで持ち上げた。

「いやあ、いやあ……出してぇ、出してぇ!」

頭の上を通って行ったのは予想通り円柱だった。しかも生きた女も中に入っている。ジタバタと動いて、逃げ出そうとしていたが、抵抗むなしく、部屋の中央からせり出してきた巨大な拘束具にチューブごと繋がれた。

「ふうむ。なんていわれてたんじゃ」
「小長谷 マリナらしいですわ」

「良い子リストを見る限り、中々の逸材かの? 体操に適性があって、またしても愛知梅王の人間じゃーの。……作業に掛かるぞい。まずは保管容器をどけてくれ」

コントロールパネルが操作されると、アクリル円柱はしゅるしゅると床下に沈んでいった。もちろん拘束マシンは逃しはしないと腕と腹、次いで足をガッチリ捕らえる。

「ごめんなさい、ごめんなさーい……」

白髭の男は言った。

「謝ることは無いぞい、今からは君にプレゼントをするんじゃ。名前を付けるぞい。アンタの名前は……ええと、アーサニクじゃ。そういう事じゃ。そして、今から、ワシがアンタのパパじゃよ。飾り立ての時間じゃ」

「……こわいよ……お、おかー」

ぴしゃり! 白髭は動物を、特に雪そりを走らせるためのムチで、無抵抗で拘束中の女を打った。

「黙れ!」

白髭は、手元の端末を使い、慣れた手つきで機械の調節を始めた。

天井からにょきにょきと沢山のロボットアームが降りてくる。丸鋸付きに、注射針、四肢のパーツを掴んでいるもの。衣装ハンガーのようなもの。それから、プレストプレートも。

「い、いや! 助けて! 助けて!」

緒舟は唇をかんだ。すぐにでも、止めないと。だが、『よお、ここだぜ』なんて言えば、3人全員あの世へひた走ることになる。

出来ることは、黙って見る、それ一択だった。

「さあ、良い子はどこかな?」

最初に動いたのは、巨大な注射針付きのマニピュレータだった。

「————————!!!!!」

そこで、おとなしくなった。

//GENKAI GIRLS//

床の血だまりが、じんわりと領地を広げつつ、排水溝へと流れてゆく。

「サルファ、サルファ。この子を寝室に連れてやってくれ」

「かしこまりました」

四肢は球体関節。頭には爆弾。服はふわふわのドレス。どう考えても人形だ。目の前で、アサーニクが”作られる”までの工程は、これまで見たどんな『おもちゃ作り』の中でも最悪の部類に入る物だった。

白髭はサルファによって新人アサーニクが担がれるのを見送ると、アクリルチューブへと近寄る。緒舟の隣に居る何者かの方だ。

隣では、ずっとすすり泣いており、完全にどこかが壊れてしまっているようだった。

「お前は見所があるんじゃがの——」

白髭は見定めるように、視線を転がしていた。

「——あほになっている、ダメじゃダメじゃ。だが儂の見た通り、捨てるのはとても惜しい」

ひょこひょこと東の方へと行って、ダクトのバルブをひねった。

「だから、そのままで、保管する。……蝋じゃよ」

無慈悲にブザーが鳴った後、ドボドボドボドボと、右隣で液体が垂れ流しにされる。鼓膜が破れんばかりの悲鳴。

「(最悪だ。最悪だ。最悪だ……)」

さて、自分はどっちだ。部屋がシンと静まり、自分の鼓動が聞こえる。もしも”素材”にされるなら、いくらでも逃げようはある。蝋漬けなら、ひたすらもがくしかない。

「待たせたの」

「……ええ」

「残念ながら、おしゃべりする時間は残っとらんのじゃ」

「少しも?」

「ほんの、ちょっぴりもな」

「話に聞いた、あなたがパーパとか言う人? たくさん質問したいことがあるんだけど。あなたの娘さんなのか、狂気の産物に殺されかけたし」

「ほいな、ほいな。寝言は寝て言いたまえ。今日は忙しいからの。仕事をさせてくれい——」

あたかも犬がじゃれるように、嬉々として白髭が緒舟を目で舐めまわす。じっくりと、絡みつくようにだ。

「——お前はダメじゃ。腐っとる。バストも無い、腹も腰も、どこでそんなに欠陥を。おお、可哀そうに、可哀そうに……もう二度と救われないのお」

「疵の由来が聞きたい訳?」

「生意気な奴じゃ。お前はワシが見てきた中で最も『悪い子』じゃーよ。ハウスに入る価値もない、固めてやっても美しくない」

だったら、素直に死なせてくれ。

「そうじゃの……」

白髭は手を顎に当てた。奥から2人、また例の人形娘が入ってくる。透き通るソプラノ。

「「おわりました」」

「ご苦労さまだ。丁度呼ぼうと思っていた」

「「と、言いますと」」

白髭は、緒舟へ凶悪な笑みを向ける。

「クズ肉を処分する必要が出ての。大きいから、外のシュレッダーを使って欲しくてな」

「「他には?」」

「新しい姉妹の老廃部品も一緒にかけてやってくれ。それと、今晩のごちそうを仕上げるんじゃ。大きなターキーに、甘いケーキをな」

「「かしこまりました」」

再び、白髭が語りかける。

「お前と一緒に食卓を囲みたかったが、生憎、儂は生意気な子供が嫌いでの。それじゃあ……メリークリスマス!」

チューブのロックが解除された。逃げ出す隙もなく、腹に一発パンチを食らう。
「このっ……」
もう一発。今度は堪えた。ダメージは蓄積していて、思わず仰け反る。

「ま、まだ……」

「連れていけ」

そのまま人形娘2人に両腕を引き捕まれる。足をじたばたさせる。無駄だった。内心、みっともないと思った。まだやるべきことは沢山あるのに。
生きるためにここまで来たのに。

嫌だ。嫌だ。

恐怖の表情を浮かべているロウ固めされた女と目が合う。

「…………!」

一切の抵抗を許されずに、廊下へと引きずられる。

「「では、捨てちゃいましょう」」

頭に麻袋をかぶせられる。

工房の扉は、ばたん、と、閉じられた。

4.The Sky May Be

麻袋が外された。

地面は白く、眩しい。空のせいかもしれない。

いつの間にか、この辺り一帯に大雪が降っていたようだ。

どうやら、ここは中庭のようだ。トタンの壁に囲まれている。

両手足は拘束されていた。目の前にはエンジンの唸り声をあげる大型庭用粉砕機だ。今尚、しんしんと降りしきる雪の中、彼女は他のゴミと纏めてシュートされようとされていた。

「「最後に何か、言いたいことはありますか?」」

「くたばれ」

「「それが最後でいいですね?」」

「いいえ。これを最後にはしない」

「「……? さあ、捨てちゃいましょう」」

お互いにランク付けがあるのだろうか、リボンの小さい方が彼女を受け持つことになった。
無機質に冷たい人形の手によって、やすやすとファイヤーマンズキャリー状態に持ち込まれ、徐々に、徐々に、処刑機械へと近づく。

上からのぞきこまざるを得ないシュレッドカッター内部では元の持ち主と迷子になった腕や脚も踊っていて、刃に当たるたび、肉を飛び散らせ、骨が嫌な音を出す。

燃えて灰になるより酷い。

残り1メートル。

想像をする。顔面の皮がはがされる瞬間を。

「……んでたまるか」

頭がスイカみたいに破壊される瞬間を。

首も胴体も巻き込まれて木っ端微塵のジュースになる瞬間を。

「言葉は聞いたって言ったでしょー?」

残り30cm。中の肉片が良く見える。

「死んで、たまるか」

今から滑り落とす、力が緩んだその一瞬だった。担ぎ技をプロレスラーが返すの如く。両足に力を集中させ、狙うは相手の首筋。

「まだだ! まだッ!」

からんだ! 不意打ちの一撃は、それまで勝ち誇っていた者へ、スライスレモンで包んだレンガをぶつけた以上の衝撃を与え、思わずバランスが崩される。

「な、何よ!」

起死回生の攻撃は、あまりにも容赦がなくて、残虐だった。

「……ごめんなさい」

立ち上がろうとした彼女に強烈なドロップキックだ。まだ起き上がろうとしていたので、独特の猫のような構えから、パンチ・パンチ・キックを入れる。

気絶したのを確認すると、そいつのふところから携帯端末を取り出す。なるほど、無線で指示をしているのか。貰っておこう。下着に挟む。

裁断機の端で手錠と足枷を壊し、裸足でとりあえず、内部へ進む。装備を取り戻して、ここから脱出する。そし——リンの元へと帰る。パーパなる男に、文句の一つを言った後。

勿論バラバラ死体の謎を解く必要もあるが、緒舟は自分が思っているほどに、真実の核心に近づいている気がした。

◆◆◆

白く、透明な路。廊下を2回、曲がる。
どうやらこの辺りのブロックは倉庫区画らしく、そこかしこにクレートがあった。目の前で2人のドールシスター(緒舟が個人的に、こう呼ぶことにした)が通り過ぎたので、サッと隠れる。

彼女らは荷物を運びつつ、雑談に興じていたようだった。

「——そういえば、聞きましたか?シスター・オキシ。『アーティスト』さまが、死んだこと」

「聞いたわ、聞いた。野蛮人の手によるものらしいですよ」

「怖いわ」

「ええ……」

野蛮人、か。外の連中を指しているようだった。酷い言われようだ。息を殺して、彼女らの様子をさらに窺う。

2人とも目に見える武装はしていない。四肢はやはりというか、球体関節に置き換えられて居るし、互いの顔はドミノマスクで覆われていて区別はつかない。ここは恐らく、ドールシスターの生産場にして、彼女らが住まう家なのだろう。最早彼女らは自我が崩壊しているようで、喋る言葉は何処か幼稚だ。

隙は多かった。無警戒だった。すぐに近寄って、まず一人の首を絞めて落とし、もう片方は、恐慌に囚われている隙にあて身を入れる。
気絶までは、持っていかない。いつでもトドメをさせるよう、背後から手は回すが。

「……答えて。私の荷物は何処にある?」

「……?」

「小さいアネロのリュックと、青いジャケット、ジーンズ。あとTシャツ」

ぷるぷると、彼女はドアを指さす。見たらしかった。

「……ありがと」

優しく締め落とす。

12月25日 日記
服を着る。ずっと何も食べていないから、おなかが空いた。

因果は回り、縁はどこかでつながる。
”アーティスト”に、”人形”、そして”パーパ”。道具立ては単純だ。ここは彼らの世界なんだ。彼らのしきたりで、彼らの事をしただけだ。きっとあの死体も。
私が土足で入って良い場所じゃない。

だけど、倒さないといけない。滅ぼさないといけない。

履きつぶしたスニーカーが移動に軽やかさを与えてくれる。着古したジーンズとジャケットが、温かさだけでなく自分を鼓舞するレリックとなる。

倉庫からかっぱらったモスグリーンのネイルガンを左手に構え、トンカチを右手に持って進む。今のところ、接敵なし。厳密には、昔取った杵柄がうまく作用していた。こうやって人の家に勝手に上がり込んで、少しづつ忍び込むことはやはり、慣れている。

しかしながら、実にこの屋敷は複雑奇怪な構造だった。まるで迷路だ。要塞だ。廊下と部屋がダンジョンめいてつながっている。前に出た場所だと思ったらそうではなく、新しい場所だと思ったらぐるりと戻ってきたことはザラだ。
それでも、目指すべき場所は分かった。そのまえに、子供部屋に当たったようだった。

◆◆◆

ここには珍しく、ドールシスターたちはいなかった。代わりにいたのは、リンとよく似た幼い子供。かなり警戒していた。

「だいじょうぶ。傷つける人はここにいない」

笑顔を見せる。一人の男の子が、近寄る。

「ど、どこから来たの? し、シスターを呼ぶぞ!」

「さあ。好きにどうぞ。でも少しだけ、私と話さない? 出る方法を探してる」

「ああ、それなら……ここからは、出ることはできないんだよ。こっちに来て」

言われるまま、彼女は男の子についていった。

物理的に難しいことはわかっている。だけど、少しでも手がかりがなければ、事態は一変しない。

子供部屋の隠し扉を抜けた先に居たのは、義肢を全て取り外され、表情も全くつかめないドールシスターだった。生理的な嫌悪感を緒舟は抱く。

「こわれたドールだ。僕らの先生なんだよ。ハイドロゲンって名前なんだ」

にやりと、そのドールは笑った。

「帰るのね……いずれここに、帰ってきてしまうの……たとえば、ほんとうに、ここを出たいの?」

緒舟は頷いた。

「ここを出て、私を待つ人を助ける」

「……きっと、優しい人なんだね。やっぱり、ココを出ることはできないよ。無垢な心というのは必ず帰る場所を求める。何にも縛られず、自由がある遊び場に」

緒舟は眉をひそめた。

「……それは誰かの受け売り? パーパが言ってたの?」

「私自身が知っている事……なの……。私はシスターたちの知識の現れ……ただし私は水であって、全能のワインではない。この家、どう思いますのォ……?」

「歪な人形屋敷」

廊下で通り過ぎただけだが、本当にいびつで、胡乱な人形屋敷だった。部屋自体がすべて作り物のようで、何かが生きているという実感がなかった。
いわば、無機質極まりない空間だった。

子供たちはブロックを積み重ねては壊している。電車を走らせては脱線させている。あるいは、ボールをてんで違う方向に飛ばしている。

「はは、かも知れない。だけどお客人だって、似たようなものなんだ。お客人、貴方自身のイノセンスなタマシイは、カリソメの繭に包まれてもうどこにあるのかも分からない」

緒舟は肩をすくめる。半ば呆れていた。嫌いな談義ではないが、今したい話ではない。

「……もういい。要点を言って」

「パーパが、助けてくれる。ここなら、肉体の檻もぜんぶひとつに……なるんだ。一つの世界の上に立つ一つの役割に。私たち、幸運なのよ。何も考えることなく、無垢な心をありのまま、それも素敵に飾り立てられて、ずっと生きることができる。たとえ死んだとしても。やってくるのは、子供のための素敵な世界。良い子のための、贈り物なの」

く そ っ た れ 。

緒舟はこの5文字だけを思い浮かべる。やってることは他者の否定だ。緒舟がイラついたのはそこだった。

「……出口だけ、教えて」

「まっすぐ行って、大広間を抜けて、ダンスホールのとなり」

「ありがと」

遊んでいた子供たちは、ついに泣き出す。男の子が、また緒舟に言った。

「……本当に行っちゃうの?」

「私は外の人間だから。出ていく必要がある」

「大人になれるって、思わない方がいい」

緒舟は扉を閉める。

◆◆◆

定義は誰かに譲っていいものじゃない。確信した。例えば私が私としてやる事は、私の定義があるからできる事。
私は、やっぱり、よそ者。そこは変わらない。どこに行っても。私が落ち着ける場所はない。それを受け入れる。受け入れることが、定義の始まり。

だけど、そんな私でも、誰かの居場所を守り通すことはできる。勿論与えられた居場所ではなく、自らでつかみ取る居場所を。強制的に渡される居場所は墓場で十分だ。

ここのパーパは絶対に倒さないといけない。悪のうちの悪だ。
そのあと、リンには、謝ろう。探せなかったことを。居場所を奪うことを。

廊下を、進む。シックな家具の部屋を、抜ける。

ここは客間だ。

テーブルの上には誰かが今までここで作業をしていたのか、紙の束もある。手に取って読んだ。
名簿だった。

名前、行き先、そして値段。

「人身取引されてるのか……?」

ココまでは緒舟は驚かなかったが、一つ違和感を感じたのは、そのサインは、pa-pa では無かったという事。勿論、パーパは偽名であって、本名を使っている可能性もあるが、こうした取引に通り名を用いないのはバカの仕事である。

暇はない。

《ザリ……ザリザリ……えるか……ザリ……ザリ……》

無線機が鳴った。チャンスだ。何か情報を引き出さねば。

周波数を合わせる。

《ザリ……今、報告があった。私たちの家に、外の気味悪いネズミが紛れ込んでいる。そいつは小柄な女で、ドブ汚れの匂いがし、心も体も汚れ切った、まさに家族の敵なのだ。現に3人ほどケガをした。見つけ次第殺す事》

BEEEP。BEEEP。BEEEEP。警報が鳴る。誰が呼んだかは知らない。もはや関係がない。手ごろな家具を。隠れられそうな家具を。

「「「そこにいたのね!」」」

「気付かれた!」

一斉にドールシスターたちは腕の義肢を拡張させ、9mm弾をバラまく。BALM、BALM、BALM。
「痛ッ!」
銃弾で撃たれるのは初めてではない。だが溶けた金属を流し込まれる痛みは、耐えがたい。それでも生きているだけは良かった。今の目的は生きる事。ソファの物陰に隠れなければ、肩の端を抉られるだけでは済まなかった。

攻略戦は容易ではなかった。あのチューブの中で見たこと。人形たちは確実に”被害者”だ。化け物ではない。嬉々として人殺しをし、弱者をいたぶって何も感じぬ外道ではないのだ。

「少し吹っ飛んでて!」

緒舟は左手のネイルガンを撃った。沢山ばらまくように撃つ。
致命にならないように。足元の関節を、良く狙って。

しかし、なかなか、当たらない。むしろ、自分が食らってしまった。

相手の足運びはバレエダンスの様にゆらり、ゆらりとしている。

攻撃をかわしつつ、精密に、沢山ばらまくのは難しかった。

だが、遂にチャンスが訪れる。3人の動きが一度止まるスキを見つけたのだ。

「そこだ!」

BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!BIS!

釘は空気の力で一気に放出される!連射力は申し分ない!

「!?」「えっ転んで……」「足がぁ……ぱぱーっ」

端的に言えばこの試みは正解だった。動きを抑制するのは、脱出の最優先事項だった。

緒舟はさらに攻撃を受けないよう、急いでタンスによじ登り、ダクトをハンマーで破壊した後、その中に入った。

「に、にげるな……ひきょーもの……」

何を言われても気にしなかった。

それに、ここまで来たら、多分、一安心だ。

死ぬのには、若すぎる。無限の暴力性をもってしても、この悪夢は終わらない。

5.NUTS

緒舟はダクトから大広間を覗いた。

豪勢なパーティ会場だった。

まず目を引くのは赤いじゅうたん、そして雪が見える窓。

暖炉の傍のクリスマスツリーも欠かせない。

赤、白、緑。クリスマスに必要な色が、ココにはすべてそろっていた。

次に目が向くのは晩餐会テーブル。

その上にはケーキに、大きなパイ、赤いルビーのようなゼリー、ローストターキー、卵サラダ、果てはエビのボイルまで、あらゆるごちそうが並べられている。

主賓席に座るのは件のパーパ。赤い服に白髭で、まるでというかサンタクロースそのものである。他のドアからワラワラと、ドールシスターたちが席に着き始める。

「ふぉっほぉっ。今夜は不埒な獣が我らの館に紛れ込んでいるがの。じゃが、どす黒い心を持たない……いや、純粋で、素敵な姉妹の為に、そして聖なるサンタクロースのために、今夜は祝おうぞ」

「「「「「「はい、パパ」」」」」

幾つか空席があった。その数は9つ。すぐに緒舟は自分が気絶させたり、行動不能にさせた数とわかった。

待て。

計算が合わなかった。緒舟が戦ったのはバラバラ死体を見た時に戦った一人を除いて6人のはず。

彼女は引き算されているとして、3人の計算が合わない。

「おい、欠席の子はどうしたのじゃ」

「わかりません」

「わからない?」

その時だった。

主賓席の反対側、つまりダンスホール側の扉が開いたのだ。それも、乱暴に。

「答えはこれだッ!」

やって来たのは神父風の男。緒舟は名前を知らないが、『フットマン』その人である。彼が担いでいて、テーブルの上に投げ込んだのは、ドールシスターの死体であった。

ずざざ、と料理を押しのけ、血のりをテーブルに付けながら、ぴたりと止まる。
驚きの表情のままで、こわばっている死体。

「「「「「「きゃああああああああああああああああああああああ!?」」」」」

会場はあまりのことに大混乱に陥った。泣く者、ヒステリックに叫ぶ者、そしてパーパに助けを求める者。

「(何が。何が起きている)」

緒舟は判断に迷った。

さらにフットマンは凶行に出る。

「さあ、パーパ。偽物の娘にお別れをしな。愛のない娘に!」

BALM!

フットマンは、パーパを、撃った。

家全体が、真っ白く、凍り付いた。

この混乱に乗じて、逃げ出してもいい。

だがそれができない理由があった。ダンスホールの方へと視線を向けると、僅かばかりだが、車椅子に乗ったリンの姿が確認できたからだ。

そして、ダクトはダンスホールには穴が開いていない。出口まで一直線だ。

「(リンに、何かあったんだ……)」

もはや一刻の猶予なし。

緒舟は自分をバカだと思った。

フットマンは続ける。

「いいか。今から子供の世界を完成させる。パーパは、僕らの大義の為、僕たちの罪を背負って今死んだ! サンタクロース・イズ・デッド! 今日のこの日は、誰かに何かをあげるのではない。清貧を守り続けていた僕らが、グレーの世界を白く塗る日だ。彼は、その為の犠牲になった!」

「「「え……?」」」

「だから、アンタたちシスターは、そのままの生活を続けるんじゃなくて、今日から『外出仕事』を増やすんだって言ってるの。殺しに……破壊! 今からやるのはそういう事! 出かけよう。この白い世界を永遠にするために。僕はずっと、この時を待ってた」

フットマンはほかの死体も投げ込む。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

「逆らって、こうなりたくないだろう? みんなの友達なんだ。家族は、大事にすべき、だろう? 今までパーパが幸せにしたことは無かった。外の世界を僕は知っているから。外の世界は汚いから。だけど、それで終わるのは良くないんだよ。僕にはそれがわかるんだ」

灯の灯る、大きなおうち。

起こっているのは、家族間の闘争。あるいは、クーデターである。

今、ここで、フットマンは、ドールシスター全員の、いるべき場所を、木っ端みじんに破壊したのだ。


「今、贖罪は果たされる」

天井から槍の様に。緒舟は、稲妻じみて、フットマンへと急転直下!

「RAAAAAAAAH!」

一撃目は命中した。だが、追撃、トンカチによる横払いはやすやすと躱されてしまった。

「……君は。青い君は……どうして、ここに?」

「……全部、見た。あなたは彼女らの居場所を奪った」

「だから何だというのかい? 君は今頃、こいつらの一員になっているはずだったのに。もし違って生き延びたら、殺したいくらい、ファーザーを恨んでもいいはずだ」

「ええ。確かに私はそのつもりだった。殺す気でいた。それは、私が彼と同じ、化け物だから! 私一人で充分だから! あなたはいま、そこに成り下がる。ココに居る姉妹たちをみんな、どこにも行けなくした事で!」

「能書きを! お前が言いたいのは単なるダブル・スタンダードだ! 結果は同じじゃあないか!」

「すべて、私が背負う事」

ネイルガンの弾倉が空になるまで、フットマンへと銃撃する。何発かは命中する。

「ココまでかっ」銃撃に限界を見た。

緒舟は勢いをつけて殴りかかる。「RAAAAAAAAH!」「ぐわばらーっ!」

パンチの勢いで、彼はダンスホールを転がり、ワイアーアクションのように玄関までたたき出された。それでも、フットマンは無抵抗を貫いている。

「……何を考えてる?」

「………………すばらしい、事だよ……」

狂った笑みを彼は浮かべた。

◆◆◆

緒舟はネイルガンを向けたまま、起き上がるのに苦労する彼を見下す。笑みを張り付かせた彼を。

対する緒舟は、怒りの形相だった。久しぶりに、怒り心頭だった。フットマンを見下して言う。

「いま、やっと。……全部解けた。問題の解決編と、行こう」

緒舟は、彼にトドメを刺す前に、事件の結論をつけることにした。

「……”アーティスト”失踪事件。まずはこう、名付ける。私はリンによって、この件を依頼された——」

緒舟は車いすに座るリンを、近くにあった毛布でくるみ、介抱した。

「——この事件は最初、私が関わって、どうこうできる事件じゃないの。ええ、何も、変化が起きない。私がどうしようが、問題は変わらない。だけれど……あなた、名前は?」

「フットマン」

一言だった。

「一言で片を付ける。フットマンさん、あなたがこの件の黒幕なの。まず、リンの姉ちゃんを奪ったのはあなただ。まずそこに、私は罪を認める」

「ハーッ! 大仰な。何が分かると?」

「終わってみたら大したことない。それに、私の納得の為だ……最初、どうして色とりどりのインクがばらまかれているんだろう、なんて思った。それに、この画家、めちゃくちゃマイナーな芸術家。もし接点があるとしたら、このファミリーだけに限られる」

「何でそんなことが?」

「ドールシスターたちが話してた。私が戦って、殺してしまった人の事も。それで。なぜ、貴方が殺したかって言える理由。あなたは、色が見えてないね?

「色、だと?」

「ええ……覚えてる。あなたが最初、私の前に姿を見せた時、世界はモノクロームだと言っていた。最初これは、何かの比喩だと思ったの。だけど違う。あなたは、赤も、緑も、見えない体質だったんだ。だけどそういう体質の人は、例外的に青色は見える。そうすると、何が起きるか?私が、貴方のモノクロの世界で、光って見える」

フットマンはサングラスを外す。

ちらつく白い雪と、真っ白でふかふかの地面の中、ぼんやりと、緒舟の髪の毛と、ジャケットだけが光って見えた。

彼女の言うとおりだった。

「あなたはアーティストを何らかの理由で殺す必要があった。それは明白だね。さっき、私の目の前で実演してくれたもん。要は、ドールたちを自分だけの支配下に置きたかったんでしょ? パーパ、アーティスト、そしてあなた。この3人だけが、この家族で例外だから。
 それで、あなたは、アーティストと争った。顔に付いた傷は、その時のもの。これは不味かった。いずれ、家族の間の殺しはバレる。その前に、全部乗っ取る必要がある。時間稼ぎも必要だよね。
  さて、ここで本題。あの場でインクがぶちまけられていたのは……あなたの血を、隠すためだ。だけど、あなたはモノクロームの世界に生きてる。血の色は赤、そういうことじゃないんだ。あのインクの色の全てが、血の色だった。濃淡の差はあってもね」

緒舟は最後にこう、言い捨てた。

「他人を巻き込んで、陰謀をたくさん巡らせて。あなたが一番、グレーじゃないの?」

緒舟は玄関へと進む。ネイルガンを構えて。トンカチを構えて。この狂った家の狂った家主から、人形姉妹の鎖を断ち切るために。

「言いたいことは、それで終わりかい?」

フットマンはこの時を待っていた、と言わんばかりの表情で、端末を取り出すと、横のスイッチを二回、中央のボタンを3回押したのだった。

「……ツインシフター・ドールハウスは、たった今より、『完成する』。おどれ、僕の人形よ。滅ぼせ、燃える炎」

ずるり、ずるり。

ぐちゃ。

肉が擦れる音。

緒舟の背後だ。

衝撃が、襲う。

6.赤白緑赤(青)

「ひきゃああああああああああッ!」

緒舟は唐突に背中を吹き飛ばされ、内臓が飛び出るくらいの威力で叩きつけられた。雪原に顔面から突入し、切創、打撲を同時に受ける。

「な、何……?」

どずるり。ずるり。

内臓を固めたようなぐちゃぐちゃ。全く異形のどろどろ。ブヨブヨの皮膚のべったり。玄関から"それ"は這い出す。

「飾り立ては終わったんだ。後には灰しか残らない」

「バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

ついに全容を見せた"それ"。あまりにも冒涜的であった。身長3mはある巨体。胴体はうねうねとした赤く、肥大した筋肉。その有り様は、四つ足動物のようである。見れば、沢山の腕や脚、否、それだけにとどまらず、たくさんの人間の部品が再生成を繰り返しつつ、繋がれている。

そして上半分は、リン。グロテスクな四つ足の下半身に突き刺さっているようだった。

「何を……何をした!」

「リンから」フットマンは立ち上がる。「いろいろなことを聞かせてもらった」

「ええ……私の友達だ」

その友達は今や、肉の怪物となって、緒舟へと襲いかかる。めちゃくちゃに繰り出される叩きつけや、突進を避けるので精一杯だった。

「よそ者風情が、いい気になるんじゃない。このドールハウスは、閉じたままで、いるはずだったんだ。もともと僕は嫌気がさしてた。なぜ無垢なままの子供を、グレーか黒の中に追いやるのだろうって。何かに染まるくらいなら、無機質な白が一番だ」

「説明に……なってない」

そして緒舟は攻撃を加えられずにいた。確かに目の前にいるのは真の意味でのバケモノだ。だが、どこか幸せそうな表情のそいつを、必ず家に戻り、恩を返すと約束したそいつのなれ果てを、どうして即座に殺すといえようか?

だが、それが甘かった。

上半身、リンの部分から繰り出される貫手が、大振りの攻撃に対処し続けていた緒舟への不意打ちとなり、腹部を突き刺す。

「う、うがっ……」

鮮血が雪と混じって大地に撒かれる。

「もしもだ。もしも、僕が理想の子供たちを救い上げることができたら、きっと素晴らしいと思ったんだ。そうやって、ドールたちは生まれた。いわば彼女らは再生したんだよ。もともと人に備わっていた良き心だけを取り戻すべくね。ただ、最初の一人目は賢すぎた。たった今そいつを見て思った。ほかの全部も失敗作だ。人間に囚われすぎた」

彼はまた端末のボタンを押す。

《まだ飯を食ってんのかい? 早くこちらへ来なさい》

家から、あらゆる窓から、ドールシスターたちは雪降る外へとやってくる。彼女らは口々に、きれい、すてき、と呟いている。

「真に純粋さを求めるのならば、どこかで人間の形を諦める必要があるんだ。タマシイを入れるための入れ物として。リンを見ろ」

誰に言われるまでもなく、リンの化物は緒舟を投げ飛ばす。
「ぬああッ……」
立ち上がらないくらいの痛み。腹を抑える。幸い、主要な内臓は潰れていない。まだだ。

化物は緒舟にトドメを刺さない。向かった先は、たった今様子を見に来たり、呼ばれたばかりのドールシスターの方だった。容赦なく、暴れ牛のように、襲っている。

「最初からこれに気がつくべきだった。無垢な乙女で、純粋な獣。この両方を組み合わせるべきだったんだ……お前らは、もう要らない……」

雪が降り注ぐ。
無慈悲なほど、冷たい。

荒れ狂う殺戮の嵐が吹き荒れる。
そこに少し前まではあった、愛は消え失せている。最後の最後まで無くならなかった人間味が。残ったのは、等しく血飛沫だ。

緑色の火柱が上がる。人形に、あがる。
リンの化物に殺されなかったドールシスターも、自爆装置が作動したのだ。パニックによってだ。彼女らは、もんどり打つ。体の中からやってくる、二度とは消えない炎を消そうと。

「……そして地獄の鐘の音は鳴り響き……」

腹から、肩から、額から。零れる。血が。

「……炎は灯され……轟く雷鳴が私を切り裂く……」

ぶつぶつと、悪夢じみた御呪いを唱える。あたかも、この光景をそのまま写しとったような。

ゆっくりと、起き上がる。右手はトンカチを握ってはいるが垂れ下がっている。左手は腹を抑える。

「……裁くことはできない……だけど……使命を、恩を、安らぎを、果たすことなら……私にできる」

緒舟は、泣いていた。青色が少し残る両眼より。

「化物は、汚れた悪は、私一人で十分だから……ッ」

「な、お、お前……」フットマンが驚くのも無理はない。あの重傷を負って立っていられる者はそうそういない。緒舟のような何の肉体的な優位を持たない女なら、尚更だ。

しかしフットマンは気がつかない。緒舟自身が狂気に取り憑かれていること。強靭な意志力と、悪を誅する不屈の魂を持っていることを!

緒舟は再びトンカチを握りしめる! そしてそのまま迷わず突撃し、一撃を喰らわさんとする! フットマンはとっさに回避姿勢を取った。

だが、避けることは叶わなかった。

涙と決意に満ち溢れた戦鬼の目を見てしまったからだ。圧倒されてしまったからだ。破滅的な眼差しは、自分の唱えた陰謀や理想すら殴り飛ばす。

「RAAAAAAAAAGH!」

トンカチの一撃。脳天を、打ち砕いた。返り血が大地に華を咲かす。

どさり、と倒れる。フットマンは死んだ。

「……リン……」

改めて異形と化したリンと向き合う。何もかも、叶わなかった。恩を果たすことも。姉を殺した男に復讐は遂げたが、リン自身は救われていない。

「ピギャアア……ピギャアア……」

あらかたほかのドールシスターたちは殺されていた。独特の球体関節義肢も木っ端微塵にされている。あるいはそもそも、自爆の影響で黒焦げだ。殺伐。荒涼。

「ごめんね。私のこういうところ、見せたくなかった」

「ピギャアア」

「パーパも、私も。あなたを守れなかった」

「ピギャアア」

「どうしたら、いい」

リンが暴れることは、なかった。一言だけ、リンはこういったように聞こえた。

「わたしは……リン」

燃えて、チリになる。緒舟ができることは一つだった。

泣き止むことはできなかった。

主人も、住人もいなくなってしまった家の前には三色のイルミネーションが光り輝き、雪に反射していた。殺伐の紅白模様を静かに照らしていた。

緒舟の涙ほくろは、濡れていた。

エピローグ

スニーカーの足跡は埠頭まで続いていた。

人形屋敷で昼を超え、夕方を過ごし、気がつけば夜が近づいていた。雪はもう止んでいた。

彼女の背中には夕日がある。鉄橋を照らし、海を輝かせる。
そして彼女の背中には、消えやしない罪悪感に、無数の傷がある。

電子タバコをいつもよりも深く、吸った。腹がまた痛む。応急処置の効きは弱い。

今日はクリスマス。

煙を吐き出す。

誰かを祝うための日だ。

特に誕生を。子供を。

自分には、そういった居場所はないと思った。誰にも祝福されることなく、一人で十字を背負い、少しでもマシにしていくしかない。フットマンはドールシスターたちを使って何をしようとしたのか? もはやそれを知る余地はないが、ロクでもないことだと、結論づけるしかない。

常に外側にいる。影の中にいる。少しの夢を見ようとも、それは決して、届かない。

シャチのぬいぐるみを鞄から出した。

一枚のメモも、そこにつけた。

リンヘ

細かい文字で書かれているので、読み返すことはしない。

それを小さくラッピングする。

海へと、流す。

遠くへ行くのを見守ったのち、また、緒舟は歩き出した。

今夜はどこで過ごそうか? この傷を治すことはできるのか?

また、彼女は生き延びた。

ただ、それだけだ。

【girl 2U strong……】





お知らせと開発者による解説

読んでいただきましてありがとうございます。(テンション差!)まず初めにクレジットを。このお話は、#パルプアドベントカレンダー2020 参加作品であります。こんな電波ゆんゆん、真っ暗な話が嘘みたいなメチャメチャパワフルパルプ小説があるので、癒されたい方はこちらからどうぞ!(でも、パルプ企画だし、ダークな回もたまにはいいですよね?)

そして次回予告です。次回12/17は活力パルプ、銃撃戦の名手こと素浪汰 狩人 slaughtercult兄貴の
『(仮題)過剰殺戮⚔ドキドキ♡クリスマス』がやってきます。この小説との寒暖差で風邪を引け!(無慈悲)

では以下、開発者コメンタリーです。

赤白緑そして赤(青を含む) の世界を楽しんでくれたなら、何よりだ。この小説はネオンゴシックホラーと銘打った通り、現代的な世界におけるゴシックとはどういうことか、また、古式床しいゴシック性である館に住む美少女たちのエッセンスを取り込んで、勝手に自分の敬愛するロックバンド、コクトーツインズにミニストリー、スージーアンドザパンシーズにリスペクトを捧げたものなんだ。
あとは薄気味ビリーとか。

改造シーンとか、ネイルガンが武器だとかは大好きなFPS、QUAKEからの引用です。オタク軽率にそういうもの混ぜがち。それとサブタイトルも全部実在するDOOMのMODから引用してるので、この小説がもし口に合わなくてもDOOMの事は嫌いにならないでください


シュールなテイストではありますが、まあ、まあ、ってところです。まえ卓ゲー友達に見せたら「ススムヒラサワが若くなって書いたやつみたい」とか言われたし、そういうことなんじゃねえか?

とにかく最初にあったのは久しぶりに暗黒サスペンスをやるってことだし、その点は満足してる。頭にあったのは死刑執行中脱獄進行中とか、岸辺露伴は動かないとか。あとはヤクザ天狗回。とにかく「訳わかんねえけどこええ」を追求してみた。結果、脱臼骨折プロット祭りかつ頭に蛆虫が沸いてんのかみたいな話なので、そこはまあ、ここにある美味しいケーキで忘れてもらおうと思います。









コインいっこいれる