見出し画像

JR北海道のローカル線問題

はじめに

2016年の台風被害以来、不通となっていた東鹿越-新得間を含む根室本線の富良野-新得間について、2024年3月末限りでの廃止とバス転換が合意されたとの報道がありました。

これで、2016年にJR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区について」(以下「維持困難線区」とします)で公表した通称「赤色線区」について、すべての路線で一定の廃止目途がついたことになります。
今回は、改めてこのJR北海道が示した維持困難線区の公表経緯等を振り返るとともに、JR北海道のローカル線問題について、過去の私が撮影した写真も含めて、いったんの(心の)整理をしてみたいと思います。

1.JR北海道の維持困難線区公表

国鉄の分割民営化、JRの発足当初から、北海道・四国・九州の通称「三島会社」は経営難が予想されていました。特にJR北海道は札幌への一極集中と沿線の人口減少に加え、冬の除雪や寒冷地対策に多額の費用を要するなど、他の三島会社と比べてもより一層厳しくなることが予想されました。
そんな中、JR北海道は、設立当初は、新型特急車両やリゾート車両の開発、新千歳空港を結んでの空港アクセス、札幌圏の新駅設置等の積極的な経営を続け、着実の乗客を伸ばしていきます。今振り返ってみても、発足から10~15年ほどは、同社については明るい話題が多かったように思います。

ところが、バブル崩壊後の低金利によって、当初はその運用益をもって収益の下支えとする予定であった経営安定基金は思ったように益出しができず、そして、相次ぐ高速道路や地域高規格道路の開通と、それに伴う高速バスや自家用車との競争の激化により、徐々にその体力は奪われていきました。経費削減が叫ばれる中、2011年のスーパーおおぞら号の脱線火災事故、2013年の貨物列車脱線事故等によって、ずさんな整備保守体制が明らかとなり、JR北海道に対する北海道庁、道民の信頼感は大きく損なわれ、また人口減少もいよいよ顕著なものとなって、旅客離れは深刻なものとなっていきました。

2015年に発生した日高本線の高波被害による運休の長期化では、地元自治体との復旧へ向けた協議が難航、2016年3月の北海道新幹線の部分開業も大きな起爆剤にならなかったばかりか赤字の増大に繋がり、ついには、2016年11月にこの維持困難線区の公表が行われることになったのです。

https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-5.pdf

この中では、いわゆる赤色線区として輸送密度200人未満の区間のバス転換、通称黄色線区として輸送密度2,000人未満の区間の地元自治体等の財政支援の要請等が謳われています。また、赤色線区・黄色線区以外に「すでに協議に入っている路線」として石勝線夕張支線や日高本線の鵡川-様似間も掲載されています。
時を前後して、北海道庁や国土交通省を交えた地域公共交通検討会議等が開催されていますが、結果としては、北海道庁が本格的な財政支援をすることはなく、それは当時の高橋知事、現在の鈴木知事に至るまで、一貫した北海道庁の方針となっています。

2.既に協議入りしている線区とは

この維持困難線区公表時に「既に協議入りしている路線」として挙げられていたのは石勝線夕張支線の新夕張-夕張間、そして日高本線の鵡川-様似間でした。2023年現在、いずれも既に廃止されています。

①石勝線夕張支線(新夕張-夕張間)

石勝線夕張支線・鹿ノ谷-清水沢間(2017年撮影)

石勝線の通称夕張支線は特急スーパーおおぞらなどが停車する新夕張駅から夕張市中心部の夕張駅までを結んでいた路線です。炭鉱が閉山して以来、人口が1万人を割り込み、財政再生団体に指定されるなど、深刻な過疎化が進む夕張市中心部を結んでいましたが、当時の鈴木市長(現北海道知事)が「攻めの廃線」と称して、維持困難線区公表の前に廃線の協議が進みました。その後、夕張市での持続可能な交通体系構築のための資金拠出や一部用地の譲渡を行い、2019年4月1日限りで廃止となりました。

②日高本線(鵡川-様似間)

日高本線・東町-日高幌別間(2014年撮影)

日高本線は、苫小牧から日高支庁の中心地である浦河町を経て様似までを結ぶ路線で、太平洋に沿い、また時にはサラブレッドの牧場を横目に進む風光明媚な路線として知られていましたが、2015年1月に高波被害で厚賀-大狩部間の路盤が流出、その後の沿線自治体との復旧へ向けた協議も紛糾して暗礁に乗り上げる中、さらに台風によって被害が拡大。結果として復旧されることなく、2021年4月1日限りで廃止となりました。
その時の顛末を受けて、私の思いを綴ったnoteがこちらです。

3.赤色線区について

輸送密度200人未満でバス転換を求められた赤色線区は以下の3路線でした。
・札沼線(北海道医療大学-新十津川間)
・留萌本線(全線・深川-留萌間)
・根室本線(富良野-新得間)

①札沼線(北海道医療大学-新十津川間)

札沼線・下徳富-新十津川間(2019年撮影)

札沼線はもともと札幌と石狩沼田を結ぶ路線として、その両地点の地名の頭文字を取って命名された路線ですが、新十津川から石狩沼田までの間は1972年に廃止され、その後は新十津川までの運行となっていました。札幌圏の拡大に伴い、2012年には北海道医療大学駅までが電化され、運転系統は分割、非電化区間は少ない運転本数、中でも末端区間である浦臼-新十津川間はわずか1日1往復、日本一早い終列車といわれる運行状況が続きました。
維持困難線区公表の前後からバス転換の話が出始め、2020年4月に廃止となりました。廃止後は代替バスとして、石狩当別-石狩月形間、石狩月形-浦臼間、浦臼-新十津川-滝川間の3区間のバスが運行されましたが、乗客の減少で、早くも一部区間での町営バスへの転換が図られるなど、バスの状況も芳しくありません。

②留萌本線(全線・深川ー留萌間)

留萌本線・峠下駅(2016年撮影)

留萌本線は、留萌港への石炭輸送などを目的に建設された路線で、開業は明治43年とかなり古く、その後、日本海沿いに増毛まで開通しました。炭鉱の閉山等で貨物は廃止。地域高規格道路・深川留萌道の開通もあり、乗客はさらに減少し、まず2016年12月に日本海沿いを結んでいた留萌-増毛間が廃止されました。
維持困難線区公表後、沿線自治体との協議が始まりました。留萌市や秩父別町などは廃止受け入れを表明したものの、沼田町は廃止に反対、深川-石狩沼田間の部分存続の意向を示し、沿線協議会もその旨をJR北海道に求めましたが、同社は部分存続に難色を示していました。しかし、紆余曲折を経て、JR北海道は2022年に石狩沼田-留萌間の2023年3月末限りでの廃止と、深川―石狩沼田間は地元負担なしでの3年間存続を経て、2026年3月末での廃止を沿線市町に伝達、沿線市町がこれを受け入れたことから、まず石狩沼田以遠の廃止が今月末に迫っています。

③根室本線(富良野-新得間)

根室本線・金山-東鹿越間(2022年撮影)

根室本線は、北海道官設鉄道が建設を行った旭川-釧路間の釧路線が前身です。現在の富良野線である旭川から富良野、そこから狩勝峠を越えて帯広、釧路まで全通したのが明治40年です。その後、大正期に入って滝川-富良野間が完成し、大正10年には根室まで延伸して、現在の滝川-根室間443.8kmという長大路線が完成しました。
今回の赤色線区の区間である富良野-新得間のうち、東鹿越-新得間は2016年8月の台風被害によって不通となって以来、復旧されておらず、構図としては災害による普通からそのまま廃止となった日高本線と似ています。
維持困難線区公表後、石勝線のバイパスルートとしての機能にも着目した地元有志による存続運動もありましたが、2022年1月に沿線4市町は廃止を容認し、そして冒頭の記事のように、このほど、その廃止年月日が2024年3月31日となりました。

4.黄色線区について

通称黄色線区と呼ばれる輸送密度2,000人未満の路線はJR北海道ではかなりの路線を占めています。今回はすべての路線について取り上げることはしませんが、列挙するだけでも下記のとおりとなります。(順番は維持困難線区公表資料での順)
・宗谷本線(名寄-稚内間)
・根室本線(釧路-根室間)
・根室本線(滝川-富良野間)
・室蘭本線(苫小牧-岩見沢間)
・釧網本線(全線・東釧路-網走間)
・日高本線(苫小牧-鵡川間)
・石北本線(全線・新旭川-網走間)
・富良野線(全線・旭川-富良野間)

輸送密度2,000人未満といっても、実態は1,000人を下回っている路線が多くあります。2016年の維持困難線区公表時の数字で見ても1,000人を超えているのは石北本線と富良野線だけで、宗谷本線と根室本線の2区間は500人を割っています。

感染症の影響が色濃く残る2021年のどのデータを見るとさらに数値は悪化しています。

https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/jyoukyou/transition.pdf

区間はもう少し細分化して発表されていますが、宗谷本線(名寄-稚内間)と根室本線(釧路-根室間)は174人、根室本線(滝川-富良野間)は201人と、赤色線区並みの数字に落ち込んでいます。石北本線も、上川-網走間で420人と500人を割り、比較的利用が多いと思われた新旭川-上川間も567人という数字になっています。昨年後半から感染症への対策が緩和され、北海道に、外国人を含む観光客が戻りつつありますので、数値自体は改善していくとは思われますが、それでも厳しい状況に変わりはありません。

5.国土交通省の動向と今後の展望

①国土交通省によるJR北海道への支援
2016年に維持困難線区公表後、国土交通省はJR北海道への支援を検討してきました。2018年7月27日に国土交通省は経営改善に向けた支援とともに、経営改善に向けた取組みを着実に実行するよう、監督命令を発出しました。

これを見ると、2020年度までを第一次集中改革期間とし、その取組みが着実に行われることを前提として、2023年度までを第二期集中改革期間としています。そして、最終年度である2023年度には総括的な検証のほか、事業の抜本的な改善方策等の検討も行うとされています。
国の支援としては、2020年度までの2年間で400億円台の支援を行うとし、2021年度以降は国鉄清算事業団債務等処理法の期限到来に伴い別途検討するとされていました。
その後、2020年12月には、2023年度までの3年間に総額1,300億円超の支援を行うことが発表され、2021年9月には、鉄道・運輸機構からの借入金の一部を「債務の株式化」により圧縮するなど、多大な支援が続いています。

②輸送密度1,000人未満の新基準
昨年、国土交通省の有識者会議は、ローカル線の存廃を協議するための新基準として「輸送密度1,000人未満」という数値を提言しました。中国地方の山間部に多くのローカル線を抱えるJR西日本は早くも協議入りの姿勢を示していますが、廃止を警戒する地元自治体はなかなかその以降に応えようとしていない印象を受けます。協議開始から3年を軸として結論を出すというのは国土交通省の意図ではありますが、そもそもの協議入りすら難航している状況下、この新基準がどこまで機能するかは不透明です。

では、JR北海道の黄色線区について、今後、この新基準に従って廃止される可能性があるかというと、そういうわけでもなさそうです。JR北海道の綿貫社長は日本経済新聞のインタビューで「黄色線区の廃止は全く頭にない」と発言されています。

JR北海道としては輸送密度1,000人を下回る区間を含む黄色線区も含めて多大な支援を受けており、現時点においては赤色線区に続く新たな廃止の動きは見えていません。

そんな中、気になる動きもありました。
2023年2月20日、宗谷本線活性化推進協議会は、宗谷本線の通学列車と同じ時間帯に、並走する国道にバスを走らせる実証実験を提案するという報道がありました。詳細は不明ですが、通学や通院のために、高校や病院にもバスを停車させて利便性を確かめるとのことです。

これがすぐに宗谷本線廃止への布石になるかは不明ですし、むしろ、地元自治体の集まりである活性化推進協議会から提案があったということは、宗谷本線を基幹交通機関として、二次交通の充実を実証実験するという意図かも知れません。3月中に国や道、JR北海道に提案があるということですので、続報を待ちたいと思います。

むすびに

今回は、赤線区間の根室本線・富良野―新得間の廃止年月日が決まったことを受けて、JR北海道の経営問題を取り上げました。これからますます北海道は本格的な人口減少のフェーズに入っていきますし、上記のとおり、2023年度末には「事業の抜本的な改善方策」の期限を迎えます。間もなく始まる2023年度には、様々な動きが引きつづきあるものと思われ、今後もJR北海道の動きから目が離せません。

最後に、これまで私がnoteに書いてきたJR北海道関連の記事をご紹介しますので、どうぞご覧ください。

(掲載写真はすべて筆者撮影。トップ画像は黄色線区の室蘭本線・栗沢-志文間で撮影)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?