フユムラ

物書きを目指して奮闘中の男です。キンドルでも作品公開中です。冬村兼人という名前です。 …

フユムラ

物書きを目指して奮闘中の男です。キンドルでも作品公開中です。冬村兼人という名前です。 好きな作家さんも大勢いますが、作品が好き、という節操なしというか、雑食です。

最近の記事

3題話#6 ラブラブ・まつげ・頭からっぽ

 なんていうかさ、雰囲気なんだよね。と店長が切り出し、佐々山康介はうんざりとした心持で話を聞いた。  毎度毎度同じような話が伝えられる。やれ仕事をこなすのが全てじゃないだの、全員が強いわけじゃないだの、周りのことを考えろだのと。  飽きないでそんな話をぐちぐちと続けていた店長も、少しばかり呆れて言った。 「わかったか? とりあえず、そういうことだ」   ジワリと、苛立ちだけが募った。コンビニでは煙草の番号がわからない店員をどなる奴がいた。ドラッグストアでは、CMでやっていたと

    • 冬村。小説家志望と言いつつ、日々に埋もれている男

      読んでいただいた全ての方々へ 初めまして、冬村兼人(フユムラカネヒト)と読みます。 小説家志望の男です。 作品に触れては、色々と足りないなと感じつつ、もがいている最中です。 足りないと言えば、SNSが栄華を誇る昨今において、セルフブランディングが重要だと言われます。 重要というか、必須とまで言われます。 しかしまぁ、これが本当に苦手なもので、自身は、影の存在に徹していたい人間で、何から始めようかと皆目見当もつかない状況でございます。 そんな人間も、目指したい世界の

      • 3題話5 大雪・テレビ・フリーフォール

         テレビ局の会議室内は、息が詰まりそうなほどトゲトゲしい空気で満たされていた。企画会議だというのに、開始早々から提案された企画が次々と却下されているからだった。  コンプライアンスやハラスメントといった事情に配慮しつつ、新しい企画を考える。言葉としては簡単ではあるが、実際に直面すると、これ以上に厄介なことはないと痛感している所に名指しされ、心臓が跳ね上がる。 「石崎、お前ちっとも発言しないが、何の為にここに居るんだ?」  ヤマタノオロチの生贄でもされた様な心持ちで、石崎が絞り

        • 3題話 4 トマト・婿・満月

           よく冷えたトマトジュース、よく冷えたビールを1対1の割合で混ぜる。  レッドアイというカクテルになる。 「レッドアイって、トマトジュースだったんですね。あ、おいしいかも」  ちょくちょく店に通うようになってくれた栞ちゃんが、1口飲んで、そう言った。先輩バーテンダーである伊藤さんの大学時代の後輩だということだった。 「でも、びっくりしました。伊藤先輩が、本当にバーテンダーになっていたなんて、学生の頃から、急にアメリカに行ったりして、行動力あるなぁって思っていたんです。同じ女と

        3題話#6 ラブラブ・まつげ・頭からっぽ

          3題話3

           いらないものは投げ捨てる。  男にとっては命がそうだった。  だというのに、なぜか目の前にキツネがいて、どういうわけだが、話が通じるようだった。 「お前は、熊倉修司で、間違いないか?」  声色に、メスなのだろうかと、疑問が浮かぶも、答えた。 「あぁ、俺は、熊倉だ。あんたは?」 「キツネとでも、何とでも、好きに呼ぶがいい。時に熊倉、お前はどうして命を投げ捨てた?若い身空に、何があったのだ?」 「あん? お前には関係ないだろうが。まぁ、いいか。そうだな、どう言ったものか」 「う

          3題話2 騒音・指輪・雑草

           自分のため息すら、うるさいと思った。  窓から聞こえてくる自動車の音も、下校中の学生たちが笑いあう声も、やかましい。  腕時計の秒針さえも、騒がしい。  何度も耳を塞いで、何回も叫んでも、なにかしらの音はいつでもまとわりついてきた。   耳栓をして、その上からヘッドフォンで塞いだら、ようやくまともになったが、今度は耳栓とヘッドフォンが手放せなくなった。  インターネットだけに閉じこもるのは、必然だった。相手のペースに合わせることもなく、自分のペースで、見たいときに使え

          3題話2 騒音・指輪・雑草

          3題話1-2 諧謔・テトリス・ルッコラ

           茶封筒を抱えながら、江藤慎之介は、憤慨していた。  けしからん。全くもってけしからん。小生の最高傑作を、売れ筋では無いという理由で駄作扱いするとは、少しも笑えん。諧謔を弄されている気分だ。  駅のホーム内を見れば、スマホをいじくる老若男女がなんと多いことか、実にゆゆしき事態である。  あぁ、どこかに小生の才能。神の如き見識に、気づく者はいないのか。 トンネルに電車が入ると、江藤はこのまま雪国ではなく、別の世界に行けないかと願っていた。  その時、電車が激しく揺れた。江藤が、

          3題話1-2 諧謔・テトリス・ルッコラ

          三題話1-1 テトリス・ルッコラ・諧謔

          「<かいぎゃく>ってなに?」と由美からメッセージが届いた。 「おどけている冗談とか、気のきいた冗談とか、ユーモアってところ」と返す。 「ありがとう。また夜にね」  メッセージを確認すると、スマホを裏返しにし、パソコンの画面に向かって文章を連ねていく。  10分程、パソコンに向かっていると、指が止まった。深呼吸して、首を左右に動かして鳴らし、再度とりかかる。  集中しているつもりだったが、思っているよりも文章は増えず、ただ時間ばかりが過ぎていった。送り仮名はどうだったか、漢字は

          三題話1-1 テトリス・ルッコラ・諧謔

          ある日の、ひとコマ

           この春大学生となり、今日はバドミントンサークルの新入生歓迎会の為に他の仲間たちと一緒に居酒屋にいた。 新入生全員の紹介も終わり、それぞれが会話に花を咲かせていた。この居酒屋の個室にはカラオケが付いていて、さらに盛り上がっていった。  1段落ついたところで、先輩の1人が俺に話を振ってきた。 「じゃあここでハル君に恋バナなんかを語ってもらおうかな?」  その一言で場が静まり、注目が俺に集った。今まで飲んでこなかった酒に、酔っているせいか、俺は昔の告白した体験を思い出しつつ、話し

          ある日の、ひとコマ

          「星とロング缶」

          ほどよく暖かい夜のこと、1人の男が土手に座って顔を上げる。  あそこで輝いている星たちの光は、何光年という時間をかけて届いている。ひょっとしたら、今見ている光は、もう消えてしまっているのかもしれない。そう考えると、切ないよねと、語る相手はいない。  傍らに、コンビニの袋にくるまったチューハイのロング缶が三本あるだけだった。1本目を開けて、流し込む。  レモン味の冷たい液体が、喉を通り、胸に染みわたっていく。一気に半分くらいまで飲んだところで、ようやく手を下ろした、  警官にで

          「星とロング缶」