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【お話し】月光~妖精と龍~(7)

 カズミーさんの失敗

 ミリーは数日に1度 暁飛(こうひ)の所へ行った。
行く度、たくさんの妖精達が谷で遊んでいた。
ミリーは暁飛と寝ぐらに入る時もあったり、外で暁飛や他の妖精と話して帰ることもあった。
ただ、いつ行っても誰かいるので、1人で暁飛の寝ぐらに入ることはなかった。

 花々の見守りも もちろん手を抜かずに行う。
草花を食べてしまう虫が多く発生してしまった時には、鳥達に助けを求めたり、直接虫と話して場所を移動してもらったりもする。
虫達もミリーや花達と同じで生きている。
花が喰われるからと言って、全部を鳥達に駆除してもらう訳にはいかない。
自然の中の弱肉強食、自然の摂理には なるべく手を出さない。
ミリー達の仕事はあくまで自然の力を手助けし、自然治癒力を高める手伝いをし、植物や虫や鳥や動物のバランスが良いように手助けするだけだ。
だけどそれがもても大事なことで、それで世界が回っている。

そんな中でミリーは花達に問いかけた。

「この中で摘んでいい花はある?」

「ああ、ミリー。この2番目と3番目は摘んでもいいわよ。他のはだめ。種を付けなくちゃいけないし。この2本は無いほうが種に栄養を送れるから、かえって助かるわ。」

「ありがとう!もらっていくわね。」

ミリーは子孫を残すために 自ら枯らしてしまう花を貰って ドライフラワーにして暁飛の寝床へ運んでいた。

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ある日、いつもの様に暁飛の所へ行こうと森のはずれを飛んでいた。
すると、向こうの方で言い争う声がした。
近付くと、フクロウの『アウル』がハンドメイド好きな妖精、『カズミー』と何やらもめていた。

「あなたが大きいやつって言ったんじゃない!」

「だからって これは大きすぎるだろう!一体どうやってこれを巣の中にいれろってんだ!」

「だって、久し振りに大物の注文だから嬉しくて張り切って織ったのよ。」

「いくら何でも これじゃあ巣に入らない。お代は払えないよ。」

「そんなぁ・・」

様子を見ていたミリーが声をかけた。

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ!」

アウルが声を荒げた。

「オイラが巣の中に敷く布を織ってくれって頼んだんだ。妖精は小さいだろ?オイラが使うんだから大きめに頼むよって言ったら、こんなにデカイのを寄越したんだ!」

見ると それはそれは大きな布が地面に置いてある。
薄いブルーとグリーンと白がふわふわと混ざった、空を切り取って地面に広げたような布だ。

「あらら、これは大きすぎるわねぇ。人間が使う毛布より大きいんじゃない? よく作ったわね。カズミーさん。」

「だって作り始めたら楽しくなっちゃって・・気付いたらこんなに大きくなっちゃったんだもの・・・」

妖精の布は、草や木の繊維を織った布、蜘蛛の糸を使った布、空の雲を織り込んだ空布、虹を織り込んだ虹布などがある。

草木の布は普段着。
虹布は美しく七色に光る布でドレスやタペストリーなどになる。
蜘蛛の糸の布は丈夫なので、作業に使う網やネットになる。
空布は雲を織り込んでいるので ふわふわとした手触りで、布団やカーペットにぴったりだ。
今回問題になっているのは、この空布だ。

「ねえ、この空布、私に売ってくれない?」

「え?買ってくれるの?ありがたいけど こんな大きなのどうするの?自分でもやりすぎちゃったなって思っているのに。」

「そこは、思ってるんだ。」

ミリーはクスクス笑った。

「そりゃぁね・・・」

「暁飛にあげようかと思って。」

「ああ、あの黒龍。それならちょうどいいかもね。」

「でも、どうやって持っていくんだ?さすがのオイラでもそんなに遠くまでは運べないぜ。」

「んー、もう少し森のはずれに行った所に湖があるじゃない?あそこの畔まで運べない?そうしたら暁飛に取りに来てもらうわ。」

「ああ、あの辺りまでなら持っていけるか。」

「暁飛呼んでくるから 今からでもいい?」

「いいぜ!持っていっておく。」

「ありがとう!」

「お礼はこっちの台詞だな。」

アウルは笑った。

「カズミー、注文のし直しだ。今度こそオイラにピッタリの空布を頼むぜ!」

「了解したわ。ミリー、お代は100グルでいいわ。」

「え?ちょっと安すぎない?空布よ。」

「いいのよ。これは私の失敗だし、無駄になるところだったんだもの。お代が取れるだけ儲けものよ。」

100グルではこの布の半分にも満たない値段だ。
押し問答の末、150グル払うことで落ち着いた。

「じゃあ、お願いねー!」

ミリーはお金を払うと、森の奥へ飛んでいった。

暁飛はどんな顔をするだろう。
驚くかな?
喜ぶかな?
そうだ!最初は内緒にしていて、サプライズのプレゼントにしよう!
だって、あの寝ぐらで土の上で寝るより、空布があったほうが絶対に気持ちいいもの。
ミリーは空布を暁飛に渡した時の事を想像して、ワクワクしながらスピードを上げた。

                 ー続くー


ヘッダー、作中のイラストはKeigoMさんから
お借りしたものです。

作中の『空布』という言葉は、みぞおち空間さんが考えた物をお借りしました。

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