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【お話し】月光~妖精と龍~(5)

空を駆ける妖精達

「なあーんだ、たいして怖くないわね。」

川縁で日向ぼっこをしながら、うつらうつらと昼寝をしていた暁飛(こうひ)を見下ろしながら、ゆみんが言った。
両手を腰に当てて、何だか偉そうだ。

○ー○ー○ー○ー○ー○ー○ー○ー○ー○ー○

 3人は 先程、清涼の谷へやって来た。
暁飛は寝床ではなく、日当たりのいい川縁で昼寝をしていた。
昨日は隣の国との国境近くまで様子を見に行っていたので、ねぐらに戻ったのは空が明るくなってからだった。
いい気持ちで寝入ったところにミリー達がやって来た。

「あら、暁飛寝ちゃってる。」

「へえー、龍も寝るんだ。」

「ゆみん・・・龍だって寝るでしょう。」

「だって、龍って寝るイメージなかったんだもん。」

3人は暁飛の頭の上を飛びながら喋っている。

「・・・む?」

暁飛が、薄目を開けた。

「ひゃあああ!起きた!!」

ゆみんが大声を出して遠くへ逃げた。
ルーナも少し後退った。
ミリーが暁飛の鼻の上にちょんと乗る。

「暁飛、ゴメンね寝てた?」

暁飛は くわぁ~ と大きな口を開けてアクビをした。
鼻の上に乗ったミリーは食べられてしまいそうだ。

「ん、寝ていた・・・。さっき帰ったのでな。何用だ?」

「この辺にお花の種を蒔いてもいい?持ってきたの。」

「構わんが、たいした世話はできんぞ。前にも言ったが。」

「うん。大丈夫。適当に蒔いておけば自分で勝手に咲いてくれるから。」

「そうか。好きにするがいい。」

暁飛はそう言うと、ぽふんと尻尾でひとつ地面を叩き、また寝る体制に入った。
その様子を見ていたゆみんが近づいてきた。

「なあーんだ、たいして怖くないわね。」

暁飛の頭上から偉そうに見下ろしている。
ルーナが慌ててゆみんの口をふさいだ。
ゆみんはジタバタしている。

「何するのよルーナ!苦しいじゃない。」

「ゆみんは もう少し考えてから口に出しなさいよ。」

「何がよ。」

「初めての人に失礼じゃない。」

「人じゃないじゃない。龍じゃない。」

「いや、そうだけどそう言う事じゃなくて、」

「どういう事よ。」

小さな2人の妖精が龍の頭上で何やら言い合いをしている。
寝ぼけていた暁飛は、ミリーが何か言っているのかと思った。
が、どうやら違う妖精がいるらしい。
顔を上げて声の方を見た。
赤い服の妖精と、青い服の妖精がもめていた。

「ミリーの仲間か?」

「うん。赤い服が花の妖精ゆみん、青い服が月の妖精ルーナ。2人とも友達よ。」

2人は暁飛が自分達の方を見ていることに気付いて固まった。
暁飛は暫く2人を眺めていたが ふいっと顔を背け またアゴを地面に置き

「好きに過ごせ。」

と言って目を閉じてしまった。
2人は ほーっとため息をついて、ミリーのところへ飛んでいった。
ミリーはせっせと種を蒔いている。

「あー、ビックリした。」

「ねえミリー、黒龍っていつもあんな感じなの?」

ルーナが聞いた。

「んー、ここにいる時は休んでる時が多いからあんな感じかしら。起きていても滝の裏にいる時もあるし。たまに頭に乗せてくれてびゅんっ!て飛んでくれるんだけど、スッゴク速くて面白いよ。」

「えー?何それ面白そう!」

食い付いたのはゆみんだ。

「あたしもやってほしい!ねえ、ミリー頼んで!」

「自分で頼みなよ。でも今日は疲れてるっぽいから次にしたら?」

「うーん、そうしようか。」

種を蒔き終わったミリーは、暁飛の所に飛んでいった。

「これで、そのうち芽が出て花が咲くと思うわ。」

「そうか。ご苦労だったな。」

「あのね、ゆみんが後で暁飛の頭に乗って飛んでもらいたいんだって。いいかしら?」

「構わんが、後で良いのか?」

するとゆみんがぴょんと飛び込んできた。

「え?今乗せてくれるの?」

目がキラキラと輝いている。
ルーナが少し呆れてゆみんを見ている。
暁飛はゆみんを見てフッと笑った。

「?何?」

ゆみんが首をかしげた。

「いや、妖精はみんなそうなのか?」

「何が?」

「何か要求がある時や、やりたい事がある時に、目を見開く。ミリーもそうだ。」

暁飛は可笑しそうに笑っている。
初めてミリーと会った時の事を思い出していた。
暁飛は丸めていた身体をぐっと伸ばした。
大きな翼を持つ黒龍は、日の光を受けてきらきらと輝いている。
あんなに怖かった黒龍が、今は何となくカッコよく見えてきたから不思議だ。

「乗りたいなら乗せてやるが。」

「乗る!」

ゆみんが勢いよく返事をした。

「私も。ルーナはどうする?」

「私も乗っても良いですか?」

「構わんよ。たてがみをしっかり手に巻き付けて、飛ばされないようにな。」

「「「はーい。」」」

3人はしっかりとたてがみに掴まった。
暁飛は、バサリと翼を羽ばたかせた。
バサリバサリと羽ばたきながら上昇していく。

ミリー達妖精も羽で飛ぶことは出きるが、あまり空高く飛んだりはしない。
地面に咲いている花や、せいぜい木に咲く花まで飛べればいいし、小さい羽で高く飛び上がるのは時間が掛かる。
高く昇ると風の影響を受けやすいので、低く飛んだ方が、安全なのだ。

「うわー、高ーい!こんな高い所から下を見るの初めて!」

ゆみんが興奮気味に言った。

「ホント!私、夜に飛ぶことが多いから、こんなに良い景色を見るの初めてかも知れないわ!」

いつもは物静かなルーナも頬を紅潮させて山や森を見下ろしている。

「いくぞ、しっかり掴まっていろ。」

そう言うと、暁飛はビュンッと進み出した。
風が耳元でビュンビュンなっている。
遠くに見えた山や湖がどんどん近づいて、そして遠ざかっていく。

「凄い凄い!気持ちいい!!」

ミリーは時々暁飛と飛んでいるが、ゆみんとルーナは初めてだ。
眼下に広がる景色に釘付けになっている。
そして、景色が少し変わった場所に来た。
緑豊かな 高いが柔らかそうな山々がなくなり、険しい木の生えていない山が出てきた。
その辺りで暁飛はスピードを緩めた。

「この辺りまでが 我の管轄だ。これ以上行くと 他の龍と会うかも知れんからな、そろそろ戻るぞ。」

「他の龍と会うとダメなの?」

ミリーが聞いた。

「さあ、会ったことがないのでわからん。」

「ふーん。」

3人を乗せた暁飛は、帰りはゆっくりと飛んだ。
往きは、ビュンビュンと風を切って飛んだが、帰りは景色を楽しみながら帰った。
高い山の頂より高く飛んだり、急降下して美しい湖の水面近くを飛んだりした。

清涼の谷にもどった3人はそろそろ帰らなければならない。
明日は花の見回りに行かなければならないし、ルーナは夜から見回りだ。

ゆみんとルーナが暁飛の鼻先まで飛んできた。

「あなたの事勝手に怖がってゴメン。乱暴者だって思っててゴメン。また、ここに遊びにきていい?」

「私もごめんなさい。ここはとても気持ちがいいわ。私もまた来てもいいかしら?」

「荒らしたりしなければ、構わんよ。我がいない時も あるかも知れんが。」

「ありがとう!暁飛って呼んでもいい?」

「ああ。」

「また来るわ!暁飛!」

「私もまた来ます。暁飛さん。」

2人は森に帰っていった。
ミリーが暁飛の頭に乗った。

「迷惑じゃなかった?うるさくなかった?」

「ああ。迷惑じゃない。我も楽しかった。礼を言うぞ。」

「ほんと?」

「本当だ。」

「ゆみんは あんな感じの子だから、たぶん違う妖精とか連れて来たりするよ。」

「ああ。さっきも言ったが、ここを荒らしたりしなければ、構わん。我も誰かと話をしたりすることは、嫌いではないらしい。ミリーが来るようになって初めて知った。」

「そう。良かった。
今度はお部屋の中に飾るお花を持ってくるわね。ずっと飾って置けるようにドライフラワーにして持ってくるわ。」

「ああ。楽しみにしているよ。」

ミリーは自分のおでこをコツンと暁飛のおでこに合わせてから、手を振って森に帰って行った。

                 ー続くー


ヘッダーの絵はKeigoMさんからお借りしたものです。

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