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【お話し】月光~妖精と龍~(8)

 ソラの暴走

 ミリーが清涼の谷へ行くと 川縁で暁飛(こうひ)が休んでいた。
相変わらず妖精達が遊んでいるが、以前ほど大人数ではなくなった。
だが、入れ替わり立ち替わりやって来ているようだ。

時折 パタパタと動かす暁飛の尻尾に掴まって遊んでいる者や、暁飛の頭の上に乗って寝転んでいる者もいる。
ミリーが暁飛の鼻先に飛んでいった。

「暁飛、ちょっとお願いがあるんだけど。」

ミリーはワクワクを隠して 真面目な顔で言った。

「ん?どうしたのだ?」

珍しく神妙な顔つきのミリーに暁飛は体を起こした。

「ちょっと運んでもらいたい物があるのよ。大きくて私には運べないから。」

「構わんよ。どこだ?」

暁飛が立ち上がりながら他の妖精達に言った。

「少し出かける。お前達降りてくれ。」

「はーい。」

尻尾で遊んでいた妖精達は 暁飛から離れて川の方へ飛んでいった。

「どうして!?」

大きな声で言ったのは、暁飛のたてがみの中にいた 木の妖精ソラだ。

「暁飛は今私達と遊んでいるのに!後から来て荷物運べって、一体何様なの!?」

ソラは羽をビリビリと震わせて怒っている。

「ご、ごめんなさい。」

ミリーは驚いて後退った。

「誰もいない時に言えばいいじゃない!!」

「で、でも・・・」

早く空布を取りに行かないと、誰かに持って行かれてしまうかもしれない。
雨でも降ってきたら、ビショビショになって、空布のフワフワが台無しだ。
大体今は、夜中にでもならないと この谷が誰もいない事などない。

「ミリー、どこへ行けばいい?」

暁飛は構わず立ち上がった。
ミリーはどうしていいか分からず 答えられない。

「暁飛、何で?行く事無いわよ!行っちゃダメ!!」

ソラは暁飛のたてがみを掴んで離さない。

「我の行動は我が決める。誰にも指図されない。」

ソラは益々ビリビリと羽を震わせている。

「ミリーが指図してるじゃない!!」

「我が行きたいのだ。ミリーが言っても、誰が言っても、行く行かないを決めるのは我だ。」

暁飛がミリーを見る。
優しい眼差しだ。
暁飛はもう一度聞いた。

「どこへ行けばいい?」

「あの・・森のはずれの湖なんだけど・・・」

「分かった。お主、我はミリーと行く。退いてくれないか。」

ソラは暫く黙っていたが、ゆっくりと暁飛のたてがみを離し離れた。

「ミリー、行くぞ。」

「う、うん。」

ミリーは遠慮がちに暁飛に掴まった。

「・・・なのに・・・」

ソラが何か言った。
ミリーと暁飛が少し振り返った。

「何だ?」

ソラは顔を上げて暁飛の目を真っ直ぐに見た。

「私は暁飛が好きなのに!ミリーよりもずっとずっと好きよ!毎日暁飛に会いに来てるのに!たくさん一緒に空も飛んだのに!」

ソラは肩で息をしている。
そして殊更大きな声で言った。

「私、暁飛と番(つがい)になりたい!!」

「は?」

暁飛はらしくない声を出し、ミリーは何も言えず目を見開いた。

 番とは妖精と妖精の結婚に当たるものだ。
妖精に性別はない。生涯一緒にいたいと思える相手ができたら、青い花に2人で行って、月の光を浴びながら誓う。

 花の妖精と木の妖精とか、水の妖精と氷の妖精など同じ人型の妖精同士や、人間の命や生活を守る龍と人間の富を守る蛇の番は、よくあるのだが、大型の龍と小型の花や木の妖精の全く違う種の番は聞いたことがない。

「何を言っておる。」

暁飛は訳が分からないと言う様にソラを見た。
ソラは暁飛の目の前で叫んだ。

「私は暁飛が好き!!だから毎日ここに来たの!ミリーなんか10日に1回か2回しか来ないじゃい!!私は毎日暁飛と空の散歩に行ってるのに!!暁飛だって、いつも一緒にいてくれる妖精の方がいいわよね!」

ソラは頬を紅潮させて、ハァハァと息が切れている。
暁飛は少し考えてからソラを見た。

「お主、毎日ここに来たのか?」

「そうよ!暁飛がいる時は毎日空の散歩に行ったじゃない!!」

「・・仕事は?」

「え?」

「お主の年ならば、もう仕事があるだろう。幼い者達は仕事もないだろうが・・・」

「・・・・・・」

ソラは黙って俯いてしまった。

「まさかお主、自分の仕事をせずにここへ来ていたのか!」

暁飛は思わず声を荒げた。
ソラは涙目になって暁飛を見上げた。

「だって、暁飛に会いたかったんだもの!一緒に空の散歩に行きたかったんだもの!暁飛だって毎日乗せてくれたじゃない!!」

暁飛は暫く考えてから、ボソリと言った。

「ミリー以外、いや、ミリーと最初に来たゆみんとルーナ以外見分けがつかん。」

「「え?」」

ソラとミリーが同時に声を上げた。
ミリーが目をまんまるにして、暁飛に言う。

「見分け・・付いてないの?」

「うむ。ミリーは分かる。ゆみんとルーナも分かる。まあ、ルーナはたまにしか来ないがな。たぶん会えばわかる。他の者は入れ替わり立ち替わり来るのでな、見分けが付かんのだ。」

ソラが驚いて力が抜けた様に聞いた。

「ま、毎日一緒に飛んだのに覚えてないの?」

「毎日たくさんの妖精達が来るのだ。覚えられんよ。毎日誰かしら乗せていたしな。」

ソラは茫然自失だ。

「そんな・・・たくさん話し掛けたのに。暁飛もいろいろ話をしてくれたのに・・・」

「誰と何を話したのか、覚えておらんなぁ。」

「ひどい・・・」

「ひどいも何も、我はお主の名も知らんぞ。まあ、ミリーとゆみんとルーナ以外は誰も知らんが。」

暁飛はしっかりとソラを見た。

「我は自身のするべき事をせす、遊んでいる者を良しとしない。我が分かるのは3人だけだが、この3人は自身の仕事を全うしている事はしっている。だから毎日来ない。我は仕事もせず毎日来る者より 仕事をこなしながら時間のある時に思い出して来てくれる者の方が好ましい。」

ソラはもう、何も言えずに暁飛の前を動けずにいる。

「番の事は・・・我にはそのような気持ちは、よく分からんが・・心も通わせていない者と番になる事はない。」

ソラはそのまま動かずに宙を見ている。
暁飛は頭の上のミリーに言った。

「すまんな。行こうか。」

ミリーはハッとした。

「う、うん。」

暁飛は湖に向けて、ミリーを乗せて飛び立った。                                      
                 ー続くー


ヘッダーのイラストはKeigoMさんからお借りしたものです。


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