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【お話し】月光~妖精と龍~(6)

 5日ほど経ってミリーは暁飛(こうひ)の洞窟にやってきた。
両手にドライフラワーにした花を抱えている。
生花の方が美しいのだが、暁飛が手間を掛けずにずっと置いておけるドライフラワーにした。
ミリーは時々持ってこようと思っていた。
壁に吊るしたり、後で花瓶を持ってきて、テーブルも何とかして運んで、暁飛のねぐらをもっと暮らしやすいものにしてあげたかった。
ミリーが森を抜けると・・・唖然とした。
たくさんの妖精が清涼の谷を飛んでいたからだ。

(え?何?これ。)

この間、ゆみんとルーナを連れて来るまで、この谷に暁飛以外を見たことがなかったが、たくさんの妖精達が草や岩の上で休んでいたり、水遊びをしている。
ゆみんが葉っぱの上でお喋りをしていたので、ミリーは声を掛けた。

「ねえ、ゆみん、これどうしたの?妖精達がこんなに・・・」

「ん?なんかね、あたしが『面白かったよー』って教えたら、行ってみたいって言う子がいて、その子達と遊びにきて、暁飛に乗せてもらって、その子達がまた他の子を誘ってって感じみたいよ。」

「だからってこんなに・・。」

「ここは妖精の世界に近いってユキマーさんも言っていたじゃない?妖精にとっては居心地が良いのよ。」

「うん・・そうなんだろうけど。」

ここは癒しの谷だ。
妖精達が少し過ごせば、疲れが癒される。
暁飛が怖くないと分かれば、妖精達が訪れるのは当たり前かも知れない。

「ミリー、暁飛の事みんなに知ってもらいたかったんでしょ?」

「そうだけど・・・」

「じゃあいいじゃない。ここにきてる子達は暁飛の事怖がる子はいなくなったわよ。」

ミリーは少しモヤモヤした。
確かに皆に暁飛の事を知ってもらいたかった。
知ればきっと暁飛の事を好きになるとわかっていた。
自分がそうだったから。
でも でも・・・

「暁飛は?」

「誰か4、5人乗せてどっか行ったわよ。」

「そう。」

良かったじゃない。
暁飛が怖くないってみんなが分かってくれて。
たくさんの妖精達が遊びに来る様になって。
そうなって欲しかったんじゃない。
モヤモヤしたまま木の枝に腰掛け、溜め息をついた。
すると頭上からキャーという歓声が聞こえた。
見上げれば暁飛が空から降りて来るところだった。
また、ブワッと風を起こしながら地面に暁飛が降り立った。

「ねえ!もう一回!もう一回!」

と、まだ子供の妖精がせがんでいる。
暁飛は妖精達が背中から降りたのを確認して立ち上がった。

「今日はもう終わりだ。今夜は夜明け前にここを出て、少し離れた場所まで見回りに行くのでな。我はこれから少し寝る。」

そして洞窟の方へ顔を向けた時、木の枝にいるミリーに気づいた。

「ミリー、今日は来たのか。」

「ええ。」

「ちょうど良かった。頼みたいことがあったのだ。一緒に来てくれるか。」

「え?ええ。いいけど。」

すると 先程暁飛の背中に乗っていた妖精の
1人が暁飛のそばにやって来た。
木の妖精だったか。
たしか名はソラと言った。

「あ!アタシも入ってみたい!暁飛の部屋!」

ミリーは(イヤだな)と思ったが、暁飛が良いと言えばミリーは何も言う権利はない。

「我のねぐらに入るのは許可しない。」

暁飛はハッキリと言った。
ソラは少しムッとした顔をした。

「なんで?ミリーは入るんでしょ?アタシだって入りたい!」

暁飛はソラをじっと見た。

「ミリーは我の恩人、我の特別だ。それに我はミリーと話がある。清涼の谷には好きに来るがよい。ただ我の寝ぐらは我だけの場所。勝手に立ち入る事は許さん。ミリー、おいで。」

暁飛は滝の所で止まり、体で水を避けた。

「どうしたミリー、入るがいい。」

ミリーは暁飛が体で水を避けてくれているうちにスイっと洞窟に入った。
ミリーが入ると暁飛も洞窟に入り、滝の扉が閉められた。
ソラは、面白くなさそうに滝を睨んでいた。

「暁飛、頼みたい事って何?」

「いや、特に無い。」

「え?だってさっき・・・」

「外だと妖精が大勢いるからな。落ち着かんだろう。」

「・・・私はここに入っていいの?」

「良い。さっきも言った。お主は我の恩人だ。お主だけはここに入っても良い。」

ミリーはさっきまでモヤモヤしていたものが、心の中から消えているのに気付いた。
暁飛が自分を特別だと言ってくれたことが、自分だけが洞窟に入って良いと言われたことがとても嬉しかった。
ホワっと何か、甘い温かいものが胸の中に生まれた。
あの、青い花の上で、幸せの光を浴びた時の 甘い感覚がまた呼び覚まされた感じだ。
ミリーは何だかわからないものに戸惑った。
慌てて手に持っていたドライフラワーを暁飛に見せた。

「これ、持ってきたの。生花じゃ枯れちゃうからドライフラワーにしたの。これならずっと置いておけるから。」

「花をおく場所など無いぞ。」

「うん。だと思って・・」

みりーはポケットから長いヒモを取り出した。
洞窟の壁の石が飛び出しているところにヒモの端をくるくると巻いて縛り、軽く張った反対の端も同じ様に縛った。
ゴソゴソと反対側のポケットから洗濯バサミを幾つか取り出した。
軽く張ったヒモを少し引っ張り小さな輪を作り花の茎を入れる。
落ちないように洗濯バサミで留めた。
花が逆さまにぶら下がっている感じだ。

「ほら、こうすれば落ちないで飾っておけるでしょ?また持ってくるから、壁にこうやって飾りましょ。そのうちテーブルも置いてね。」

「何ゆえに?」

「花瓶とか置きたいし、私がいる場所がないもの。」

「むう、そうだな。考えておく。」

暁飛は少し考えてから言った。

「ミリー、他の妖精がいる時は脇の入り口からここに入るのは止めておけ。」

「え?なぜ?」

「小さな妖精が入れる入り口があると知れれば 勝手に入る輩もいるだろう。他の妖精がいる時は我を待て。我がいないと入れないと思わせておいた方が良いだろう。」

ミリーはさっきのソラを思い出した。

「そうね。その方がいいわね。」

「我がいなくとも、他の妖精がいなければ勝手に入っても構わん。出る時は気を付けて出るのだぞ。誰もいないことをしっかり確認してから出るのだぞ。」

「ふふっ 分かったわ。2人だけの秘密ね。」

「ああ、そうだな。」

指切りは出来ないので、ミリーはまた、コツンと自分のおでこを暁飛のおでこに合わせた。

                 ー続くー

ヘッダーの絵はKeigoMさんからお借りしたものです。

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