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【お話し】月光~妖精と龍~(12)

2人の気持ち

 次の朝、ミリーは夜明け前に目が覚めた。
一晩考えた。
暁飛(こうひ)への気持ち。
私は暁飛が好きなんだ。
アウルやゆみん達を好きなのとは違う。
私は暁飛を愛してる。
種が違っても 大きさが違っても 私は暁飛といたい。
心は決まった。

朝露が降りていると、羽が湿って上手く飛べない。
もう少し明るくなるのを待って谷へ行こう。
気持ちを伝えて、暁飛がなんと言うか分からない。
でも大丈夫。
ソラの あの勢いを見習おう。
ソラだって一生懸命 気持ちを伝えた。
暁飛は受け入れなかったけど、ソラは自分の気持ちを正直に伝えただけだ。
恋した暁飛に会いたくて、毎日 行っちゃっただけ。
お仕事をサボっちゃったのは、まあ、いけない事だけど、ここ10日間程、自分がグルグルと森の中を見回っている時、ソラが自分の担当の木を見回っているのを見た。
ソラもちゃんと分かってる。

私も伝えよう。
自分の気持ちを。
日が上り始め、空気が乾いてきた。
ミリーは暁色の空へ谷に向かって飛び立った。

暁飛は寝床で 暫し休んでいた。
ひと晩中眠れなかった。
ルーナに言われて気づいた。
自分はミリーの事を特別に好きなんだと。
たくさんの妖精達の中で、ミリーだけは直ぐに見つけられる。
どの妖精と喋るより、ミリーと喋るのが一番楽しい。
ミリーと空の散歩をすれば、どこまでも飛べる気がした。

明るくなったらミリーを探そう。
でもどうやって?
森の上を飛んだのでは、森の中は探せない。
いや、歩いてでもいい。
ミリーの仕事の管轄辺りを探してみよう。
そして、空布の礼を言わねば。
温かく、優しい空布。
こんなにも気持ち良い寝床は始めてだった。
おそらく、朝露が消えれば妖精達は働き出す。
そしたら歩いて森の中へ 探しに行こう。

そう思った時、外から声がした。

「暁飛、いる?」

暁飛は空耳かと思った。
あまりにもミリーの事を考えているから聞こえた空耳かと思った。

「いないのかしら。それとも怒って他の場所に行っちゃった?」

ミリーのひとり言が聞こえる。
暁飛は慌てて滝の外へ出て来た。

「ミリー!!」

ミリーは勢いよく出てきた暁飛に驚いたが、いてくれてホッとした。

「暁飛、ゴメンナサ・・」

「ミリー!我はミリーが好きだ!」

「え?」

「あ・・・?」

2人は黙って固まった。

「あ、や、すまぬ。あの、いろいろ考えてだな・・・ああ、そうだ、空布!空布の礼もしていないし・・だな・・・」

暁飛が慌てて、言葉を探している。
ミリーは暁飛の言葉を噛み締めた。

『我はミリーが好きだ』

それで充分だ。

「暁飛、私も暁飛が好きよ。」

「!!・・・我の好きは友達の好きとは違うのだぞ。」

「私の好きも、友達の好きとは違うわ。」

暁飛はミリーを見つめた。

「ミリー、悪かった。せっかく空布を我のためにくれたのに ひどい事を言ってしまった。」

「ううん。私こそごめんなさい。暁飛の気持ちも考えないで、押し付けちゃった。」

暁飛は 軽く首を振った。

「我はミリーにしてもらうばかりで恥ずかしかったのだ。ただそれだけだ。我は器が小さい。」

「そんな事ないよ。暁飛は優しいだけ。だから気にしちゃうのね。私こそごめんなさい。1人で突っ走っちゃった。ソラの事、笑えないわ。」

まだ夜が明けたばかりだ。
他の妖精達もまだ来ない。
滝の音と、涼やかな風の音だけが谷に流れている。

「ミリー、我と番になってくれぬか。我はこれからの時間、そなたと共に過ごしたい。」

「!!私もそれを言いにきたの。」

「それでは、」

「ええ!喜んで!」

ミリーは暁飛の顔に飛び付いた。
そして、いつもの様におでこをコツンと合わせた。

「今夜は満月だ。2人であの青い花へ行こう。」

「ええ。」

妖精達が番になる時、一生を共にしたい相手と青い花の所に行く。
そして2人で花と月に誓うのだ。
月の光の祝福を受けて 2人は番となる。

「我らはあまりにも種が違う。恐らく我ら2人の子は成せぬ。それでも良いか?」

ミリーはゆっくりと頷いて微笑んだ。

「ええ。私は暁飛と共に生きたいの。」

「そうか・・・。ありがとう。」

妖精達には2つの生まれ方がある。
大抵のものは、自然の中から生まれる。
花の妖精は花から、木の妖精は木から、水の妖精は水から、ある日ポンと生まれてくる。

ミリーも紫のカンパニュラから生まれた。
龍や蛇の様に大型の者も、山や海から生まれたりする事が多い。
少数ではあるが、妖精同士が強く願い2人の間に生まれでる者もいる。
青い花と月に願い、月の光の中から生まれる。
そういう者は、非常に強い力を持って生まれてくる。

ミリーと暁飛は、種が違いすぎるので、恐らく2人の間に新たな妖精は生まれないだろう。

 他の妖精達が来る前に、アウルが谷にやって来た。

「よう!お2人さん、落ち着く所に落ち着いたかい?」

「もう、アウルったら 失礼よ。」

アウルと一緒にもう1羽、美しい羽を持つフクロウがやって来た。

「あら、もしかして。」

ミリーが夕べの話を思い出した。

「ああ、オイラの奥さん。シュエットだ。」

「初めまして、シュエットです。よろしくね。」

ミリーはシュエットの前に飛んで行った。

「よろしくお願いします。花の妖精ミリーです。で、こっちが黒龍の暁飛です。」

「あら、黒龍さん?凄い人と知り合いなのねアウル。」

「オイラは暁飛の一番初めの友達なんだぜ。」

アウルが胸を張る。

「よろしく暁飛さん。ここは気持ちの良いところね。時々遊びにきても良いかしら?」

「構わんよ。お主達は夜に来るのだろう。我は寝ているかもしれんが 荒さなければいつでも来るが良い。」

「取り敢えずオイラの奥さん紹介したかったんだ!可愛いだろ?」

アウルはデレデレだ。

「我らも番になる事に決めたぞ。」

いきなり暁飛が言った。

「え?昨日の今日で いきなりかよ!電光石火の勢いだな!」

「昨日とは?」

暁飛が首をかしげた。

「夕べ、ミリーがオイラのところで『暁飛に悪い事したー。怒らせちゃったー。』ってオロオロしてたんだぜ!」

「そうなのか?」

暁飛がミリーを見た。
ミリーは恥ずかしいのと、慌てたのでアワアワしている。

「や、ん、だって、暁飛怒るし・・・」

「いや、だからそれは・・・」

2人のモジモジを見ていたアウルは 翼で顔を覆った。

「ッか~!見てられないぜ!とにかく2人は番になる事にしたんだろ?おめでとさん。後は2人でやってくれ。シュエット、帰ろうぜ。」

「はいはい。ミリーさん、暁飛さん、お幸せにね。また来るわね。」

「シュ、シュエットさんも仲良くね。私も遊びに行くわ。」

アウルとシュエットは森へ帰って行った。
日が高くなってきて、妖精達が谷にやって来た。
また、賑やかな1日が始まった。

                 ー続くー


ヘッダーの絵と挿し絵はKeigoMさんからお借りしたものです。



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