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【お話し】月光~妖精と龍~(1)

暁飛

 黒龍 暁飛(こうひ)が大雨による土砂崩れで 民を守り、怪我をおってから7日が過ぎた。

『幸せの光』で傷は癒え、まだ大雨の影響が残る土地土地を見て回っていた。
民達は、力強く荒れた田畑や家を直している。

暁飛が身を呈して流れを変えた土砂は 今もそのままだが、民の生活は戻りつつあった。

7日前、暁飛は風変わりな妖精と会った。
普通の龍は深緑色をしているが、暁飛は全身
真黒の黒龍。
他の妖精はおろか、同じ龍達からも恐れられ
何十年も誰とも話しをしたことがなかった。
それなのに 『ミリー』と名乗った小さな花の妖精は全く臆することもなく、話し掛けてきた。
(おかしな奴だった)
他の妖精と、目と目を合わせて話したのも ほぼ初めてだった。

『必ず行くわ!』

ミリーは別れ際に、そう言った。
期待している訳ではない。
今までも期待して、裏切られたことはたくさんある。
期待するだけ虚しさも増す。
暁飛の姿を見て、あんなにも真っ直ぐ、必ず行く と言われたことがなかったので、記憶に残っているだけだ。
ミリーはもう、忘れているだろうし、我もその内忘れる。

暁飛はスピードをあげて、次の見回りの場所へ飛んでいった。

ミリー

 先日の大雨で、枯れてしまった花もかなりあった。
ミリーは花の妖精。
未だに元気が戻らない花を見回り、声を掛ける。

「頑張って!お日様が出てきたわ。お日様の光をいっぱい浴びて元気になってね。」

「ありがとうミリー。あなたの声を聞いていると、元気が出てくるわ。」
「ミリー、ありがとうね。根っこが少しやられてるけど、これくらいなら大丈夫よ。」

ミリーの管轄の花畑のお花達が、頑張って立ち直ろうとしていた。
地面の下からも、小さな声がした。

「アリガトウ ミリー ハナハ シバラク サケナイケド スコシ ヤスンダラ メヲ ダスカラ ソノトキハ マタ ヨロシクネ。」

花は枯れてしまったが、根が生きていて 目を出す準備をしているのだ。

「うん。待ってるわ。きっと出てきてね。」

花の妖精は管轄の花畑を見守り、声を掛けることで、美しい花々を咲かせるお手伝いをするのが仕事だ。
7日前ミリーは黒龍と会った。

黒龍の事は前から知っていた。
とても大きくて、真っ黒で、遠くに姿を見つけると さっと木や葉の陰に隠れてやり過ごしていた。
けれどあの日、疲れた身体を癒していた青い花の上で会った時、幸せの光のおかげか、全く怖さを感じなかった。

短い時間だったが、話した黒龍はミリーが聞く事に、優しく丁寧に答えてくれた。
『暁飛(こうひ)』
そう名乗った黒龍は山崩れから 里の民を守って深い傷をその身におっていた。

小さな妖精達の間で、大雨や嵐はこの黒龍が起こしているのだと言われていたが、『そんな力は無い』と言った。
『守る力しかない』と。
意外だった。
そして、噂だけを信じて避けていた自分が恥ずかしかった。
漆黒の身体に1枚だけ銀に輝く逆鱗が キラキラと美しかった。
そっと触れたそれは、滑らかで 鱗なのに仄かな温かみを感じた気がした。

(必ず行くからね。嵐の後のお仕事で 直ぐには行けないけどきっと行くわ。)

ミリーは次の花畑へ向かって飛んでいった。

                 ー続くー

ヘッダーの絵は KeigoMさんからお借りしたものです。



ミリーと暁飛の出会いのお話しはこちら


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