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【エッセイ】母が異世界に転生する。母の日が嫌いになる。

20年以上前、私が中学生のときに母が他界。翌年から母の日が少し嫌いになった。

私は恵まれていて、ほんとうに恵まれていて、人生に文句の一つもない。
父はその後父なりに私と姉妹を育ててくれたし姉妹間も仲が良かった。お互い冷静ながらも支え合って生きてきた。ベタベタした関係ではないけど必要なときには頼りあった。胸を張って幸せといえる。

母の日が近くなると思い出す。大学生のとき、遠出先のコンビニに一人で入る。母の日が近く店内はギフトのキャンペーン広告がそこかしこにあり、イベントを推していた。
お会計をする。何を買ったかまでは覚えていない。
お釣りを財布に収めていると店員に唐突にきかれた。


「母の日のプレゼントはもう買いましたか」


「他界した」と言えばどんな相手でも必ずどんよりした空気になる。必ず陳謝され、相手に「マズい質問をした。しまった」と思わせる。個人差はあれど本人からすればあれから10年。悲しみの感情は薄れている。「他界した」という事実報告以外、なんの感情もないのだが。

見知らぬ誰か、今後よっぽど関わることもないだろう人にそんな面倒な空気を味あわせるのは忍びない。なので例えば美容院とかでは適当に母親がいるテイで話を合わせる。

その日もそのつもりだった。

「いえ、まだです」

「そうなんですね。今母の日のキャンペーンをやってまして、よろしければご覧になりますか」と。記憶は曖昧だがとにかく母の日のギフトを買ってもらいたいらしい。

「いや、大丈夫です。」と作り笑顔で答え、去る体制に入る。

しかしオーナーなのか学生バイトなのか本社の通達か。向こうも引き下がらない。

「いつもプレゼントあげないんですか?」
「あげないですね。」
「では今年こそ母の日にプレゼントはいかがですか?」

本社のプレッシャーとマニュアルの賜物たまものだろうか。

会話を終了させたくて思わず、

「いえ結構です。母は既に他界していないので。」

て、思わず。


向こうに悪気はないのにその日一日嫌な思いをさせてしまった。自分が悪者になりたくないばかりに相手を悪者にさせてしまった。だから母の日は嫌いなんだ。

だから「他界した」から「異世界に転生した」へ表現の変更を提唱し、今後推していきたい。

お互いポジティブになれそうじゃないですか。
―――母はとっくに異世界に転生したんですよ~。だからプレゼントはいらないんです。でもありがとう!



あとがき
決してアンチ母の日信者ではございません。
1か月前の母の日ふと思い立って書き、投稿予定だったものです。母の日の楽しい雰囲気に水を差したくなかったので母と父の日の間ということで。お許しを。

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