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「テレビ離れ」とは言うけれど(7)

内閣府「消費動向調査」のカラーテレビの普及率の流れ

 1990年代から現在に至るまで、テレビと情報端末デバイスの境界が次第に溶解に向かったことは、これまで述べてきたとおりです。こうした時代における、据置・壁掛けの型の「テレビ」を保有する人々の動向を内閣府の「消費動向調査」から眺めてみたいと思います。
 内閣府の「消費動向調査」とは、「今後の暮らし向きの見通しなどについての消費者の意識などを把握し、景気の動向を判断するための基礎資料とすることなどを目的として、昭和32(1957)年以降、継続して実施している歴史のある調査」で、内閣府のWebサイトでも紹介があります(※42)。ビジネスの資料としても、報道資料としても、見かけることがあるのではないでしょうか。
 国内のカラーテレビの普及率は1966(昭和43)年からの調査結果があります。ただし、現在までに質問内容を変更しているため、現行の調査結果とは接続していない部分があるとのこと(※43)。現行の調査と接続する「総世帯」「二人以上の世帯」「単身世帯」に分類した調査方法による調査結果は2005年から出ているので、詳しくは2005年から見ていきます。

カラーテレビの普及率、2004年までの調査では?

 2004年までのカラーテレビの普及率「二人以上の世帯」(「全世帯」は現在の「二人以上の世帯」)(※44)の調査結果も出ているので、まずはこちらを参考までに見ておきましょう。現行の調査とは接続しないのであくまで参考としてですが、1990年から2004年まで眺めてみます。

 普及率は99.4%から99.0%のほぼ横ばいで推移しています。カラーテレビはもともと「ほとんどの人が所持している」というような高普及率の消費財だったということまでは言えるでしょう。

2005年からの「総世帯」の調査結果

 前置きはそこまでとして、では、2005年からの「総世帯」の調査結果から見ていきましょう。

 2007年からは98%台で推移、なだらかな下降傾向がありますが、この流れでは、2013年から2014年の下降部分は少々目立つのではないでしょうか? 2013年は98.6%で2014年には94.3%です。4%あまり下がっているわけですが、それまでよりは急激な減少です。この2014年ですが、一体何があったのでしょうか?

調査対象「カラーテレビ」の内容の変化

 この2014年の前年、実はブラウン管テレビについては調査終了となり、調査対象としての「カラーテレビ」は薄型(液晶、プラズマ等)のみとなりました。
 2011年には、日本の地上波テレビ放送がほぼ地デジ化されています(※45)。そして、経済産業省がまとめた「テレビの出荷台数の推移」を見てみると2008年あたりでブラウン管テレビが消え、2009年以降は「液晶」と「プラズマ」になっています(※46)。おそらく、地デジ対応「液晶」「プラズマ」が主流の時代に変わる分岐点が2010年前後にあったのでしょう。
 カラーテレビは、このように時代にともなって変化しています。調査対象からブラウン管テレビが消滅するなど、調査対象としての「カラーテレビ」の内容に変化があっても理解するところです。

2005年からの「二人以上の世帯」「単身世帯」の調査結果

 次は「二人以上の世帯」「単身世帯」の調査結果を見てみましょう。

 およその流れは「総世帯」の調査結果と同様です。こちらでも目につくのはやはり2013年から2014年の差で、それまでよりは急激な減少があります。そして、全体的には、常に「単身世帯」の割合が「二人以上の世帯」を上回っているという傾向が見られます。これは、「単身世帯」層よりも「二人以上の世帯」層の方が、テレビに対する「保有」への執着を持つ傾向があることを示してもいます。いったい何故このような執着が発生するのでしょうか? 推論してみます。
 「単身世帯」層よりも「二人以上の世帯」層が「保有」への執着を持つのは、テレビを持つことの体験価値が「二人以上の世帯」層の方が大きいからではないかと思います。その体験価値とは「あえて数人でテレビを使用する」ことの価値です。例えば、リビングにテレビを置き、集った人々と飲食・会話をしながらスポーツやクイズの番組を楽しむ、あるいは、テレビにつないでゲームをするなどという、「こと」です。
 こうしたテレビにおける体験価値へのニーズについては、各メーカーは画面の大型化や映りの美しさの探究によって消費者に応えてきたようにも思います。こうした部分は、昭和のテレビ画面の粗さを知っている筆者からすれば、とてつもない進化だと感じます。
 一方で近年は、「単身世帯」 層のニーズはあまり探求されずにいるような気もしています。「単身世帯」の「保有」における体験価値も確かにあるはずで、かつてはそれを体現したテレビもありました。それは、前述の±0の「8-inch LCD TV」や、かつてハンスプリーで販売していたようなテレビです。

次回に続きます。

[注釈]

(※42)内閣府Webサイト>内閣府の政策>経済社会総合研究所>景気統計>消費動向調査>よくある質問:消費動向調査(https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi_faq202001.html)
(※43)(※42)に同じページ。「1. 「消費動向調査」はどのような調査ですか?」の中で「消費動向調査」について、「昭和32(1957)年以降、継続して実施している」調査としながら、「ただし、現在までに質問内容を変更しているため、現行の調査結果とは接続しておりません。消費者態度指数及び消費者意識指標の長期時系列データは、二人以上の世帯は昭和57(1982)年6月調査から、単身世帯については平成16(2004)年4月調査からとなります。」としている。実際に現行の調査(二人以上の世帯、単身世帯、総世帯を対象にした調査)になったのは2005年から。
また、現行調査の「二人以上の世帯」は2016年2月調査公表時までは「一般世帯」と表記していた。内閣府Webサイト>内閣府の政策>経済社会総合研究所>景気統計>消費動向調査>統計表一覧:消費動向調査(https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html)
(※44)内閣府Webサイト>内閣府の政策>経済社会総合研究所>景気統計>消費動向調査>統計表一覧:消費動向調査ページ内資料、【調査終了した項目】主要耐久消費財等の普及率(平成16(2004)年3月で調査終了した品目)
この資料では「全世帯」が「一般世帯」に該当するとしている。したがって「全世帯」は現在の「二人以上の世帯」。
(https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0403fukyuritsu.xls)
(※45)「7月24日 アナログ放送が終了、地上デジタルに完全移行」(「日本経済新聞」/2019年7月23日)によれば、東日本大震災の影響で、地デジ化が延期された県もあった。
(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO47665080T20C19A7EAC000/)
(※46)経済産業省「テレビジョン受信機の現状について」8ページ
(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/television_receiver/pdf/001_02_00.pdf)


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