「公共」に関わる「広告」の多重のターゲティング・ブランディングによる拮抗(2)

広告の種類

 前回の続きです。広告デザインが具体的にどんな仕事かというところまで述べてきましたが、今回は、広告にどんな種類があるかという話から始めたいと思います。
 広告の種類は、広告の送り手と広告のメッセージ内容から、次の4種に大別できます(※1)。
・公共広告
・意見広告
・商品広告
・企業広告

 この4種ですが、どんな広告なのかを見ていきましょう。
 「公共広告」(※2)は、公共の役に立つ広告です。「社会的な啓蒙」という目的を強く持ち、主にそうした啓蒙的なメッセージを伝える広告です。ACジャパン(※3)や非営利団体、第三セクター等が送り手(広告主)になります。
 「意見広告」は、意見を伝えるタイプの広告です。各種団体、個人、集団、政党等が送り手となり、主義主張を伝えます。団体や集団が広告主となり「私たちは◯◯に反対します」というキャッチコピー(※4)で意見を伝える広告は、「意見広告」に該当します。雑誌や新聞でも見かけることがありますよね。
 「商品広告」は、商品やサービスを伝えるタイプの広告です。広告の受け手に、商品やサービスの特徴や価格等を知ってもらったり、またその商品やサービスのイメージや世界観を想像させることにより、購買意欲を高めようと試みます。読者のみなさんにとっては、「商品広告」が一番身近に感じられるかもしれませんね。
 「企業広告」は、企業を伝える広告です。企業の紹介を行ったり、イメージUP、ブランディングのためのメッセージを伝えます。「企業広告」の例では、1998年のAppleによるキャンペーン「Think different」が有名ではないでしょうか? CMの内容を写真と文でまとめた「アップル宣言―クレイジーな人たちへ」という書籍も出版されました(※5)。
 なおこの4種の広告は、広告の目的により、「公共広告」「意見広告」を非営利広告、「商品広告」「企業広告」を商業広告に分類することもできます(※6)。広告は、このように視点を変えてみることで、さまざまな分類や定義が可能です(※7)。ただ今回は、「公共」に関わる広告について考えるというテーマに沿って整理をしやすくするために、「公共広告」のポジションを確認できる視点から広告を考えることにします。

広告媒体の種類

 次に、広告媒体の種類です。広告そのものではなく、媒体の種類です。ここで言う「媒体」は「メディア」と同じ意味で、「メディア」の方が馴染みがあるという方もおられるかもしれません。
 下記はマスコミ4媒体と言われています。
・新聞
・雑誌
・ラジオ
・テレビ

 マスコミ4媒体の他には、屋外、交通、映画、紙のダイレクトメール(DM)といった種類の媒体があります。他には、SP広告(セールスプロモーション広告)と呼ばれる販売促進を目的とした広告の媒体の種類で、新聞折込、特殊広告媒体(カレンダー、ノベルティ、ギフト類)、POP(売り場の広告媒体)、販売促進媒体(年鑑、カタログ等)といった例があります。何かのおまけ、およそ「ノベルティ」と同義ですが、こうした「モノ」も何かを広告する媒体で、広告としては、SP広告に分類されています。
 なお、屋外、交通、映画、紙のDMといった種類もSP広告に分類する例もありますが、それらは必ずしも商品の販売促進を目的にしている媒体とは言えないので、一括してSP広告に分類することは、ここでは避けておきます(※8)。
 ここまでは、インターネットが浸透する前からある広告媒体です。現在ではインターネットの浸透にともない、インターネット媒体がさまざまな形態の広告に利用されるようになっています。
 例えば、紙媒体によらないDMを発信するためのE-mailやLineといった媒体。メールマガジン(メルマガ)等のメール広告も、E-mailやLineを媒介していますね。
 それから、バナー広告、動画広告などを掲載するための、ニュースサイト等のWebサイトやSNS(ソーシャルメディア)といった媒体。広告が流される場所や目的によって、SNS広告、アフィリエイト広告と呼称されたりもします。若い世代の方は、こうしたインターネット広告の方が、馴染みがあるかもしれませんね。実際、2021年にはインターネット広告費がマスコミ4媒体の広告費を初めて超えたという発表(電通調べ)もありました(※9)。

このように、現在ではさまざまな広告媒体がありますが、広告のそれぞれの媒体は互いに連動して動いている例があります。例えば、テレビCMの放映とともに雑誌や屋内外の看板やソーシャルメディアで広告展開をする例です。
 また、広告と商品は補完関係になっている面もあります。例えば商品広告は、広告によって売り上げに貢献することで商品の価値をより強固にし、広告もまた商品があることで広告の場が与えられます。互いが互いを成り立たせる一連の企画の全体でもあります。

「非営利広告」と「商業広告」

 目的によって分けた広告4種が、営利目的によって「公共広告」「意見広告」は非営利広告、「商品広告」「企業広告」は商業広告と大別することもできることは、既に述べた通りです。
 しかしながら、「意見広告」と「商品広告」「企業広告」に持続性がないとは言えません。例えば、写真家オリビエーロ・トスカーニを起用したベネトンの広告には、内容からすると意見広告的要素が含まれる例があります(※10)。意見広告的要素によるブランディングといった面があったとしても、意見広告的要素が混在していることは否定できません。
 トスカーニを起用したベネトンの広告の例に限りませんが、広告を種類に分類することはできるとはいえ、現実的には分類はできるが持続性もあるという例があります。先に述べた通り、広告は視点によって異なる分類ができる例もあります。実際の広告の仕事では、こういった複合性や多義性については、緻密な分析に基づく現実的な対応が必要になります。
 その話は次回に。以上、広告の基礎知識をふまえ、次回は「公共」に関わる「広告」について考えてみます。

[注釈]

(※1)「読みこなし・使いこなし・活用自在広告がわかる辞典」(塚本輝雄/日本実業出版社/28ページ)

(※2)公共広告 :「imidas」によれば次の通りです。「環境、福祉、教育、人権などの社会的・公共的な問題についての理解や解決を目的とする広告。狭義にはACジャパンによって行われるものを指すが、広義には、公共性の高いテーマを扱っていれば、政府、業界団体、企業も広告主になり得る。」(https://imidas.jp/genre/detail/A-126-0026.html)。また、「読みこなし・使いこなし・活用自在広告がわかる辞典」(塚本輝雄/日本実業出版社/28ページ) では、「非営利団体の広告」であるとし、大学の広告、政府や地方自治体も含めています。「新版この1冊ですべてわかる広告の基本」(波田浩之/日本実業出版社)では、官公庁や地方自治体とともにACジャパンの広告も含めています。

(※3)ACジャパン:旧「社団法人公共広告機構」。2009年には社団法人公共広告機構から社団法人ACジャパンへと名称している。(https://www.ad-c.or.jp/about_ac/index.html

(※4)キャッチコピー:「キャッチフレーズ」とも言う。広告のコンセプトを言葉で表現したもの。

(※5)1998年2月に発売。現在絶版。

(※6)「新版この1冊ですべてわかる広告の基本」(波田浩之/日本実業出版社/19ページ)

(※7)「新版この1冊ですべてわかる広告の基本」(波田浩之/日本実業出版社/18ページ)では、「広告の分類方法はさまざま」「広告はいろいろな角度から分類できる」としている。また、「読みこなし・使いこなし・活用自在広告がわかる辞典」(塚本輝雄/日本実業出版社/28ページ)では、「広告に関しては多くの定義が存在する」としている。

(※8)屋外、交通、映画、紙のダイレクトメール(DM)もSPに分類する例もあるが、読みこなし・使いこなし・活用自在広告がわかる辞典」(塚本輝雄/日本実業出版社/102ページ)では、「確定した分類および名称があるとはかぎらない」としている。本稿では、広告の「販売促進」という目的に着目して分類している。

(※9)「2021年の日本の広告費、インターネット広告費が4マス広告費全体を初めて超える【電通調べ】」(「impress BUSINESS MEDIA Web担当者Forum」2022年3月3日記事/https://webtan.impress.co.jp/n/2022/03/03/42423
「2021年日本の広告費」(電通のWebサイト2022年2月24日のNews Release/https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html

(※10)「Pieta」等のAIDSや人種差別をテーマにした広告作品。

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