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「テレビ離れ」とは言うけれど(1)

「テレビ離れ」という言葉はいつからある?

 「テレビ離れ」という言葉はいつからあるのでしょうか。実はあまりはっきりしていません。「テレビ離れ」でGoogle検索すると、過去から現在にわたる複数の報道記事や資料にヒットします。その程度には浸透している言葉であるとは言えるでしょう。
 「テレビ離れ」は2007年には既に少なからず普及していた言葉のようで、同年8月16日「asahi.com」の「テレビ利用者3割超減 その理由は?」という記事に登場しています(※1)。インプレスが発表した「インターネット白書2007」についての分析が、この記事の内容です。
 「この白書は、財団法人インターネット協会が監修し、インプレスが毎年発表している。インターネットで4月にアンケートをおこない、5728の有効回答を得た。それによると、インターネットの利用でテレビの視聴時間が減ったと答えた人は36.9%と、メディアの中で減少率が最も大きかった。雑誌は29.1%、新聞は24.3%だった。 」とのことで、「ブロードバンドの普及で、テレビ離れが加速する――。」などとしています。そして「調査担当者は「ユーチューブなどを使って映像を検索して見るというオンデンマンド化が進んでいる。通信事業者による映像の配信や、SNSなどの動画コミュニティーが増えたりすれば、テレビ離れはもっと進む可能性がある」と話している。 」と締めくくっています。この書きようから、「テレビ離れ」という言葉は2007年頃既に、IT等、ジャンルによっては一定の浸透があったことが伺えます。
 このように、インターネットを媒介とするユーチューブなどの動画コンテンツの視聴の広まりが、テレビ視聴の縮小を招いている様相を「テレビ離れ」と分析する論調もありました。
 一方で、こうした「テレビ離れ」に対する反論もありました。NHK放送文化研究所の2008年のアーカイブには、「テレビは20代にどう向き合ってゆくのか」と題するワークショップについての文献資料が残っています(※2)。このワークショップでは、20代の若者に、本当に「テレビ離れ」が起きているのかどうかを検証しています。
 「視聴時間量やメディア評価からみる限り,20代のテレビ離れが起きているとまでは言えない。」「意識や見方の面では,漠然とした視聴態度の増加や視聴習慣の弱まりなど」があり「関与の薄い見方がこれまで以上に進行している様子がうかがえ,こういった変化はテレビ離れとは言えないまでも,テレビ視聴の“希薄化”と位置づけることができるのではないだろうか。」などとしています(※3)。
 このように、テレビを視聴する時間量はさほど変化はなく、一方で視聴の際の意識や見方に変化を認め「テレビ視聴の“希薄化”」が起こっていると結論づけています。

「テレビ離れ」という言葉の定義は?

 上の例のように、2007〜08年頃には既に、「テレビ離れ」発生・拡大論とそれへの懐疑論が起こっています。しかしながら、「テレビ離れ」という言葉については、各々がイメージする「テレビ離れ」の定義に基づいて論を展開していっている様相もあります。
 「テレビ離れ」について、前述の「asahi.com」では、テレビの視聴時間の縮小について言い、NHK放送文化研究所文献資料ではテレビ視聴の意識や見方の変化も含めて論じています。また、総務省の2015年の「放送を巡る諸課題に関する検討会」における、電通による資料「テレビ視聴の構造変化と今後の展望」では(※4)、テレビ保有率を尺度に「若年層のテレビ離れ」を検証していたりもします。
 では、辞書における「テレビ離れ」の意味は? というと…、weblo辞書の「実用日本語表現辞典」では、「テレビを以前ほど頻繁には見なくなること。テレビの視聴時間が以前に比べて少なくなること。」とし(※5)、テレビの視聴時間の減少を指して「テレビ離れ」としています。

次回に続きます。

[注釈]

(※1)「テレビ利用者3割超減 その理由は?」(asahi.com「コミミ口コミ」/2007年8月16日)(http://www.asahi.com/komimi/TKY200708040176.html)
(※2)「テレビは20代にどう向き合ってゆくのか」( NHK放送文化研究所アーカイブ/2008年6月)(https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2008_06/080601.pdf)
(※3)「テレビは20代にどう向き合ってゆくのか」におけるテレビ視聴の“希薄化”についての言及。
 「まず,テレビ視聴は 20 代のほとんどが行っている日常的行動であり,テレビは情報受容面や娯楽面で高く評価されている。また,視聴時間は20 年間で目立った減少はしていない。したがって視聴時間量やメディア評価からみる限り,20代のテレビ離れが起きているとまでは言えない。
 しかし,別のいろいろな側面からみていくと変化もみられる。行動面ではテレビを見ない人の増加や夜間の視聴率の低下,意識や見方の面では,漠然とした視聴態度の増加や視聴習慣の弱まりなどである。関与の薄い見方がこれまで以上に進行している様子がうかがえ,こういった変化はテレビ離れとは言えないまでも,テレビ視聴の“希薄化”と位置づけることができるのではないだろうか。」
(※4)総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」における説明資料「テレビ視聴の構造変化と今後の展望」(株式会社電通/2015年11月2日)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000384298.pdf)
(※5)weblo辞書>辞書・百科事典>実用日本語表現辞典>TV離れの意味・解説 (https://www.weblio.jp/content/TV離れ)


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