助かった訳

同期の女性にアンドレと言う人がいた。
彼女は怪力で、身体も女子プロレスラーのジャンボ堀選手と遜色なかった。

俺は彼女とは1年から同じサークルだった。
それで学祭の時、サークルでやる店で氷を使うので、買いに行く事になった。今なら酒屋からコンビニでロックアイス買えば済む。だが、昭和のその頃、同じ駅にはコンビニは無かったのだ。
アンドレが2駅離れた場所にある氷屋を知っていた。
それで俺がアイスボックス2つ持って、アンドレも氷を買いに行ったのである。
アイスボックス2つに詰め込んだ氷。重かった。
大学は、駅から徒歩20分以上離れていたのだ。
俺は秋に汗をかきながら、氷の入ったアイスボックスを持って歩いていた。
アンドレは手ぶらである。
「あたし、力持ちだから1つ持つよ」そう言う。
だが、俺には男としての矜持があった。
「いや、俺が持ってくから大丈夫。」
「でも」
「女の子に重いものなんか持たせられないよ」俺は自然に言った。
俺は女の子と歩く時は、車道側を歩くし、レディファーストの自称フェミニストだったから。

俺は何気なくした行為だったが、アンドレは嬉しかったらしい。
他の女の子たちに俺に女の子として扱ってもらえて嬉しかった、こう話していたらしい。高校時代とかも力持ちという事で、女の子扱いしてもらって無かったそうなので。

時は流れ、大学4年の時、アンドレとチクって男が付き合い出した。俺たちはチクの一派とは対立していた。
後輩のフレが、チクに文句つけたとき、近くにいたアンドレから「フレ!誰に口きいてんだよ!」と怒鳴られ、一目散に逃げたことがあった。
他にも色々揉めたが、アンドレから俺に苦情も文句も実力行使も無かった。
どうやら1年の時に氷を持たせなかった紳士の振る舞いで、俺は良い人となっていたようで、フレとかが暴走するのは、俺の目を盗んでの事と行為的に解釈してくれていたそうだ。
一年の時の言わば見栄を張った痩せ我慢によって、俺はアンドレからの実力行使とかから逃れられたのだった。

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