見出し画像

「弁当切り」が不可能になる!刑法改正と執行猶予

執行猶予制度について

 刑事裁判で有罪判決を受けた場合、すぐに刑務所に入ることになると思っている方が多いかもしれません。実際はそうではなく、初めて刑事裁判を受けた場合に、実刑判決を受けることは稀です。多くの人は、執行猶予付きの判決となります。執行猶予とは、本来は刑務所に入らなければならないところ、一定の期間刑の執行を猶予し、その期間が経過すれば刑務所に服役しなくて良くなるという制度です。

「弁当切り」と呼ばれる手法について

 覚醒剤の使用など、再び罪を犯してしまう人が多い犯罪類型もあります。その人がまだ前の裁判で言い渡された執行猶予の期間を経過していない場合があります。前の刑の執行猶予期間が経過する前に今回の刑の判決が言い渡され確定すると、前の刑の執行猶予は取り消され、今回言い渡される期間に加えて前の裁判で言い渡された期間も併せて刑務所に服役しなければならなくなります。  逆に言えば、再び罪を犯したのが前の刑の執行猶予期間経過前であったとしても、今回の裁判の刑が確定した時点で前の刑の執行猶予期間を経過していたのであれば、執行猶予は取り消されません。足し算されずに済むのです。これを前提にこれまで取られることがあった手法が「弁当切り」と呼ばれるものです。ここで言う「弁当」とは執行猶予のことを指し、執行猶予の取り消しを回避する手法を指しています。具体的には、例えば今回の事件が起訴された時点で前の刑の執行猶予期間満了まで10ヶ月あった場合、裁判手続、特に第一審手続を慎重に進めることによって、今回の裁判の刑が確定するまで10ヶ月以上かかるようにすることです。なお、裁判に欠席するなどの不当な手段を用いずとも、法律上定められた正当な権利を行使することによって、10ヶ月程度の期間を経過させることは十分に可能です。  これができなくなるようになるのです。そのように改正された刑法が施行されるのが、令和7年6月1日、これを書いている時点であと1年ほどしかありません。

改正刑法の施行と弁当切りの封印

 改正によって、刑法第27条2項が新設されました。

 前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項(=1項)の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。

改正刑法第27条2項

 わかりやすく言い直しますと、前の刑の執行猶予期間中に再び罪を犯し、かつ執行猶予期間内に起訴された場合、判決確定時に執行猶予期間が経過していたとしても、執行猶予を取り消すことができるようになったのです。これまでのような弁当切りはできなくなるということです。

まとめ

 執行猶予制度の趣旨は、執行猶予を取り消されるかもしれないという心理的強制によって改善更生、再犯防止を図ることにありました。
 弁当切りを可能としておくと、執行猶予期間満了が近づくほど、執行猶予を取り消されるおそれが低くなる(猶予中に罪を犯しても確定まで時間をかければ執行猶予が取り消されなくなる)ため、執行猶予制度の趣旨機能が全うできない、との批判がありました。今回の改正はその批判を受け止めたものとなっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?