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「文学とは何か」を読んで

加藤周一さんは、1919年に生まれ、東京大学医学部を卒業し、1951年に留学生として1951年に渡仏し、医学研究のかたわら西欧各国の文化を摂取、日本文化の特徴を示唆し、文明批評、文学、思想、社会学などで多彩な分野で文筆活動を展開しました。2008年に逝去されてます。

目次をみると次のようになってます。
文学とは何であるか
一 客観的な方法
二 作家の体験
三 言葉による表現
四 文学の前提
何が美しいかということ
一 美の感じ方の違い
二 日本的な美しさ
三 現代風俗
何が人間的であるかということ
一 人間的ということ
二 文化と文明
三 人間の自由
詩について
一 純粋詩について
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散文について
・・・・・・・・・
小説家の意識について
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文学とは何であったか
・・・・・・・・・
文学の概念について
・・・・・・・・・

本文を読んでいると加藤周一さんの知識の広さと深さには頭を垂れてしまいます。また言葉の的確さ、定義も明確で、内容が濃い本となっています。この本のなかで、「文学
」についてとても共鳴した文章を紹介します。
「文学とは、世界とわれわれとの関係を限定するものです。その限定のしかたは、美学的であるとともに、また論理的なものであって、文学は一方で美にかかわるとともに、真実、ことに人間的真実にかかわっています。したがって、われわれにとって文学が何であるかということは、われわれにとって美が何であり、人間が何であるかといういわば文学以前の問題からきりはなしては考えられません。具体的にいいなおせば、われわれにとって、何が美しいかということ、また、何が人間的であるかということを前提としてのみ、何がわれわれの文学であるかということも正しく問題とされるはずです」

小説は読んでいて面白いし、心の琴線に触れたり、哀惜など感じたり、新しい知識を得たり、別な視点(他人の視点)でものを考えたり読むこと自体が楽しい。しかし、より普遍的な意味、人間特性の真実の追求と美学的な視点での人間特性に対する懸念と課題、そしてその方向性などもこの本を読むことによって小説、文学の深みを味わうことができると思う。

この本が刊行されたのは、まだ敗戦の空気の中にあった1950年ですが、日本について既に次のように批評しています。「孤立しないためには、個人主義が個人的にではなく、社会的に徹底される必要がある」と。先を見越しているとともに、一番の核となる改善事項を鋭く突いてます。海外に長く住むという経験と、日本の文化などを歴史的に研究した見解からの言葉です。加藤周一さんなど優れた日本人が社会(権力)の中枢で活躍できたなら・・・・と思うこの頃です。

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