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「世襲3代目の政治屋」岸田文雄よ,国民を舐めるな! 原発稼働で当面は電気代の上昇は抑えられても,これからは逆に料金は上がる,末恐ろしい廃炉会計の問題(2)

【断わり】 「本稿(2)」の前編「本稿(1)」の住所:リンク先は以下のものである。順を追って読んでみようと思う人は,こちらを先にのぞいてほしい。


 ※-1『日本経済新聞』のいいぶんは原発推進派であるだけに,記事の内容そのものが客観報道のていさいをとりつつも,奥歯にごま粒5から6個もからまった内容であって,日経の立場を明証的に示しうる「論旨の一貫性」がない

 2日前,2023年10月12日の『日本経済新聞』朝刊2面「総合1」に掲載された下段の記事を読んでいた。

 日本経済新聞社は原発を推進したい原子力村の有力な一員であるせいか,この記事の内容じたいが単に,関連する諸事情を網羅的にとりあげ説明するだけであり,日本におけるこれからのエネルギー政策がどのような展望のもとに特定の方途をめざすべきかに関して,あえて曖昧な記述に留めておくといったふうな,いいかえれば,原発に執心するあまりの無責任さ(原発推進派としてのそれ)が印象として残った。

 その記事の見出しは「エネルギー選択の時 石油危機50年(3) 原発,不作為からの再出発 政府,信頼回復道半ば 廃炉・最終処分の決意問う」と書かれていた。

 2022年2月24日,「プーチンのロシア」が開始したウクライナ侵略戦争によって生じた国政政治情勢の急激な変化にかこつけて,このさい「だから原発が必要不可欠」だと主張した日経の立場は,10年単位をいくつか束ねた期間を用意してとか,あるいは1世紀先までの眺望でもって歴史的に長期の予測をおこないながら,自国のエネルギー問題を検討するのではなく,日本の経済社会のなかでは「獅子身中の虫」と化した原発体制を,当面の必要性にのみ応じてだったが,それでもなお後生大事に守ろうとしている。

 大手電力会社,つまり原発を保有する沖縄電力以外の地域独占企業であった電力会社のために役立つ報道をしているという印象しかもてなかった。この記事を画像資料にして紹介し,このなかで囲い線や傍線を引いた段落に関心を向けつつ,本ブログ筆者なりに「批判的な検討」をくわえてみたい。

原発を作為的に再出発させる?
 

 a) 最初に赤枠で囲んだ段落を引用する。--電気料金の差は半導体など大量に電力を使う企業には看過できない。さらに環境省によると1キロワット時の発電で生じる二酸化炭素(CO2 )量を比較した場合,九電や関電は東電より4割少ない。

 補注)この比較論に関してから「?」が飛び出てきた。原発に関しては例の「稼働中は炭酸ガスの排出が少ない」という前提を置き,この話をしているならば,記事の書き方としては大幅に減点となる。

〔記事に戻る→〕 原発が動く西日本と動かぬ東日本。

 補注)安価で環境負荷の小さい電力は日々の暮らしや企業競争力,地域の格差を広げる。これまた例の廃炉工程問題を考慮に入れない「可塑性」を逆用した「悪しき原発エコヒイキ」論をかかげた議論そのものが,まずもって要注意であった。

 現状における「原発会計」は,「廃炉工程にかかわる〈廃炉会計〉」の問題を度外視したかたちで,原発を利用する側を有利にさせるといった作為に満ちたとりあつかいしかおこなっていなかった。それゆえ,原発のとくに廃炉問題が進行していく「途上」で大量に排出される関連の諸問題は,ひとまず除外した議論である。そのかぎりで,まともで十全になる説明がなされていたとは思えない。

 補注)廃炉会計の問題も大問題であったが,それ以前にすでに,つぎのような報告もなされており,原発は炭酸ガスをあまり出さず,地球温暖化にそれほど関与していないという主張は,廃熱の問題をどのように解析して批判すべきかという問題ととも,現実に発生している事象が説明されていた。

 地球温暖化対策のためとして推進される原発だが,その不安定な稼動が自治体の対策に悪影響を与えている。本当に原発は温暖化対策に役立つのか?

 原発の電気はCO2 排出が少ないといわれているが,文献レビューや温対法にもとづく報告データの解析により,実際には多量のCO2 を排出している実態を明らかにした。

 原子力産業の排出合計は,なんと山梨県の全事業所の排出量に匹敵していた。

原発も温暖化の原因

 
 なお,この解説は「発電時にCO2 を出さない原発」といった「以前の昔話」風の説明を批判していた。前段で言及してみた文章は,こういう批判に晒されていた。

 原発を稼働できていない電力会社の電気料金が,たとえば東電のそれは関電や九電よりも何割高いといった事実の指摘は,「廃炉会計」の問題,いいかえるとこのさき,10年,20年あとになったら,必らずじわじわと効いてくる「原発コスト高へと向かわせる〈潜在的な要因〉」のことを,いまのところは棚上げ状態にさせたまま,しかも都合のよい部分だけをとりあげ伝えていた。

原発を稼働させよといいたいがために作表されたのか?

 産業経営のための電力ができるだけ安価に生産される必要があり,とくに半導体生産では電力を大量に消費するからといって,ともかく原発,原発・・・といった論法は,作為的に不用意な議論である匂いをまで強く感じさせる。

 手っ取り早く「原発」〔を再稼働させよ〕ということらしいが,再生可能エネルギーの普及・活用をどのように促進させていくかという関心事よりも,なによりもかによりも,なんといっても原発,原発・・・という押しの一手である。

 b) この日経の記事は,「電力需要急増へ」(下から2段目)という小見出しのなかで,「前途には不都合な未来が待ち受ける。経済産業省は50年に電力需要が足元の3~5割増えると試算する」と伝えているが,この経産省のいいぶんは「強力な原発推進派の官庁」のいいぶんであるからには,眉ツバものとして,ほどほどに聴いておく余地があった。

 だいたいにおいて,自分たちが欲望している将来の事項についてはなるべく統計予測を故意に過大に示しておくが,そうではないものはできるだけ過少に見積もる手法は,大昔より官庁統計の一大特質であった。最近の事例として出生数の予測と実測を比較してみれば,その詐術ともいえそうな官庁統計のしぐさ(やりくりというか操作)はみえみえであった。

 推計には高位推計,中位推計,低位推計の3類型があるが,原発に関したその推計になると,初めから思いっきって高位推計を期待値として提示しておきたいのが,経済産業省の立場・イデオロギーの見地であった。この観点は,以前よりみえすいていた政治手法としてバレバレであった。

 フランスがどうだ,イギリスがどうだ,それぞれ原発を充実させようとしているのだから,日本もそうしたよいのだと訴えたいのか? ところが現在イタリアやドイツは原発ゼロの欧州国であるのに,こちらの事情についてはなにも触れない。もちろん,もともと関係がない遠い国の事情だから触れる余地もないということであった。だが,原発,原発・・・といいたかったのであれば,この伊・独の場合も挙げて比較対照させる議論が,公平さを保つためにも必要不可欠であった。

 ましてや日本は東電福島第1原発事故を起こした。2011年3月11日に起きた東日本大震災と大津波の関係でその後,日本国内では再生可能エネルギーの分野でも,とくに太陽光発電が普及してきた。たとえば九州電力や四国電力の事例のように,晴天の日の昼間の時間帯には出力制御を依頼しなければならない日が発生するほどにまで増大した。

 半導体生産のために大量の電力が必要だというが,原発も含めて再生可能エネルギーなどすべての電源を総合的に活用すると,どのような電力の需給体制がありうるのかを,実際に計画・運営するための官庁が経済産業省であったはずだが,この官庁はともかくいつも,二言目には「なんでもかんでも,原発,原発といいたがる」点が,性癖になっていた。

 c)「増設や研究活発」という小見出しを挙げた段落では,「脱炭素は総力戦だ。再生可能エネルギーにくわえ,原発の活用が不可欠との認識は,ウクライナ侵攻後のエネルギー危機と,脱炭素の潮流の下で世界に広がる」といっている。けれども,この修辞も前段で言及したように,原発の買いかぶりに過ぎた妄説であった。

 再生可能エネルギーと原子力エネルギーとを,質的に同じエネルギー源だと位置づける観点そのものが,違和感を抱かせる。エネルギー問題に関する「思考回路」のあり方じたいに問題があった。なんといっても「原発の活用が不可欠だという認識」が,ただ一方的に強調されてきた。

 「原発の活用がウクライナ侵略戦争後のエネルギー危機と,脱炭素の潮流の下で世界に広がる」というふうに反復して主張される論旨だったのであれば,脱炭素の潮流には基本から逆らうほかないエネルギー源「原子力」を燃料に焚いている原発そのもののトンデモなさは,その事故発生となってしまえば,かえってきわめて深刻かつ重大な結果をもたらす。

 その分かりきった文脈=顛末関係を指摘しなおす前に,その「脱炭素の潮流」を実質妨害してきた「原発の技術経済的な特性(問題性)」を,完全に無視している。

 ここで,ほかの表現を採れば,それは「完黙」であった。

 原発だけでなく,とくに再生可能エネルギーの「今後におけるその電力供給関係」のありようはそっちのけにしたまま,問答無用で,なんといっても「需要が増大する分は原発を充てるという発想」しか頭中にはないのか。それも「再生可能エネルギーと原子力」という組合わせをきちんと明示しながらの発言であった。

 しかし,日本における原発事情は見通しが非常に暗い。--実際この記事はこう書いているではないか。
 
 d) こういう段落があった。「国際エネルギー機関(IEA)が〔2023〕9月に発表した「ネットゼロ・ロードマップ」は,原発の発電量を2050年までに2倍に引き上げることを求める。フランスは最大14基を新設。英国は原発の発電能力を3倍に増やし,需要の25%をまかなう。

 補注)このイギリスとフランスの事例については,前段で批判的に指摘したごとき論点があった。IEAのいいぶんはけっして絶対的な論拠にはなりえないものであるが,あたかも権威筋の原発観として転用されていた。

〔記事に戻る→〕 米政府は脱炭素政策の支援対象に原発をくわえた。小型モジュール炉や核融合炉など新技術の研究も活発だ。日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「エネルギー安全保障重視への揺り戻しで原発への関心が戻ってきた」と語る。

 補注)この小山 堅は原発推進論者であり,いうこととしては,いつも決まった文句しかいわない。「エネルギー安全保障重視」をこの小山は強調するけれども,再生可能エネルギーもその安全保障とは関係がないわけではなく,その真逆である。

 すなわち,原発を不必要にするほどの潜在力がもともとあるのが,再生可能エネルギー分野の諸エネルギーであった。だから,こちらの分野に触れない議論は,そもそも片目でしかものごとをみようとしていなかった。

 エネルギー安全保障に原発が必要だという前に,非常時における国際政治的な安全保障の次元でみれば,一番脆弱なエネルギー源になるのが原発そのものである。ところが,この事実を放置したままで「原発というエネルギーに関した非常時安全保障」をめぐる議論をしているようでは,画竜点睛を欠くことになる。

〔記事に戻る→〕 岸田文雄政権は2011年の東電福島第1原発の事故以来,目をそらしてきた原発政策を転換した。再稼働の促進や運転期間の延長,新増設に道を開いた。ただ日本がどこまでこの波に乗れるかは冷静にみる必要がある。事故で失墜した信頼の回復は道半ばだ。

 補注)岸田文雄が2022年8月下旬,「原発の再稼働」のみならず,くわえて「新増設」までいいだしたが,これは岸田自身の考えでもなんでもなく,ただ経済産業省官僚のいいぶんを鵜呑みにして,つまり口から入れてお尻から出すかっこうで発表しただけの,エネルギー問題に関しては自身の認識が皆無であった,いわば「世襲3代目の政治屋」流の愚政一例であった。

 e)「電力需要急増へ」という小見出しをつけた記事の段落では,またもや経済産業省のいいぶんが前面に出ていた。

 前途には不都合な未来が待ち受ける。経済産業省は50年に電力需要が足元の3~5割増えると試算する。生成人工知能(AI)の普及やデータセンターの増加などIT(情報技術)化の進展で電力需要が爆発的に増える一方,電力を脱炭素電源である再生エネや原子力で確保する必要がある。

 補注)ここでは電力需要が「爆発的に増える」これからの情勢に対して「再生エネや原子力で確保する必要」を強調するところが,前段において画像資料でも参照してみたこの記事のミソになっていたた。

 原発(原子力)と再生エネは相反する対立的な本性を有するエネルギー資源であって,これを仲良く並べて共存させていこうとする発想・感覚が,もとより時代錯誤の発想であった。こういうことを想定してみたらよいのである。

 原発の大事故がこれからさき,絶対に起きないという保障はない。そのとき,この地球環境はどうなる? その環境とは人間を囲むそれである。再生エネの分野でも装置や機械が大事故を起こして破壊され,電力供給に支障を発生させる事態も,危機管理上けっしてないとはいえず,ふだんから想定しておく余地があった。

国際原子力事故評価尺度

 しかし,原発の大事故(レベル7のチェルノブイリ原発事故や東電福島第1原発事故級の事故)が,もしもさらに一度でも起きたら,それでもなお原発を大いに利用すべきだという小山 堅のような識者(推進論者)はもう,この地球上には居場所がなくなるはずである。

 記事に戻ると,「エネルギー基本計画は2030年度に電源の2割を原発で確保する目標をかかげる。既存原発の運転期間をすべて60年に延長しても順次,廃炉となる。2050年時点で同じように電源の2割を原発で維持するなら10~20基の建て替え・新設が必要だ」といっている。

 補注)この段落は,岸田文雄が経産省官僚に操られる人形となって「腹話(唱和)させられた」事情を教えていた。

 f) さらに記事はこうもいう。「原発の新増設が難しければ,再生エネや脱炭素火力を伸ばさなければならない。増大する電力需要へいま,手を打たなければ,新たな不作為を生んでしまう」と。

 そうだとすると,その脱炭素の問題と今後増大すると主張する電力需要への対応は,その「再生エネと脱炭素火力」だけでもって,つまり,原発の新増設なしでやればいいという意見になる。以下の引用は,記事の最後部分に出ていた段落からである。

 長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は9月末,原発から出る使用済み核燃料の最終処分地の選定をめぐる文献調査を受け入れないと表明した。「市民の合意形成が十分でない」と判断した。

 原発の活用は福島第1原発の廃炉と福島の復興を進め,使用済み燃料の最終処分に道筋をつけることが条件だ。放置したままで新増設は受け入れられない。

 福島では処理水の放出が始まった。今後,原子炉内に溶け落ちた燃料デブリ取り出しの苦闘が待つ。原発を国策で使う以上,国が決意をもって貫徹する。これが原発の再出発に欠かせない。(引用終り)

 この最後の部分は,たとえば「原発の再出発に欠かせない」という点,つまり「原発の活用は福島第1原発の廃炉と福島の復興を進め,使用済み燃料の最終処分に道筋をつけることが条件だ。放置したままで新増設は受け入れられない」と条件を突きつけられている現状のなかで,そしてくわえるにとくに「今後,原子炉内に溶け落ちた燃料デブリ取り出しの苦闘が待つ。原発を国策で使う以上,国が決意をもって貫徹する」という条件は,残念ながら無理であり,実現不可能であった。

トイレのないマンションといわれる所以

 そもそも現況は,デブリの取り出し作業がその見通しすらついてない状態にあった。また,使用済み核燃料はこの最終処分どころか,その中間貯蔵施設探しすら,まだフラフラしている段階にあった。しかも,以上に参照した記事は,岸田文雄自身が原発問題のイロハにさえ無知な状態でいいだした「原発の再稼働と新増設」ゆえ,砂上の楼閣を唱えたも同然であった。

 東電福島第1原発事故からデブリの取り出し作業が,まだ実質なにも手つかずの状態にある。それなのに,日本もエネルギー安全保障の観点に即して日経記事のように議論したがる方途(やり方)は,支離滅裂というか,関連する論点の整理すらできていない実態を晒した。


 ※-2 橘川武郎・国際大学学長「〈経済教室〉火力依存の対症療法脱却を 電力危機への備えは十分か」『日本経済新聞』2023年10月12日朝刊27面「経済教室」

 橘川武郎はこの寄稿に関してつぎの3点を挙げていた。あとは画像資料で全文を産業してもらうことにするが,結論して理解できる論旨は,※-1の同じ『日本経済新聞』の解説記事を,橘川がほぼ全面的に否認する点であった。

  ▲-1 根治策検討に正確な電力需要見通し必須
  ▲-2 GX投資構想でも原子力の位置づけ低い
  ▲-3 需要規模抑制と再エネ電源の大幅導入を

 この橘川武郎記事の「最初の段落」のみここにも文字で引用しておく。

 記録的な猛暑となった今夏(2023年)には電力危機の発生が懸念されたが,結局,電力需給逼迫注意報や警報が発動されることはなかった。政府が需給逼迫をもっとも危惧した東京電力エリアにおける今夏の最大電力需要は,想定された5931万キロワットを下回る5525万キロワット(7月18日)にとどまった。

橘川武郎・寄稿冒頭
橘川武郎「原子力はあまり頼りにならない」

 橘川武郎がこの寄稿のなかで述べているうちでも,とくに重要と思われる段落を赤枠でかこんでみた。

 前段の記述※-1で,日本経済新聞社の立場として,原発推進派のイデオロギー的な願望も混入させた「原発未来観」が披露されていたことや,しかも,半導体生産のためには電力需要が大幅に増大するから原発が必要だといった主張などは,橘川によってむげに否定されている。そういう内容の寄稿であった。


 ※-3「〈特集 東日本大震災〉『処理水』海洋放出 亀井静香氏の悲憤 脱原発しかない日本 新規建設 『狂気の沙汰』 岸田政権はおしまい」『毎日新聞』2023年10月11日夕刊2面「特集ワイド」

亀井静香・画像
亀井静香記事紙面

 東京電力福島第1原発から2回目の「処理水」海洋放出が始まった。かつて与党の重鎮として原発を推進する立場だった亀井静香・元自民党政調会長(86差異)は,やるせなさを抱いていた。

 いまや自然エネルギー分野で日本有数の実業家となり,「脱原発しかない」と力説する。政界から引退したと思いきや,時の政権にもエネルギー政策にも思いがあふれ出る。

 「石原慎太郎が昔,ホーキング博士から聞いたといっていました。高度な文明をもつ地球は自然の循環が壊されて100年で消滅してしまうと。それからすでに50年。残り半分しかない」

 ブラックホールを解明したことでしられる天才物理学者のエピソードから語りはじめた亀井さん,ちょっと声のトーンが低い。いまの福島をどうみるかと尋ねたら,人生の陰影を感じさせる表情になってしまったのである。

 原子炉の炉心が溶けるメルトダウンが起きた福島第1原発ではいまも,むき出しの核燃料に接触した汚染水が発生し続けている。高濃度の汚染水は多くの放射性物質を除去して「処理水」となる。これを海水で薄めて太平洋に流す2回目の海洋放出が〔10月〕5日から始まった。亀井さんの脳裏に,二つの光景が浮かんでいるようだ。

 ひとつは,8歳で体験したヒロシマ。「いつか地球が消えてしまうにしても,原子雲の中で消えていく危険を感じます。ウクライナでロシアが核を使ってしまわないかと」

 広島県山内北村(現庄原市)の国民学校3年だった1945年8月6日。夏休みに朝から登校し,イモ畑になった校庭で農作業をしていた。午前8時15分,南西の空に光がみえた。

 「ピカッと光ったあと,ドーンという地響き。キノコ形の原子雲。数日後,80キロ離れた広島市から被爆者たちが逃げてきた。全身が焼けただれた人たち。あの光景は忘れられません」

 あとで分かったが,家族も被爆していた。高等女学校の生徒だった姉は,救援活動で爆心地に通って「入市被爆」した。白血病に苦しみ,86年に亡くなった。俳人の出井知恵子さんである。こんな句を残している。

  < 白血球 測る晩夏の渇きかな >

 戦後,警察官僚を経て政治家になった亀井さんは,自民党で要職を歴任する。「原爆は許せないが,資源のない日本で,原子力の平和利用ならいいじゃないかという気持ちがあった」と振り返る。党の政策立案の責任者である政調会長を務めたのは1999~2001年。「日本の原発は安全,大事故は起きない」という安全神話が浸透していた。

 だが,2011年3月11日以降,考えが一変する。当時,国民新党代表で民主党と連立政権を組んでいた亀井さんは,与党の一員として福島の事故現場を視察した。防護服を着て中まで入り,あまりの惨状に言葉を失った。この時の周辺一帯の光景もまた,記憶に焼き付いている。

 補注)ドイツの政治家で「3・11」当時首相であったアンゲラ・メルケルは,それまで原発を全廃する方針ではなかった路線を,しかも途中で迷ってきたドイツの原発政策を完全に廃止することにした。ウクライナ侵略戦争のためにその時期が若干ズレこんだものの,ドイツは2023年4月15日で全原発を廃炉にしていた。

〔記事に戻る→〕 「異様な世界でした。人間が住めなくなった。家はある。牛がウロウロ歩いている。人はいない。こういう危険な原発は止めるしかないと気づかされた。エネルギー政策を間違ったら地球は死滅していくんだと」

 事故の翌月,脱原発を議論する勉強会の呼びかけ人になった。全政党の有志が有識者らとエネルギーシフトを研究する「エネシフジャパン」だ。安倍晋三元首相の親友だった荒井広幸氏や,自民党の河野太郎氏らも呼びかけ人にくわわり,与野党10党すべてから議員が参加した。すべての原発が止まった。日本は原子力に依存しない社会をめざすかにみえた。

 「ところが,喉元過ぎれば熱さを忘れてしまう。いつの間にか再稼働だけでなく,新しい原発まで造ろうとしている。狂気の沙汰というしかない。日本は地震列島です。平和利用であれ,非常に危険な話ですよ」

 脱原発派に転じた亀井さんは2015年,盟友の石原氏と週刊朝日で対談した。「代替の再生エネルギーなどの知恵を出すのが政治家の務めだと思う。私は太陽光発電,バイオマスをやろうと思っている」と述べる亀井さんに,石原氏は冷淡だった。返答は「じゃあ,政治家辞めて,経営者になりなさいよ」。

 この年,亀井さんは再生可能エネルギー発電を手がける会社「MJSソーラー」を設立する。2017年の政界引退後は事業に専念し,2018年には兵庫県丹波市のゴルフ場開発が頓挫した跡地でメガソーラー(出力39メガワット)建設に着手。関西電力と20年間の買い取り契約を結んだ。いまでは約12万枚の太陽光パネルが約1万1000世帯分の電力を供給している。

 補注)1MW(メガワット)は 1000kWなので,出力39メガワットならば3万9000kW。

 奈良県五條市に建設中の木質バイオマス発電所(出力10メガワット)も,来〔2024〕年3月に営業運転を始め,約2万世帯分の電力を供給する予定。奈良県で雇用を生み出すほか,燃料として地元産の間伐材や製材端材などを買い取ることで林業や木工業を支える狙いもある。

 「一部の人だけ裕福になったアベノミクスで,日本企業は500兆円もの内部留保をため込んでいる。おれが総理ならそこに課税して,その財源で脱原発の対策をどんどんやっていく」

【参考記事】

消費税の7割は本来の目的外に充当

 岸田文雄首相は就任時に「新しい資本主義」をかかげた。資産課税や富の再分配に乗り出すはずだった。「だが,岸田はやろうとしない」と腹に据えかねるのは,ともに広島県選出で,「核軍縮」がライフワークという岸田首相に期待していた部分があるからだ。

 岸田首相の父,文武氏とは初当選同期で親しかったという。「ハトを守るタカ」を自任する亀井さんだけに,軽武装・経済優先路線のハトだったはずの自民党宏池会を率いる岸田首相への失望を隠さない。

 引退して6年。いまも政界が気になりますか?

 「うーん,気になる。ときどき政治の虫がうずく。これは定めだね。業なんだな」

 亀井さんはかねて,玉木雄一郎・国民民主党代表に連立政権入りを勧めていたが,今秋の内閣改造では実現しなかった。「野党側から自民党のなかに入りこむ『トロイの木馬』作戦だったが,うまくいかなかったな」と残念そうだ。

 「しかしまだ分からんよ。もう岸田政権はおしまいだ。1人あたりの国民所得が韓国に負ける水準まで落ちこみ,地方の人たちは生活に苦しんでいる。間違いなくつぎの選挙で負ける。自公は過半数割れするから,別のかっちの連立になる」と力をこめる。

 そこで携帯電話を手にした。かけた相手はエネルギー政策通の中堅議員だ。「傘張り浪人がアドバイスするけどね」と話しはじめた。解散が近いぞと,なにやらけしかけているようだ。

 〔10月〕4日に小泉純一郎元首相と久々に会食した。2001年の自民党総裁選で亀井さんは,小泉氏と政策協定を結んで本選を辞退したが,首相になった小泉氏に協定を無視された。2005年の郵政解散・総選挙では離党した亀井さんの選挙区に刺客まで送られた。20年以上にわたる因縁を経て2人はいま,「脱原発」という点で同じ方を向いている。

 「原発をどんどん造るなんて,いまの政治は死んじゃってるね」

 来〔11〕月で87歳。「おれはまだ生きてるのに,ただ彫像になるだけではつまらん」。もう一回,何かをやろうとしている。【奥村 隆】(引用終わり)

 亀井静香のこの意見・主張を聞いたところで,※-1に画像資料でも紹介した『日本経済新聞』2023年10月12日朝刊の記事,見出しにあった文句「原発,不作為からの再出発」という表現に浮かぶその虚妄ぶりには,あらためて注意を喚起したところであった。

 その記事は電力がもっと必要だ,ならば原発だという本音ばかりを剥き出しにする「日経流の原発推進派」的な内容の報道であった。

 電気料金がつぎのように電力会社によって大きい差額が生じているのは(前段に出してあったものを再掲),原発の稼働いかんにその真因があるのだといいたげの記事であった。

 だが,このあとしばらく時間が経過していけば,この電気料金の各社ごとの差額がは,逆さまになるかもしれない。

行きはよいよい帰りは怖い

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