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在日米軍が支配・管理する軍事空域問題

 2018年中にとくに,関東地方・東京都の上空を通過(降下)して,羽田空港へ着陸する新ルート問題からあらためて再確認できた「在日米軍の空域問題」は,日本国内の米軍基地が無期限の租借地であり,この国土の上空が実質,アメリカの専有物でもある現実そのものに深く関係していた。

 「在日米軍横田基地に関連する空域問題」と「羽田空港とこの周辺の空路問題」が教える「在日米軍が日本を実質的に占領する現況」は,かつて安倍晋三が生存時に強説した「戦後レジームからの脱却」といった夢想が,ただの白日夢であった事実をいまさらのように教示している。

 つまり,その「アベ風になる脱却話」は,「敗戦後日本史においては単なる絵空事であった」。

 付記)冒頭画像は,吉田敏浩『横田空域-日米合同委員会でつくられた空の壁-』角川書店,2019年に巻かれた帯の部分(下部)を拡大したもの。
 付記)本記述は初出 2014年3月7日,改訂 2020年3月30日を経て,本日 2023年4月14日に更新し,再公表。

 さて, 本記述の要点は,つぎの2点となる。

  要点:1 日本の防衛問題はいったいどこの国を護るという問題になるのか
  要点:2 在日米軍に空を支配されている国の悲哀
 

 ※-1「羽田新ルート 課題残る 運用スタート,騒音に懸念 新型コロナで当面減便」『日本経済新聞』2018年3月30日朝刊34面「社会1」

 都心上空を通過する羽田空港の新ルートの運用が〔2018年3月〕29日,始まった。管制の効率化で国際線を増便するのが目的で,主に全日本空輸の国内線が使う第2ターミナルに国際線が就航した。国土交通省は国際線の発着数が従来の6割強増え,年間の旅客数が700万人増えるとみこむが,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大幅減便になる見通しだ。

 新ルートは南風が吹いた場合,午後3時から午後7時の間に3時間程度運用する。国内,国際線ともさいたま市付近から南下し,新宿や渋谷を経て羽田に向かう。運用開始初日の29日は条件に合わず飛行がなかった。

 人口が集中する首都圏を縦断するため,騒音や機体からの部品落下など住民生活に影響が出る恐れもある。飛行試験時には「パチンコ店内程度」とされる80デシベルの騒音を観測した地域もあった。

 補注)パチンコ屋に入ったことのない人には,少し分かりにくい騒音80デシベルに関する形容であるので,ここでは次表を借りて理解の助けにしておきたい。

騒音レベル指標

〔記事に戻る→〕 一方,新ルートにより羽田空港の国際線の発着数が従来の6万回から9. 9万回に増える。ただ,新型コロナウイルスの影響で各国で往来規制が実施されており,当面は大幅減便となりそう。全日空はミラノ,深圳,日本航空もシドニー,ヘルシンキといった新規路線の就航を延期した。 

 羽田空港にはターミナルが3つあり,今後も第1は主に日航の国内線で変わらない。第2への国際線就航に伴い,国際線ターミナルは第3ターミナルに名称を変更。全日空は国際線が第2と第3で分かれる一方,便によっては第2だけで国内と国際の乗り継ぎができるようになる。(引用終わり)

 以上の記事について,率直な感想を述べるとしたら,現状において,すなわち新型コロナウイルスの感染拡大「問題」が長引きそうな情勢が生まれている条件を踏まえてなどしていうと(ここは2020年3月30日を基準に書かれていた段落であった),

 その羽田新ルートがはたして,どの程度にまで「利用されるべき必要性」があるのかという点について,もっと突っこんだ取材はしないでよかったのかという疑問が,自然に出てきた。

 たまたまであったけれども,羽田新ルート運用開始に当たっては,2020年初めから突如発生した新型コロナウイルス感染症の「問題」が飛びこんできた。にもかかわらず,当然も当然に大きく関連したこの関連の問題を無視したまま書いたような記事であった。

 それゆえ「?」がつくのは当然であって,2023年4月も中旬の段階となってみれば,なおさらその疑念は自然な受けとめであったと判断できる。

 関連させて紹介するが,鶴光太郎(ファカルティフェロー)稿「新型コロナウイルス感染症の経済への影響と求められる政策対応」『RIETI 独立行政法人経済産業研究所』2020年3月24日,https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0551.html という記述は,「段階別にみた経済への影響」という項目を設けて,こう関連する問題を整理していた。

 とくに経済への影響が,以下,3つの段階に分けて考えられていた。

 まず,第1段階は,まだ,国内の感染が広がる前,武漢での感染の急拡大で,中国からの部品供給のストップしたことが中国の部品を使用する製造業へマイナスの影響を与えたことであった。グローバルのサプライチェーンの寸断,供給ショックであるが,まだ,地域が限定された状況であった。

 つぎに,第2段階は,国内感染が広がるなかで,人の移動・集まりが極端に制限されることにより,国内の特定の産業へ集中した影響が広がったことである。これにより,とくに影響を受けているには,観光業(旅館・ホテル,バス),鉄道業,航空業,飲食業,エンターテイメント・イベント業(遊園地,コンサート等)への大きな需要ショック(2~3月にかけて前年の半減程度を示す業界も)である。

 さらに,第3段階は,欧州とそのあとを追う米国と日本の間で人の移動が極端に制限されるとともに,今後,世界的な需要・供給ショックの連鎖,増幅が日本経済へ影響を及ぼす段階である。マイナスの効果は予想がつきにくいが,主に大幅な輸出等の減少となってまず現われるであろう。とくに,米国の今後の動向が大きなカギを握っている。

コロナ禍の「段階別にみた経済への影響」

 この整理にしたがえば,世界各国の個別事情もからんでいるのだが,とくに当時(2020年3月末までには),日本は「第2段階から第3段階」に入りつつある。しかも,この情勢がいつごろ小康状態になりえ,また終息するのかについては,いまのところ見通しはつかないでいる。

 1説には18カ月はかかるといわれるが,仮にその期間で落ち着いてきても「世界経済・日本経済」の全体が,以前の状態にまで復帰できるのかどうかも含めて,かなりの打撃を受けたあとにおける経済状況として,あまり大きな期待はできない。
 
 補注)本日は2023年4月14日であり,コロナ禍の発生からすでに3年と第1・四半期が経過した時点にある。ところが,日本の場合,「マスクの着用率が9割」といった状況をまだみせている「不思議な国」である。すでに政府はマスクの着用は指示していない。

 4月15日の時点では,「マスク外さぬ日本,着用なお9割 ファミマなど推奨多く ... 欧米諸国の着用率は昨夏時点で5割を切っており,マスクを『外せない日本』の姿が鮮明だ」と報道されていた。

 国家に対して「無条件に従順である国民性」を備えている人びとの反応ぶりとして観るとき,なにか計りしれないまた別の「不思議さ」が隠されているようにさえ感じる。

 補注)もっともあくまで当時(2020年3月ごろの)アメリカの事情に関連してであったが,つぎのごときニュースが報じられていたが,欧米諸国ではマスク嫌いの人びとがめだっていた点が,いまもわれわれの記憶に残っている。
 
 参考にまで,当時に報道されたつぎの記事は,その後だいぶ時間の経過があったものの,このブログ記事の復活に当たり削除せずに,そのまま紹介しておきたい。

   ◆ 米国の死者,10万人を超す可能性も 米国立感染症研究所長 ◆
 =『CNN』2020.03.30 Mon posted at 09:19 JST,https://www.cnn.co.jp/usa/35151539.html =

 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長。新型コロナウイルスによる米国の死者が10万人を超す可能性もあるとの見通しを示した。

 【ワシントン(CNN)】 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は〔2020年3月〕29日,新型コロナウイルスによる米国内の死者は,最終的に10万人を超える可能性があるとの見通しを示した。米国ではすでに2000人以上が死亡している。

 ファウチ所長はCNNの番組のなかで,こうした感染症の予測モデルは最悪の筋書きと最善の筋書きを示すもので,現実にはたいていが中間地点の前後にとどまり,最悪の事態に陥ったケースはみたことがないと前置きしたうえで,「現状から判断すると,(死者は)10万~20万人の間になるだろう」と述べ,症例数は数百万に達するとの見通しを明らかにした。

 ここで,補注を入れる)現在(2023年4月)までに判明したアメリカのコロナ禍の犠牲者総数は,115万7千人を超えている。アメリカにおける「100万人当たりの死亡率」は高く,5.2人である。参考にまでその死亡率を挙げると,日本は前者 1.0人,韓国が0.5人。

〔記事に戻る→〕  米国では新型コロナウイルスによる死者の数が2日間で2倍に増えて2000人を超えた。〔2020年3月〕28日午前までに確認された症例数は12万1000例を超え,世界でもっとも多くなった。ファウチ所長などの専門家は事態のいっそうの悪化を予想しており,ニューヨークをはじめとする全土の病院では供給品の不足が深刻化している。

 患者数が増えつづけるなかで,2週間以内にベッド数が足りなくなる病院が全土で相次ぐ見通し。ニューヨーク市のデブラシオ市長は29日,「人工呼吸器以外の供給品は今日から1週間分はある。ただし人工呼吸器だけは,少なくとも数百個をすぐにも必要としている」と訴えた。   

2020年3月30日,アメリカにおけるコロナ禍の報道

 以上,新型コロナウイルス感染症も,本日の話題と重なる時期に登場した深刻な医療問題ゆえ,以上のように関説してみた。 

 さて,羽田新ルートの運用が2020年3月29日から開始された。とはいえ,現状においては--ここでは2020年中を念頭に置く話題としておく--,その開始の時期に,ほとんど実際的な効用はなかった。ちょうどコロナ禍が発症しだし,猖獗しだす時期にも当たったがために,経済社会における交通・運輸事情が極端に制限・縮小を余儀される状況に変化した。

 既定方針の実施であった羽田新ルート運用の開始であったけれども,悪い時期でのその開始になった関係でいえば,ともかく始めたのはいいが,そのままではまったく能がない,無策・無為・無駄の出発になっていた。新型コロナウイルスの感染拡大「問題」がすでに日本社会に大きな悪影響をもたらしはじめた状況が生じていたのだから,その運用開始は一時延長するか,できれば根本から再検討する余地さえあったかもしれない。2020年の3月29日以前に戻しても,当時の状況のなかでは当面なんら支障はなかった。

 それができなかったところがお役所仕事か?  というよりは,実は「米日間における上下・服属の関係」があって,つまり日本の国土の上空,すなわち,その特定の『空域』を専有・支配する米軍とこの基地があるゆえ,羽田新ルートの運用問題は,そもそも設定する当初から「日本政府側の主体性(主権)」が,きわめてというか完全に近かいといっていいくらい,どこにも存在しておらず,つまり基本的に十分な国家主体的な立場からの関与できていなかった。この点に関する言及はさらに後段でなされる。
 

 ※-2「急角度導入に米軍の合意 羽田新ルート下の空域利用想定」『朝日新聞』2020年3月30日朝刊27面「社会1 」

 東京都心の低空を通る羽田空港の新ルートで導入される急角度(3. 45度)での着陸について,政府が米軍と合意したうえで導入を決めていたことが政府関係者への取材で分かった。政府は急角度で着陸する目的を騒音対策としているが,米軍の意向を踏まえた点については説明していない。

  ★ キーワード〈横田空域〉★
 在日米軍の輸送拠点である横田基地(東京都福生市など)周辺で,米軍が管制権をもつ空域。東京,埼玉,神奈川,山梨,福島など1都9県に及び,高度は場所により約2450メートル以下から約7千メートル以下。

 敗戦後に米国が日本の航空管制を担った経緯から続いており,日米地位協定とそれにもとづく日米合同委員会の合意が根拠になる。空域は過去8回にわたって削減されてきたが,返還の見通しはない。米側は飛行場の効率的な運用のため管制権が必要としている。

 補注)日米合同委員会という2国間の協議機関がどのような性格をもっているのが,最近になってようやくしられるようになったが,その会議に出席する米日両国の関係者のくわしい布陣は「異様」である。この点は,末尾にかかげる参考文献(アマゾン広告を借りるが)に任せることにしたい。

キーワード:横田空域

 --途中になるが,前後する記述を理解する一助として,本ブログ「昨日の記述」(2023年4月12日)に紹介した関連の画像資料などを,もう一度ここにも出しておきたい。「横田空域」という用語に注目してほしい。

在日米軍専用の横田空域,ほかにも同様な空域がまだある
羽田空港へ急角度で着陸する危険
羽田空港への着陸経路・上空地域
急角度着陸コース図解

 さらに,横田空域の問題に関してつぎの図解も紹介しておきたい。この図解で「C滑走路」とは,少しあとにかかげてある羽田空港の「全体説明画像」でも分かるように,ほぼ南北に走っている滑走路である。この滑走路の配置は,年間を等しての卓越風の風向き具合(比率)も問題になるが,その方向性の関連でいえば,地図上でみた羽田空港「C滑走路」のより正確な立地は「北北西⇔東南東」の方向軸に建設されていた。 

前掲の図解と合わせると航空機の降下角度「数値」に若干の差がある。
全体の議論に支障はないゆえ,ここでは無視しておく。
通常はコンマ以下一桁までしか表示しないとのことであり,
 こちらでは 3.45ではなく,3.5 と表記されている

 つぎは,羽田空港への離着陸時に発生する騒音の水準を表わした図解である。「音の大きさの目安」の段階表も,以下につづけて掲示してみる(この図解は小さくでみにくいが,クリックして拡大・可)。

高度ごとの騒音問題
再掲,騒音レベル指標


【参考文献】
-途中だが,アマゾン通販の形式を借りて紹介- 

〔記事に戻る→〕  新ルートの一部は,米軍が管制する「横田空域」を横切る。そのため,日本政府と米軍側が日米合同委員会の分科会などで調整にあった。日本側が空域内を通る旅客機を管制することで昨〔2019〕年1月に合意したが,より高高度から急角度で着陸することもこのさいにまとまった。政府は着陸方法の安全性を確かめ,昨年7月に公表した。

 米軍側には新ルートの運用時間帯(午後3~7時)もなるべく空域を訓練などで活用したい意向がある。高高度から急角度で着陸することで,その下の空域を使いやすくなった。米軍側への「配慮」の側面もあるとみられるが,政府関係者は「騒音対策として以前から検討していたもので,米軍の意向だけで決めたものではない」としている。

 補注)この記事の文面はまるで,日本側がアメリカ本土の空域を使用させていただいているなかでの話題(交渉にさえなっていない相談事)であり,その枠組のなかで決めさせてもらうほかなかった羽田空港への着陸問題,という語感(現実)を正直に伝えている。

 なにをかいわんやである。日本の領土の上空に関する問題である。主客転倒どころか「ご主人様と奴隷との関係」だったのかとみまごうやりとりになっている。

〔記事に戻る→〕  羽田の2本の平行滑走路に着陸する新ルートのうち,横田空域を通るのは,南風の好天時にA滑走路に着陸する西側のルート。旅客機は練馬区などを通って約1500メートルから徐々に高度を下げ,JR中野駅上空で空域を抜ける。中野駅付近には,着陸のさいに通らなければいけない最終降下開始地点(FAF)が設定されている。

 補注)つぎの羽田空港の説明図を参照したい。風向きの問題が関係する事情であるが,空港内はA滑走路からD滑走路まで増設されてきた。

羽田空港着陸問題用の説明図

 国土交通省の当初案では,FAFは高度約1037メートルだったが,昨〔2019〕年7月下旬に騒音対策を理由に高度を120メートル以上上げて,約1159メートルに改定。降下角度も一般的な3. 0度からより急な3. 45度に変え,8月に新ルートを正式採用した。

 西側のルートでは,旅客機は横田空域内を上空1159メートルより高い位置で飛ぶことになる。政府関係者によると,米軍の利便性と日本側の騒音対策で利害が一致したため,この高度が合意点となったという。

 補注)ここでの表現も奇怪である。「米軍の利便性と日本側の騒音対策で利害が一致したため,この高度が合意点となった」というけれども,たとえば「なんとか海のある区域に関する漁業協定が甲国と乙国とのあいだで取り決められた」という国際協定とは,まったくわけが違う次元の中身のとりあわせであった。

 主人国である日本が客人国であるアメリカと「利害が一致・合意点」がみいだせたというとき,この国土の保有者は,いったいどちらの国だったか(?)といったふうな,実にバカげた疑問に,ただちに想到するはずである。

〔記事に戻る→〕 横田空域を通らない東側ルートでも,騒音対策として同じ高度に合わせたという。悪天時は両ルートとも横田空域を通過し,一般的な着陸と同じ3. 0度で降下する。

 急角度での着陸は速度が出やすくなるため,一部のパイロットや専門家から「着陸がむずかしくなる」と指摘がある。国交省は,事前に日本航空と全日空に急角度での着陸の安全性についての検討を依頼した。シミュレーターを使うなどして検討した2社から安全に着陸できるとの回答をえたため,3. 45度の採用を決めた。

 補注)その「3. 45度という急角度での着陸の安全性」については,専門家(パイロットなど)からは,まだ重大な疑問・批判が提示されている。この論点については,つぎの vitya稿「羽田新ルートは『横田空域』のせいなのか?」の議論が詳細であり,素人にも理解しやすい。

 ただし,現状における米日軍事同盟関係に関する疑念は一粒も言及のない記述なので,この点を承知のうえで読む必要がある。ここでは,ひとまず「結論」部分のみ引用しておく。

結 論
 ・羽田新ルートは「横田空域」を通過しており,避けているわけではない。
 ・横田空域の有無にかかわらず,羽田の発着数を増加させるための航空路を設定する場合は,都心を飛行するルートになっていたと推測される。

註記・出所)vitya稿「羽田新ルートは『横田空域』のせいなのか?」『note』2020/02/04 13:59,https://note.com/vitya/n/nafa275a927cc

〔記事に戻る→〕 急角度の着陸に関する米軍との合意について,国交省は「コメントを控える」としている。

 ★ 新しい飛行ルートの運用は開始持ち越し
 国際線を増便するための羽田空港の新しい飛行ルートの運用が〔2020年3月〕29日に始まった。この日は南風が吹かなかったため東京都心の低空を通るルートは30日以降に開始がもち越しになった。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,羽田を発着する便の運休が相次いでいるが,赤羽一嘉国土交通相は「インバウンド政策をV字回復させるため,フル運用に向けた助走期間だ」として,予定どおり運用を始めると表明していた。

 補注)担当大臣による「このインバウンドうんぬんの話題」は,新型コロナウイルスの感染拡大「問題」の深刻化が進展していた当時においては,しばらくの期間,問題外の期待となるほかなかった。

 ましてや,「V字回復」という用語を,安倍晋三〔元〕内閣〔当時〕は使いたがっていたけれども,現時点になってから思いだすまでもなく,そのころの発想としては依然,幻想的なさえずりでしかありえなかった。

 コロナ禍の悪影響がようやく少しずつであったが,解消されだす展望が開けたのは,2023年に入ってからである。もっとも,コロナ禍以前の外国人観光客の訪日やその経済面のインバウンド効果が,今後においてどこまで増加しうるかについては,まだこの先に間知る見通しになる。

 インバウンドへの期待は,それはそれでいいけれども,国内における少子高齢化などがよりいっそう進展する動向などを踏まえた,産業経済・企業経営の再・活性化や事業興しを,地道におこなうための路線:基盤を再構築するほうが先決である。
 
 結局,より困難な課題から逃げ回ってきた現自民党政権にはもともと,それらの重要な課題に取り組む意欲および能力があったとは思えない。いままで,対米服属政権たる基本性格を止められたことなどなかった自民党のことゆえ,今回のごとき軍事関連事情に関して,アメリカ政府や在日米軍相手の交渉ごとになると,まるで腰抜け同然となるのが年中行事。
 

 ※-3「日本の空は誰のもの-米軍が軍事的に管制する空域問題-」(筆者・旧ブログ,2014年3月7日の議論)

 この旧ブログ2014年3月17日の記述は「日本の国防(防衛)は誰のため,どの国のためなのか?」という副題もかかげていたが,2003年から2007年まで,防衛省事務次官を務めた守屋武昌の著作『日本防衛秘録』新潮社,2013年10月を,議論のとっかかりとしてとりあげていた。

 以下に再録・復活させる段落は,そのうちの「④ 1都8県にまたがる横田空域」の問題である。つぎのように議論していた。本日における前段までの論述を現時点なりに再考するうえで,その前提をなす論点をとりあげていた。

 1) 空の外国
 日本のなかのアメリカは,地上だけではなく空にも存在している。それは横田空域である。

 横田空域とは,首都圏の西の空を広く覆う米軍の管制エリアのことを指す。その範囲は1都8県(東京都,栃木県,群馬県,埼玉県,神奈川県,新潟県,山梨県,長野県,静岡県)にも及ぶ。

 そこでは日本の航空機は米軍の管制を受けないかぎり飛行が許されない。いわば横田空域は「空の外国」なのである。

 2)「横田空域の2割返還(これで8回目の要請)」
 空域返還は段階的で,もう8回目だそうだ(ただし,2008年9月までの話:回数)。「米軍管制権の横田空域,2割を日本に返還,民間機ルート短縮」(『読売新聞』2008年9月25日報道での話)。

 「横田空域」の2割が,2008年9月25日午前0時に日本に返還された。空域は戦後,段階的に返還されており,今回は8回目である。羽田を飛び立った民間機が向かう南東側が,高さ約3950メートルから2450メートルまで下がった。

 補注)この高度(高さ)に関する当該の数値は,前段の「キーワード〈横田空域〉」のところで,すでに出ていた。約2450メートルという「高さ」の点のことであった。

 なだらかに上昇する飛行経路が可能になり,国土交通省航空局は5本の新たな飛行ルートを設定した。神戸や上海行きで約5分,大阪行きで約2分など,平均3分の短縮効果があり,燃料費などの削減効果は年約98億円に達すると試算されている。全日空では年約10億円の燃料費削減効果をみこんでいる(以上,読売新聞からの記事引用)。

 その程度であっても,結構な削減効果=費用削減とともに,CO2 削減にもなっていた。それにしても,横田空域はまだまだ巨大である。いずれ,民間利用を実現すべきである(共用であれ)。東京近辺の空港資源としては,貴重である。首都圏空港問題の要は,あるいはここだったのかもしれない(米軍空域の問題が大きいわけだ……)。
 註記)「横田空域の2割返還(これで8回目)」『worldNote 世界の覚書』 2008年09月25日,http://blog.goo.ne.jp/worldnote/e/aefc3e4a697bf27fbbceaf2e8be89d86 2008年09月25日。 

 羽田から航空便を利用した人が,飛行機が離着陸する機外の光景をみていると,既出の諸図解に描かれている航路を民間航空機が無理やり飛んでいる状況がよく実感できるはずである。空は「空気」だからその仕切りはみえないけれども,管制空域がきちんと決まっている。 

 まず米軍がそれを仕切り,つぎに自衛隊が仕切っている。民間機はこれらから残された空間=合間を縫って飛ぶか,米軍や自衛隊に許可・指定された空域内を利用して飛んでいる。そういう各管制地域間における上下の序列関係がある。

 3) 横田基地の事情・沿革など
 1940〔昭和15〕年に帝国陸軍立川飛行場の付属として多摩飛行場が建設され,太平洋戦争中には陸軍の航空機試験場(陸軍航空審査部)として利用されていた。敗戦後は,1945〔昭和20〕年9月4日にアメリカ軍に接収された。

 戦中,米軍は偵察機から米軍が把握していなかった日本の空軍基地の報告を受け,その基地を横田飛行場と名づけたため,横田基地と呼ばれるようになった。接収後に基地の拡張工事がおこなわれ,1960〔昭和40〕年ころにはおおむね現在の規模となった。

 その後,拡張にさいしては,北側で国鉄(現JR)八高線や国道16号の経路が変更され,南側で五日市街道が分断された。このため,この周辺では常時渋滞している。朝鮮戦争当時はB29爆撃機の出撃基地として機能し,ベトナム戦争時も補給拠点として積極活用されていた基地である。2012年3月26日に航空自衛隊の航空総隊司令部などが府中基地より移転し,航空自衛隊横田基地の運用が開始された。
 註記)以上,2) と 3) については,http://ja.wikipedia.org/wiki/横田飛行場 参照。

 4) 横田空域
 横田進入管制区,通称「横田空域」と呼ばれる1都8県(東京都,栃木県,群馬県,埼玉県,神奈川県,新潟県,山梨県,長野県,静岡県)に及ぶ広大な空域の航空管制は,横田基地がおこなっている。「横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control の略)」「横田エリア」とも呼ぶ。

 この横田空域は米空軍の管制下にあり,民間航空機であっても当該空域を飛行する場合は米軍による航空管制を受けなければならない。ただし,事前協議によって飛行経路を設定する必要があり手続が煩雑なため,羽田空港を発着する民間航空機は同空域を避けるルートで飛行している。

 羽田空港や成田空港から西日本や北陸方面へ向かう民間航空機の飛行ルートの障害となっており,航空路が過密化する要因のひとつとなっている。 

 補注)先日,八尾空港を利用し,羽田空港まで搭乗したが,その空路はまっすぐ羽田に向かうのではなく,ほぼ東方向に向かって飛んでいってから,太平洋上空に出る前に直角に南方向に進路を変更する経路で羽田に着いたと記憶する。変な飛び方をすると感じたが,その解答は前後する記述に出ているはずである。

〔旧ブログの記述に戻る→〕 また,横田空域は1992〔平成4〕年に約10%が,2008年9月25日に約20%返還され,現在は,高度約7000m~約2400mの6段階の階段状となっている。

 2008年の一部返還により,羽田空港を利用する民航機が横田空域を迂回したり,同空域を越すために急上昇する必要が減って,年間約180億円(羽田空港の再拡張前は130億円)の経済効果があったと試算されている。

 その約180億円の内訳は,燃料費削減による効果が約66億円分,飛行時間短縮による運航コスト低減効果が36億円分,旅客利便性向上効果が77億円分とされる。

 羽田空港の年間発着回数は約29万6,000回から40万7,000回へと増加する。時間短縮効果は,羽田出発便のうち中国地方・九州北部行きで3分,関西地方・九州南部・沖縄行きで約2分,羽田到着便では2分以上とされる。 

 5)「成田空港の教訓は生かされず」『広報うらやす』 平成16〔2004〕年3月特集号
 千葉県浦安市の広報誌『広報うらやす』は,前後して問題としてとりあげている横田空域の問題に対して,当時の状況に即してであったが,つぎのように苦言を呈していた。

 現在に至っては関連する条件がすでに変わっている要因もあるゆえ,このまますべてが当てはまる状況ではなくなっているけれども,問題の基本としては,どこかの都市地域が集中的に騒音の被害を受ける事実に関しては,なんら変わりはない。

 だが,いずれにせよ,羽田空港に着陸する航空機が上空(低空)を飛行する近隣都市にとって,大きな迷惑「生活環境の質を悪化させる騒音発生」は,許容しがたい深刻な問題である。

 そこで,その千葉県浦安市『広報うらやす』については,つぎの画像資料で参照してほしい。これを踏まえて以下の記述をつづけたい。この広報にさきに目を通しておくと好都合である。
 ⇒ https://www.city.urayasu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/015/730/2004.3.10.pdf

 浦安市の羽田空港関連「騒音問題」については,つぎを参照されたい。
 ⇒ https://www.city.urayasu.lg.jp/todokede/kankyo/haneda/1015807/index.html

 〔浦安市の話〕 国は,影響のある浦安市を含めた自治体への説明や意見聴取をいっさいおこなわず,平成16〔2004〕年度予算の閣議決定をしたあとに,飛行ルートの開示をしました。 その内容は,低空で着陸してくる航空機騒音のほとんどを千葉県が受ける内容になっています。千葉県は成田空港の苦い経験があり,国は,成田空港の教訓をいっさい生かしていないといわざるをえません。

【関連する図解】-2020年3月を境にしてどうなったか-

浦安市上空(緑色地区)を通過する航路,2020年3月以前

 浦安市の説明によれば,当時までにおいて「それぞれの航路を1時間に通過する航空機の数となり,浦安市の上空を通過してD滑走路に着陸する航空機の数は,12機になっていた。また「横田空域」とは〔もちろん〕「米軍横田基地の空域(西側:左側に縦に薄橙色で引かれている破線の左側空域)」のことである。
 註記)http://www.city.urayasu.chiba.jp/menu9733.html
 
 つづけて,浦安市上空を通過する航空機は,市境などない空の上の話であるから,以上に問題した各地域に対する騒音問題の発生領域は,つぎの図解をもってその全体像を鳥瞰することができる。参考にまでかかげておきたい。

2020年3月中旬までの羽田空港飛行空路
2020年3月下旬からの羽田空港飛行空路

 ※-4「変わらぬ米軍優先」

 つぎに紹介するのは『しんぶん赤旗』2010年3月29日の記事「嘉手納ラプコン〔2010年3月31日に日本返還-那覇空港が管制へ-」である。前段に出ていた話題「横田空域の日本への若干返還」に通じる報道であった。

 --嘉手納ラプコンの日本への返還は「空の主権回復」,民間航空の安全確保という点で前進である。しかし全面返還ではない。国土交通省も認めるように高度制限の “緩和” は,あくまで嘉手納基地や普天間基地を離着陸する米軍機の飛行計画が予定されていない場合である。米軍機の飛行や作戦計画に支障のない範囲が前提なる。

 根拠となっているのが 2002年5月に日米合意した嘉手納ラプコン返還条件の「運用所要」である。これは米側が日本側に示したもので「緊急事態発生時の対応など,合衆国軍隊が従来どおり任務を遂行するために必要な事項を示したもの」(赤嶺政賢〔日本共産〕党衆院議員の質問主意書への政府の回答)。「必要な事項」について政府は公表を拒否している。つまり米軍を最優先するという取り決めである。

 国交省航空局は返還により,那覇空港を離着陸する民間機(年間約 10万6千回)のうち,どの程度が高度制限なしで離着陸できるかは「実施してみなければわからない」としている。沖縄にある広大な米軍の訓練空域問題の解決も切実な問題である。同空域も米軍優先で,沖縄に向かう民間機は,天候悪化や乱気流発生による危険回避のためでも米軍の許可なしに進入,通過ができない。

 これらの訓練空域問題は本土の横田(東京),岩国(山口)でも同様である。航空関係者は「嘉手納ラプコン返還はこれまでの運動の成果。そのうえで民間航空優先と安全確保のために,米軍訓練空域の削減,撤廃を求めたい。せめて当面の措置として国交省航空局の一体的な管理にしていくべきだ」(全運輸労働組合)としている。日米両政府はこれに応えるべきである。
 註記)http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-03-29/2010032914_01_1.html

 日本は戦争に負けてから,アメリカ軍を主体するGHQ(連合軍最高司令官総司令部)に支配・統治されていたが,1952〔昭和27〕年4月28日には,サンフランシスコ講和条約の発効にしたがい,独立したはずであった。

 ところが,アメリカと同時に結んだ日米安全保障条約および日米地位協定のせいで,いまだにその占領体制が実質的に継続しているような風景が,日本全国のあちこちで観ることができる。その代表格が沖縄県である。米軍基地のために沖縄県があるような現状である。

 沖縄県は戦争末期,日本本土から見放され,捨て石にされた。沖縄県民は,アメリカ軍の上陸作戦の巻き添えを食い,家族が4人いたら1人は殺されるはめになった。その後もずっといままで,まるで半永久的であるかのように,この沖縄の島にはアメリカ軍の基地が居すわりつづけている。

 【参 考】 「沖縄戦による死亡者数」 総数:20万0656人。

  「日本 18万8136人」
     沖縄県出身者 12万2228人
    一般人     9万4000人
    軍人・軍属   2万8228人
    (以上のうち,他都道府県出身兵 6万5908人)
  「米軍 1万2520人」

 〔以上,沖縄県援護課発表,1976〔昭和51〕年3月参照〕
 註記)http://www.peace-museum.pref.okinawa.jp/heiwagakusyu/kyozai/qa/q2.html 

 なお,昭和19年2月22日時点で沖縄県の人口は,59万480人であった。沖縄県民の死者数 12万2228人であり,ちょうど,その5人に1人相当が沖縄戦で生命を落としたことになる。ただしこの計算にあっては,当時まですでに戦争〔沖縄が戦場となる事態)を避けるために「本土」に移動していた「沖縄県人を含めた人びとなどの数」は,減算されていない。
 
 この戦地で死んだ米兵も加算すると,全員の人数は 20万656人になる。この死者数も足して全体の計算をしたうえで,これを「当時の沖縄県民人口」に対比させるとなれば,死者総数の比率は「3人に1人の割合でが死んだ」計算になる。

 以上,軍隊関係の人数:生存者は,あえて母数から除外した計算でもあるなど,かなり大雑把な説明である。ともかく,前述にあったように,沖縄戦では沖縄県人の4人に1人が死んだ。戦闘に巻きこまれ殺された人びとが大勢いた。

「沖縄線による死亡者数」

 あの安倍晋三・元首相はいつも寝言のように,「戦後レジームからの脱却」を唱えていた時期があった。それも在任中,最初の時期によく口に出していた)が,以上の記述を踏まえていえば, “白日夢のような念仏” を唱えていたに過ぎない。

 安倍晋三君のその「戦後レジーム」をデンデン〔云々〕する立場は,まったくもって空虚であり軽率であった。ただし,われわれが自分たちの立つ大地の上に大きく広がった空をみあげるとき,この国土には「米軍の空域」があちらこちらに覆いかぶさっている。
 
 つまり,属国日本の現実的な姿が,上空にも浮かんだかっこうをもって,透けてみえる。

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【参考記事】

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