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スーパーで私の恋は半額じゃあない 第8話

もう一つの世界線

徳明は40代半ばの中年男性で、長い間、地元の小さな部品工場で一般社員として働いていた。彼の日常は単調で、孤立した存在として会社で過ごしていた。独身のまま実家で暮らしており、日々は同じルーチンの繰り返しであった。

ある日の工場での作業中、徳明は不注意から大きな機械の一部に手を挟んでしまい、手首に深い傷を負ってしまう。緊急手術が必要となり、休業を余儀なくされた。

退院後の日常は突如として静寂と退屈に満ちていた。ネットフリックスを見ては時の流れを過ごしていた中、彼は「スーパーで私の恋は半額じゃあない」というドラマを見つける。初めは興味本位で再生を始めたが、ストーリーの内容にはあまり魅力を感じず、彼は「なんだ、このくだらないドラマは」と愚痴をこぼしながら画面を見つめていた。

徳明は文句を言いながら「スーパーで私の恋は半額じゃあない」の第7話までを見終えていた。「なんだ、このくだらないドラマは!」と、不満を露わにしながら、テレビの電源ボタンを強く押した。

その瞬間、部屋の外からは破れるぐらいの大きな音で扉が叩かれた。徳明の心臓は一瞬で高鳴り、彼は驚きのあまり動けなくなってしまった。扉の向こうに何が待ち受けているのか、彼はまだ知る由もなかった。



扉を開けた瞬間、母親の存在が浮かび上がった。彼女の目は何も感じさせない静けさで徳明を視線で捉えていた。徳明はその無表情なままの母親に、なぜここにいるのか、何を望んでいるのかの答えを求めるが、母親は一言も口を開かなかった。

運ばれてきたのは半額のコロッケ。徳明はそのコロッケを受け取る手が震えているのを感じた。「これは何のために...?」

母親の無言は、言葉以上の恐怖を徳明に感じさせた。彼はその場に凍りつきながら、母親が去っていくのを目で追った。部屋に残されたのは、冷たく感じるコロッケと、消えてしまった母親の存在感だけだった。


夜が更け、徳明の眠りは深まったかに思えた。しかし、その安堵も束の間、彼の体が突如として動かなくなった。全身が金縛りにあったかのように、不自由な息遣いが部屋に響いた。

目を開けると、その視界には母親の顔があった。しかし、これまでの冷たい無表情とは違い、彼女の目には深い深い闇が浮かんでいた。徳明は母親から逃れようと体を捻ったが、彼女の手はしっかりと彼の体を押さえつけていた。

「何するんだよ母さん!」と彼が叫んだ時、母親の口が開くことなく、ただじっと彼を見つめ続けた。徳明の怒りは頂点に達し、彼の声は震えながらも更に大きくなった。「おまえ誰だ!」

その問いかけに、母親はようやく口を開いた。しかし、彼女の言葉は徳明の予想を遥かに超えるものだった。「意識」と、冷たく響くその言葉に、徳明は自分が直面している恐ろしさの深さを痛感させられた。

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