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【Management Talk】「あらゆる商品の価値を再定義するタイミングがきている」ネット型リユース事業の先駆者が創出する「賢い消費」のためのマーケット

株式会社マーケットエンタープライズ 小林泰士

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第23回のゲストは、株式会社マーケットエンタープライズの創業者で代表取締役社長(CEO)の小林泰士さんです。ネット型リユース事業を主軸にして、2015年には東証マザーズに上場を果たした同社。社名に込めた思いから、「最適化商社」というビジョンの意図、これから目指していく方向に至るまで、じっくりとお話しいただきました。

株式会社マーケットエンタープライズ

2006年7月設立。
30サイトからなる買取メディア群と、全国10拠点のフルフィルメントセンターをベースに国内最大規模の総合リユースEC事業を展開する。2015年6月には東京証券取引所 マザーズ上場を果たす。
中小企業基盤整備機構 Japan Venture Awards中小機構理事長賞 (2015)、有限責任監査法人トーマツ[Deloitte Touche Tohmatsu] アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500 (2015)など数々の企業賞を受賞。


多様化/細分化する消費者のニーズ


別所:はじめに、マーケットエンタープライズさんがどのような会社なのかお話しいただけますでしょうか。

小林:弊社は「ネット型リユース」というインターネットを介したリユース品の売買を中心とした事業を展開しています。近年では、そこから派生して、インターネットを使ったレンタルのサービスやインターネットメディアの運営、モバイル通信の領域にも事業を拡張しています。
マーケットエンタープライズという社名は、「市場」を意味するマーケットと「冒険」をその語源に含んだエンタープライズという言葉を組み合わせたものです。つまり、市場創出カンパニーを志していこうという思いを込めているわけです。大量生産、大量消費の時代から、レンタルやシェアも含めて、消費者のニーズが多様化/細分化していくなかで、私たちは、より多くの選択肢を提供できるような事業の集合体になりたい。「賢い消費」のためのマーケットを創出していきたい。そうした願いを、「最適化商社」というビジョンで表現しています。

別所:小林社長は、2006年にマーケットエンタープライズを創業して、ここまで大きく成長させてこられたわけですけれど、これまでを振り返ってみていかがですか?

小林:僕自身は、学生時代から起業したいという強い思いを持っていました。それで、新卒でベンチャー企業に入ったのち、23歳で独立して事業をはじめ、その後、100万円を握りしめるような形でマーケットエンタープライズを創業したんです。そのなかで、大きな分岐点は二つありました。

別所:資本金100万円で。すごい。一つ目の分岐点はどんなことだったのでしょう?

小林:一つ目は、創業からの3年間で2回ビジネスモデルを転換したことです。私たちは、当初、乾電池のリサイクル事業からスタートしたんです。その後、フリーマーケットの運営事業を開始し、36都道府県でのべ約800回、フリマのリアルイベントを開催しました。そして、フリマ事業を譲渡して、ネット型リユース事業を手がけるに至ったという経緯です。

別所:事業を転換するのは簡単なことではないですよね。

小林:おっしゃる通りで大変でしたが、マーケットサイズがより大きな領域で世の中に対するインパクトを出していこう、社会からより強く求められている事業に挑戦しよう、という思いでの決断でした。私自身もフリマ事業に思い入れがありましたし、当時、「フリマで日本一になろう」という目標のもとで採用したメンバーもいましたから、そうした仲間たちを絶対に後悔させないという気持ちで、泣きながら撤退を決めたことを今でも覚えています。

別所:大きな意思決定をしたわけですね。そして、二つ目の分岐点は?

小林:2015年6月に東証マザーズに上場したことです。自分たちの事業の意義を社会的に証明できたという達成感もありましたし、資本政策的な選択肢も大きく広がりました。また、上場によって、他社とのアライアンス提携のチャンスやユーザーからの安心感が得られたことも、事業を多角的に展開できるきっかけになりました。


「市場ありき」で事業を展開


別所:小林社長のお話を伺っていると、自分たちがこうしたい、というビジョンもさることながら、社会が求めていることにすごく敏感に寄り添って、変化することを厭わない勇気をお持ちだと感じます。

小林:ありがとうございます。まさに、私たちは社名の通り、「市場ありき」で事業を展開していくことを意識しています。つまり、自分たちが世の中にどういったサービスを出したいか、というプロダクトアウトの思想よりも、世の中のニーズに対して、どういったサービスで応えていくのかを考えるマーケットインの発想を重視しているわけです。だからこそ、変化は厭わない。変化していかなければ、成長を続けられないですから。

別所:素晴らしい。では、いままさに、時代に大きな変化が訪れているなかで、小林社長は、現在の世の中をどのようにご覧になっていますか?

小林:やはりこれからは、企業や個人の多様化/細分化がよりいっそう進んでいく時代になると思います。そうしたなかで、消費の意識も変化してきています。商品やサービスを選ぶときに、ネットで価格を比較することは当たり前になっていますし、シェアやレンタルのように、所有しないという考え方も普及してきました。最近では、自動車販売で残価設定ローンという仕組みも広がっていますよね。

別所:たしかにそうですね。

小林:従来は、たとえば、不動産や美術品といった限られたものについてだけ、みなが「将来、価値の下がらないところがいいな」と考えて購入していました。けれど、現在では、そういった感覚が、趣味嗜好品などにも徐々に広がってきているという印象があります。ですから、私は、いま、あらゆる商品の価値を再定義するタイミングがきているのではないかと感じているんです。

別所:その価値を再構築する市場を作っていくのがマーケットエンタープライズさんというわけですよね。僕は、リバリューやリユースにおいても、その商品にまつわるストーリーが大切だと考えています。

小林:そうですね。おっしゃる通りで、商品を価格だけで見てしまうと表面的な話になってしまいがちですけれど、リユース品であれば、それを使われていた方の背景や思いがありますから、その物語をバトンのように繋いでいくことでエンゲージメントが上がっていくと思います。そうした部分を私たちはもっと大切にしていかなければいけないですし、それができるように工夫していかなければならないと考えています。


起業家の速度感、推進力


別所:ぜひそういった物語を発信するショートフィルムを観てみたいと思います。そうしたなかで、小林社長は、御社のブランディングについてはどのようにお考えでしょうか?

小林:私としては、サービスや事業をブランディングするのと同時に、会社組織をブランディングしていきたいというイメージを強く持っています。つまり、組織自体に価値があるような会社にしていきたい。だからこそ、弊社は、ネット型レンタル事業や医療機器のリユース事業や弊社活動の普及のためのメディア事業など多角的に新しい事業に挑戦しているわけです。そうすることで、「マーケットエンタープライズって面白いよね」「主体的にいろいろなことに取り組んでいるよね」と社会から認知していただけるように。もちろん、鶏が先か卵が先かという話もありますけれど、組織体として成長した結果、ユーザーの心に響くサービスを次々と生み出せるようになるのではないかと考えています。

別所:組織自体をブランディングするという考え方は非常に面白いですね。ところで、小林社長はEO Tokyoという起業家のネットワーク組織の会長もお務めになっているんですよね。EOという組織は、年商が1億円以上の会社の創業社長だけで構成されているということですが、非常に興味深いです。

小林:EO(Entrepreneurs’ Organization(起業家機構))は世界58か国186支部を有するグローバルな起業家の組織です。その東京支部であるEO Tokyoは世界一の規模で、メンバーは300名を超えています。私は9年前、年商が1億を超えたばかりの頃に、当時としては最年少の28歳で入会しました。以来、EO Tokyoでは、他の起業家のみなさんから大きな刺激を受けています。現在、メンバーの会社のうち、40社近くが上場しているのですが、そのなかで私がもっとも年齢が若いということもあって、昨年4月から会長をさせていただいているんです。

別所:勉強になることが多そうですね。


小林:やはり、起業家の組織ですので、メンバーみなが個性的で強烈なパワーを持っています(笑)。いま、会長という立場で理事会を運営させていただいているんですけど、そこでなにか方針が決まったときの、実行に移す速度感や推進力がすごい。とんでもない経験をさせていただいているなと日々感じています。
また、世界の起業家と触れ合う機会も頻繁にありますが、彼らと比べても、日本の起業家の思想や考えが、非常に先進的だと感じることが多いです。言語の壁やマーケットサイズの差もありますが、私たち起業家が、積極的に世界へ打って出れば、道は開けやすいだろうなと実感しています。


社会を少しでもなめらかに


別所:グローバル展開について、マーケットエンタープライズさんはどのような取り組みを行っているのですか?

小林:いま、弊社では、日本国内では価値が低下しているけれども海外からは大きなニーズのある、農機具や建設機械、医療機器のリユースマーケットに積極的に取り組んでいます。それらを海外に輸出する事業は当然のことですが、ゆくゆくはリユースという概念のない地域に、二次流通のマーケット自体を根付かせるような仕組みも提供していきたいと考えています。

別所:期待しています。それでは、せっかくなのでお仕事以外のお話もお伺いできればと思います。経営者の方は、オンオフの区別があまり無い方も多いですが、最近では働き方改革も叫ばれています。小林社長はいかがですか?

小林:私自身もオンオフの境目はあまり無い方かもしれないです。ただ、やはり、自分も子育て世代になって、幼い子どもたちと遊ぶのが楽しい時期でもありますので、家族と過ごす時間を大切にしたいという思いはあります。
また、社会全体も、仕事だけに根を詰める時代から変化してきていますよね。働き方を選べる世の中になってきているのはいいことだと思いますので、弊社としても、ぜひそういった部分も積極的に進めていきたいです。そして、同時に、働き甲斐をしっかりと提供できる会社でありたいと考えています。

別所:それでは、最後に今後のビジョンを教えてください。

小林:やはり、マーケットエンタープライズという社名通り、冒険的な思考で、世の中に求められるサービスを作り続け、社会を少しでもなめらかにしていきたいと考えています。そのためには、企業規模を追求するわけではないんですけど、世の中に一定のインパクトを出していけるような組織になることが必要だと思います。「マーケットエンタープライズのおかげで社会がより便利になった、賢い消費ができるようになった」と多くの方に言っていただけるような組織体を作り上げていきたいです。

別所:ありがとうございました。



(2019.2.18)


小林 泰士(こばやし やすし)

1981年生まれ、埼玉県川越市出身。株式会社マーケットエンタープライズ代表取締役社長。大学卒業後、ベンチャー企業を経て独立起業する。2006年、株式会社マーケットエンタープライズを設立し、現職。2015年6月には東京証券取引所 マザーズ上場。中核事業のネット型リユースのみならず、宅配レンタルや通信など事業の多角化を進めている。Japan Venture Awards中小機構理事長賞(2015)、EY Entrepreneur Of The Year 2013 Japan、デロイトトウシュトーマツ アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500など数々の企業賞を受賞。セミナーや大学での講演多数。