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【小説】マスコット〜アイドルと1つになる物語〜

 第5話「凄惨」

 目を開けると仄暗ほのくらいベッドの上で仰向けになっていた。四肢の自由がきかない上に喋ろうにも口の中に何かを詰め込まれその上からガムテープをキツく巻かれているのでうめき声すら出せなかった。スッと襖が開かれるとリビングから全裸の雅美が写真立て片手に入ってくる。
「昴の口に入っているものなぁ〜んだ?」
「昴のエッチ、私のパンティよ」ケラケラと笑う姿はもはや人間の女性ではなく化け物に見えた。部屋の中を見回すと畳? 和室。どうやら寝室にしているようだ。
 すると猫のように四つん這いで俺の脚にすり寄ってくるとベルトを外しだした。
 自身の下半身で動く物体の気持ち悪さを紛らわせるために天井の常夜灯を見つめながら痛む背中と1人格闘している最中しきりに体の向きを変えられることで痛みが倍加した。
 痛みは際限なく続くが下半身はちゃんと反応していることが悔しかった。血を流し過ぎたのか、だんだん意識が朦朧とする中、物体が上に跨がり片膝を立てた状態からヌルッと容易に膣内に迎えるとスッと両手で昴の首を締めながら激しく腰を動かし喘ぎ声だけが響いた。
 やがて彼が脈を打つと物体の膣内なかで発射した。贅沢に溢れた白濁を再び膣内に押し込むと彼女は満足げに指を舐め昴の唇を奪った。異様な口臭が漂う中、その後も夜が明けるまで昴は物体に抱かれていた……
 
 長い夜、何度目かの勃起を待ち続ける間暇つぶしでキッチンで刺した傷をほじくり返され昴は逝ってしまった。最期の言葉は「チクショウ」だった。
 悔しそうに涙を流しながら朝を迎えることはなかった。血でぐっしょり濡らしたベッドの上で冷たくなかった彼をひっくり返してうつ伏せにすると押し入れの中からホームセンターで購入しておいた昴のを取り出すとまず手に取ったのが剪定用のハサミだった。背中の傷口に切っ先を沈めると押し込んだ肉からジュワと血が溢れた。そのまま上方へ切り進め首あたりで一旦止めると血まみれのハサミには用無しと言わんばかりに投げ捨てると次はバールを取り出し背骨に引っ掛けそのまま持ち上げると背骨に便乗して昴の体も一緒に浮いてくるので右脚で肩付近を踏んで固定して一気に引き上げるとバキッと板が割れるような音がした。
 脛骨を引き抜き肉を裂く。ヌメリを帯びた臓器が生々しく姿を見せると全て抜き去った。
 本来なら目逸らし曲がる鼻にせり上がる嘔吐感を感じるほどの激しい悪臭が鼻腔を突く。これも昴の臭いだと口元が綻んだ。1つ1つの臓器の感触を確かめるようにしてバケツに放り込んだ。
 時折、ぬめった血で臓器を床に滑り落としながら慣れない手つきで体内にバールを突っ込みこぜるように撹拌してみる。バールの切っ先に引っかかった腸の長さに驚いた雅美はその腸をベビ使いのように自身の首に巻き付けた。首に巻き付けたまま、くり抜かれた体の内部をひとしきり覗いたあと、次の道具を取り出した。
 右手にはハンディタイプの電動ノコギリ。左手にはインパクトドライバーを床に置くと延長ケーブルで電源を供給すると朝から電気音が響く。時折、ビチャビチャと異様な音がするのも構わず体内の肉を抉りだした。2階には吉田さんという認知症の老人が住んでるだけだ。何も気にすることはない。
 肉をえぐりすぎるとペラッペラの薄皮だけになってしまうので皮との肉を5ミリほど残すように削いだ。
 頭部の頭蓋骨は電気ノコギリで切開して引き抜くと意外に硬い眼球がついた脳みそをバケツに放り込んだ。その際、上を向いた眼球がこちらを睨んでいた。
 それに激昂した雅美がハンマーを手に餅をつくようにペチペチと眼球を叩き潰した。
 首に巻き付けた腸から汚物の臭いを嗅ぎながら雅美の体は血と脂でぬめり光沢をたたえていた。肉を5ミリまでするために果物ナイフとスプーンを駆使して切ってはほじくった。電気ノコギリである程度肉を削いだ甲斐もあってその地味な作業は割と短時間で中身のくり抜きに成功した。
 流れ出た大量の血はベッドや畳に染み込みすくえる分はちりとりで回収して1リットルのペットボトルに注ぎ冷蔵庫に入れたが、それも2本が限界だった。トマトジュースはそんなに好きではなかったからだ。あとの余分な血はトイレに流した。
 ベッドに大きく広げられた作業期間は実に1ヶ月以上もかかったのである。物干しには脱皮したような人皮が掛けられていた。人1人解体するのは素人では中々骨の折れる作業で体力の消耗が激しかった。
 掌の中心に中指を接着剤で固定してホームセンターで買ったアクリル板に昴の顔写真を貼り付けて骨で作った自作のアクリルスタンドの出来の良さに満足気に頷いた。
 臓器や骨、削いだ肉片は購入したバケツでは足りなかったので押し入れの衣装ケースの中身をひっくり返してそれで代用した。
 それでも入りきらなかった肉片はミキサーにかけてペースト状にしてトイレに流し不必要な骨は全てハンマーで砕いてベランダから外に撒いたり大きい塊はジップロックに入れて新聞紙で包んでゴミ箱に捨てた。腸は妙なぬめりが気持ちよくて股間にこすりつけたりして遊びに遊んでミキサーでサヨナラした。
 というのも腸よりも気持ちの良い代りが出来たのだ。そいつはコンパクトで自身のヨダレを絡ませることでいつでも使えてさらに柔らかいというおまけ付きだ。遊ぶには最高のヤツだ。
それが切り取った『』である。
 物干しに掛かった皮が完全に乾くまでその舌で変態行為にふけった。

 昴が失踪して1ヶ月以上が経った頃、ジャッカルフォーカスのメンバーである千歳と凪はかなり以前から昴の行方を捜索しているが、セカンドシングルに封入してある『訪問お喋り券』というチケットはファンの家に行き30分間メンバーの1人と話ができる夢のチケットだが、事務所の方針でチケットのアポは本人しか知らない。よって昴がどこの誰に会いに行ったのかさえわからなかった。
 メンバーはしらみつぶしに訪問していたが途方もない生き地獄だったため、警察に通報したのが1ヶ月前の話であった。
あれから事務所側の無謀な企画のためジャッカルフォーカスのライブおよびファーストアルバムの『ラビリンス』の発売を中止した。
 まさか警察も事務所側もメンバーさえあのぼろアパートで昴が何かに加工処理されているとは夢にも思わなかったであろう。
失踪とかはぶっちゃけこの世界ではよくあることで特に駆け出しのグループはなおさらである。
 それから千歳と凪の元に2人の刑事がやってきた。
「こんばんは、嶋崎しまざき森岡もりおかです」そう名乗る背広姿の中年の男性が警察手帳をチラつかせると若いメンバー2人に緊張が走った。
しばらく話すとあとは我々がやるので余計な詮索はしないようにと厳しく叱責された。それは犠牲者を増やさぬためである。何かあれば嶋崎という男から電話で報を受け取るようにと念を押された。
 嶋崎の面はどうも若者をあまりよく思っていない顔つきであったが、2人は静まりかえったその場所で立ち尽くし昴の行方を惜しむようにタバコに火を点けた。
「絶対に昴は生きている」この時の気持ちは以心伝心した。
 
 カタカタカタカタ……グチュ……
その夜、異様なミシンの音が響く。
彼女は昴の着ぐるみの背中にファスナーを取り付けていた。針が刺さるたびに肉から血が滲み溢れていたが気にせず縫い進めた。
 ホームセンターに併設している手芸屋で購入した50センチのファスナーを3つ繋ぎ合わせて150センチの出入り口を作ると太陽に当てて縫い目の確認を行う。久しぶりに使うミシンだったので真っ直ぐ縫えているかが心配だったが、どうやら無用だったようで安堵のため息が漏れた。
 肉を5ミリ残しているが思ったよりペラペラして薄く感じたが試しに右足を入れてみることにした。160センチの私からするとかなり大きく感じたが、一回り大きい方が履きやすいと感じた。
 大は小を兼ねるとはこのことをいうのだろうかと口角がつり上がった。そして、オーバーオールを着るように左足も入れようとしたら、何かにつっかえて思うように履けない苛立ちにとりあえず右足だけ突っ込んだまま中を確認する。
 すると、左足の膝部の関節の肉が極端に厚いことに気が付いた。曲がる箇所がこれでは履けないに決まっている。原因は明らかだった。疲れもあり途中だいぶ端折って作業をしてしまった結果だった。
 極端な作業の短縮はよくない。しかし、これにはマニュアルがないのだから仕方がないが、他にも不具合があるかも知れないと右足も脱いで膝部の補修のついでに昴スーツを総点検をしなければいけなかった。
 肉を削っているとき、外から人の声がした。3つ隣の吉田さんが徘徊でもしているのだろうか? 気にせずにひたすら削いで削ぎまくった。右手が小刻みに痙攣している。手の震えで血まみれの果物ナイフが床に落ちる。
 ベッドに垂れた黒い眼窩がこちらを飲み込むように見つめていた。ポッカリと開いた口は何かを言いたげだった。金髪の髪が脂と血で束になって固まっている。
 もう1度背中のファスナーから右足を突っ込む。次は問題の左足だ。それが、なんの抵抗もなくスゥーッと履けたのだ。それがたまらなく心地よかった。
「これ、これ、この感じよ」思わず声が出てしまった。窓を見るとすっかり夜になっていたので思ったより早く仕上がったと思い両端を肩まで左右交互に上げて頭部を装着したときだった、雅美の顔が窮屈そうに装着した頭部に昴の小顔さに唖然とした。マスクの下でほくそ笑んでいると異常な激臭が鼻腔を突いた。
「もう、昴ったら、ちょっと臭うわよ」雅美の嗅覚はもはやまともな機能を果たしていなかった。仕上げに背面のファスナーを閉めようと背中に手を回すとなんとか届き閉めることができたが、以前のような柔軟性が皆無だったのが少しショックだった。右の脇部が少し裂けてしまったが構わずに鏡へ向かった。かなり大きめの昴スーツのサイズはLといったところだろうか?
歩くと自重で特に膝下まで垂れ下がった皮がダボダボと肥満の3段腹のようによれて積み重なっていた。
 鏡の前で両手を広げて皮1枚を隔てた奥の双眸が恍惚こうこつと潤み震える口元が綻んだ。
「ついにアイドルと1つになれた」その場でクルリと1回転すると少しよろめいたのを洗濯機で制止させると色々な角度で鏡が嫌がるくらいじっくりと凝視した。
 その時、インターホンが鳴った。

 怪訝そうに音の方向へ向けるがやがて興味を失い再び鏡の1点を見つめていると次は3回連続でインターホンが荒く鳴らされた。
「五月蝿い……」ボソッと呟き和室に移動した。
 すると、人影がスッと立ち止まり和室の窓ガラスを叩いた。
「居るんだろ、出てこい! もう逃げられないぞ!」明らかにこちらを威嚇する声がした。
玄関を開けると数人の警官が脇を固めていた。
 こちらが1歩玄関から出ると、ほとんどの警官は涙目で鼻を押さえて耐える者、中には踊り場の手すりに掴まって嘔吐している者がいるほどの激臭であった。広がった空間を前進していくと、私の姿に警察官は開いた口が塞がらないほど唖然として自分達の仕事を忘れているかのようだったが、一番奥の2人の刑事は別だった。 
 あとからわかったのだが嶋崎と森岡2人の刑事は鼻も押さえずに顔もしかめずに自身の体をバリゲードにして制止するように雅美の歩行を止めた。
 隣の森岡が嶋崎になにかを耳打ちしてから「お前だな。1ヶ月前から行方不明になっているアイドルを殺害したのは」2人の鋭い眼光が刑事の威厳を醸し出していた。
「誰それ? 知りませんよ」
とぼける雅美に対して「じゃあ、なんだよ、その着ぐるみはどう説明するつもりだ」
 頭をゆっくりともたげた金髪の奥の恍惚と虚ろぐ双眸とくぐもった声で「私はよ」ズルズルと着崩れてたわんだ人皮のかかとが地面とこすれて血のわだちがコンクリートをぬめらせていた。
 
 

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